中国地方最高峰「大山(だいせん)」の麓に広がる鳥取県米子市。日本海沿いには、山陰屈指の名湯「皆生(かいけ)温泉」があり、大小さまざまな温泉宿が軒を連ねています。
そんな皆生温泉街に、2021年3月にグランドオープンした「やど紫苑亭(しおんてい)」。客室は10室のみ、利用を13歳以上に限定した、大人のためのスモールラグジュアリー温泉旅館です。
約2,800平米の敷地には、全室に露天・半露天の温泉が付いた贅沢な客室や、貸切温泉、庭園、茶室、プライベートギャラリーを備えます。地元の食材を使った極上の料理とおもてなし、温泉を心ゆくまで堪能した滞在記をお届けします。
「やど紫苑亭」周辺は観光名所が豊富
「やど紫苑亭」最寄りの空港、米子空港(通称・米子鬼太郎空港)には、東京・羽田空港からANAが1日6便ほど就航していて、約1時間20分と東京からも好アクセス。大阪市街からも車で約3時間と、ドライブしながら、ゆっくりと温泉旅行を楽しむにはうってつけの距離にあります。
米子周辺には観光スポットが充実しているので、午前中に到着し、観光してから宿に向かうのもおすすめです。
四季折々の百花繚乱が楽しめる日本最大級のフラワーパーク「とっとり花回廊」は、宿から車で30分ほど。一面の花畑と大山の雄大な姿を望むことができ、フォトスポットとしても人気です。
米子市のお隣・境港市には、日本有数の漁港「境港」や、『ゲゲゲの鬼太郎』の仲間をはじめ、177体の妖怪のブロンズ像が並ぶ「水木しげるロード」、そびえ立って見えるほどの急勾配から、「ベタ踏み坂」の名で知られる「江島大橋」などもあります。
また、米子市は鳥取県西端部に位置しているため、隣の島根県へのアクセスも良好。約5万坪もの日本庭園や横山大観をはじめとする日本画、北大路魯山人らの陶芸など、数々の日本美術を堪能できる「足立美術館」や、日本庭園と牡丹が織りなす和の絶景が楽しめる「由志園(ゆしえん)」なども、宿から車で30分ほどでアクセスできます。
「出雲大社」も車で1時間ちょっとの距離なので、少し足を伸ばすのもおすすめ。このように皆生温泉は、山陰旅の拠点としてもぴったりの場所にあります。
1日10組限定、皆生温泉の最高級旅館「やど紫苑亭」
「やど紫苑亭」までは車で、米子空港から約25分、米子ICから約15分、JR米子駅から約15分。シンプルかつ上品なエクステリアが印象的です。
JR米子駅からは無料送迎サービス(2日前までに要予約)があるので、車がなくても心配無用。送迎車から降りると、スタッフの方々がそろって、笑顔で出迎えてくれます。
館内に足を踏み入れると、そこはもう別世界。ふんだんに使われた木のやさしいぬくもりと香り、光や風を通す繊細な格子のデザイン、心落ち着くやわらかな灯り。
「やど紫苑亭」の設計は、旅館デザイナー・松葉啓氏によるもので、心地よさを深く追求した和の空間が魅力です。気品あふれるしつらえながら、自宅に帰ってきたような、どこかほっとする空間が広がります。
ロビーの奥に進んでいくと、コーヒーやお菓子などを自由に楽しめるラウンジが。大きな窓の外の美しい庭園を眺めながら、ちょっと一息。
チェックインは客室にてゆっくりと。客室へ続くこの回廊は、「四季折々の自然を感じてほしい」という松葉氏の想いが反映された半外空間になっています。
天窓からは自然光がたっぷりとさしこみ、さわやかな風が通り抜け、土の香りすら感じられます。室内にいながら自然に包まれているような、不思議な空間です。
広さ約150平米、温泉露天風呂付き客室「貴賓室」
「やど紫苑亭」の客室は全10室、「貴賓室」と「プレミアムスイート」の2タイプがあります。客室の名前には「月虹-Gekko-」「蒼穹 -Soukyu-」「朧月 -Oborozuki-」など、雅な風景を思い起こす二文字がつけられています。
今回宿泊したのは、貴賓室「久遠 -Kuon-」。重厚な扉を開くと、木がふんだんに使われた優美な空間が広がります。
