伊豆半島の山深い渓谷を流れる「河津七滝(かわずななだる)」。水しぶきを浴びるほどの瀑布(ばくふ)から、地形を滑らかに下る垂水(たるみ)など、大小さまざまな滝7カ所を1時間ほどで見て回れるのが魅力です。
河津七滝は『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』のガイドブックで星2つの評価を獲得した名所。遊歩道があるので歩きやすく、途中には石を投げて願いを叶えたり、七福神を巡ったりと楽しいスポットもあります。
目次
- ・目指すのは滝に寄り添う「河津温泉郷」
- ・河津七滝のおすすめルート
- ∟ダイナミックな「①釜滝」から出発
- ∟エビの一部を連想する「②エビ滝」
- ∟大きな吊り橋で山道をすいすい
- ∟にゅるっとした見た目の「③蛇滝」
- ∟「④初景滝」で旅行の思い出を撮影
目指すのは滝に寄り添う「河津温泉郷」
「河津七滝」が位置するのは伊豆半島の中央エリア。川端康成の小説『伊豆の踊子』の舞台となった天城峠のすぐ近くにある河津温泉郷に滝は流れています。
車なら東名高速道路の沼津ICから約1時間半。伊豆の東西南、三方向からアクセス良く、立ち寄り先としても人気です。公共交通機関だと熱海駅から河津駅まで電車で約1時間半、そこから修善寺行きのバスに乗ること約25分で河津温泉郷が見えてきます。
「河津七滝」のおすすめルート
河津では、「滝」を「たる」と読みますが、これは平安時代から続いている河津特有の表現。「河津七滝」も「かわづななだる」と言います。もともと「水が垂れる」という意味で滝を「垂水(たるみ)」と呼んでいたことが転じたのだとか。
河津七滝は河津川沿いで見ることができ、巡るなら上流から下流に向かって歩いた方が下り道なので歩きやすいです。途中、吊り橋や階段の上り下りもあるので、歩きやすい靴の準備をお忘れなく。
ダイナミックな「①釜滝」から散策開始
河津七滝の始まりは、7つの中でも一番上流にある「釜滝(かまだる)」から。いきなり落差約22mの巨大な姿に圧倒され、展望デッキに立つと瞬く間に水しぶきでびしょびしょに。到着して早々、マイナスイオンを全身で浴びる洗礼を受けることになります。
水が流れ落ちる、滝つぼの形が釜の底に似ていることが「釜滝」の名前の由来。藍色の水をたたえた滝つぼは、底が深く、見ていると吸い込まれそうなほど怪しげな美しさを秘めています。
神秘的な雰囲気を滝と共に醸し出しているのが、周囲の岩肌。滝に向かって左側は、ゴツゴツとしていますが、これは溶岩が冷えて固まった「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と呼ばれるもの。そして、一方の右側は滑らかな状態で、これは1000万年前の地層だと言われています。まったく異なる地質が滝を境にして広がっている、未知なる自然を一望できる場所なのです。
エビの一部を連想する「②エビ滝」
釜滝が迫力満点な滝なら、次の「エビ滝(えびだる)」は、かわいらしい姿をしています。滝の幅は約3mと他の七滝に比べて、少し太め。滝の形がエビの尾びれに似ていることから「エビ滝」と名づけられたそう。
最初の釜滝にしろ、滝の名前を考える上で、見た目は重要なよう。自分だったらどんな名前にしようか、と考えて滝を観賞してみるのも新たな滝の楽しみ方になりそうです。
大きな吊り橋で山道をすいすい
エビ滝から下流に歩き進めると、大きな吊り橋が見えてきます。「河津踊子滝見橋」は、床板がまっすぐの一般的な吊り橋とは違い、緩やかに波打つのが特徴の片塔式(かたとうしき)ウェーブ橋。全国的にも珍しい吊り橋で、高さが変わるごとに見える景色も変化。ちょっとしたアスレチック感覚を味わえます。
にゅるっとした見た目の「③蛇滝」
「滝見橋」と呼ばれる通り、「河津踊子滝見橋」の終盤で見えてくるのが「蛇滝(へびだる)」です。ゴツゴツとした柱状節理に囲まれ、玄武岩の黒光りする様子がまるで蛇のうろこのよう。滝の落ち口までの水筋も右へ左へと蛇行していて、蛇らしさが感じられます。
「蛇滝」の大きさは落差約3m、幅は2mほど。正面から見ると、今にも大蛇が襲いかかってきそうな迫力です。
「④初景滝」で旅行の思い出を撮影
