東京都港区元赤坂にある「迎賓館赤坂離宮」。ルネサンス後に広まった美術・建築・文化の「バロック様式」を復興させた「ネオ・バロック様式」でつくられた日本で唯一の西洋風宮殿建築物です。本館や正門は国宝にも認定されており、細部にほどこされた伝統の技は必見です。
世界各国の国王や大統領、首相などの賓客を迎えるための迎賓施設ですが、実は通年で一般公開もされています。今回は、「迎賓館赤坂離宮」の見どころや見学方法、入館料などを徹底紹介します。
目次
迎賓館赤坂離宮へのアクセスと参観料
迎賓館赤坂離宮の最寄りは、JR・東京メトロの四ツ谷駅です。赤坂方面の改札を出て外堀通りを南へ進み、交差点「四谷中学校前」を横断。すると左手に、白と金の装飾がほどこされた重厚な門扉が見えてきます。
これが、国宝にも認定されている迎賓館の「正門」です。海外の賓客はこちらから迎えられますが、一般見学者の入り口は、もう少し先になります。
正門を通り過ぎ、壁に沿って西の方へ歩いていくと「迎賓館西門」があります。ここが一般見学者の入り口です。手荷物検査を受けてから、券売機でチケットを購入しましょう。
迎賓館の中で見学できるエリアは、「庭園(主庭・前庭)」「本館」「和風別館」の3カ所。19名までは予約は必要ありません。
(※20名以上の団体と、和風別館を見学の場合は予約が必要)
どこまで見学するかによって、料金は変わります。「庭園」だけなら一般300円。「庭園と本館」なら一般1,500円。「庭園・本館・和風別館」すべてを見学する場合は一般2,000円です。庭園での撮影はできますが、本館や和風別館の内部を撮影することはできません。
「和風別館」は見学できる人数が決まっているので、WEBで事前予約をしておくと安心です。※当日の定員に空きがあれば、その場で予約できる場合もあります
非日常の空間へ誘う、豪奢な「本館」
正面玄関ホール
「本館」に足を踏み入れれば、そこは非日常の世界。精巧な装飾に彩られた、豪華絢爛な空間が広がります。数々の賓客を迎えてきた玄関ホールには深紅のじゅうたんが敷かれ、真っ白な壁には金箔の装飾がほどこされています。
昭和43年からの大規模改修工事が行われた際、建築家・村野藤吾は、壁や天井の白にとことんこだわったそう。一般的な白に琥珀色を混ぜ、色見本にはない「迎賓館だけの白」をつくり出しました。
玄関ホールは、天皇陛下や総理大臣が海外の賓客と最初に会う場所です。床のタイルは市松模様になっていて、イタリア産の大理石ビアンコ・カララと、東京駅の屋根にも使用されている宮城県産の玄昌石を組み合わせてつくられています。
館内の柱や壁には、さまざまな種類の大理石が使われていますが、中央階段にある4つの柱だけは「スタッコウ」と呼ばれる模造大理石です。
大理石ならではの模様は手書きで描かれています。ぜひ、ほかの場所の大理石と見比べてみてください。
花鳥の間
順路に従って、まずは「花鳥の間(かちょうのま)」へ入ってみましょう。ここは130名ほどの公式晩さん会に使われる大食堂です。壁は木曽産のシオジ材が張られ、鹿狩りの様子が描かれた京都西陣の綴織(つづれおり)も飾られているなど豪華絢爛。
天井にはジビエをイメージしたイノシシやシカが描かれています。また、豪華なシャンデリアをよく見てみると、中にはスピーカーが。部屋の雰囲気を壊さないための工夫がほどこされています。
「花鳥の間」に飾られているのは、値がつけられないという貴重な30枚の七宝焼です。これらは明治を代表する日本画の巨匠・渡辺省亭(わたなべせいてい)が下絵を描き、七宝焼きの天才・涛川惣助(なみかわそうすけ)が焼いたもの。
色とりどりの花々や、かわいらしい鳥が描かれており、「花鳥の間」の名のもとにもなっています。お気に入りの1枚を探してみてはいかがでしょうか。
彩鸞の間
次の部屋は「彩鸞の間(さいらんのま)」です。ここは調印式や会談が行われる場所で、表敬訪問の控室としても使われています。ほかの部屋に比べると少し小さめですが、壁に張られた10枚の大鏡が空間を広く見せています。
この部屋の特徴は、なんといっても豪華な金箔張りのレリーフ。ナポレオン1世の帝政時代に流行したアンピール様式という装飾がほどこされています。
兜や鎧、刀などの和の要素が豊富に使われた、洋と和の融合デザインに注目してみてください。部屋の名にも使われている「鸞(らん)」は、国が平和で栄えているときに現れるという古代中国の想像上の霊鳥。大理石でつくられた暖炉の両脇には、鸞の彫刻も飾られています。
