京都は、古い建造物が数多く残り、日本を代表する観光地として世界中から人々が集まります。そんな京都でツウの外国人や昨今ブームのサウナ好き達が足しげく通う場所が、銭湯です。古い建築物が残る京都では90軒弱の銭湯があり、「銭湯の聖地」としても知られています。490円という低価格で入浴もサウナも楽しめる京都銭湯の魅力をたっぷりとご紹介します。
目次
ワンコインで入浴もサウナも!歴史を感じられる京都の銭湯
京都は太平洋戦争の空襲を免れた都市であり、歴史的建造物や寺社仏閣が多く残っています。銭湯(一般公衆浴場、普通公衆浴場ともいわれます)も例外ではありません。他県と比べても古い建築物が点在しており、建物が文化財になっている銭湯もあります。銭湯は都道府県ごとに入浴料の上限価格が決まっており、京都の銭湯では、490円という低価格で貴重な建物の中、入浴もサウナも楽しめます。
一方、全国的に銭湯は後継者不足や機械の老朽化、燃料の高騰などで減少しています。そんななか、「ゆとなみ社」が「日本から銭湯を消さない」をモットーに、2015年に廃業寸前だった京都の銭湯「サウナの梅湯」を継業、現在は日本各地に9軒の銭湯を経営するまでとなりました。
ゆとなみ社が経営し、京都を代表する銭湯のひとつである「源湯」(みなもとゆ)の店長・中村勇貴さんに京都の銭湯の魅力を伺いました。
「銭湯を日本から消さない」源湯の中村さんにインタビュー
ー中村さんは昨年の6月から源湯の店長に就任されたと伺っていますが、ゆとなみ社との出会い、そして入社はどういった経緯だったのでしょうか?
「僕はゆとなみ社が『サウナの梅湯』の店舗だけを運営していた2019年頃、代表の湊三次郎氏とは友人経由で知り合いまして、それ以来忙しい時に手伝いに行っていたんです。仕事としては、ゲストハウスに勤務していました。それが、去年の5月頃、湊に相談されて翌月の6月に入社しました。入社してみたら、初日からいきなり店長でビックリしました(笑)」
ーいきなりの店長職は、大変なことも多かったのではないでしょうか?
「入社していきなり店長になったことは驚きましたが、ひと通りのことは手伝いに行っていた数年間で経験していたので、運営面で困ることはなかったです。例えば源湯はお湯が薪沸かしなんですけど、梅湯にいた頃に薪割りもボイラー室での温度調整も行っていたので、すぐに扱えました。
それまで働いていたゲストハウスでの経験も生きたと思います。同じ接客業ですし、共通する部分も多かった」
ー源湯の店長になられてもうすぐ1年が経ちますが、中村さんが始めたことや源湯の変化などはあるのでしょうか?
「運営は自由に任せてもらっているので、僕の独断でやらせてもらっています。例えば源湯はサウナが壊れてるんですけど、常連さんに話を聞いてみると、ない方がいいって方もいて。なので『サウナ壊れてます』ってのをウリに僕がグッズ作ったりもしています(笑)。
といっても実際、修理するお金もないんですけどね.....。古い施設なので、サウナ室だけ直すことができないらしく、そうなると新築するしかないみたいなんです。
そこは割り切って、『サウナが壊れている』ということを売りにしています。
ほかにも僕が電気工事の資格を持っているので配線を触って照明を変えてみたり、休憩スペースの無音がイヤだったんでラジオを流してみたり、自分好みの空間に変えています。夏には休憩スペースで甲子園の野球中継をラジオで流したいですね」
ー休憩スペースの居心地のよさは、中村さんの環境作りによるところも多そうです。この休憩スペースでは長時間過ごす方も多いと聞きますが、地元のお客さんが多いのでしょうか?
