廃校から美食の宿へ。里山にある「オーベルジュ オーフ」で若きシェフが生み出す料理と新たな価値

オーベルジュオーフ

清らかな水が流れる石川県小松市観音下町(かながそまち)。そこで長年、地域の子どもたちを見守ってきた小学校が役目を終え、新たに食を通してその土地の文化や歴史を体験する「ガストロノミーツーリズム」の舞台として生まれ変わりました。その名は「オーベルジュ オーフ」。各所に現代アートが展示された館内は、洗練された空間でありながら、どこか懐かしい雰囲気。そして、数々の賞を受賞した糸井章太シェフが創り出す料理は、地元食材の魅力を引き出す技術もさることながら、ジャンルにとらわれない自由な発想に多くの人が引きつけられます。里山に佇むオーベルジュでの宿泊体験と、その魅力をレポートします。

※2023年12月に取材

 

 

アクセス、チェックイン

オーベルジュオーフ

石川県小松市に位置する「オーベルジュ オーフ」。東京から飛行機で向かうなら羽田空港から小松空港まで約70分、そこから車で30分ほどで到着します。北陸新幹線の場合は東京駅から金沢駅まで約2時間半、そこから特急で約17分で小松駅へ。さらにタクシーに乗って20分ほどで到着です。

関西方面からは特急「サンダーバード」「しらさぎ」を利用するのが便利。小松駅まで直行の「サンダーバード」なら大阪駅から約2時間半、京都駅からは約2時間です。
(※北陸新幹線の金沢~敦賀間開業となる2024年3月16日以降、特急「サンダーバード」「しらさぎ」は敦賀止まり)

 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

ちなみに小松タクシーを利用すれば、小松駅からは5,300円、小松空港からは6,800円と、ともに定額料金(要予約)。車の窓から見える風景が「オーベルジュ オーフ」に近づくにつれ、自然豊かな世界に変わっていきます。

 

オーベルジュオーフ

田んぼの中に佇む「オーベルジュ オーフ」。旧西尾小学校の校舎としての面影が大切に残され、一見して宿泊施設とは思えない印象です。

 

オーベルジュオーフ

館内に入ってすぐ、かつて下駄箱が並んでいた場所はロビー兼カフェ。宿泊客だけでなく、地元の人たちにとっての憩いの場であり、また、金沢市内などからのお出かけスポットとしても人気です。

 

オーベルジュオーフ

チェックインの際にいただく自家製マドレーヌは、バターのリッチな風味が口の中に広がり、さわやかな加賀棒茶とよく合います。

 

「オーベルジュ オーフ」概要

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

泊まれるレストランという意味のオーベルジュとガストロミーツーリズム、どちらも鍵を握るのはシェフの存在です。「オーベルジュ オーフ」の糸井章太シェフは、26歳のときに国内の料理人コンペティションでグランプリを獲得。さらに、2023年にはフランスのレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』日本版で「期待の若手シェフ賞」を受賞するなど、華々しい経歴の持ち主。どのような経緯で「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任することになったのか、話を聞きました。

 

オーベルジュオーフ

「もともと僕が働いていた兵庫県のレストランの常連で、このプロジェクトを手掛ける方からお誘いをいただいたのがきっかけです。フランスやアメリカで働いていたとき、都市部ではなく、郊外にあるレストランなのにたくさんのお客さまでにぎわう様子を見て、単純にすごいなと感じていました。ですので、話をいただいたときに自分でもやってみたい、挑戦してみたいと思ったんです。廃校を使って地域と協力する、そしてその中心に食がある『オーフ(eaufeu)』は、ほかにはない特別な場所だと思います」

 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

館内の各所を彩るのは、現代芸術家・小川貴一郎氏が観音下という地域にインスパイアされて制作した作品。また、「eaufeu」という名前は、フランス語の水(eau)と火(feu)を組み合わせたもの。観音下という地域を象徴する水に、糸井さんたちが火を灯し、新たな価値を生み出していくという想いが込められています。

敷地内に残る体育館の活用など、次から次へとやりたいことが出てくるという糸井シェフ。笑顔で話すその様子から、この地域を照らそうとする情熱が伝わってきました。
 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

この土地ならではの味を表現することに徹底したこだわりを持ち、食材となる野菜は最寄りの農園から仕入れるほか、山菜やキノコなどはスタッフみんなで周辺の山へ採りに行くことも。また、校庭の一角では料理に使えるハーブや山茶花(さざんか)を育てているそう。

 

「昨年の春は山菜が大量に採れて、料理が追いつかないくらいでした。夏はトマトなど野菜がみずみずしく、秋はキノコ、それにジビエもおいしいですよ。冬は日本海に面しているのでカニとか、葉野菜も良いですね。点から面へ、『オーフ』をきっかけにこの地域を広く知っていただきたいです」

 

夕食

元職員室のレストランでいただく、おまかせコース

オーベルジュオーフ

夕食は、観音下の食材や文化、そしてシェフの経験や知識を掛け合わせ、ひとつのコース料理として仕立てています。

 

