澄みわたる海と果てしない青空が目の前に広がる「百名伽藍(ひゃくながらん)」。絶景と表現する以上の別天地の光景に息を呑みますが、古の時代、琉球の創世神が降り立った神秘の土地だと聞けば納得するはず。洗練された館内は沖縄の伝統・美食・文化を満喫できる絶好の場。伝統的なミンサー柄の制服を着たスタッフに誘われて、待ち焦がれていた沖縄時間が始まります。
目次
- ・海を望みながらチェックイン
- ・全客室が海に面したオーシャンフロント
- ∟一面ガラス窓のまばゆいバスルーム
- ∟フリードリンクでくつろぎ時間
- ∟贅とこだわりを尽くした特別室
- ・緑豊かな自然にあふれた館内
- ・屋上露天風呂「方丈庵」でリフレッシュ
海を望みながらチェックイン
「百名伽藍」が位置する百名は沖縄県本島の南東部にあり、琉球創生神話の舞台として知られています。沖縄随一の聖地と呼ばれる「斎場御嶽(せーふぁーうたき)」の近くで、那覇空港からは車で約40分。名だたるリゾートホテルが築かれた西部と異なり、こちらは民家がぽつりぽつりと並び、田畑風景が続きます。
海岸沿いのゆるやかなカーブを曲がると、琉球石灰岩と赤瓦で造られた沖縄らしい大きな建物が登場。やわらかな暖色は、ここを照らす陽だまりがそのまま色付いたようです。
入口は控えめで、通路は堅固な雰囲気。しかし、その先のフロントでは一気に視界がひらけ、まばゆい空間でチェックインを行います。
視線を窓に向ければエメラルドグリーンの大海原が飛び込んできて、爽快感も格別です。
チェックインはオリジナルのウェルカムドリンクをいただきながら。この日は「ブラッドオレンジとハイビスカスのビネガードリンク」。ビネガーのさっぱりした甘さが熱を帯びた身体に染みわたり、ほっと一息。
全客室が海に面したオーシャンフロント
お部屋は、14室のエグゼクティブスイートをはじめ、特別室3室、離れ1室の全18室。玄関からお部屋への段差がなく、車いすの方も利用しやすいです。(特別室1室と離れを除く)
広さ68~85平米の「エグゼクティブスイート」は、木や和紙といった自然由来のぬくもりが感じられるデザイン。
リラックスできるようお部屋は落ち着いた色合いに統一され、柏木白光(びゃっこう)さんの作品など、静かな美を秘めたアート作品が並びます。
海を見渡すテラスは、くつろぎの特等席。「ずーっと眺めていると沖縄の定番食材『スクガラス』に使われるアイゴの稚魚が大群になって泳ぐ様子も見られるんですよ」と、副支配人の西向 信枝(にしむかい のぶえ)さん。冬になると渡り鳥が姿を見せ、サンゴ礁で羽を休めるのだとか。
寝室には寝心地が良いシモンズベッドが設けられ、ベッドでくつろぎながら海が望める配置も全室共通です。
縦格子の引き戸に隠されたテレビからは、お客さまに思い思いの過ごし方をしてほしい。けれど、自慢の景色も見てもらいたいという「百名伽藍」の想いがうかがえます。
一面ガラス窓のまばゆいバスルーム
大きな窓が設けられたバスルームは開放感が抜群。水平線が一望でき、まるで海に浸かっているような没入感を味わえます。洗い場も浴槽のすぐ横に備わっているので使い勝手も良いです。
パウダールームはダブルシンク仕様で、2人なら十分な広さ。タオル類には敷地内にあるガジュマルの葉が添えられ、浴槽の一輪挿しといい、室内にいながら自然が身近に感じられます。
ボディウォッシュ、シャンプー、コンディショナー、ボディローション、石けんは、タイのオーガニック・スキンケアブランド「パンピューリ」に依頼したオリジナル。ジャスミンとミントがふわりと香り、リラックス効果も期待できます。その他に、歯ブラシ、ボディタオル、ブラシ、シャワーキャップ、コットン、カミソリ、入浴剤もそろっています。
白い部屋着とシックな館内着は、どちらも上下セパレートタイプ。館内着はダイニングや館内の移動でも着用でき、裾にかけて広がる上着のデザインはゆったりと過ごせることから、お土産に購入する方も多いそう。
