コンフォートホテルを運営する株式会社グリーンズには、SDGsやサステナブルという言葉が生まれるずっと以前から、地域や人とのつながりを大切にしてきた歴史があります。1957年、駅前旅館「新四日市ホテル」を立ち上げ、創業以来、地域貢献を重視してきました。
そこには、グリーンズの企業目的の一つ「今日あることに感謝し、その期待に報(こた)えよう。―地域社会への奉仕と貢献―」にもあるように、「ホテルは地域に支えられている」ことを常に心に刻み、感謝の気持ちを忘れないという、創業者の揺るぎない想いがあります。
コンフォートホテル四日市はそうして創業から大事にしてきた地域とのつながり、そして「Your Sustainable Journey-未来をつくるホテル-」というコンセプトを体現するため、2022年12月に満を持して誕生した施設です。
よりよい未来をつくるために地域と手をつなぎ、さまざまな工夫と努力を続ける株式会社グリーンズ、そしてコンフォートホテル四日市の取り組みについて、株式会社グリーンズ(※1)と株式会社チョイスホテルズジャパン(※2)のご担当者3名にお話を伺いました。
インタビュイー3名のご紹介
株式会社グリーンズ総務部総務課課長
奥村 陽子さん
株式会社チョイスホテルズジャパンマーケティング部ブランドマーケティング課セクションチーフ
鈴木 恵里菜さん
株式会社チョイスホテルズジャパンマーケティング部プロダクトマネジメント課セクションチーフ
川腰 博英さん
※1 株式会社グリーンズ…コンフォートホテルを擁する「チョイスブランド」と、60年以上のホテル運営の実績をもつ「オリジナルブランド」とのシナジーで、中間料金帯のグローバルブランドのホテルチェーンで唯一全国展開に成功している企業。
※2 株式会社チョイスホテルズジャパン…株式会社グリーンズの100%子会社で世界45ヵ国・7,400軒以上(2023年5月時点)のホテルを展開するアメリカのホテルチェーン「チョイスホテルズインターナショナル」の日本におけるマスターパートナーとして、コンフォートホテルブランドの日本における独占的使用権を保有。全国にコンフォートホテル、コンフォートイン、コンフォートスイーツを展開している。
目次
地元の中高生がホテルの仕事に挑戦。職業体験を通して、未来を担う人を育てる
株式会社グリーンズが行っている大きな取り組みの一つに、職業体験の受け入れがあります。地元の中学生や高校生に、同社のホテルでフロントや宴会場の仕事を体験してもらうプログラムです。同社側から、地元の自治体や教育委員会にアプローチし、学校と協力しながらプログラムを進めてきたとのこと。この職業体験プログラムを、今後はコンフォートホテル四日市でも実施していく予定だそうです。
とはいえ、学生の受け入れは簡単にできることではありません。何を、どうやって教えるか、指導のやり方を考えなければなりませんし、準備には時間もかかります。その労力をかけても、この取り組みをやろうと決めた理由は、どこにあったのでしょうか。奥村陽子さんにお話を聞きました。
「当社は、1957年の創業時から、『地域密着』『地域貢献』をキーワードにしたホテル運営をしてきました。それは、全国展開をするようになってからも変わらず、それぞれのホテルが独自で地域に根差した活動を行っていました。しかし、目まぐるしく変わる社会情勢や景気の浮き沈みを経験したことで、『これからは一丸となって持続可能な企業にしていかなければいけない』という想いが芽生えてきました。」
そこで同社は、2018年にCSR宣言「環境にも人にも優しいホスピタリティあふれる企業」を策定。会社全体で、環境に配慮した活動や、多様な人材が活躍できる環境づくりに力を入れていくことになりました。職業体験プログラムは、その中で始まったプロジェクトのひとつです。職業体験には、地域貢献という視点もありますが、慢性的な人手不足を抱える観光業界やホテル業界に興味を持ってくれる若者を増やす、という目的もあります。
