愛媛・松山にある名湯「道後温泉」。その温泉街の中心にあり、創業150年以上の歴史を誇る旅館「大和屋本店」。館内に能舞台をもち、日本の伝統建築にこだわった老舗旅館ながら、日本酒の飲み放題と駄菓子バーの無料サービスを用意するなど、新しい発想で宿泊客をもてなす遊び心も魅力です。
この記事では、大和屋本店で温泉と瀬戸内の食を楽しむ、1泊2日の宿泊体験記を詳しくご紹介します。
能舞台をもつ創業150年以上の老舗旅館 道後温泉「大和屋本店」
大和屋本店は江戸から明治へと移り変わる激動の年、慶応4年(明治元年、1868年)に創業しました。道後温泉の象徴「道後温泉本館」の隣にあり、道後の発展とともに歴史を刻んできました。
1996年には、伝統を守りつつ最新のサービスを提供する新しい宿を目指し、能役者の世阿弥(ぜあみ)が説いた「風姿花伝(ふうしかでん)」をテーマに新築再創業。館内に能舞台「千寿殿」が完成し、数寄屋造りや聚楽壁(じゅらくへき)といった日本の伝統的建築技法を用いて、気品ある和の旅館へと生まれ変わりました。
城下町の松山は能楽が盛んに演じられてきた歴史があり、千寿殿はその伝統を継承するために生まれたもの。橋掛かり(演者が登場する本舞台左手の廊下)をもつ本格的な能舞台がある旅館は全国的に珍しく、貴重な体験ができます。
道後温泉本館の隣、温泉街散策に便利な立地
大和屋本店へは伊予鉄道城南線・道後温泉駅より徒歩約5分。食べ歩きやお土産選びが楽しい道後ハイカラ通りを抜け、道後温泉本館から坂道をほんの少しのぼると到着します。外湯めぐりや温泉街散策にもってこいの立地です。
また、松山空港・松山観光港から道後温泉駅前までリムジンバスが走っているため、電車・飛行機・船、どの交通手段でもアクセスしやすいところにあります。
日本庭園を愛でながら、ロビーラウンジでひと息
枯山水が美しい玄関を抜け、ロビーラウンジでチェックイン時間の15:00までちょっとひと息。桜の花びらを象った可愛らしい照明、河東碧梧桐の書や季節の生花などが飾られ、大きな窓の向こうには手入れの行き届いた日本庭園が。ロビーに隣接するコーヒーラウンジ「花筐(はながたみ)」でコーヒー・紅茶や松山銘菓をいただくこともできます。
15:00を過ぎ、さっそくチェックイン。
大和屋本店では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、すべての来館者の検温を実施。フロントカウンターには飛沫感染防止パネルを設置したり、エレベータ-、客室、大浴場など多くの人が触れる場所は特に入念に消毒を行ったりと、徹底した対策を行っています。
まるで茶室のよう。侘び寂びを楽しむ数寄屋造りの客室
大和屋本店の和室の客室は、茶室の様式を取り入れた数寄屋造り。壁は京都西陣付近で採取される上質な砂を用い、職人の手で丁寧に仕上げられた聚楽壁(じゅらくへき)で、純日本建築を堪能できます。
今回宿泊したのは主室13畳+次の間7畳、計78平米の「スイート和室」。座卓・座椅子、布団など、すべて上質なものをそろえ、伝統的な和の心を随所に感じられます。各客室には谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』が置かれ、電燈を控えめにして落ち着いた空間で同書をめくれば、和の真髄ともいえる陰の美学や侘び寂びを深い趣とともに体感できます。
お着き菓子は大和屋特製の「大和屋ベジスイーツ Oyaki-おやき-」。愛媛産の野菜を使ったヘルシーなスイーツで、JALの国内線ファーストクラスの機内食に採用されたこともある逸品です。ごぼう、トマト、ほうれん草、にんじん、愛媛のブランド里芋「伊予美人」、5つのフレーバーがあり、どれが用意されているかは到着してからのお楽しみ。
スイート和室のお風呂は檜造り。道後温泉本館が見える窓からは自然光が差し込みます。
アメニティは、メイクも落とせる洗顔フォーム・化粧水・乳液・ボディソープ・シャンプー・コンディショナーなど必要なものはすべてそろっています。タオルには金色やピンクなど異なる色の刺繍が施されており、これはどれが自分のタオルか分かるようにという宿の気遣いです。
