歴史ある名庭園とモダンな数寄屋造り。料亭旅館「南禅寺参道 菊水」で食と時を味わう

南禅寺参道 菊水

数ある京都の観光スポットの中でも、1291年に開創された臨済宗南禅寺派大本山「南禅寺」の周辺は、自然と歴史が溶け合う落ち着いたエリア。春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々の風景が美しく、ゆったりとした大人の京都旅にぴったりです。そんな南禅寺の参道にある料亭旅館「南禅寺参道 菊水」滞在記をご紹介します。

 

南禅寺の参道に佇む歴史ある料亭旅館

「菊水」の最寄り駅は地下鉄東西線の蹴上(けあげ)駅。京都駅からは、地下鉄で烏丸御池駅まで行って東西線に乗り換えるか、または、JRで山科を経由して東西線に乗り換えてもアクセス可能で、ともに20分弱で到着します。蹴上駅からは徒歩約7分。途中には南禅寺方面へつながるレンガ造りの歩行者用トンネル「ねじりまんぽ」や、傾斜鉄道の跡地「蹴上インクライン」などの観光スポットもあります。

 

南禅寺参道 菊水

疏水(そすい)の流れる音を聞きながら南禅寺の参道から細い脇道に入ると、見えてくるのが「菊水」の入り口です。門の上に掲げられているのは中国の高名な書家が書いた「寿而康(じゅにしてこう)」の文字。「健康であればこそ、命長し」「健康で何歳までも末永く幸せに」という意味があるそうです。

 

南禅寺参道 菊水

のれんをくぐると、緑の中に石畳が。その先に玄関が見えてきました。

「菊水」は1895(明治28)年頃に元呉服商の「寺村助右衛門」の別荘として建てられたもの。数寄屋造りの建物は、人々をもてなす茶の湯の心が宿り、820坪の敷地のうち約400坪を占める池泉廻遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)は、京都の円山公園や平安神宮を作庭した近代庭園の先駆者、七代目「小川治兵衛」の手により完成しました。

その後、1955(昭和30)年に「料理旅館 菊水」として営業を開始。2018(平成30)年6月に「南禅寺参道 菊水」として、限定5室の和モダン空間にリニューアルしました。

 

南禅寺参道 菊水

玄関の扉を開けると広がるのは、歴史を感じさせる板張りのエントランス。靴を脱ごうとすると「そのままでどうぞ」の声が。そうなんです。古き良き和建築ですが、気軽にくつろいでほしいという思いから、靴のまま上がれるようになっているのです。

この板張りは創業当時から変わっていないそうで、毎日スタッフが丁寧に磨いているとか。だからこんなにつややかで、まるでアンティーク家具のような優美さを感じました。

 

南禅寺参道 菊水

玄関の奥にあるのは、銀色に光るモニュメント。これは、スチール・ステンレス等の金属を使って様々な彫刻や家具などを手掛ける宜本伸之(よしもとのぶゆき)氏の「鯉・想念は光の速度を超える」というアート作品。歌手MISIAのステージモニュメントのデザイン制作にも参加している作家で、日本庭園に泳ぐ鯉の力強い生命力と、「菊水」が積み重ねてきた時を表現した躍動感を感じます。

 

南禅寺参道 菊水

チェックインは15:00~で、チェックアウトは翌12:00と時間もゆったり。これから1泊2日の菊水ステイの始まりです。

 

庭園を見下ろす2階のモダンなお部屋「202」

南禅寺参道 菊水

2018年のリニューアルの際、それまで15室あった客室を5室にした「菊水」。すべての客室の窓から庭園を見ることができ、落ち着いた空間でくつろげます。各部屋に置かれているのは、庭の草木の解説イラスト。どの位置にどんな木があるのか一目瞭然です。

庭の主役は真ん中にある赤松。もともと庭園を造る以前からこの場所に存在しており、庭師の七代目小川治兵衛はこの赤松を中心に据えて庭造りを行ったのだそう。樹齢200年の赤松をぜひ近くで眺めてみてください。

 

南禅寺参道 菊水

今回、宿泊したのは2階のツインの「202」(47平米)。赤松を正面に見下ろせ、優雅な眺めが堪能できるお部屋です。ほどよい高さの天井と窓から見える木々の緑がひとつになり、くつろぎの空間を作っています。窓の横にはウォークインクローゼットがあり、スーツケースも置けて便利でした。

また、ベッドはマットの弾力がちょうど良く、シャキッとしたシーツや布団の肌触りも印象的です。

 