ちなみに、部屋の上の方にある華やかな丸い装飾は、なんと通気口。細かいところも妥協せずにこだわり抜く、つくり手の心意気が感じられました。
朝日の間
「朝日の間」は、迎賓館の中で一番格式の高い部屋です。100年以上前に描かれたという見事な天井画は平成29年から25カ月もの時間をかけて修復を行い、気品に満ちた女神の姿をよみがえらせました。鎧や船が描かれた壁面絵画は、トリックアートになっています。
ライオンの目や船の船首が、どの角度から見ても、自分の方を向いているように感じられるので、試してみてください。
床には、緞通(だんつう)という手織りのじゅうたんが敷かれています。47種類の紫の糸が使われており、精巧な桜の模様が描かれています。また、壁には京都西陣でつくられた紋ビロード織・別名「金華山織」も。さまざまな職人の技術が結集している部屋です。
羽衣の間
最後の部屋は、「羽衣の間(はごろものま)」です。赤と白のコントラストが美しく、そこにいるだけで華やかな気持ちになります。ここはかつて舞踏室と呼ばれた場所で、現在は雨天時の歓迎式典などに使われているそう。
楽団の演奏を想定してつくられたオーケストラボックスがあり、仏・エラール社製のグランドピアノが置かれています。
このピアノは、東宮御所がつくられた当時、「羽衣の間」に置くために購入され、特別な塗装が施されたもの。そのため、皇室を表す菊の御紋が描かれています。今でもメンテナンスを欠かしておらず、美しい音色は健在。現在も、ここでプロによる演奏会も開かれているとか。
部屋の名前の由来にもなっている天井画は、有名な謡曲「羽衣」の一説をイメージして描かれたもの。しかし、不思議なことに肝心の天女の姿はありません。これは、舞踏会で舞うご婦人たちを天女に見立てるためなんだとか。
迎賓館の中で最も豪華といわれる大きな3つのシャンデリアには、約7,000個のパーツが使われています。
四季折々の花が咲き誇る2つの庭園
迎賓館のもうひとつの見どころは、緑豊かな庭園です。本館をはさんで北側が「前庭」、南側が「主庭」となっています。
前庭からは、本館を真正面から眺めることができ、主庭には東宮御所の時代から変わらない姿で水をたたえる国宝の噴水があります。庭園は、一般参観者も撮影可能です。
主庭
主庭の広々とした敷地には、モミジやサクラ、ツバキなど季節によって姿を変えるさまざまな木々が植えられており、四季折々に花が咲き誇る花壇もあります。
そして中央では、重厚感のある噴水が勢いよく水しぶきを上げています。2009年に国宝に認定されたこの噴水には、5種類の生き物の装飾が。見つけやすいグリフォンや亀のほか、ライオン、鯱(シャチ)、イルカもいるそうなので、探してみましょう。
前庭
正門から本館までの間に広がる前庭では、力強く風格ある迎賓館の姿を正面から眺めることも可能です。迎賓館の屋根に目をやると、迎賓館を守る青銅製の鎧武者の姿が見えます。
よく観察してみると、1人は口を開け、1人は閉じていることが分かります。これは「阿吽」の相を表しているそう。
建物の左右には、きれいに丸みを帯びたウバメガシが植えられています。これは備長炭の原木にもなる木です。1本の木に見えますが、実は50本以上の木の寄せ植えというから驚きです。庭園の至る場所で、植木職人の技術が光っています。
ガーデンカフェ
前庭にはキッチンカーが出店しており、ドリンクや軽食が提供されています。中でも人気なのはアフタヌーンティーです。季節によってメニューが変わり、おいしい紅茶と一緒に、スコーンやケーキなどが楽しめます。
1日限定30セット。予約制なので、ネットから空いている日を予約して行きましょう。※飲食の料金とは別に、迎賓館の参観料が必要です。
ガーデンカフェ
- 住所
- 東京都港区元赤坂2-1-1 迎賓館赤坂離宮前庭
- 営業時間
- 10:00~17:00(L.O.16:00)
- 定休日
- 一般公開スケジュールに準ずる
- アクセス
- JR中央線・総武線「四ツ谷」駅より徒歩約7分、東京メトロ丸の内・南北線「四ツ谷」駅より徒歩約7分
- 公式サイト
- 迎賓館赤坂離宮 アフタヌーンティー
和のおもてなしで世界の賓客を迎える「和風別館」
正面玄関と坪庭
和風別館は、昭和49年の迎賓館の大改修時に新設された迎賓施設です。洋式の接遇や行事が行われる本館に対し、和風別館は諸外国の賓客を「和」のおもてなしで迎える場所。