館内着に合わせて和柄の履物も置かれていて、こちらもかわいいと評判です。
フリードリンクでくつろぎ時間
コーヒー、紅茶、ハーブティーとは別に、冷蔵庫にはミネラルウォーター、オリオンビール、ペリエ、さんぴん茶、オレンジジュース、コカ・コーラと豊富に取りそろえていて、すべて無料なのがうれしいポイント。ルームサービスでは、沖縄そばなどの軽食を注文できます。
お茶菓子には、沖縄を代表する銘菓「ちんすこう」と「黒糖」を用意。さり気なく机の上には伝統工芸品の「ミンサー織」が敷かれ、つややかな色味の「琉球ガラス」のコップがお部屋に彩りを添えています。
海を見ながらお部屋で過ごすティータイムが、せわしない日常を忘れさせてくれるひとときに。潮風にのって波の音が聞こえ、潮の満ち引きとともにその音量も変化。遠浅という地形は、水を常にたたえた海も実は絶えず変化していることを教えてくれます。
贅とこだわりを尽くした特別室
3室ある特別室「白隠(はくいん)の間」、「湛水(たんすい)の間」、「仙厓(せんがい)の間」は、それぞれ異なるデザイン。どのお部屋も細部にまで趣向が凝らされています。
特に「白隠の間」は115平米の広さに98平米の専用テラス付きで、リピーターを魅了し続ける人気のお部屋です。
和室は掘りごたつになっており、座ると目線の高さに水平線が重なります。この壮大な景色を堪能してもらえるようガラス戸を間口いっぱいまで開けられるように改善する徹底ぶりで、そのおかげで室内にいながらも浜辺にいるような感覚におちいります。
さらに「白隠の間」ならではの特典が、屋内の檜風呂とは別に展望露天風呂が使えること。最上階にある展望露天風呂は全部で6棟あり、宿泊者は空き状況次第で入浴できますが、「白隠の間」に宿泊すると1棟が自分専用となり、混雑を気にせず、好きな時に利用できるのです。
緑豊かな自然にあふれた館内
お部屋でひと段落したら、ぜひ館内散策へ。沖縄の魅力を日本だけでなく、世界に発信することを掲げているこちらでは、今まで知らなかった沖縄に触れられます。
例えば、廊下を歩いていると目にする巨大な石仏は、琉球王朝時代に建立された円覚寺(えんかくじ)の仏像群をモチーフに彫られたもの。高さ約7mの巨大な一枚岩から成ると聞き、その壮大な姿に目を見張りつつ、はるか昔の15世紀の琉球王国でも日本と同じく仏教が尊ばれていたことに親近感を覚えます。
客室の反対側には回廊が巡り、その中には悠然と佇むガジュマルが3本。「百名伽藍」が開業する際にこの場所に移されたもので、今も成長を続けています。大木やテラスには鳥たちが遊びに訪れ、常に周囲はにぎやか。空に伸びた枝が沖縄の強い日差しをさえぎり、心地よい風が吹き抜けます。
回廊からは「禅の間」に行くことができ、40畳以上の空間は静寂に満ちていて、空気も冷涼。ここでは自由に座禅を組むことができ、不定期でヨガやコンサートも開催されます。
「百名伽藍」の「伽藍(がらん)」は寺院を意味しますが、ここでは「禅」も大切なテーマ。宿泊施設を建てるにあたり、落ち着ける場所を日本全国で探したところ、寺院にヒントを得たのが由来です。
夕食前に屋上露天風呂「方丈庵」でリフレッシュ
貸切露天風呂があるのは屋上フロア。くねくねした道の両側に草木が茂り、独立した赤瓦の棟が並ぶ様子は、沖縄の集落のよう。ここが建物の最上階であることを思わず忘れてしまいます。
山を背に目の前には海が広がるロケーション。「方丈庵」の貸切露天風呂は6つあり、それぞれ「利休」、「長明」と禅に関する人物の名前がつけられています。浴室とは別に設けられた四畳半の空間は茶室そのもの。こちらで入浴後にひと休みしたり、マッサージを受けたりすることも可能。1回あたりの利用に制限時間を設定していないので、思う存分堪能でき、気持ちもほぐれます。