「地元の方や常連の方が比較的多いです。2022年にアニメ映画『四畳半タイムマシーンブルース』の舞台になってからは、原作者の森見登美彦さんのファンの方は、聖地巡礼で日に2〜3人は来られますね。作品をきっかけに遠方から来てもらえるのはやはりうれしいです」
ー人気作品の聖地巡礼となると今後もお客さんが増えていきそうですね。最後に京都府外から来られる観光客に、源湯や京都の銭湯全体の魅力を伝えるとしたらどんな点があるでしょうか?
「そうですね、京都は住宅街にまだ銭湯が残っていて、街中で不意に銭湯に巡り会えるのが魅力かもしれません。いまだにこの辺に住んでる人でも知らない人がいたりして『いつからあるの?』って聞かれたりします(笑)。なので観光客の少ない地元のローカルな雰囲気を味わえるのが魅力だと思います。
あと、これは京都だけじゃないかもしれないんですけど、脱衣カゴをそのままバンッてロッカーにしまえるんですよ。風呂から上がった時、人の邪魔にならずにカゴごと引っこ抜いて着替えられるから便利!これは京都式っていわれますね」
「京都の銭湯はほかの地域に比べて浴槽の数が多いと思います。水が豊富やから浅湯・深湯みたいに深さの違う浴槽も多いので、お子様連れでも楽しめます。
それに水がいいからお湯が滑らかなんですよ。それは薪沸かしだからとかではなくて、京都の銭湯はどこも本当に水がいい!実際に入って感じてもらえたらと思います」
1928年創業当時の魅力的な雰囲気をそのまま残す源湯。浴場には湯船の中でたゆたうように見える魚のタイルなど、ここでしか見られない景色が数多くあります。
源湯
- 住所
- 京都府京都市上京区北町580-6
- 営業時間
- 14:00~25:00(※サウナは老朽化のため使用不可)
- 定休日
- 火曜日
- アクセス
- 市バス「大将軍」停下車、約4分
市バス「嵐電北野白梅町」停下車、約10分
古き良き銭湯を巡ろう!初心者にもおすすめの京都の銭湯
(1)初音湯
ジャズバーのようなオシャレな看板が目印の「初音湯(はつねゆ)」。脱衣所のカゴには、修理する職人が少なくなったことから銭湯のレアアイテムとなった籐籠(とうかご)が使われています。脱衣所の奥にはガラス越しにサウナ室が見え、混雑具合がパッと分かるのがうれしいポイント。
京都御所の地下を流れてきた天然水が真南に位置する初音湯まで通っています。「京都の他の銭湯でも地下水を使っていますが、初音湯は水の泉質が抜群なんです!」と語る、3代目当主の西出建一さん。かつては貴族や茶人も同じ水を使っていたのかもしれませんよ。
初音湯
- 住所
- 京都府京都市中京区押小路通高倉西入ル左京町143
- 営業時間
- 15:00~24:00
- 定休日
- 土曜日・毎月最終金曜日
- アクセス
- 京都市地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、徒歩約4分
京都市地下鉄東西線「京都市役所前」駅下車、徒歩約12分
▼初音湯への入場券付きホテル
▼初音湯近く!京都府共通銭湯入場券付きホテル
(2)白山湯高辻店
京都市内に「白山湯高辻店(はくさんゆ たかつじ)」「白山湯六条店」の2店舗を展開する白山湯。どちらも連日にぎわう人気施設ですが、特に高辻店は、サウナ大好きの白山湯代表、社長の横山重典(しげのり)さんがこだわって作り上げたサウナが見どころです。
約110度とアツアツのサウナ室、飲める水風呂としても知られる天然地下水の水風呂、静かな露天スペースに設けられた外気浴イス、魅力はキリがありません。
白山湯高辻店
- 住所
- 京都府京都市下京区東中筋通松原上ル舟屋町665
- 営業時間
- 15:00~24:00(日曜日は7:00~)
- 定休日
