奥津軽を代表する、冬の風物詩「ストーブ列車」。ダルマストーブで暖まるレトロな車内を満喫しながら、津軽の文豪・太宰治のふるさとを探訪するノスタルジックな旅へ出かけましょう。
日本最北端の私鉄「津軽鉄道」とは?
津軽鉄道は青森県の奥津軽を走る、総距離約20.7kmのローカル線。津軽半島の玄関口・五所川原市から太宰治の出身地・金木駅などを経由して、中泊町(なかどまりまち)までをつなぐ日本最北端の私鉄です。
季節によって観光客向けのイベント列車が走っていて、今回ご紹介する「ストーブ列車」のほか、風鈴列車や鈴虫列車なども運行しています。
雪の津軽平野を駆け抜ける「ストーブ列車」
ストーブ列車は、津軽鉄道で冬季限定で運行されている観光列車で、寒さ厳しい津軽平野をレトロな車両が駆け抜けます。
客車を温める昔懐かしいダルマストーブや津軽弁のアテンダントによる心温まるおもてなしに、鉄道ファンのみならず国内・海外の観光客からも人気の列車です。
出発駅までのアクセス
東京からは東北新幹線「はやぶさ」で「新青森駅」まで約3時間、そこから奥羽本線に乗り「川部駅」で五能線に乗り換え、「五所川原駅」まで向かいます(新青森から約1時間10分)。時間帯によっては、乗り継ぎを含めて2時間以上かかる場合があり注意が必要です。
新青森駅南口から五所川原駅前まではバス(所要時間約1時間30分)も出ているので、どちらが行きやすいか時間を見極めて利用するようにしましょう。
始発駅「津軽五所川原駅」からストーブ列車に乗車
ストーブ列車の始発駅「津軽五所川原駅」は、JRが発着する五所川原駅のすぐ隣に建っています。昭和の時代を思わせるレトロな外観で、中も懐かしさを感じられる造りです。
待合所にはストーブが置かれ、ときおり地元の学生やお年寄りが暖をとりながら電車を待っています。
1つだけある窓口で切符を買います。太宰の生家がある金木駅までの一般乗車券(560円)と、ストーブ列車券(400円)の2枚を購入。一般乗車券のみでは、ストーブ列車の車両には入れないのでご注意ください。
ストーブ列車券の方は、どこまで行っても金額は同じ。実はストーブ列車は金木駅までが一番混んでいるので、電車旅をもっとゆっくり満喫したい方は終点まで行って折り返すのもおすすめです。
津軽五所川原駅
ダルマストーブのあるレトロな車内へ乗り込もう
では早速、ストーブ列車へ乗り込みましょう!先頭車両は、地吹雪にも負けないディーゼル機関車。この日は、3両のうち2両がストーブ列車の客車でした。
向かい合わせの座席や木製の窓枠などがレトロな、昭和の時代から活躍してきた客車です。知らないお客さん同士、譲り合って仲良く座ります。
名物のダルマストーブは、丸くてかわいらしい形。1車両に2台あり、屋根まで煙突が伸びています。
ときおり車掌さんがストーブの小窓を開けて、燃料の石炭をくべていきます。昭和の頃にはたくさん見られたこんな光景も、今では珍しくなりました。
ストーブの火が付いた車内はポッカポカでとても暖かいんですよ。
名物のスルメとオリジナル日本酒を堪能
乗車中には、車内販売が回ってきます。ビールや地元のお菓子なども扱っていますが、ストーブ列車で必ず体験したいのがここで買える「スルメ」(500円)です!