和室は「スイート和室」のほかに、「セミスイート和室」と「スタンダード和室」があり、人数やニーズに合わせて選択可能。セミスイート和室(上の画像)は主室10畳+次の間6畳の62平米で、こちらも茶室にいるような日本美を感じられるしつらえです。
大和屋本店の畳は通常よりもひとまわり大きい畳を採用しており、視覚的にも広く感じられます。
そのほか、英国王室御用達のスランバーランド社製のベッド付きのスイート和室、一人旅やビジネスでも気軽に利用できるシンプルモダンな洋室なども用意されています。
道後温泉本館と同じ湯を引く温泉でのんびりと
お部屋でひと休みしたら温泉へ。道後温泉は源泉を4つの分湯場に集めて各施設へと運ぶシステムで、大和屋本店は第2分湯場から引いています。これは道後温泉本館と同じお湯。泉質はアルカリ性単純温泉でpH9.1と、刺激が少なく、肌あたりのよさが特徴です。
男湯「男郎花(おとこえし)」は、瀬戸内海に浮かぶ島・大島のみで採れる「伊予大島石」を大胆に配した無骨な佇まい。露天風呂は檜造りで、庭園を眺めながらゆったりと温泉を堪能できます。
女湯「女郎花(おみなめし)」の内湯には、檜風呂のぬる湯、岩風呂のあつ湯、2種類の湯船が。露天風呂には伊予大島石の一枚岩を大胆にくりぬいた湯舟があり、野趣あふれる雰囲気です。
露天風呂の奥にある石碑に刻まれているのは、道後温泉に縁がある正岡子規の俳句。子規や夏目漱石ら文豪たちが愛した道後の湯に浸かっていると、なんとも感慨深いものがあります。
湯上がりは日本酒飲み放題、駄菓子食べ放題の「大和屋台」へ!
入浴後は湯上がり休憩処でひと休み。ここには日本酒BARと駄菓子BARを備えた「大和屋台」があり、日本酒や駄菓子を無料で好きなだけ楽しめます。
駄菓子BARには懐かしいスナック菓子、ゼリー、餅菓子などが種類豊富に並び、見ているだけでワクワクします。子どもはもちろん、大人も喜ぶこと間違いなし!
日本酒BARは、キリっと冷えた2種類の日本酒とノンアルコール梅酒の3種類が飲み放題。お部屋に持っていって、ゆっくり楽しむこともできます。樽からたっぷり注ぐ日本酒は、お酒好きにとって夢のよう。「桜うづまき酒造」や「島田酒造」など愛媛の酒蔵の地酒が並び、四国山地の伏流水が生み出す味を飲み比べできます。
もうひとつ、駄菓子や日本酒と一緒に用意されているのが、愛媛県産の栗の渋皮から作った「ひめくり茶」。ほんのり香ばしいお茶はポリフェノールたっぷりで、湯上りの水分補給にうってつけです。
おしゃれな色浴衣で温泉街散策へ
夕食までの時間、ぶらっと温泉街散策に。女子旅には、ロビーで借りられるおしゃれな色浴衣がおすすめです。高知の和雑貨ブランド「ほにや」と大和屋本店のコラボレーションで生まれたオリジナルの「美楽流(みらくる)浴衣」で、洋服のように上下が分かれているため一人でも簡単に着ることができます。心ときめくモダンで華やかなデザインのものばかり! 浴衣だけでなく、帯・下駄・足袋まで好きなデザインを選べ、コーディネートが楽しめます。
この美楽流浴衣は別料金(2,750円)ですが、女子旅プランには特典として含まれています。夕食時にスパークリングワインのハーフボトル(1部屋に1本)とスイーツのサービスも付いて、女子旅には断然このプランがおすすめです。
美楽流浴衣・スパークリングワイン・スイーツ付き
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道後温泉街の中心にある大和屋本店は、主要観光スポットに近い立地も魅力のひとつ。道後を象徴する荘厳な公衆浴場「道後温泉本館」、スイーツなど道後グルメが楽しめる「道後ハイカラ通り」、お結び玉がフォトジェニックな恋愛パワースポット「円満寺」、道後の街を見渡せる足湯「空の散歩道」などをめぐりながら、おしゃれな浴衣での撮影も楽しみましょう。
夕食は瀬戸内の山海の幸をたっぷりと!