体験した生徒さんから『スタッフのみなさんの美しい所作に感動しました』、『私もきちんと敬語が使えるようになりたいです』といったお手紙をいただくことがあり、スタッフのモチベーションアップになっています。参加していただいた学校からは、毎年継続して申し込みをいただいているので、手ごたえを感じています。」(奥村さん)
また、コンフォートホテル四日市では、プレオープンイベントにおいて、「家族でお仕事♪ Family Weekend」と題し、小中学生のお子様を対象としたお仕事体験を実施しました。なお、2022年には四日市市内の幼稚園と保育園において、出張講座のトライアルも実施しました。この取り組みも、同社側から四日市市の保育幼稚園課に提案し、実現したものだそうです。
「幼稚園・保育園への出張講座では、当社のスタッフが園にお邪魔して、あいさつのマナーや、ドリンクの配膳などを教えました。職業観が芽生える前の子どもたちに、ホテルの仕事の楽しさを知ってもらいたいと考えて始めた取り組みです。2022年はトライアルの段階でしたが、とても好評だったので、課題を改善し、出張する園の数を増やしながら継続して続けていく予定です」と奥村さん。
こうした職業体験は、スタッフのみなさんのモチベーションアップにもつながったそうです。子どもたちを受け入れる準備をすることで、自分たちの役割を見直し、仕事の魅力を再認識するよい機会になったとのこと。未来をつくる人材の育成、スタッフのモチベーションアップ、そして地域貢献という多くの成果を生み出している、素晴らしいプロジェクトだと感じました。
CO2削減、地元間伐材の利用、伝統工芸品の発信など、「地域の未来」をつくる取り組み
コンフォートホテル四日市は、運営会社の株式会社グリーンズ創業の地である近鉄四日市駅前に、2022年12月に開業したホテルです。本社ビルの上層階に位置する本社併設のホテルということもあり、他の拠点のモデルとなるような取り組みが積極的に行われています。その具体的な内容については川腰博英さんがお話してくれました。
「当ホテルの特長の一つは、緑あふれる空間づくりにこだわったことです」と川腰さん。ビルの周辺やテラスにはグリーンが植えられ、温かみのある空気を醸し出しています。同ホテルのある近鉄四日市駅の周辺には、たくさんのオフィスビルが並んでいますが、ひときわ目を引くナチュラルテイストな外観です。地元の方からも、「おしゃれなビルができたね」と好評なのだそうです。
ホテル内のコンフォートライブラリーカフェにも、たくさんの植物が置かれていて、気持ちのいい空気が流れています。
コンフォートライブラリーカフェの天井には、特殊な形のミラーが取り付けられており、外の街路樹の緑が映り込むような工夫も。本と緑がリンクした、非日常感を味わえる空間になっています。
コンフォートライブラリーカフェ内にある300冊以上の本は、いずれもプロの選書家がセレクトしたこだわりの書籍。本棚には、三重の間伐材が使われており、地域の文化や特徴に触れられるような本が置かれています。
「コンフォートライブラリーカフェでは、『萬古焼(ばんこやき)』のコーヒーカップで飲み物を味わえたり、『伊勢形紙(いせかたがみ)』のうちわやアート をディスプレイしていたりと、三重の伝統工芸品を体験できるような仕組みもつくりました。」(川腰さん)
全ての客室で、萬古焼のアートパネルや、三重県産の間伐材で製作した家具も使われています。ホテルから地域の文化や情報を積極的に発信し、地元を活気づけたいという想いが伝わってきました。
無料で提供される朝食にも地産地消のメニューが取り入れられており、三重県産のレタスやお米、地元の老舗企業がつくる黒ゴマを使ったスムージーなどが提供されています。
また同ホテルは、地元でつくられている再生可能エネルギー「三重美し国Greenでんき」を導入しています。客室の照明にも、冷暖房にも、すべてこちらの電気が使用されています。
「『三重美し国Greenでんき』は、三重県内の豊かな水資源を利用して生み出される、地球にやさしい電気です。ホテルだけでなく、本社ビル全体で使っています。各客室に電気給湯器を設置し、厨房にもIHコンロを導入。オール電化にすることで、CO2の大幅削減を実現しました。また、電気自動車を利用するお客さまのために、駐車場には充電スタンドも完備しています。」(川腰さん)