買ったスルメは、ダルマストーブの上で炙ってくれます。パチパチとはぜる様子は眺めているだけで楽しく、ほかのお客さんも一緒に大喜びです。
同じく車内販売で買った日本酒、その名も「ストーブ酒」(350円)と一緒にいただきましょう。これはストーブ列車オリジナルのお酒なので、お土産としてもおすすめ。焼きたてのスルメと冷えた日本酒を片手に、のんびり列車旅を満喫できます。
津軽弁が心地良い「津軽半島観光アテンダント」
窓の外には、田園地帯の津軽平野と、津軽富士とも呼ばれる岩木山が見えてきました。同乗しているアテンダントさんが、地元の方言である津軽弁で観光案内をしてくれます。
彼女たちや車掌さんとの会話に、津軽を旅している実感が湧いてきます。景色を紹介したり、スルメを焼いてくれたり。親しみのあるおもてなしで、車内を盛り上げます。地元にとても詳しく、旅の相談にも乗ってくれますよ。
太宰治ゆかりの地、五所川原市「金木駅」
津軽五所川原駅を出発して約26分、金木駅へ到着です。駅のある五所川原市金木町は、文豪・太宰治が育った町。そのため太宰ゆかりの名所が点在し、駅から徒歩で巡ることができます。
金木駅
- 住所
- 青森県五所川原市金木町芦野90-1
- 営業時間
- 5:30~21:10
太宰治の生家「太宰治記念館 斜陽館」
金木駅から徒歩で約7分、まず訪れたいのが幼少の太宰治が過ごした「斜陽館」です。県内有数の大地主であり、名士だった太宰治の父が明治の終わりに建てた大豪邸は、木造2階建て和洋折衷の入母屋造り。
民家だったとは信じられないほどの、広い土間と部屋数。家の中の至るところに、青森ヒバが贅沢に使われています。国の重要文化財に指定され、明治期の木造建築物として歴史的にも貴重な建物です。
豪邸に住むお金持ちの子だった太宰治ですが、忙しい父と病弱な母に代わって乳母や子守りに育てられ、小さい頃は寂しい思いをしたようです。
奥の炊事場には大きなカマドと大量のお膳を納める棚まであり、まるで旅館のよう。家族以外にも、ここでたくさんの人が働いていたことが伺えますね。
仏壇の大きさにも圧倒されます。各部屋には、展示物に解説パネルとQRコードを読み取って聴ける音声ガイドが設置されています。
2階では、豪華な洋室と調度品の数々に再び驚かされます。当時は一体どんな暮らしだったのでしょうか。太宰文学は育った環境が大きく影響しているといわれているそうなので、少年太宰治になった気分で見学してみるのも良いかもしれません。
太宰治記念館 斜陽館
- 住所
- 青森県五所川原市金木町朝日山412-1
- 開館時間
- 4~9月:9:00~17:30(最終入館17:00)、10~3月:9:00~17:00(最終入館16:30)
- 休館日
- 12月29日
- 入館料
- 一般500円、高・大学生300円、小・中学生200円(2020年3月31日まで)
一般600円、高・大学生400円、小・中学生250円(2020年4月1日から)
金木観光物産館「マディニー」でお土産探し
「斜陽館」のすぐ向かいには、観光物産館があります。五所川原市や金木町の特産品を中心に、奥津軽のお土産を豊富に取り揃えた施設です。
もちろん太宰治関連グッズのコーナーもあり、食品や書籍のほか、ポストカードや便箋なども売られています。太宰治の故郷からなら、良い文章の手紙が書けるかもしれませんね。
こしあんを求肥とシソの葉で包んだ金木町の名物「甘露梅」(1,000円)、気になるネーミングの「斜陽羹」(756円)などの和菓子が並びます。また、津軽はリンゴや米の産地なので、日本酒やりんごジュースも種類が豊富です。
今回は電車旅なので、持ち運びが軽いお土産をセレクト。
右は、切符の模様がデザインされた「津軽鉄道切符地紋手拭(てぬぐい)」(530円)、本物の硬券付き。中央は、昭和19年の初版本をイメージした林檎ファイバー入りクッキー「津軽」(9枚入・516円)。また、左は斜陽館で購入した「クリアファイル 」(380円)で、こちらも小説『斜陽』の表紙デザインです。
金木観光物産館「マディニー」
- 住所
- 青森県五所川原市金木町朝日山195-2
- 営業時間
- 11月1日〜4月19日:9:00〜17:00、4月20日〜10月31日:9:00〜18:00
- 休業日
- 無休
太宰と家族が過ごした「太宰治疎開の家」
マディニーから徒歩約3分、2007(平成19)年から新たな名所として太宰ファンが足を運ぶスポット「太宰治疎開の家(旧津島家新座敷)」は、東京に暮らしていた太宰治が戦時中に妻子とともに疎開した家です。
もともとは太宰治の兄夫婦の新居として建てられたもので、斜陽館と同様に和洋折衷の建築。
疎開当時を再現して津軽塗の座卓と火鉢が置かれた書斎は、実際に座ることができます。