南禅寺参道 菊水

お風呂は、ひのきで縁取られた十和田石の浴槽が備えつけられており、とてもモダンな印象。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

洗面台の横には白で統一したアメニティが並んでいました。シャンプーやリンス、ボディソープは「ミキモト」が手掛けるコスメブランドを用意。また、化粧水やクレンジングなどのスキンケアアイテムは、北海道の純天然水を使った低刺激・乾燥肌用スキンケアコスメ「Plusui(プラスイ)」。肌へのいたわりがうれしいですね。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

ふっくらとしたバスタオルやフェイスタオルには、「KIKUSUI」の刺繍が。バスローブも肌触り抜群です。

 

南禅寺参道 菊水

部屋着はすっぽりと頭から被るワンピースタイプ。心地よいクタッとした生地が肌になじみます。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

お部屋にはウエルカムドリンクとしてシャンパンが用意されていて、自分のタイミングでゆっくり庭を眺めながら楽しめます。そのほかエスプレッソマシーンもあり、部屋の冷蔵庫の中に入っているお茶や炭酸水、ビールなどは無料サービスです。

さらに、お茶請けには「祇園辻利」のフィナンシェもさりげなく置いてあり、お茶とお菓子でくつろいでほしいという心使いを感じます。

 

小さなテラスから庭園が見渡せる「101」

南禅寺参道 菊水

こちらは全室で一番広い61.2平米の1階「101」。琉球畳や白と黒を基調にしたモダンな空間の中で、大きな窓から見える庭園の緑はまるで絵画のよう。全館、冬には床暖房が入るので、京都の底冷えも安心です。

 

南禅寺参道 菊水

「101」には小さなテラスが併設されていて、そこから自慢の庭園の一部が望めます。ここでお茶やコーヒーを飲みながらのんびり過ごすのもいいですね。

 

南禅寺参道 菊水

お風呂は、窓を開けると外の風を感じられるように設計されています。湯舟はもちろん、バスルーム全体が広々とした造りなので、虫の声を聞きながらお風呂を楽しむといった、風情満点のバスタイムも叶えられますよ。

 

ベッドルームとリビングが分かれた「201」

南禅寺参道 菊水

2階の「201」は、ベッドルームとソファがあるリビングルームが分かれたタイプのお部屋。ふすまを開けると部屋の全体を見通すことができます。

 

南禅寺参道 菊水

ベッドルームの窓からも庭園の緑が映えます。

 

「南禅寺参道 菊水」の宿泊プランをチェックする

 

人気の「GARDENアフタヌーンティー」も楽しめる!

南禅寺参道 菊水

「菊水」は、実はアフタヌーンティーも大人気! 美しい庭園からインスパイアされた「GARDENアフタヌーンティー」は、四季を感じる13種類のメニューが登場。2日前までに要予約なので、今回は事前に予約をしてアフタヌーンティーも味わってみました。

いただいたのは、7~8月限定の「パッションアフタヌーンティー」。パッションフルーツやライチ、レモンなどのさわやかな酸味をテーマに、桃やマンゴーなど夏の果物もたっぷり使った夏限定の味わいです(写真は3人前)。桃のシュークリームやマンゴーのオペラ、レモンマカロンなど甘酸っぱいクリームや果汁があふれるなか、菊水の石畳をイメージしたミントチョコレートが口の中をスッキリさせてくれ、バランスも絶妙。

セイボリーも充実しており、「おつけものクロワッサンサンド」はしば漬けをクリーミーなチーズが包み、ベーコンの塩味が力強く弾けるインパクトのある味わい。但馬牛100%の「ミニハンバーガー」は、つなぎを入れず肉だけで作ったパテの旨味がたまりません。

 

南禅寺参道 菊水

ドリンクも豊富で、時間内おかわり自由の「ロンネフェルト」の紅茶やコーヒーのほか、クラフトビールや柚子のスパークリングワインなども楽しめます(別途1,100円)。春や秋などはテラスで味わうのもおすすめです。

 

GARDENガーデンアフタヌーンティー

営業時間
14:30~17:00(要予約※1日5組限定)
料金
6,000円

 

腹ごなしに庭園&周辺散策にお出かけ

南禅寺参道 菊水

アフタヌーンティーでお腹がいっぱいになったので、庭園を散策してみました。庭づくりの匠・七代目小川治兵衛のインスピレーションを刺激した、樹齢200年の赤松が今もどっしりと根を張り、枝を伸ばしています。

