夏は暑くてカメラを持って出かけるのが面倒くさくなりがちな季節ですが、夏だからこそ撮れる被写体が実はたくさんあります。今回は東北の⽇本海側、⼭形・秋⽥の県境付近の撮影スポットを、写真家の喜多規⼦さんがプロの撮影テクニックとともに紹介します。
いつもよりちょっと早起きをすると、滝や渓⾕ではマイナスイオンが感じられ、運が良ければ川霧が発⽣し、光芒(こうぼう※光のすじ)を捉えることも可能。また、⼣⽅には⽇本海の海岸の⼣陽も楽しめます。ぜひ参考にしていただき、カメラを持って夏の撮影に出かけてみてください。
写真家
喜多 規⼦(きた のりこ)さん
東洋英和⼥学院⼤学卒。写真家・前川彰⼀⽒に師事。⽇本国内の⾃然⾵景をテーマに光・⾊・フォルムを巧みに操り表現する。アマチュア時代、多数のカメラ誌の⽉例コンテストにてグランプリや年度賞を受賞し、フリーとして活動を始める。2019年、個展「MOMENT」(富⼠フイルムフォトサロン東京・大阪・名古屋・福岡・札幌)開催。2020年「栞ーfour seasonsー」(旧オリンパスプラザ東京・⼤阪)開催。2022年「FORME(フォルム)」(OM SYSTEM GALLERY)開催。2024年「桜 ー刹那と永遠ー」(富士フイルムフォトサロン東京・大阪・名古屋・札幌)開催。写真集に『MOMENT』(⽂⼀総合出版)、『FORME』(⾵景写真出版)、『桜 ー刹那と永遠ー』(日本写真企画)、共著に『美しい⾵景写真のマイルール』(インプレス)、『極上の⾵景写真フィルターブック』(⽇本写真企画)がある。「喜多規⼦フォトスクール」主宰。公益社団法⼈ ⽇本写真家協会(JPS)会員。公益社団法⼈ ⽇本写真協会(PSJ)会員。
目次
おすすめの絶景スポット【1】丸池様
秋田と山形の県境にまたがる⿃海⼭(ちょうかいさん)のふもと、⼭形県遊佐町(ゆざまち)に位置する丸池様は、「⿃海⼭⼤物忌(おおものいみ)神社」の境外末社に当たります。正式には「丸池神社」という神社で、古くから池そのものが御神体として崇められてきました。
⿃海⼭からの伏流⽔を⽔源とした湧⽔がいたるところで⾒られる遊佐町ですが、直径20m、⽔深3.5mの丸池様も湧⽔だけで満たされています。時間帯によって異なる⽔⾯の⾊の変化は、思わずシャッターを切らずにはいられない幻想的な美しさ。また、池の周りにはうねった原始林が⽣い茂っており、遊佐町の天然記念物に指定されています。
⽇の出前の早朝、曲線美を描いた原始林をポイントに撮影。C-PLフィルター使って⽔⾯の反射を調整することで、コバルトブルーの⽔⾯の⾊を引き⽴てました。
こちらは、同じ場所で時間帯を変えて⽇中に撮影しました。光の加減でエメラルドグリーンに変化する⽔⾯も魅⼒的です。
丸池様へ⾏く途中には、⽇中の光でキラキラとした宝⽯のような⽔の流れを⾒つけることもできます。この場合は、⽔の動きを⽌めて約1/500以上の⾼速シャッターで切ると良いでしょう。
丸池様
- 住所
- 山形県飽海郡遊佐町吹浦七曲堰東 直世荒川57
- アクセス
- 【電車】JR「吹浦」駅から車で約5分
おすすめの絶景スポット【2】⽜渡川
丸池様のそばに流れる牛渡川(うしわたりがわ)は、⿃海⼭の溶岩の縁に沿って流れる全⻑4kmあまりの⼩さな川。川の⽔のほぼ100%が岩の割れ⽬や⽯と⽯の間から出る湧⽔です。⽔温は年間を通して11度ほどで⼀定していて、初夏には梅の花に似たバイカモが咲き誇り、真夏の早朝には⽔温と気温差によって川霧が発⽣することもあります。
撮影した⽇は、⽔温と気温の差で⽇の出前の時間帯から川霧が発⽣しました。右側から朝陽が差し込むと、川霧に光の筋が⼊って光芒に。光がクロスしているのは⽔⾯に映った太陽からの逆光芒ですが、⽔⾯に映り込んだ太陽は光が強いので、右⼿前の杉の⽊で隠して撮影しています。
⽜渡川
- 住所
- 山形県飽海郡遊佐町直世字 荒川57
- アクセス
- 【電車】JR「吹浦」駅から車で約5分
おすすめの絶景スポット【3】⽟簾の滝
およそ1200年前、弘法⼤師が神のお告げにより発⾒し、命名したとされる⽟簾(たますだれ)の滝。⼭形県随⼀の⾼さ63m、幅5mの直瀑です。かつては⼭岳宗教の修験場であり、滝前には御嶽(みたけ)神社が祀られています。駐⾞場からは遊歩道も整備されており、徒歩約10分で滝に着きます。
滝に向かって後ろから太陽が差し込むので、晴れた⽇の午後からは虹が⾒られます。C-PLフィルターを使うことで、⾁眼で⾒るより滝にかかる虹⾊を強調できました。
