長野県北部「渋温泉」にある温泉宿「金具屋」。温泉街を歩く人が思わず立ち止まるほど立派な造りで、国の登録有形文化財に認定されています。歴史や文化を感じさせる建物には昔ながらの粋な遊び心がたくさん。部屋も廊下も温泉も、館内はレトロでかわいい装飾の宝庫です。女子旅で泊まってみたい金具屋を余すことなく紹介します。
「金具屋」ってどんなところ?
金具屋は、1758(宝暦8)年に宿屋となった、5つの棟からなる温泉宿。中でも1936(昭和11)年に完成した木造4階建ての「斉月楼」と宿泊客が食事をする「金具屋大広間」が、2003(平成15)年、国の登録有形文化財に認定されました。29室ある客室は全て異なる造りで、部屋を変えて連泊する人もいるほど。館内のいたるところに細やかで遊び心のある装飾が施されています。
館内には3つの大浴場と5つの貸切風呂があり、宿泊客はどれも無料で利用可能。金具屋が持つ4つの源泉はそれぞれに泉質が異なり、旅館内でも湯めぐりが楽しめます。また、毎日行われる宿泊客限定見学ツアーでは、金具屋の歴史ある「建物」と「源泉」について学べます。
金具屋までのアクセス
東京から公共交通機関を利用して金具屋へ行く場合、長野駅まで新幹線で約1時間50分。さらに長野電鉄に乗り換えて湯田中駅までは特急で約50分です。湯田中駅から渋温泉まではバスで約10分。乗り継ぎも合わせると東京から渋温泉まで約3時間半です。
湯田中駅からのバスの本数が少ないため、タクシーの利用が便利。また14時40分~18時25分着の電車であれば、金具屋の送迎を頼むこともできます。
自家用車で向かう場合、東京から関越自動車道で北上します。藤岡ジャンクションから上信越自動車道に入り、信州中野インターで下車。292号線、342号線を経由して、約3時間半です。
玄関から客室まで見ごたえのある設計
金具屋のチェックインは15時。フロントは畳敷きで、靴を脱いであがります。見学ツアーの時間や夕食、朝食の時間の確認を済ませ、いよいよ部屋に向かいます。
それぞれの部屋を家にみたて、入口は玄関を、廊下はまるで外にいるかのような設計になっています。さらに窓のひさしや模様がひとつずつ違っているなど、壁の飾りや色合いまで時代を感じさせないセンスが光ります。
部屋は和室で、落ち着いた雰囲気。窓も大きく、爽やかな長野の陽が降り注ぎます。
テーブルには、金具屋の案内と温泉饅頭、外湯めぐりの鍵が置かれています。外湯めぐりとは、渋温泉街にある9つの公共浴場をめぐること。渋温泉の旅館に泊まると、なんと無料で利用できます。鍵に書かれた猿のイラストは、金具屋の現9代目当主がデザインした「しぶざるくん」。渋温泉のご当地キャラクターです。
客室の装飾は美しく、部屋の蛇口からは源泉が
金具屋には全部で29室の部屋がありますが、そのひとつひとつ内装が異なり同じ部屋はありません。造られた時代も様々で、明治~昭和の流行を反映しています。部屋は全て昔ながらの和室で、ベッドはなく、布団のみです。一部に浴室付きの客室があります。
最上階4階にある「長生閣」は、贅を尽くし、貴賓のために造られた客室。お城のデザインを模した金色のふすまや、丸みを帯びた天井など、細かなデザインにもこだわりが詰まっています。今では普通に宿泊が可能。ここでお姫様気分を味わえるかも?!
メインの和室以外に、玄関と小部屋があります。今ではあまり見かけないレトロな造り。荷物が多い場合、この小部屋に置くと、メインの部屋を広くゆったり使えます。
長生閣には備え付けのお風呂がなく、洗面所は玄関のそばにあります。全客室共通で、洗面所から出るお湯は温泉です。部屋にいながら温泉で洗顔ができるので、一晩泊まるだけでもお肌がつやつやになりそう。洗面所はコンパクトなのでお化粧用に大きな手鏡を持ってくるのがおすすめです。
部屋には、給茶機、テレビ、冷蔵庫、ドライヤーが備え付けられている他、歯ブラシやタオル、浴衣が用意されています。九湯めぐりに便利な巾着も置かれているので、浴衣に着替えて温泉街をめぐるのもいいでしょう。
金具屋の宿泊者限定ツアーで分かる宿の魅力
金具屋では宿泊者限定で参加できる2つのツアーを開催しています。ひとつは金具屋の歴史や文化財について学べる「文化財見学ツアー」。もうひとつは金具屋が所有する「源泉見学ツアー」です。普段見ることのできない源泉の見学や、ガイドさんによる温泉の説明を聞くことができます。
金具屋の文化的価値を学べる!「文化財見学ツアー」
毎日17時30分から行われるのは「文化財見学ツアー」。見たり写真を撮ったりするだけでも楽しめますが、由来や歴史を知ると文化財に泊まれる貴重さを知ることができるでしょう。見学ツアーは約40分。希望者はチェックイン時にフロントスタッフに声をかけたら参加可能です。
大広間は、当初、演劇場にする計画であったため、舞台を見やすいよう柱をなくした造りになっています。130畳ある広い空間の屋根を支えるのに、日本の建築方法では実現が困難でした。そこで日本の建築に、明治時代に入ってきた西洋の建築技術を組み合わせて実現させたのです。このような建築を見ることができるのは歴史ある金具屋ならではです。
大広間を出て階段に向かうと目に入る歯車。金具屋を大きくする際に、取り壊された水車を遊び心で取り入れたそう。館内のあちこちで装飾のアクセントになっています。