取材当日のおまかせコース
【DECEMBER 2023】
・water 
 農口尚彦研究所の仕込み水 甘酒 焼酎 どじょう 蓮根
 さつまいも 白かじき 発酵キャベツ 銀杏
・蕪 百合根 白子
・バターナッツ ヘーゼルナッツ
・ひね鶏 ねぎ
・タコス ジビエ
・香箱蟹 蒸し寿司
・鰆 椎茸
・野鴨 トレヴィス
・みかん 麹
・栗 りんご
・チョコレート
・キャラメル

 

オーベルジュオーフ
「water」
菊の香りを移した農口尚彦研究所の仕込み水

隣接する酒蔵「農口尚彦研究所」では白山の伏流水を使用し、「酒造りの神様」と呼ばれる杜氏・農口尚彦さんによっておいしいお酒が造られています。オーフの料理にも使用する仕込み水がコースの最初に登場。

 

オーベルジュオーフ
「water」
加賀れんこんの上にチップスを盛るなど、見た目にも一工夫

続く料理は、周辺の情景をそのまま切り取ったかのよう。焼酎で酔っ払わせて揚げたドジョウ、銀杏の塩ゆで、白かじきの生ハムは、地元・小松市の銘石「日華石(にっかいし)」のプレートにのせて。

日華石は国会議事堂にも使用されている石材で、近くの石切り場は日本遺産に認定された「石の文化」の一端を担っています。

 

オーベルジュオーフ
「蕪 百合根 白子」
蕪のメレンゲにコンソメ仕立ての餡には百合根と白子も
オーベルジュオーフ
「バターナッツ ヘーゼルナッツ」
地元の西田農園で採れたバターナッツかぼちゃをロースト
オーベルジュオーフ
「ひね鶏 ねぎ」
ひね鶏胸肉のスライスを、レモングラスなどハーブが香るひね鶏のコンソメスープとともに
オーベルジュオーフ
「タコス ジビエ」
能登のイノシシをサンドした墨パウダーと米粉のタコス

糸井シェフがアメリカ修業中に衝撃を受けたタコスは、食材を代えながら通年で提供している名物メニュー。

インパクトのある真っ黒な見た目に加え、噛むごとにジューシーな肉の旨みが広がります。小松市の名産であるトマトを使った発酵ソースが味を引き締め、味わいが多彩に変化。

 

オーベルジュオーフ
「香箱蟹 蒸し寿司」
金箔をふんだんに使用した香箱蟹(こうばこがに)
オーベルジュオーフ
「鰆 椎茸」
甘みのあるアルベールソースに、こんがり焼き目をつけた鰆と椎茸を
オーベルジュオーフ
「野鴨 トレヴィス」
メインディッシュには網取りの野鴨が登場
オーベルジュオーフ
野鴨のローストにサンチュベールソースを添えて

じっくりと焼き上げた鴨肉はつややかで、赤ワイン、バター、鴨などを使ったクラシックなソースと一緒にいただくことで肉の旨みが際立ちます。よりやわらかな食感を楽しんでもらえるよう、野鴨は網で捕獲したものというこだわり。地元で採れたトレヴィス(チコリ)の苦みが全体の味を引き締め、上品な余韻を残します。

 

オーベルジュオーフ
「みかん 麹」
みかんのシロップ漬けと酒粕のアイスクリーム
オーベルジュオーフ
「栗 りんご」
栗の渋皮煮のパイ包み焼き
オーベルジュオーフ
「チョコレート」「キャラメル」
加賀棒茶の風味が香るチョコレートとプチシュー

デザートは3品。まずフルーツとアイスクリームでさっぱりとリフレッシュし、続いて季節ならではのスイーツ、そして最後は濃厚なチョコレートという贅沢さ。

 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

それぞれの料理に合わせて、ドリンクのペアリングも。

フランスのブルゴーニュ地方で働いた経験を持つソムリエの等々力(とどりき)竜輝さんは、ワインや農口尚彦研究所の日本酒などジャンルを問わず、とびきりの一杯を提案してくれます。そして、その対象はノンアルコールドリンクまで。タンポポコーヒーを自ら焙煎したり、校庭の花壇で育てたハーブをカクテルに入れたりと、個性が光ります。

 

客室

ジュニアスイート「3-2」

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

「オーベルジュ オーフ」の客室の名前は元小学校の教室らしく、「3-2」「2-1」などの名前が付いています。今回宿泊した広さ55平米のジュニアスイートは、シモンズのセミダブルベッドが2台置かれ、寝心地が良いと評判です。客室にも小川貴一郎氏のアート作品が飾られ、洗練された空間に。

 