長い階段を下りていくと、河津七滝の顔とも言える「初景滝(しょけいだる)」が見えてきます。滝の前にある『踊り子と私』の像は、記念撮影に人気のスポット。川端康成による代表的な小説であり、過去6度にわたる映画化から認知度が高い作品は、河津町では欠かせない存在。主人公の青年と踊り子の2ショットが旅情をかき立てます。
「初景滝」の由来は、伊豆半島を縦断する旧下田街道から最初に見えた滝だったり、この滝の傍らで修行していた僧の名前にちなんだり、と諸説あるのも他の滝にはないユニークな点です。
ここから緩やかな遊歩道が続き、先にある駐車場からのアクセスも良好。初景滝は車いすの方も訪れることができ、時間がない方も気軽に訪れられる場所です。
アクティビティが楽しめる、遊歩道
遊歩道の途中には、大願成就ならぬ「大岩成就」と書かれたスポットがあります。ある時、川沿いの巨石が手のひらを合わせた形に見えたことから、「拝み石」、「願い石」と呼ばれるように。
願い事を唱えながら3個の小石のうち、1個でも岩の上に乗せられたならその願いは叶うと言われています。現在、願い石は2カ所。岩の上は小石が山盛り状態になっていて、歴戦の挑戦者たちによる功績がうかがえます。
放ってみると、石が岩に当たってはねてしまい、うまく乗せるのは至難の業。小石の形や重さを慎重に選んだり、投げ方を工夫してみたりと、思わず白熱してしまいます。
避暑地としても知られる河津七滝では、夏の催しも。「風涼渓(ふうりょうけい)」という名前で親しまれ、毎年7月1日から8月31日まで遊歩道に七滝風鈴が登場します。訪れた人たちを涼やかな音色で歓迎してくれる、河津の夏の風物詩です。
遊歩道にはベンチが点在、お手洗いも完備されています。休憩しながら散策が楽しめ、温泉町の優しい心遣いが感じられますね。
静かに流れる控えめな「⑤カニ滝」
滝に加え、青もみじといった新緑の景色や、みずみずしい苔の様子を堪能しながら遊歩道を歩いていると、途中に河津川のもとへ下りられる階段が見えてきます。
階段の先では落差約2m、幅1mほどの河津七滝の中でも一番小さな「カニ滝(かにだる)」が流れていました。ここでは、滝の水に触れることもできます。河原の近くにはテーブルとベンチがあるので、お弁当などを広げてピクニック気分を満喫するのも良さそうです。
滝の左右に広がる柱状節理の様子が、カニの甲羅に見えたことが名前の由来。夏になると、風涼渓の時期と合わせて、カニ滝がライトアップされる「カニ滝ナイトウォーク」も開催。灯りの色に染まった滝は、日中とまったく異なり、幻想的な光景を楽しめます。
「⑥出合滝」では、滝同士が合流
滝巡りの終盤は、温泉街をそぞろ歩きしながら。ここから飲食店や旅館などの建物が続きます。道路脇の階段を下りると、すぐ横には河津川本流が流れ、その先に待つのは支流の荻野入川(おぎのいりがわ)。
この2つの川が合流する「出合滝(であいだる)」が6番目の滝です。河津川の両側にそびえるように立つ険しい柱状節理もさることながら、水流によって地形が丸く繰りぬかれたような状態になっているのにも注目です。ここまでで見てきた滝の数は6つ。滝本体の美しさはもちろん、その滝を取り巻く周囲の景色など、どの滝も個性豊か。さらにここでは2本の滝による共演も見ることができ、さまざまな見どころを持つ滝の世界に引き込まれます。
ご当地グルメのわさび丼が食べられる「七滝茶屋」
出合滝から川沿いに道を歩いていくと、土産店や飲食店が点在。軒先に天城山の清水で育ったわさびが並び、「わさび丼」の案内が目立ちます。特産のわさびを自分ですりおろし、アツアツのご飯とおかかと一緒にいただく「わさび丼」は河津のご当地グルメ。河津に訪れたらぜひ味わってください。
河津七滝の最後、大滝(おおだる)の目の前にある「七滝茶屋」では、わさび丼や、お蕎麦のメニューに生わさびが付いてきます。カレーや牛丼といった定食も豊富で、1日10食限定の猪鍋定食などのジビエメニューも。
定番のわさび丼を応用した「とろろわさび丼」(900円)は、こちらのオリジナル。とろろ・わさび・お米というシンプルな献立でありながら、滋味深いとろろの味をわさびが引き締め、さらさらとご飯がすすむ一品です。
こちらのお店では先代がいちご農家だったこともあり、いちごスイーツも年間を通していただけます。凍ったイチゴを砕いて、アイスクリームといただく「クラッシュド・ストロベリー」(680円)は、甘味と酸味のバランスが良く、イチゴの異なる食感を最後まで楽しめる人気メニュー。テレビドラマ『孤独のグルメ』でも紹介されて、話題となりました。