コンフォートホテル四日市に泊まるだけで、自然と地域の魅力に触れ、CO2削減に貢献できる、サステナブルな旅が実現可能です。
地域と手を取り合い、ともに地域活性化を目指す
コンフォートホテル四日市では、地域活性化を目的としたスタンプラリーも行っています。これは、三重の特産品を扱っているお店や、地元の飲食店とのコラボレーションで実現した取り組みです。
ホテルに泊まったお客さまがスタンプラリー対象のお店に行くと、スタンプがもらえます。3つのスタンプを集めると、三重県や四日市にゆかりのある商品が、ホテルからプレゼントされます。楽しみながら三重県や四日市の魅力を知ることができる、面白い取り組みです。この「スタンプラリー」というアイデアを思い付いたきっかけを、株式会社チョイスホテルズジャパンの鈴木恵里菜さんに伺いました。
「スタンプラリーは、『ホテルにご宿泊のお客さまが、地域の方と直に関われるようなきっかけをつくりたい』ということで、みんなで考えて生まれたアイデアです。ホテルから行きやすく、地元の空気に触れることができるお店を選び、スタッフが一軒一軒お店をまわって、つながりをつくりながら連携していきました。」
2022年12月に行われた同ホテルのプレオープンイベントでは、地元のボランティア団体とのコラボレーションによる、子ども向けの木工教室も開催されています。
「木工教室は、当ホテルの会員制度『Choice Guest Club(TM)』が支援する認定NPO法人『JUON(樹恩)NETWORK』様と、三重の森林を守る活動を行うボランティア団体『森林づくり三重』様にご協力いただいて実現しました。子どもたちが木に触れ、自然に親しむ機会をつくることが目的でした。」(鈴木さん)
教室では、ミニ丸太ベンチと竹カエルを制作したそう。参加者からは、「親子で楽しみながら工作ができました」という喜びの声もあり、たいへん好評だったようでした。プレオープンイベントへの参加をきっかけにはじめて四日市を訪れたお客さまもいたのだとか。川腰さんからは、「『コンフォートホテル四日市』ができたことは、四日市という地域の魅力を広く知っていただくきっかけにもなりました」というお話もありました。
よりよい未来へ向けて。地元からも大きな期待が寄せられているコンフォートホテル四日市
コンフォートホテル四日市がある近鉄四日市駅の周辺は、これから大幅に生まれ変わる予定です。大規模なバスターミナルや大きな円形歩道橋をつくる計画もあり、再開発へと動き出しています。同ホテルの開業は、その先駆的なプロジェクトでもあったといい、地域住民からも大きな期待が寄せられているそうです。
約60年前、四日市の駅前旅館からスタートした同社。当時は、地元のお祭りに参加したり、地域活動に協力したりしながら、地域と手を取り合い、地元を盛り上げてきました。その想いは、全国展開を果たした今も変わらず受け継がれ、四日市の「未来をつくるホテル」として、新たな一歩を踏み出しています。
最後に、同ホテルが目指す「未来」について、川腰さんにお聞きしました。
「お客さまが、ワクワクできる体験を通してもっと自由に旅ができる『未来』。地元の方と手を取り合って地域活性化を目指す『未来』。環境にも人にもやさしい取り組みで生まれる持続可能な『未来』。そして、ホテルとスタッフが、常にチャレンジと成長を続ける『未来』。これらが、私たちがつくりたい『未来』です。お客さま、地域、私たち、一人ひとりがそれぞれの立場で主人公として輝ける多様な未来を、ホテルを通じて実現していくことが、サステナブルな地球の未来をつくることにつながると考えています。」
コンフォートホテル四日市
- 住所
- 三重県四日市市浜田町5-3
- 客室数
- 149室
- アクセス
- 「近鉄四日市」駅東出口から徒歩約1分、JR「四日市」駅から徒歩約13分
取材・文/馬渕 祥子 撮影/石井 伸明