香川の高松港から約20分でアクセスできる離島「女木島(めぎじま)」。別名「鬼ヶ島」と呼ばれる島の山中に位置する「鬼ヶ島大洞窟」は、かつて鬼たちが拠点にしていたと言われているスポットです。真夏でも冷んやりとする人工の洞窟は、未だにさまざまな謎であふれています。今回はそんな香川のミステリアスなスポットをご紹介します。
「鬼ヶ島大洞窟」ってどんなところ?
女木島にある「鬼ヶ島大洞窟」は鷲ヶ峰の山頂近くにあり、島の一大観光スポットとなっています。女木島は高松駅周辺エリアから見えているほど近く、フェリーで20分ほど。子どもから大人まで、多くの人が日帰りで観光に訪れます。
洞窟というと天然の鍾乳洞をイメージするかもしれませんが、ここは人工的に造られた点が他とは違っているところ。広さは約4,000平米で、奥行きが400mと、かなり広大な空間で、今なお多くの点が謎に包まれています。
この場所が発見されたのは1914年と、100年以上前に遡ります。発見者の橋本仙太郎さんは、隣の男木島(おぎじま)で学校の校長をしていた先生で、桃太郎伝説と女木島を結びつけた第一人者でもあります。それ以来、女木島は「鬼ヶ島」、洞窟も「鬼ヶ島大洞窟」と呼ばれるようになりました。
もちろん実際に住んでいたのは、鬼ではなく海賊だったというのが有力な説ではありますが、全ての謎が解明されているわけではありません。ただ、実際に人の力で造られた洞窟が残っているという点だけから見ても、何者かがここにいたことは間違いないとされているのです。
そんな洞窟が一般公開されたのが1931年。最初は島にも電気が通っておらず、松明の明かりを頼りに中を見学していたそう。現在は入り口から出口までしっかりと電気が付けられていますが、外と隔絶された独特の雰囲気は健在。中の温度は通年で約15度と、夏は涼しく冬は暖かく感じられます。
実際に洞窟内を探検してみよう
では、そんな洞窟を実際に訪ねてみましょう。高松港から女木港までは、高松と女木島・男木島をつなぐフェリー「めおん」で向かいます。瀬戸内国際芸術祭の舞台のひとつであるため、島内にはパブリックアートも多く見られますが、子どもにも大人にも人気なのは、やはり鬼ヶ島大洞窟です。
港から洞窟までのアクセスはバスがおすすめ。レンタサイクルや徒歩でも行くことは可能ですが、かなり急勾配なのでご注意ください。バスだと10分ほどで洞窟に到着します。入り口のバス停に到着すると、早速大きな赤鬼がお出迎えしてくれます。
バス停から階段を上ると、洞窟の入り口が見えてきます。チケットを券売機で購入し、中へと入っていきます。入り口付近からすでに天井が低く、内部には頭が当たってしまう箇所も多くあるので、頭上には注意しながら進みましょう。
入り口付近は一本道の洞窟のようですが、奥に進んで行くにつれて、さまざまな機能を有するであろうスペースがいくつも並んでいることがわかります。まず目に入ってくるのは、「玄関口」です。洞窟は古代中国の要塞に似せて造られていて、玄関口から中ほどまでは防御しやすい形に、そして出口までは逃げやすい構造になっています。
人の手で造られたものでこれほどの規模と構造の巧みさを持つものは他にはほぼなく、発見から100年以上が経った今でも、まだ解明されていない謎が多いそうです。玄関は2本の柱と2つの鬼番人の控室によって構成されており、門番の鬼が配置されています。
さらに進むと、「宝庫(たからぐら)」があります。奪ってきた金・銀・財宝を隠していたところで、通路部分から壕を掘りって作った8平米ほどの空間を宝物庫として利用していたとされています。さらに、厚さ60cmの一枚岩を扉として使用し、外部からは見えないような工夫も施されていたという点からも、この場所をかなり重要視していたことがわかります。
宝庫から奥に続く空間は、洞窟の中心部。まるでこの洞窟全体を支えているかのような「大黒柱」が立っています。その周囲は30mもあり、ぐるりと周辺には会議室や監禁室などさまざまなスペースが配置されていて、このあたりが生活の中心だったことがうかがえます。