庭園は回遊式なので小道をたどってぐるりと一回り。琵琶湖からの疎水を引き込んだ池は、形も琵琶湖を模しているそうで、琵琶湖の恵みが人々の暮らしをより豊かにするようにという願いが込められているとのこと。

 

南禅寺参道 菊水

赤松のほかに、しだれ桜やモミジなど季節に色づく樹々に加え、豊臣秀吉ゆかりの立手水鉢(たちちょうずばち)や桃山時代の石灯篭、全長2.3mの巨大な鞍馬石、歴史ある堀川の橋柱など、貴重な遺産が景色に溶け込んでいます。

 

南禅寺参道 菊水

もう少し歩きたかったので宿の外にも足を伸ばし、「蹴上インクライン」へ。琵琶湖の水を京都に引き込む疏水工事の一環として造られた傾斜鉄道の跡地で、高低差が約36mがあり、貨物を積んだ舟が移動できなかったため、舟を台車に乗せて引っ張りながら運んだそうです。春は桜の名所としてにぎわいます。

 

夕食は離れの「KIKU」で季節感いっぱいの料理を堪能

南禅寺参道 菊水

散策を終え、お部屋でゆっくりしたら夕食の時間に。今回は、離れのひとつ「KIKU」でいただきました。「KIKU」は庭園に面した明るい空間で、結婚式での少人数のパーティーなどにも使われるそう。

 

南禅寺参道 菊水

ちなみに離れは3つあり、こちらの「SAKURA」は別棟になっています。8名まで利用可能で、庭園を望みながら個室で静かに食事を楽しみたい方などにおすすめです(※離れの個室利用は要事前予約)。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

夕食は和食と洋食があり、まずは季節感満点の和食メニューをご紹介。

先付けには雲丹、煮物椀には酒塩蒸しの甘鯛や松茸と、はじめから高級食材がさりげなく入っています。なめらかな雲丹はまったりとした枝豆豆腐とよく合い、椀物はみっちりとした甘鯛がほろりとほどけ、あっさりとしたすまし仕立ての出汁と合います。

 

南禅寺参道 菊水

次のお造りは、赤魚鯛とマグロ、イカの3種盛り。弾力・旨味・とろみと、それぞれの味わいが際立ち、出汁が入った造里醤油がさらにおいしさを引き出しています。

 

南禅寺参道 菊水

続いては、夏の京都らしく「鱧(はも)寿司」。鱧には、実山椒を煮詰めてペースト状にしたものを塗って焼き上げていて、ほろりとした身と香ばしい風味がすし飯とよくマッチしています。

 

南禅寺参道 菊水

八寸は、水菜のおひたしやサツマイモのレモン煮、万願寺唐辛子など旬の食材が並びます。そのほか、鯵の土佐酢漬けや香ばしい平貝の炙り、車エビなどの魚介類を使い、揚げもの、煮ものと手間暇かけたものばかりです。

 

南禅寺参道 菊水

次のお料理にびっくり。まるで泳いでいるかのように盛られた鮎の塩焼きです。香ばしく焼き上げた安曇川(あどかわ)の小鮎は、頭からしっぽまで丸ごと食べられます。かじりついてみると、新生姜の鼈甲(べっこう)煮の辛味と甘味が鮎のほのかな苦味を優しく包み込み、本当に美味! 

 

南禅寺参道 菊水

続いて、伊勢海老具足煮。器の底に注がれている伊勢海老からとった出汁の風味とエビの身のコクがたまりません。時折、春菊のシャキッとした歯ごたえと青い風味が加わり、濃厚なのにスキッとした風味の絶妙なさじ加減です。

 

南禅寺参道 菊水

油ものは、目板鰈(かれい)、京野菜の賀茂茄子、アスパラの天ぷらです。フランスの天日塩「ゲランドの塩」に付けて食します。ふっくら揚がったカレイの白身は甘味を含んだ塩がよりおいしさを引き出し、白身魚と塩の相性の良さを堪能しました。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

ご飯は、京都祇園の人気米料亭「八代目儀兵衛」の最高級米「翁霞」を使った炊き立てを提供してくれます。この日は、白玉蜀黍(しろとうもろこし)が入った香ばしいご飯。行列必至の人気店のご飯を味わえるのはうれしいですが、もうお腹がいっぱいに。でもそんな時は、おにぎりにしてお部屋に持ち帰ることもできるのです。しばらくしてから夜食に食べましたが、しっかりした歯ごたえのお米ととうもろこしの香ばしさ、絶妙な塩加減のご飯は、冷めても絶品でした。