疎開中のわずか1年4ヶ月の間に、太宰治はここで23もの作品を生み出しました。太宰ファンで知られるピースの又吉さんはここに座った後に芥川賞を受賞したそうなので、座ってみると文才が開花するのかもしれません。
作風やエピソードから、暗い印象を持たれがちな太宰治ですが、家族とこの家で過ごした時間はとても穏やかなものだったようです。オーナーの白川さんが、生前の太宰治を知る人たちのエピソードを交えながら、これまで知られてこなかった素顔を紹介してくれます。
太宰治疎開の家(旧津島家新座敷)
- 住所
- 青森県五所川原市金木町朝日山317-9
- 開館時間
- 9:00〜17:00
- 休館日
- 冬季11月~4月は第1、第3、第5水曜日定休日
- 入館料
- 一般・高大学生500円、小中学生250円
太宰治の子守・タケの菩提寺「雲祥寺」
小説『津軽』などの作品にも登場する、太宰治の子守・タケが幼い太宰を連れて遊びに行ったお寺「雲祥寺(うんしょうじ)」が、斜陽館から徒歩約3分のところにあります。
太宰治はタケと一緒に、地獄の様子が描かれた掛軸『十王曼荼羅(じゅうおうまんだら)』を眺めたり、小説『思ひ出』に登場する後生車(ごしょぐるま)を回したりして過ごしたようです。どちらも、今でも見ることができます。自由に拝観できますが、必ず一声かけてから中に入りましょう。
雲祥寺
- 住所
- 青森県五所川原市金木町朝日山433
- 拝観時間
- 8:00〜16:00(法要の際はお休みです)
- 拝観料
- 無料
太宰治の小説に登場した駅舎が残る「芦野公園駅」
金木駅の隣の「芦野(あしの)公園駅」へ向かいます。金木駅から津軽鉄道で約2分、斜陽館からは徒歩約15分なので、天気が良ければ徒歩で向かっても楽しいです。
芦野公園駅は併設する旧駅舎と、自然豊かな公園が人気のスポット。「芦野公園」は幼い頃の太宰治が遊んだ場所としても知られ、現在は銅像と文学碑が建っています。
芦野公園に建つ銅像は、2009年に太宰治の生誕100年を記念して作られたもの。35歳頃の写真を元に制作され、マントを羽織った太宰治が生家である斜陽館の方角を向いて立っています。
文学碑には、「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり」という、太宰治がよく口にしたヴェルレーヌの詩の一節が刻まれています。6月19日の「太宰治生誕祭」(旧・桜桃忌)には、毎年この場所に太宰ファンが集まり献花が行われています。
芦野公園
- 住所
- 青森県五所川原市金木町芦野84-170
芦野公園駅の歴史を知る、赤い屋根の喫茶店「駅舎」
芦野公園駅の開業は1930(昭和5)年と古く、駅舎は太宰治の小説『津軽』にも登場します。赤い屋根がかわいらしい建物は今もそのまま保存され、現在は喫茶店「駅舎」として活用され旅行者や地元の人から親しまれています。
「駅舎」の中に一歩足を踏み入れると、そのレトロな光景に思わずタイムスリップしたような気分になるでしょう。ここは、鉄道ファン、太宰ファンが旅情にひたりに訪れる空間です。
店員さんが、昔の駅舎のお話や観光スポットなどを教えてくれます。そんな地元の方々との交流も楽しめる喫茶店です。
昭和をそのまま閉じ込めたような建物には、ところどころに駅舎だった頃の名残も。切符を買う窓口は現在客席となっていて、職員が座っていた側からも覗き見ることができます。
「駅舎」名物の馬肉カレーをいただく
五所川原市金木地区のグルメなら、古くから親しまれてきた馬肉料理がおすすめ。「駅舎」では、馬肉を使った「激馬かなぎカレー」(850円)が人気です。
スパイシーなカレーの香りとじっくり煮込まれた馬肉の旨み、そしてお好みでミルクポーションをかけていただくのが特徴。まろやかさとコクが増し、クセになるおいしさです。
「昭和の珈琲」(500円)は、地元の窯「津軽金山焼」の趣ある器で提供されます。ほろ苦く懐かしさを感じるコーヒーを、添えられた「ミニりんご焼きどーなっつ」とともにいただきます。
赤い屋根の喫茶店「駅舎」
- 住所
- 青森県五所川原市金木町大字芦野84-171
- 営業時間
- 10:00〜17:00(LO.16:30)
- 定休日
- 水曜日
冬の奥津軽でほっこりと心温まる旅を
雪の降る車窓とは対照的にストーブが暖かいレトロな車内は、楽しげな笑い声とスルメの香りで満たされます。ゆかりの建物を訪れて知った、昭和の文壇を駆け抜けた太宰治をずっと気にかけていた家族の存在。
流れる雪景色や方言、迎えてくれた人々が語る優しい物語に「心が旅をしている」と思える素晴らしい時間でした。
特別な時間へ連れて行ってくれるノスタルジックなストーブ列車に乗って、あなたも冬の奥津軽へ出かけてみませんか?
ストーブ列車で行く!青森・奥津軽観光マップ
写真・取材・文/Junko Saito