客室同様、貸切露天風呂もすべてもオーシャンフロント。日の出と日の入りの両方を見られるほど視界をさえぎるものがなく、このロケーションは沖縄の中でも希少だと聞きます。
露天風呂はスマートフォンで空き状況が確認でき、チェックイン後から24時までと、翌日は5時半から入浴可能。終了時にフロントに連絡すると、その都度に掃除をしてくれ、タオルやミネラルウォーターも補充してくれるという至れり尽くせりな環境です。
夕食は沖縄の魅力が詰まった会席料理
夕食は海を望みながらダイニング「甘露(かんろ)」にて。和食に地元の食材を組み合わせた独自の「和琉(わりゅう)会席」をいただけます。
前菜は、シークワーサー漬けの青梅や島豆腐と卵を太刀魚で巻いたけんちん焼きなど、豊富な品数が少量ずつ盛られ、幅広い味を楽しめる内容になっています。
島豆腐を泡盛と紅麹(べにこうじ)で漬け込んだ発酵食品「豆腐よう」は沖縄を代表する珍味のひとつ。チーズのような食感に泡盛のアルコールが口の中に広がり、これを肴に泡盛を飲むのが沖縄流。
泡盛もさまざまな種類を取りそろえていて、さっぱりと飲みやすい「龍泉 百名伽藍 オリジナルブレンド」を筆頭に、熟成期間を15年設けた「龍泉 百名伽藍 厳選古酒15年」といった古酒もあります。グラスで注文もできるので、これを機に飲み比べをしてみるのも一興です。
見た目もカラフルで南国らしい「百名伽藍オリジナルカクテル」もおすすめ。ノンアルコールの「GARANトロピカル」(写真左)はパイナップルジュースにパッションフルーツとオレンジが入り、爽やかな甘さが特徴。同じくノンアルコールの「アジアンビューティー」(写真右)は、ハイビスカスシロップの色味が引き立ち、さっぱりとした味わいです。この他に泡盛を使ったカクテル「琉球」や「GARANサンセット」などもあります。
「じーまーみーのポタージュ仕立て アーサ入り海老真丈」は、通年いただける看板メニュー。もっちりとした弾力が特徴のじーまーみー豆腐を液状にこすことで独特の食感になり、甘みもふくよか。そのままの味わいだけでなく、海老の旨みが効いた真丈と一緒にいただくことで味にコクが加わります。
近海で多様なマグロが捕れる沖縄は、知る人ぞ知るマグロの名産地。冷凍せず、生のままで調理されるので食感と味を損なうことなく、そのおいしさに箸が進みます。
メインには、久米島の溶岩石で提供される「国産和牛フィレ石焼ステーキ」。海水由来の屋我地島(やがじしま)の塩、宮古島の雪塩、シークワーサー風味のさっぱり塩と3種類のマース(塩)が添えられ、食べ比べができるのも魅力です。
夜になると頭上に広がる満天の星
窓の外に目を向ければ、昼間の眩しかった光景が一転、闇が静かに広がります。回廊ではあたたかな光が灯り、ライトアップされたガジュマルの陰影も幻想的。一帯がロマンティックな空気に包まれます。
回廊から足を延ばせば、大人の秘密基地さながらのライブラリーにたどり着きます。沖縄の歴史をはじめ、哲学書など今では珍しい古書も棚ぎっしりに並び、好奇心の赴くままに手に取ってみたくなります。
「百名伽藍」に宿泊するなら、お部屋からでも、屋上露天風呂からでも、ぜひ空を仰いで一日の締めくくりを。
日の出と日の入りが見られるロケーションはお月見にも最適。新月なら満天の星も期待できます。
新たな一日を太陽と共にお迎え
翌日は夜明け前に起床し、早々に屋上へ。露天風呂で温まっていると徐々に東の空が白み始め、薄紅色に染まり、最後はオレンジ色へと変化していきます。
明け方の空が織りなす色彩の変化は優美で、眠さも忘れる美しさです。
目を凝らしてみると太陽の近くに平らな島があることに気付きます。「久高島(くだかじま)」もしくは「神の島」と呼ばれる島で、創世神アマミキヨが沖縄本島に上陸する前に舞い降りた場所とされ、琉球王国時代から今でも特別視されている島です。太陽の光で浮かび上がり、一層神々しさを放っています。
沖縄の家庭料理も堪能できる朝食