貴賓室は、庭を望むリビングルームと和室、ベッドルーム、温泉露天風呂と内風呂、テラスからなる約150平米の広々とした造り。選び抜かれた調度品が上品に佇んでいます。
奥のベッドルームには、クイーンサイズのシモンズ社製ベッドが2台。シーツにはなめらかな肌触りのエジプシャンコットンを採用し、心地よい眠りを体感できます。
そして、「やど紫苑亭」の特長のひとつ、温泉。貴賓室には、広々とした源泉かけ流しの露天風呂と内風呂が備わり、好きなときに好きなだけ温泉に入ることができます。
皆生温泉は海に湧き出る珍しいお湯で、泉質はナトリウム・カルシウム塩化物泉。高い保湿力・保温力を誇り、タラソテラピー(海洋療法)のような効果が期待できる美肌の湯です。
なんと「久遠」の内風呂は、浴槽底面が昇降式になっていて、底を上げると、奥にある露天風呂までフラットに。半分だけ上げれば、半身浴や寝湯も楽しめます。
洗面台もゆとりの広さ。何度でも温泉に入れるよう、ふかふかのタオルがたっぷり用意されています。
この脱衣所をはじめ、お手洗い、リビングには床暖房を完備しているので、寒い季節でも快適に過ごせます。
贅沢な客室サービスやアメニティ
ラグジュアリーなしつらえだけでなく、客室内にはサプライズがまだまだ。まず、テーブルにはウェルカムドリンクとして、よく冷えたスパークリングワイン「フランソワ・モンタン ブリュット」のボトルが!
お酒が苦手な人は、事前に伝えておくと、ノンアルコールのスパークリングを用意してもらえます。
(ウェルカムフルーツはオプションとなり、事前の申し込みが必要です。)
ミニバーには、「ネスプレッソ」や「ウェッジウッド」の紅茶のほか、館内でローストしたミックスナッツや、パティシエお手製のドライフルーツたっぷりのパウンドケーキなどが。
貴賓室には、「マイセン」のカップや「バカラ」のグラスなど、最高級の食器が用意されています。
さらに、冷蔵庫内のドリンクもフリー。お茶やビール、炭酸水のほか、鳥取産の野菜のおいしさをまるごと味わえるトマトジュースとにんじんジュースが冷えていました。
アメニティの充実ぶりにも感動します。バスアメニティは「ロクシタン」。女性用は、ロクシタンのショップでも販売されていない「ジャスミン&ベルガモット」シリーズ、男性用は「ヴァーベナ」シリーズが用意され、優雅な香りに癒やされます。
女性にはパリ発の自然派スキンケアブランド「オムニサンス」のスキンケアセット、男性には「ポール・スチュアート」のヘア&スキンケアセットも。
そして、アメニティの中にフルーツを発見。これはお風呂に浮かべるためのもので、湯船の中でやさしく揉むと、ふわっとさわやかな柑橘の香りがたち、アロマに包まれるような癒やしの時間へ誘ってくれます。
また、室内着にはパジャマ、浴衣、バスローブが用意されていて、浴衣は館内着としても着用できます。
広さ約100平米、半露天風呂付き客室「プレミアムスイート」
プレミアムスイート「風花 -Kazahana-」
8室ある「プレミアムスイート」うちの1室、「風花 -Kazahana-」は、奥行きのある約100平米のお部屋です。和室、リビングルーム、シモンズ社製セミダブルベッドを2台備えたベッドルームに分かれ、それぞれのスペースを区切ることもできます。
床の間に飾られているのは、画家・友田恵梨子氏による掛け軸。友田氏は鳥取の雄大な自然や鳥、花といった自然をモチーフにした作品作りをされています。
バスルームには、ゆったりとした半露天の内風呂が。外の空気を感じながら、源泉かけ流しの温泉浴で、身も心もリラックスできます。
プレミアムスイート「嘉祥 -Kasho-」
もうひとつのプレミアムスイート「嘉祥 -Kasho-」も、約100平米の広さがあり、窓辺にリビングルーム、真ん中に和室、奥にベッドルームが配置されています。さしこむ日の光と、風に揺れる木々のゆらめきは、眺めているだけで日常の喧騒を忘れさせてくれる自然のギフト。