「游心亭(ゆうしんてい)」と名付けられた建物は、まるで高級旅館のような風情のある佇まい。日本の伝統建築の匠の技が、あちこちにちりばめられています。
和風別館の見学はツアー形式になっており、ガイドさんから匠の技や伝統工芸のひとつひとつを丁寧に説明してもらえます。ツアーは予約制です。(入場料:本館+和風別館・庭園2,000円、和風別館・庭園1,500円)
坪庭に涼しげな空気を生み出しているのは、埼玉県の孟宗竹(もうそうちく)。その前には京都白川の小砂利が敷かれ、貴船石の庭石が景観のアクセントになっています。
竹は美しい庭園づくりのために計画的に伐採されており、刈り取られた竹は館内のさまざまな場所でリサイクル利用されています。館内を歩きながら、ぜひ見つけてみてください。
主和室や茶室、和風庭園
「主和室」は47畳敷きの広間で賓客を和食でもてなす部屋です。畳席に不慣れな海外のお客さまのために、テーブルは堀こたつ式になっております。ここでは着物や生け花の鑑賞、日本舞踊なども催されます。
主和室の前にある池に、太陽の光が差し込むと、廊下の天井に水の「ゆらぎ」が、美しいグラデーションとなって投影されます。天気によって現れない日もあるので、見られるかどうかは運次第です。
「即席料理室」は、賓客との親密な食事の場として使われる場所です。カウンター席になっていて、職人が寿司を握ったり、天ぷらを揚げたりする様子などを見ながら食事ができます。
また、「茶室」には四畳半の畳席があり、お茶をたてるところを見学したり、茶の接待を受けたりすることも。
和風別館の庭園には、ニシキゴイが優雅に泳ぐ池や、樹齢100年を超える盆栽が並び、本館の庭園とはまた違う、「和」の趣を楽しめます。また、18本の白梅と5本の紅梅が植えられており、早春には赤と白の美しい花々が庭園を彩ります。
迎賓館赤坂離宮
- 住所
- 東京都港区元赤坂2-1-1
- 営業時間
- 見学コースにより異なる ※詳細は公式サイトにて要確認
- 定休日
- 一般公開スケジュールに準ずる ※毎月の公開日は公式サイトにて要確認
- アクセス
- JR中央線・総武線「四ツ谷」駅より徒歩約7分、東京メトロ丸の内・南北線「四ツ谷」駅より徒歩約7分
- 公式サイト
- 迎賓館赤坂離宮
迎賓館の余韻に浸りつつ、ゆっくり休憩「ショップ&カフェ」
お土産売り場
迎賓館の出口の手前には、お土産売り場があります。ここは、もともと門衛所として使われているところで、屋根に飾られた4羽の鳳凰の姿が印象的です。
「花鳥の間」の七宝焼の絵を模したブローチやマグネット、クリアファイルなどが販売されていますので、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
迎賓館赤坂離宮前休憩所
迎賓館を出ると目の前にある「迎賓館赤坂離宮前休憩所」は、誰でも無料で利用できます。
水盤を囲んだガラス張りの明るい空間になっており、中にはカフェやショップ、バリアフリートイレなどがあり、インフォメーションコーナーでは観光情報も発信。「和風別館」の予約状況の確認もできます。
併設している「カーブドッチ迎賓館 カフェ&ショップ」ではお茶やランチ、お酒もいただくことができます。
ショップでは、オリジナルワインやクッキー、マグカップなど、ここでしか買えないお土産がずらり。お昼どきは行列になることもあるのだとか。ここでのランチを考えている人は、早めに行くことをおすすめします。
17時までと閉店時間は少し早いので、時間に気を付けておきましょう。
迎賓館赤坂離宮前休憩所
- 住所
- 東京都新宿区四谷1-12-11 若葉東公園内
- 営業時間
- 9:00~17:00(季節によって変更あり)
- 定休日
- 一般公開スケジュールに準ずる
- アクセス
- JR中央線・総武線「四ツ谷」駅より徒歩約7分、東京メトロ丸の内・南北線「四ツ谷」駅より徒歩約7分
- 詳細
- 迎賓館赤坂離宮前休憩所
都会の真ん中にいることを忘れるほど、穏やかで豊かな時間を過ごすことができる「迎賓館赤坂離宮」。本館や庭園は予約なしで見学でき、四ツ谷駅からすぐなので、思いたったらすぐに行けるのもうれしいポイントです。日常から離れてちょっとリフレッシュしたいときに、ぜひ訪れてみてください。
取材・文/馬渕 祥子 撮影/三原 久明