七滝茶屋
- 営業時間
- 11:00~16:00 ※不定休
- 電話
- 0558-36-8070
- 住所
- 静岡県賀茂郡河津町梨本363-4
- 駐車場
- あり
轟音が鳴り響く、「⑦大滝」
落差約30m、幅約7mと河津滝で最大規模を誇る「大滝(おおだる)」は、滝巡りのクライマックスにふさわしい滝です。展望デッキからは、豪快に落ちる様子が一望でき、その荒々しくも威風堂々な姿に魅了されます。
特に滝つぼでは深い蒼(あお)から明るい水色へと、グラデーションが波紋のように広がり、まるで絵の具を溶かしたよう。そして、周囲を見渡せば、柱状節理の落ち着いた色味が、新緑の淡いまばゆさを引き立たせます。色彩豊かな世界は、どこを切り取っても絵になる美しさ。
大滝のすぐ脇には温泉が湧いていて、日帰り入浴のみ営業の「AMAGISO-天城荘-[LIBERTY RESORT]」では、滝を間近に見ながら大小さまざまな温泉に浸かることができます。水着着用の混浴スタイルで、レンタルも可能。滝巡りの締めくくりに入浴を楽しむのもおすすめ。
AMAGISO-天城荘-[LIBERTY RESORT](日帰り入浴)
- 住所
- 静岡県賀茂郡河津町梨本359
- 営業時間
- 10:00~17:30(最終受付17:00)
※休み:2023年6/20、28、7/4、12、18、26
※雨天の場合、営業を中止する場合あり、当日の営業情報は公式Instagramのストーリーにてお知らせ - 料金
- 入浴料金 (期間限定価格):大人1,000円、小学生750円、幼児500円
レンタル:タオルセット(バスタオル・フェイスタオル)300円、水着300円、レンタルセット(バスタオル・フェイスタオル・水着)500円、ラッシュガード300円、うきわ300円
河津エリアは川沿いの宿も多く、川の音を聞きながら温泉に入れる温泉宿もあります。散策を楽しみ、温泉を満喫してゆったりと過ごせば、さらに土地の魅力を堪能できます。
七福神巡りで、楽しさをプラス
河津七滝をさらに満喫できるのが、七滝七福神を巡るスタンプラリーです。滝それぞれに大黒天や恵比寿などの七福神が祀られていて、すぐ近くにスタンプが置かれています。
※2023年5月現在、釜滝へつづく道が閉鎖されているため、釜滝のスタンプについては、エビ滝の側に移されています。
すべての七福神を巡り、最後に「七滝茶屋」など地元の観光協会会員のお店に持っていくと、中央に「去七難 来七福」の印を押してくれます。こうすることで、七つの難が去り、七つの福がやってくるのだとか。
スタンプの台紙は、河津温泉郷の宿泊施設や飲食店など、観光協会会員のお店で販売しているほか、河津駅バスロータリーの案内所でも購入できます。
河津七滝への行き方は?
上流から下流に下りながら河津七滝を巡る今回のルートは、バスで向かうのが便利。河津駅から修善寺行きのバスに乗り、「河津七滝遊歩道上入口」で下車。道路の反対側から遊歩道につながるので、横切る際はご注意を。そこから釜滝までは徒歩10分ほどです。
河津温泉まで車で訪れた場合は、出合滝と大滝の間に無料駐車場があるので、そこから修善寺行きバスに乗る方法がおすすめ。「河津七滝遊歩道上入口」で降りれば、歩く距離も短くすみます。
釜滝に向かうと、「猿田淵(さるたふち)」の案内板が出てきますが、これは河津七滝のさらに上流にある景勝地。緩やかな滝が流れる様子は河津七滝とは違う趣が感じられます。旅の神様「猿田彦命(さるたひこのみこと)」に由来していることから、ここにまず寄って旅のご利益を授かってから出発してみるのも良いかもしれません。
大自然の叱咤激励を受けて、気持ちも晴れやか
実は本州とは異なる誕生秘話を持つ伊豆半島。約2000万年前にフィリピン海に海底火山として誕生し、その後は陸地となって本州に向けて北上します。長い時を経て、現在の形になったのは60万年前ほど。地質学的にも珍しいことから、伊豆半島は「ユネスコ世界ジオパーク」にも認定されているのです。
滝を眺めていると、その清らかな姿に気持ちがリフレッシュされ、さらに豪快な水しぶきを叱咤激励と捉えて、元気になる人も多いと言いますが、地球のエネルギーを体感できる伊豆半島なら、なおさらその効果に期待が持てそうです。
取材・写真・文/浅井みら野