じつは、各部屋に飾られた掛け軸は、合わせると1枚の絵になるという秘密が。部屋ごとにテーマが設けられ、「嘉祥」は大山がテーマになっています。
料理人の技と旬の地産食材が織りなす至高の夕食
今回の滞在で特に楽しみにしていたのが夕食。なぜなら、「やど紫苑亭」が最も大切にしているコンセプトのひとつに、“料理でのおもてなし”があるからです。
地元・鳥取でとれた旬の新鮮な食材を使うのはもちろんのこと、その日仕入れた食材の状態、魚のサイズ、脂ののり方、気温、ゲストの好みなどに応じて、どの部位を使うのかベストか見極めた上で調理したり、ゲストとのコミュニケーションを通して、献立にないメニューを追加したりアレンジしたり……。
そのこだわりは、「来ていただいたからには、今ここでしか味わえない料理を召し上がっていただきたい」という料理長・大石昌彦氏の想いから。この想いは、「やど紫苑亭」が目指すおもてなしの根本となっています。
初秋のこの日のコースは、そばの実のおかゆ、大山地野菜のサラダに始まり、先付には柿と栗の白和えや松茸と地野菜のお浸しなどが。向付の境港産天然魚のお造り、境港産の甘鯛のあられ揚げ、鳥取県産ブランド牛「万葉牛」のはりはり仕立てなどが続く、鳥取の旬を存分に感じられる献立です。
サラダは、じっくり低温調理されたローストビーフと、大山の地野菜をたっぷりいただける一品。玉ねぎのドレッシングをかけると、雪をまとった大山を思わせます。
大山野菜は収穫量こそ多くはありませんが、良質な大山の土と水、地元の農家によって丁寧に育まれた逸品ばかり。
料理長に、大山の火山灰がおいしい野菜を作ると教えていただき、思わず膝を打ちました。「火山灰で野菜が育つんですか?」なんて会話も弾みます。調理の工夫や食材の詳細も聞けて、この地の旬をより深く味わうことができました。
コースの合間に突然、献立にはなかった「トリュフアイス」が登場! じゃがいもやホワイトアスパラなどで作られた甘くないアイスに、目の前で削られる黒トリュフをたっぷりのせた贅沢な一品です。
黒トリュフの芳醇な香りを堪能しつつ、ひと口ひと口、大事に味わいたくなります。レギュラーメニューではないにもかかわらず、人気というのも納得です。
コースのクライマックスを飾る、鳥取県産の黒毛和牛「万葉牛」のサーロインと松茸を贅沢に使ったはりはり仕立て。目の前で繰り広げられる職人の技に、思わず見入ってしまいます。
ここでも、「はりはり鍋」とはもともと、クジラ肉と水菜を使った鍋料理のことで、水菜の食感から「はりはり鍋」と名付けられたと教えていただきました。
だしをくぐった万葉牛は、口に入れた瞬間とろけるようなやわらかさ。ほのかに香る松茸とだしの香りがたまりません。
さらに、「お腹に余裕があれば、どうですか?」と料理長から提案が。献立にはない、鳥取・鹿野町の「鹿野地鶏」をお出しいただきました。
鹿野地鶏は、こだわりの飼料や飼育環境で長期肥育された高級地鶏で、とにかく食感がよいのが特徴。炭火で炙って余分な脂を落とした上で、燻すことで味わいに深みが出ます。
献立にない料理が出てきても、追加料金は不要というから驚きます。ゲスト一人ひとりに合わせたオーダーメイドのおもてなしに感銘を受けました。
「もちろん、食事中はあまりお話をされたくないお客様もいらっしゃいます。ですが、事前に伺ったご希望や目の前にいらっしゃるお客様からイメージを膨らませ、料理に反映することで、真に喜んでいただけると思っています」と大石料理長。
料理人とのコミュニケーションから生まれた自分だけの料理の数々は、鳥取の旅をより特別なものに彩ってくれるでしょう。
食事処「ダイニング紫季(しき)」には、5つの個室とカウンター席があり、個室は宿自慢の庭を望みます。
プライベート空間でゆっくり食事ができる個室も人気ですが、最近は料理人とのコミュニケーションを楽しみたいと、カウンター席の希望も増えているのだとか。