オーベルジュオーフ

大きな窓が配されたバスルームは明るく、開放的。校庭を一望でき、右には農口尚彦研究所、左には石切り場といった観音下らしい風景も見渡せます。

 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

「NEMOHAMO」(ネモハモ)のシャンプー、トリートメント、ボディソープは、自社農園で育てられた植物の保湿成分がたっぷり。洗顔ソープ、スキンオイル、ローションのセットもありますが、乾燥が気になる場合はクリームを持参すると安心です。

 

オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ
オーベルジュオーフ

ナイトウェアは上下セパレートタイプで、着心地抜群。ジャズを中心としたレコード数枚とプレーヤーも用意され、夜は音楽を聴きながらゆったりと過ごせます。

冷蔵庫にはクラフトビールや加賀棒茶、奥能登地サイダーなど、フリードリンクが10種類以上用意されているのもうれしいポイントです。

 

スイート「3-1」

オーベルジュオーフ

こちらは元図書室だったスイートの「3-1」。滞在中に小川貴一郎氏が床や壁にも筆を走らせた客室で、トイレには宿泊者へのメッセージも残されています。

 

オーベルジュオーフ

広さは77平米。南側の窓から見える校庭に加え、北側の窓からは田園が広がるのどかな風景を望めます。

 

おすすめの過ごし方

カフェでひと休み

オーベルジュオーフ

踊り場や手洗い場など、小学校だった名残を探すのも「オーベルジュ オーフ」の過ごし方。そしてひと通り散策を終えたら、1階のロビー兼カフェでくつろぎのひとときを。

石川県を代表する加賀棒茶をはじめ、金沢にあるコーヒーショップ「townsfolk coffee」が焙煎したコーヒーや、シェフ特製サンドウィッチなどメニューも充実。クロモジの香りをまとった芳醇なプリンは、雑誌でも紹介されたそう。

 

オーベルジュオーフ

天気が良ければ、カフェメニューを持って屋上の「KANAGASO TERRACE(観音下テラス)」へ。ここからは地元のブランド米「蛍米(ほたるまい)」が育つ田園風景や山の稜線を一望でき、耳をすませば郷谷川(ごうたにがわ)の川音も。ついつい時間を忘れて、ぼーっとしてしまう場所です。

 

隣接の「農口尚彦研究所」へ

オーベルジュオーフ
農口尚彦研究所

「オーベルジュ オーフ」から歩いて5分ほどの場所にある「農口尚彦研究所」も、観音下がいかに水に恵まれた土地かを知ることができる場所。道すがら石切り場を眺めたり、田んぼの間を歩いたり、ちょっとした散歩にもなります。

 

農口尚彦研究所
 農口尚彦さん

日本最高峰の醸造家として知られる農口尚彦さん。70年以上もの歳月をおいしい日本酒造りに捧げ、今も若き蔵人たちとともに切磋琢磨の日々を過ごしています。

 

農口尚彦研究所
農口尚彦研究所

「農口尚彦研究所」では、農口さんが復活させた「山廃仕込み」をはじめ、純米大吟醸や純米酒など時期によってさまざまなお酒を販売。また、1日3回行われるテイスティングでは、普段公開されていない酒蔵の様子も一部見学できます(要予約)。

 

農口尚彦研究所
農口尚彦研究所
オーベルジュオーフ

基本のテイスティングコース(3,000円)は定番のお酒3種に加え、約10種類の中から2種を選べます。お酒に合うわさび漬けやクリームチーズなどのおつまみも。

九谷焼や能登島ガラスなど、色鮮やかな酒器でいただくお酒はいつも以上にふくよかに感じます。同じ「山廃」でも原料となるお米の品種が異なるだけで味もまったく異なり、日本酒の奥深い世界に浸れるでしょう。お酒を飲めない人のために加賀棒茶と和菓子の用意もあり、配慮も細やかです。

 

朝食、チェックアウト

「発酵」がテーマの和朝食

オーベルジュオーフ

「農口尚彦研究所」で使われる麹は、「オーベルジュ オーフ」の朝食にも登場します。自家製の甘酒に始まり、具だくさんのお味噌汁やぬか漬け、それにタラの麹漬けはどれもやさしい味わい。ご飯は粒立ちがよい「蛍米」で、蛍が飛び交うほどの清流で育ったお米は、米本来の甘さを実感できます。

 

オーベルジュオーフ

「観音下は水だけでなく、空気もきれい。一日過ごすと身体に馴染んでくるのがわかります。おもしろいなぁと思うのは、みなさん、ディナーは時間通りにレストランにいらっしゃいますが、翌朝の朝食になると、決められた時間より遅れて来られる方が結構多いんですよ」と、楽し気に話す糸井さん。どうやら「オーベルジュ オーフ」で味わえるガストロノミーには、人をのんびりとさせる空気も含まれているようです。

 

オーベルジュ オーフ

住所
石川県小松市観音下町ロ48
アクセス
JR小松駅より車で約20分、小松空港より車で約25分
チェックイン
15:00
チェックアウト
11:00
客室数
12室
駐車場
あり/15台(無料※要予約)

撮影/岡村智明 取材・文/浅井みら野

 

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