特徴的な岩の造形に流れる滝⽔と、虹⾊を重ねて望遠レンズで部分的に切り取りました。こちらもC-PLフィルターで調整しながら虹⾊を強調させました。
⽇陰になった滝に⼣陽の⽊漏れ⽇が当たっているのを、部分的に切り取りました。わずかな光に敏感に反応しながら、作品づくりをしてみましょう。
⽟簾の滝
- 住所
- 山形県酒田市升田字大森
- アクセス
- 【電車】JR「酒田」駅から車で約40分
- 詳細
- 玉簾の滝:酒田市公式ウェブサイト
おすすめの絶景スポット【4】釜磯海岸
全国有数の積雪量を誇る⿃海⼭。その雪解け⽔が数⼗年かけて地下の岩盤層に流れ、海辺に湧き出るという全国的にも珍しい釜磯(かまいそ)海岸。⼭から海へと循環する⽔の物語を五感で感じることができる魅⼒的な場所です。夏休みに⼊ると海⽔浴シーズンになるので、撮影するなら⼈が比較的少ない夏休み前後が良いかもしれません。
湧⽔と引き波によってできる砂の造形が特徴的だったので、⼿前に造形美を⼊れながら超広⾓レンズでダイナミックに捉え、⼣陽で撮影しました。⼿前と空の露出差があるので、ハーフNDフィルターを使って調整しました。
引き波によって波打ち際が⽔鏡になり、映り込んだ⻘空と雲を⼊れて⼣陽と絡めて撮影しました。仕上げにハーフNDフィルターを使って⼿前と空の露出を調整。
釜磯海岸では、湧⽔と波による砂の造形が砂浜のあちこちで⾒られます。自然がつくり出す不思議な造形を探しながら、撮り歩きをするのも楽しいです。これは、まるで墨絵で描いた⽊々のようでした。
釜磯海岸
- 住所
- 山形県飽海郡遊佐町吹浦
- アクセス
- 【電車】JR「吹浦」駅から車で約10分
おすすめの絶景スポット【5】元滝伏流⽔
⿃海⼭に染み込んだ⾬や雪解け⽔などが⻑い歳⽉をかけ、幅約30m、⾼さ約5mの苔むした岩肌から絶え間なく湧き出す元滝伏流⽔(もとたきふくりゅうすい)。豊富な湧⽔で育まれた深い緑の苔と⽔しぶきが織りなす美しい⾵景は、観光客や写真愛好家に⼈気のスポットです。
真夏には気温と⽔温の差で川霧が発⽣することが多く、早朝の時間帯はホワイトバランスを太陽光に設定して撮影すると全体的にブルートーンになり、より幻想的に捉えることができます。シャッター速度はスローシャッターの⽅が、滝の流れの滑らかさが表現できるでしょう。
特に⾬上がりの朝は、⽔⾯近くに発⽣する川霧にプラスして、全体的に湿度があるので光芒がより華やかになることも。
⼿前に川霧があることで光芒になっているので、どうしても奥の背景の滝の流れにメリハリがなくなってしまいます。こういう場合は、仕上げの段階で明瞭度やコントラストを少しだけ調整してみるとイメージ通りに。
光芒の撮影を楽しんだ後、駐⾞場に戻る途中に、夏ならではのクモの巣もたくさん発⾒。クモの巣を逆光越しに観察すると、⾁眼でもクモの⽷の虹⾊を確認できます。少し離れた距離から、望遠レンズで虹⾊に輝く⾓度を探しながらC-PLフィルターを使って撮影しました。
元滝伏流⽔
- 住所
- 秋田県にかほ市象潟町関元滝
- アクセス
- 【電車】JR「象潟」駅から車で約10分
おすすめの絶景スポット【6】⻲⽥不動滝
標⾼約150mに位置する⻲⽥不動滝(かめだふどうたき)は落差約25m、幅約10mの勇壮な滝。柱状節理の⽞武岩に⽩布を垂らしたように流れる⽔量も豊富で、⼀年中流れが絶えることがありません。覆われた⽊々と⿊い岩肌、そして⾶沫(しぶき)のコントラストが美しい滝です。
夏場の朝早い時間帯には、滝の⾶沫によって光が差し込むと光芒が見られます。滝の流れと光をスローシャッターで写し⽌めてみました。
⻲⽥不動滝
- 住所
- 秋田県由利本荘市岩城滝俣
- アクセス
- 【車】日本海東北自動車道「松ヶ崎亀田」ICより約15分
撮影途中の立ち寄りにおすすめ!道の駅象潟「ねむの丘」
秋田県にかほ市象潟町にある「道の駅象潟『ねむの丘』」は、東北最⼤級の道の駅。訪れた際は、温泉「眺海の湯」とレストラン「眺海」をよく利⽤します。4階にある温泉は⽇本海を⼀望できる展望温泉で、休憩室も利⽤できます。レストランでは「海鮮丼」(1,550円)や「釜揚げしらす丼」(850円)、「稲庭うどん」(1,250円)などが楽しめます。
道の駅象潟「ねむの丘」
- 住所
- 秋田県にかほ市象潟町字大塩越73-1
- アクセス
- 【電車】JR「象潟」駅から車で約5分