そのほか、特別個室「シェフズルーム」も。1日1組限定で、料理人がつきっきりで目の前のゲストのためだけに、最高の料理を最高のタイミングで提供するという、この宿のおもてなしの真骨頂を味わえます。記念日や特別な日にぜひ利用したいプレミアムな空間です。
鳥取の味覚をたっぷり堪能し、ダイニングを出ると、スタッフのみなさんが見送りにきてくださいました。
「やど紫苑亭」では、フロント、調理、配膳といった担当の垣根を越えて、全スタッフが等しくゲストをおもてなしできるような体制を整えているそう。どのスタッフの方も旅館の隅々を知り尽くしている安心感、またホスピタリティの高さに驚かされます。
露天風呂付きの貸切温泉で極上のひとときを
「やど紫苑亭」を目一杯堪能するなら、露天風呂付き貸切温泉もおすすめです。1日1組限定なので、15:00~24:00の間、何度でも広々とした露天風呂と内風呂を独り占めできます。
貸切温泉のシャンプー、コンディショナー、ボディソープは、「John Masters Organics」と「イソップ」のものが用意されています。客室とはまた違った特別感が。
露天風呂、内風呂、湯上がり処あわせて約80平米の広さがあり、何時間でもここで過ごしたくなります。
冷蔵庫にあるドリンクや、冷凍庫にある鳥取県産「白バラ牛乳」で作られたアイスクリームは自由に楽しんでOK。温泉に入りながらアイスを食べるという憧れのシチュエーションも叶います。
また、シャンパンとフルーツのオプションも。記念日などとっておきの日にぜひ予約したいサービスです。
露天風呂付き貸切温泉
- 利用時間
- 15:00~24:00 ※1日1組限定
- 料金
- 36,300円
シャンパン、フルーツ付き 48,400円
山陰の旬が彩る朝食
夢のようなひとときを過ごし、心地よいベッドで目覚めた翌朝。「ダイニング紫季」にて朝食をいただきます。
朝食にも山陰の旬の食材を贅沢に使った料理が並びます。この日のメニューは、のどぐろの干物、地魚の南蛮漬け、万葉牛のしぐれ煮、まぐろの漬け、鳥取産の長芋のとろろ、ツルムラサキのお浸し、温泉卵、サラダ、「白バラ乳業」のヨーグルトなど。
山陰名産の高級魚、のどぐろは、夏~秋にかけては脂がのり、秋~冬にかけては寒さで身が締まったものがとれるのだそうです。
干物は、日や時季によって、甘鯛などになることも。朝食でも、その日のベストな食材を堪能できます。
館内散策で見つめる風土と芸術
館内にはプライベートギャラリーもあり、鳥取県在住者として初めて人間国宝に認定された前田昭博氏の白磁などが展示されています。
横山大観の作品もあり、誰にも邪魔されずじっくりと鑑賞できます。
前田氏の作品は、ロビーや茶室など館内数カ所に展示されているので、足を止め、ゆっくりと鑑賞しながら滞在を楽しみたいですね。
鳥取の智頭杉(ちづすぎ)をふんだんに用いた茶室も。自由に入ることができ、客室とは違った庭の風景を眺めながら、くつろぎの時間を過ごせます。
旅といえば、観光地を巡るのも楽しみのひとつですが、「やど紫苑亭」はどこにも出かけず、ずっとのんびりしていたくなるほど、心地のよい空間でした。
“紫苑”の花言葉は「君を忘れない」、「遠方にある人を思う」。宿をあとにしたゲストと、またいつか会えるように――。「やど紫苑亭」では、そんな想いを大切にしながら、ゲスト一人ひとりにとっての最高のおもてなしを提供し続けています。
やど紫苑亭
- 住所
- 鳥取県米子市皆生温泉4-6-12
- アクセス
- JR「米子」駅より車で約20分(無料送迎あり/2日前までの要予約)
- 駐車場
- 無料
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン18:00)
- チェックアウト
- 11:00
撮影:大林博之 取材・文:アンドウミク