ご飯と一緒に八丁味噌合わせの汁物や香の物を食し、その後は桃のワイン煮や巨峰などの果物、麦焦がしの羊羹などと続く、大満足の献立でした。

 

南禅寺参道 菊水
南禅寺参道 菊水

一方、洋食メニューもボリューム満点! アミューズはとうもろこしのムースにコンソメジュレとキャビアを乗せたものや、西瓜(すいか)のガスパッチョなど涼し気な味わい。続いて、プルミエはマグロのタルタルをお米のチップスに乗せて味わいます。

 

南禅寺参道 菊水

続いてパスタは、金糸瓜(きんしうり)と香住ガニの冷製フェデリーニ。からすみで濃厚さもプラスした絶品パスタで、上にはいくらがたっぷり乗っていました。

 

南禅寺参道 菊水

次に登場したのは京鴨とイチジクのサラダ、サマートリュフを添えて。たっぷりの鴨肉に加え、トリュフまでふんだんに使われた贅沢なサラダです。イチジクの甘味と鴨肉の味わいがベストマッチ!

 

南禅寺参道 菊水

パスタに続いて、穴子と万願寺唐辛子のリゾット。アナゴのフリットの上にはミョウガを乗せて、さわやかな味わいに。

 

南禅寺参道 菊水

メインの魚料理は、甘鯛の鱗(うろこ)焼きデュグレレ風ソースです。デュグレレとはタマネギやエシャロットをワインで煮詰めたソースのこと。パリッとした鱗の食感が楽しい一皿です。

 

南禅寺参道 菊水

続くメインの肉料理は、黒毛和牛サーロインのソテー 赤ワインソースとロックフォールのソース。ロックフォールチーズの力強い旨味が黒毛和牛と絡みあい、赤ワインソースの風味がふわりと広がります。

 

南禅寺参道 菊水

デザートは桃のコンポートや日本酒のグラニテのほか、小さなお菓子まで用意されていて、洋食も圧巻のボリュームでした。

 

 

翌朝はちょっと早起きして南禅寺へ

南禅寺参道 菊水

翌朝は、朝食前に南禅寺へ。宿から南禅寺は歩いてすぐ。国の重要文化財で別名「天下龍門」とも呼ばれる三門などは拝観時間が決まっていますが、境内は自由なのでぜひお参りを。

 

南禅寺参道 菊水

お参りした後は、フォトジェニックな「水路閣」へ。琵琶湖疎水分線の一部である「水路閣」は全長93.2m、高さ約9mの構造物で、レンガ造りとアーチ型のレトロな姿がとてもノスタルジック。人が少ない早朝であれば思う存分写真を撮ったり、たたずまいを楽しむことができますよ。

 

朝食は南禅寺名物の湯豆腐を

南禅寺参道 菊水

宿泊者限定の朝食は、アフタヌーンティーをいただいた庭園一望のダイニングで。席に着くと、一品ずつ料理が運ばれてきます。味が濃厚な黒豆の湯葉豆腐や厚みのある京風だし巻きなど、京料理らしさを感じるおばんざいがそろいます。そして南禅寺といえば、やはり湯豆腐です。

豆腐は、1924(大正13)年創業の「東山とうふ 西初」の絹ごし豆腐を使用。豆の味が濃厚な豆腐を自分ですくい、醤油だれをつけていただきます。湯気の向こうに庭園の緑が見えるのも、「菊水」ならではの醍醐味です。ご飯は「八代目儀兵衛」の炊き立ての白ご飯。本日の魚の金目鯛と一緒にほおばる幸せは格別ですね。

 

南禅寺参道 菊水

気候と天気が良ければ、窓はオープンに。自然の風や鳥のさえずりなどを聞きながら食事をし、コーヒーやデザートをテラスに座って味わうこともおすすめです。庭園が目の前にあるこの空間を、最後までしっかり楽しみましょう。

 

 

南禅寺参道 菊水

美しい庭園と和モダンな数寄屋造りの旅館「菊水」。古いものと新しいものが融合した館内で、ふと目に留まる生け花などもとても素敵です。街中の喧騒を離れ、落ち着いたステイを楽しみたい方や、ご夫婦でのんびり京都旅をしたい方におすすめしたい宿でした。

 

南禅寺参道 菊水

住所
京都府京都市左京区南禅寺福地町31
アクセス
地下鉄蹴上駅より徒歩約7分
客室数
5室
チェックイン
15:00
チェックアウト
12:00

 

取材・文/田村のりこ 撮影/正井聖樹

 

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