夕食は料亭「桜川」の個室で。大和屋本店には14の個室があり、周りに気を使わずゆっくりと食事を楽しめます。(個室確約プラン以外では、個室でない場合もあります。)
お料理は、日本料理・フレンチ・中華から選べ、1人ずつ異なるコースの選択も可能。連泊する場合も飽きる心配がありません。一番人気は日本料理で、愛媛の食材をたっぷり使ったボリューム満点の会席料理を堪能できます。
今回は日本料理をチョイス。職人の技が光る料理は、厳選した瀬戸内の旬の素材がふんだんに使われ、特に海の幸は格別! 宇和島育ちのブランドマグロ「媛まぐろ」の刺身、愛媛の磁器・砥部(とべ)焼の器に丸々一匹盛り付けられためばるやかさごの煮付け、おこぜの松葉揚げなど、地魚料理が次々と。現地でなければ味わえない新鮮な旬の食材を余すとこなくいただけます。
献立は日によって変わりますが、この日の御飯物は「伊予の漁師ごはん」。焼き魚・麦味噌・出汁を合わせた愛媛の郷土料理「伊予さつま汁」を白御飯にかけ、会席の最後まで瀬戸内の魚介を味わい尽くしました。
飲み物は、愛媛の特産品である柑橘を使ったお酒やジュースを。フレッシュな伊予柑果汁入りの「伊予香る角ハイボール」や、日本一細長い半島・佐田岬の農園で作られた河内晩柑「ナダオレンジ」のジュースなど、愛媛ならではのドリンクを楽しめます。
幽玄の世界へ。かがり火が焚かれる夜の能舞台「千寿殿」
部屋に戻る前に、幽玄の世界へと誘う夜の能舞台「千寿殿」へ。月明かりに照らされ、かがり火が焚かれた千寿殿はこの上なく幻想的。鏡板(かがみいた)の老松は、松山出身の面家・徳本立憲氏によって描かれています。
普段は、舞台に上がって、能楽の楽器演奏を体験できる講座や能・狂言の公演などを開催していますが、残念ながら当面の間、休止しています。
その代わり、能面・扇子・和傘の無料貸出しを行なっており、自由に舞台に上がって写真を撮ることができます。借りられる小道具は実際の舞台で使っている貴重なもの。能舞台のある宿・大和屋本店ならではの思い出に残る写真が撮れます。
朝食も瀬戸内の恵みを、能舞台を眺めながら堪能
翌朝の朝食はレストラン「松風」で。目の前が能舞台という絶好のロケーションで、優雅に食事ができます。
朝食は和食・洋食いずれかを選択。和食は主に瀬戸内産の海鮮を味わえる、大和屋本店伝統の朝ごはんです。愛媛の名産・はらんぼ(ほたるじゃこ)天と海老天は少し炙って豊かな風味を堪能。お味噌汁は愛媛で愛される甘めの麦みそが使われています。
砥部焼の器に盛られた洋食は、愛媛流にアレンジしたアメリカンブレックファースト。みかんにオレンジを交配した「清見タンゴール」のコンフィチュール、愛媛県産のはだか麦やマロンパウダーを使ったパン、口どけのよい愛媛のブランド豚「甘とろ豚」のウインナー、伊予柑の風味のウインナー、「ナダオレンジ」のストレートジュースなど、愛媛の山の幸をまるっといただけるようなメニューです。
滞在の締めは、フロントの隣にある売店「巴(ともえ)」でお土産選び。愛媛・道後の名産がそろい、おすすめは大和屋オリジナルの「大和屋ベジスイーツ」シリーズ。お着き菓子の「Oyaki-おやき-」(5個入り 750円、10個入り 1,450円)のほか、フィナンシェ「媛菜(ひめな)スティック」(6本入り 2,160円)もあり、おうちでも旅の続きを楽しめます。
日本の伝統美と愛媛の食、心ときめくおもてなしで宿泊者を魅了する「大和屋本店」。能舞台のある宿で、文豪たちも愛した由緒ある温泉、目にも舌にも幸せなお料理、季節の花が彩る数寄屋造りのお部屋に癒される道後温泉旅に出かけてみませんか?
道後温泉 大和屋本店
- 住所
- 愛媛県松山市道後湯之町20-8
- アクセス
- 伊予鉄道「道後温泉」駅より徒歩約5分
松山自動車道「松山」ICより車で約20分(駐車場600円/1泊)
松山空港よりリムジンバスで約35分 - チェックイン
- 15:00(最終チェックイン24:00)
- チェックアウト
- 10:00
- 宿泊予約
- 楽天トラベル「道後温泉 大和屋本店」
取材・撮影・文/小浜みゆ