そして金具屋の中でも粋なフォトスポットがこちら!最上階から3階へ降りる階段の踊り場にある富士山です。天井から垂れる灯りは月を表しています。これは、最上階にある客室からお客様が部屋を出た時に、富士が望めるようにとデザインされました。
金具屋を大きくした6代目当主は日本全国を回ってアイデアを集め作り出し、館内の随所にこのような演出を仕掛けました。
こちらは1階の廊下。足元は砂利を、青く塗られた天井は空を、右のショーケースは通りに並ぶ店を表現。現在は金具屋の歴史に関する展示が並びます。まるで映画のセットのように作りこまれた空間で、タイムスリップした気分を味わえます。
貴重な源泉が見られる!「源泉見学ツアー」
朝行われるのは、金具屋が所有する4つの源泉をめぐる「源泉見学ツアー」(開催時間は日によって異なります)。所要約50分。無料で参加できますが、予約が必要です。参加を希望する場合は前日までにスタッフにお声がけを。
このツアーでは普段は見ることができない源泉を見たり、源泉の種類や効果の違いについて学べたりできます。この日の参加者は約15名。狭い通りを進んで最初に辿り着くのは、大浴場のひとつである浪漫風呂の裏側です。
階段を下り、穴から源泉を覗き込みます。ここから湧いたお湯が、そのままパイプを通って湯舟にたっぷり注がれるのです。
次に徒歩約3分歩いて、渋温泉街にあるこちらの源泉へ。主に風呂場のシャワーや部屋の洗面所の水に使われているそう。長年使われているため、白い温泉成分が固まっています。ツアーではこれを少し砕いて舐めさせてくれるのですが、渋くてしょっぱい味がします。この渋みが渋温泉という名前の由来なんだとか。温泉成分を舐めるなんて、なかなかできない経験です。
ツアーの終盤には、湧き出したばかりのあつあつの源泉に手を浸けることも。あっという間に手がつやつやに潤います。お土産に温泉成分の塊までいただき、家に帰って水に溶けば化粧水の完成です。家でも渋温泉を楽しめるなんてうれしいですね。
レトロな雰囲気の中浸れる8つの風呂
温泉の特徴
金具屋の館内にある温泉は全部で8か所。大浴場が3つと、無料の貸切風呂が5つあり、全て泉質が異なるので館内で湯めぐりを楽しめます。大浴場はうれしい100%かけ流し。なんと、蛇口から出るお湯も、源泉かけ流しの温泉です。
泉質の違う3つの大浴場
神明の館の屋上にある「龍瑞(りゅうずい)露天風呂」は、男性用と女性用に分かれた露天風呂です。渋温泉の爽やかな風を感じながら湯舟につかることができます。無色透明のお湯は、硫黄分を含んだ美人の湯。肌がしっとりと潤います。
「鎌倉風呂」は、珍しいひょうたん形の木製の温泉。鉄分が多いものの少し白っぽく、浴槽には湯花が浮かびます。15時~24時が男性専用、24時~翌日10時までが女性専用です。
「浪漫風呂」は温泉宿とは思えない西洋風の内装が特徴のお風呂。戦後の洋風文化の流行りを取り入れ、ローマの噴水をイメージして造られました。クラシカルなステンドグラスがとても素敵。お湯は鉄分が強めの濁り湯で、15時~24時が女性専用、24時~翌日10時までが男性専用です。
雰囲気の異なる5つの貸切風呂
金具屋には3つの大浴場以外にも、それぞれ趣の異なる5つの貸切風呂があります。予約は不要で、内鍵がかかっていなければ無料で利用できます。部屋数が限られているため、それほど混まずに利用できるのもうれしいポイントです。湯舟が熱い場合には、さし水用の蛇口から水をそそいで温度調節ができます。
体の内側からきれいになれる「不老膳」をめざした料理
温泉場というのは病気を癒したり、身体の疲れを取ったりして「健康になる」ための場所。そんな考えから金具屋で提供されるメニューは「不老膳」をめざしています。温泉で肌が、食事で体の内側がきれいになるという考え方です。
信州仕立ての治部煮が自慢!スタンダードな夕食
品数豊富な夕食には、鶏にそば粉をまぶして煮た治部煮、信州サーモン、きのこ料理など、信州の食文化を生かしたお料理がいただけます。治部煮は、醤油ベースの優しい味わいで、信州名物のそば粉をまぶしている鶏はツルっとした食感を味わえます。
また、「りんごを食べて育った」信州牛のしゃぶしゃぶや牛鍋の特別メニューがいただけるプランもあります。こちらは取り寄せになるため事前予約が必要です。
20年以上提供している麦とろご飯の朝食
朝食は20年以上前から続く「麦飯+とろろ」がメインの献立。お好みで、生卵や漬物をトッピングしていただきます。朝からそんなに食べられない、という方でもつるっと食べやすい朝食です。
文化財に泊まれる、歴史の宿「金具屋」をご紹介しました。宿泊者限定ツアーで美的センスや歴史を学び、かけ流しの温泉と健康的な食事で自分を内側からも外側からも磨ける場所。まさに女子旅にぴったり!さらに渋温泉街には九湯めぐりや、そぞろ歩きできるスポットも多くあるので、ぜひ訪れてみて下さい。
渋温泉 歴史の宿 金具屋
- 住所
- 長野県下高井郡山ノ内町平穏2202
- 客室数
- 29室
- 温泉
- 男女別3か所。貸切風呂8か所
- アクセス
- 【電車】長野電鉄「湯田中駅」から長電バスで約10分。バス停「渋温泉」または「和合橋」下車、徒歩約2分
【車】上信越自動車道「信州中野インター」より国道292号を志賀高原方面に約20分。
取材・撮影・文/まのあつこ