沖縄料理と和食を組み合わせた朝食は、夕食に引き続き、沖縄の食文化を体感できるのが醍醐味。ご飯として登場する「ぼろぼろジューシー」は、沖縄では定番の家庭料理。お米を出汁や味噌で煮込む、炊き込みご飯ですが、隠し味にバターを投入するのがポイント。また島豆腐になる直前の、やわらかな状態でカツオ出汁といただく「ゆし豆腐」は、出汁の旨みがじんわりと広がる、まさに朝食にぴったりなメニューです。
名産品やオリジナルグッズを自宅にお持ち帰り
チェックアウトは11時なので、朝食後はギャラリー「自了(じりょう)」で、アート鑑賞を。障害を乗り越えた画家の名を持つギャラリーでは、450年もの繁栄を築いた琉球王国の歴史が絵巻に描かれ、時代ごとの流れを把握できます。さらに沖縄の歴史や文化を語る上で欠かせない偉人たちのオリジナル肖像画が展示されており、その功績は興味深いものばかり。
ライト兄弟以前より飛行を試みた青年がいたり、卓越した感性で名歌を生んだ女流歌人がいたりと、鑑賞を終える頃にはさらに沖縄の歴史や文化に惹かれているはず。作品は書籍にもなっていて、お部屋で閲覧できるうえ、フロントでも購入できます。
さらにフロント横では沖縄の名産品や地元アーティストによるアクセサリーを販売。夕食時に出された「豆腐よう」は、お酒好きな知人・家族へのお土産に人気です。
地元アーティストが手掛けたアクセサリーや、誕生月の色が付いた琉球ガラスなど、オシャレなアイテムも並び、自分用や特別な人への贈り物にもおすすめ。
総支配人に尋ねる、宿のこだわり
歴史ある土地を選んだことで、「百名伽藍」は構想から完成まで10年もの月日を費やします。「土地の所有者や周辺の方々に理解していただけるよう話し合いを重ね、さらにこの地域や自然と融合し、安らげる空間づくりにもこだわりました」と語る、総支配人の渕辺(ふちべ)美紀さん。
その際に参考にしたのが、日本全国の寺院だと言います。「福井県の永平寺では、修行体験にも参加しました。早朝からおつとめが始まるのですが、終わってみると心身が整い、清々しい気分になれたのです。木魚の一定のリズムは心を落ち着かせ、それは波の音にも通じると思います。」
「『百名伽藍』にお越しいただく目的はお客さまによって異なります。例えば、お仕事で宿泊されるリピーターのお客さまは、毎回仕事が終わってからお酒をお飲みになるので集中して頂けるよう冷蔵庫からお酒を除き、代わりにお好きなさんぴん茶をお入れするなど、それぞれの目的に沿ったおもてなしを心がけています。お客さまと気持ちが通じ合えるのが一番うれしいですからね」と、過去の記憶を振り返る度に笑みがこぼれていました。
接客に関するマニュアルがないのも、こちらの特徴。お客さまの好みも十人十色だと教わるので、スタッフは自ら考え、お客さまの喜ぶことを実践していきます。決まったサービスがない分、のびのびと働くスタッフの姿が印象的でした。
心身が癒やされる極上のリゾートホテル
琉球と禅というふたつの文化がチャンプルーされ(混ざり合い)、唯一無二の宿泊施設へと昇華した「百名伽藍」。独自のおもてなしは、通年変動しない料金システムにも健在。季節を選ばず、いつ訪れても平等に満喫してほしいということで、年末年始も共通の価格。年末年始は特にリピーターが多く、チェックアウトの際に翌年の予約を行うのが恒例なのだとか。
禅の世界に「洗心無垢(せんしんむく)」という言葉がありますが、これは心をリセットすることで人は何度でも無垢になれるという意味。美しい沖縄の海に、心地よいおもてなしを添えて。ここはまさに心が洗われる絶景と出合え、無垢な自分に戻れる場所です。
百名伽藍
- 住所
- 沖縄県南城市玉城字百名山下原1299-1
- アクセス
- 那覇空港から車で約40分
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン21:30)
- チェックアウト
- 11:00
撮影:川畑 公平 取材・文:浅井みらの