そのうちのひとつが、「鬼大将の会議」と呼ばれる場所で、鬼たちが夜な夜な酒盛りを行いながら、夢を語り合ったのではないかとされています。昔の瀬戸内地方は大陸からの文化が入ってくる重要なエリアでした。その時代に大陸へ渡る手段は船のみ。高度な航海技術を持っていた彼らは、最先端の文化を享受し、大きな夢を見ていたと推測されます。鬼や海賊というと、悪事を働くことから悪いイメージが強いですが、ここでどんなことを語らっていたのかを考えてみるのも面白いですね。
会議室の隣には「鬼の力水」という貯水場があります。天井から滴り落ちる水を蓄える空間で、長期の干ばつ時にも枯れることがない水源地。現在でも一部が残されていて、水が溜まっている様子を見ることができます。
大黒柱を挟んで逆側は「仏間」になっており、鬼の犠牲になった人たちを供養しています。また、学問の神様である菅原道真を祀った「鬼ヶ島天満宮」も置かれています。菅原道真は、1200年ほど前に讃岐国の国司として在任している4年間に「桃太郎伝説鬼退治の物語」を脚色したとされており、鬼ヶ島大洞窟とは深い縁があります。洞窟の中にある天満宮は極めて珍しく、学業成就の祈願に訪れる人も多いそう。
洞窟見学が終盤に差し掛かる頃に見えてくるのが、「亀の甲天井」です。その名前通り、天井が亀の甲羅のように見える場所で、模様に見えるそのひとつひとつの線は、ノミで削った跡です。
資材が豊富ではない時代にこれほど大規模なものが造られた裏には、相当の努力があったことでしょう。その片鱗に触れられる場所でもあるので、ぜひ天井の無数に刻まれた跡をチェックしてみてください。
最後の見所は、出口の手前に位置している「鬼大将の部屋」。出口とは逆方向にある小さな岩の切れ目から中へ入ると、想像以上に大きな空間が2つ並んでいることがわかります。これまで見てきたどの鬼よりも大きな鬼大将がどんと座っている様子は迫力があるので、出る前に見ておきましょう。
帰る前に展望台もチェック
洞窟から出た後に体力があれば、そのまま山頂広場へと歩いて行くことをおすすめします。洞窟出口からは歩いて5分ほどで展望台に到着します。瀬戸内海をパノラマで見渡すことができるので、特に晴れているタイミングであれば爽快感抜群。高松市はもちろん、周辺の島々も見えますよ。
また、山頂付近は溶岩台地となっており、島の地質を知ることができる場所です。洞窟は削りやすい凝灰石を掘って造られたものとされていますが、そこに目をつけた鬼たちは慧眼を持っていたのですね。頂上付近はほとんど玄武岩でできており、歩道は割れた石を利用しています。
最後にご紹介するのは、洞窟入り口で販売している「おにピー」というお菓子。高知県の特別支援学校で作られたお菓子で、就労支援の一環として鬼ヶ島観光協会が販売しています。材料には、高知県の海洋深層水の塩や自然牧場のしぼりたて牛乳が使われていて、優しく素朴な味わい。鬼のすみかを訪れた記念にお土産として買って帰ってはいかがでしょうか。
ミステリアスな香川のスポットを堪能しよう
テレビアニメや漫画で登場する鬼が実在するわけではありませんが、鬼ヶ島大洞窟を訪れると不思議と本当にいたのでは?と興味が湧くことでしょう。なお、洞窟の終盤では、鬼と桃太郎が仲良く握手をしている姿も見られます。
これは「ケンカばかりせずに、仲良くお互いを理解し合うことの大切さ」を示したもので、おとぎ話ならではの教訓を鬼ヶ島大洞窟が伝えてくれます。最後には、鬼たちが朗らかに手を振って見送ってくれます。実際に足を運んで、その魅力に触れてみてくださいね。
鬼ヶ島大洞窟
- 開館時間
- 8:30〜17:00
- 定休日
- 年中無休
- 住所
- 香川県高松市女木町235
- 料金
- 大人600円、小・中学生300円、65歳以上500円
- アクセス
- 高松港から女木島港までフェリーで約20分、女木島港から連絡バスで約10分
- 公式サイト
- 鬼ヶ島観光協会
取材・撮影・文/岡本大樹