- 土曜日
- アクセス
- 京都市地下鉄烏丸線「四条」駅下車、徒歩約10分
▼白山湯高辻店への入浴券付きホテル
(3)五香湯
五香湯(ごこうゆ)の魅力は、なんと言ってもスーパー銭湯並みの施設の充実ぶりにあります。2階建ての施設には、1階に6種類のお風呂、2階には遠赤外線とボナサウナ(電熱線で加熱する乾式サウナの一種)、2種類のサウナ。そして水風呂と露天風呂、岩盤浴まであります。温泉治療などに使われる貴重な鉱石「バドガシュタイン」が、露天風呂や岩盤浴などでふんだんに使われていることも銭湯としては極めて珍しいです。
五香湯はTVドラマ「サ道」のロケ地に使われていたことから、京都のサウナの聖地としてもファンには知られています。最近では海外からも多くの人が訪れる人気施設。外国の方も魅了する独特なサウナの雰囲気をぜひ体験してみてください。
五香湯
- 住所
- 京都府京都市下京区黒門通五条上ル柿本町590-12
- 営業時間
- [平日]14:30~24:30
[日曜日]7:00~24:00
[祝日]11:00~24:00(※変更の場合あり) - 定休日
- 月曜日、第3火曜日
- アクセス
- 市バス「大宮五条」停下車、徒歩約2分
市バス「阪急大宮」停下車、徒歩約12分
▼五香湯への入浴券付きホテル
▼五香湯近く!京都府共通銭湯入場券付きホテル
(4)旭湯
「旭湯」は風呂場、サウナ室、水風呂、露天風呂とすべての規模が大きいのが魅力。特に地元のお客さんから愛されているのが、なんと言っても大きい水風呂!子ども用プールと言っても過言ではないほどの大きさは圧巻です。
もうひとつ、旭湯を代表する光景として常連客から愛されているのが、「京都タワーと五重塔」のタイル絵。旭湯は京都市内でも珍しく男女の湯が入れ替わり制を実施しているため、このタイル絵を見られたらラッキーです。
旭湯
- 住所
- 京都府京都市南区唐橋羅城門町20
- 営業時間
- [平日・土曜日]14:00~24:30
[日曜日]8:00~24:00 - 定休日
- 月曜日
- アクセス
- 【電車】JR京都線「西大路」駅下車、徒歩約16分【バス】京都駅より京都市バス16「九条七本松」停、徒歩約2分
銭湯をリノベーションしたカフェも!銭湯に関連したスポット
銭湯をリノベーション!レトロかわいいカフェ「さらさ西陣」
1930年に建てられ、廃業した銭湯の建物をリノベーションしたカフェ「さらさ西陣」。重厚感ある外観は国登録有形文化財に指定されています。
カフェの中に入ると開放的な空間が広がり、風呂場の壁面には凹凸のレリーフを施した「マジョリカタイル」(イギリス発祥の装飾タイルで、大正時代から昭和初期にかけて日本で流行)が目をひきます。銭湯だった頃は手前が脱衣所、奥が風呂場でした。よく見ると男湯・女湯を分けていた壁が中央に残っていたり、いたる場所で銭湯時代の名残を感じられますよ。
人気のキャロットケーキはニンジンの香り豊かな味わいが特徴。レトロかわいい銭湯空間に囲まれながらゆったりとした時間を過ごせます。
さらさ西陣
- 住所
- 京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
- 営業時間
- [日曜日〜木曜日]11:30〜21:00(L.O.20:30)
[金・土曜日]11:30〜22:00(L.O.21:30) - 定休日
- 水曜日
- アクセス
- 市バス「堀川鞍馬口」停下車、徒歩約7分
市バス「千本鞍馬口」停下車、徒歩約9分
市バス「大徳寺前」下車、徒歩約4分
銭湯がホテル内に?!「梅小路ポテル京都」
2020年に開業したばかりの「梅小路ポテル京都」。その敷地内には「ぽて湯」と呼ばれる銭湯があります。風呂場奥には大きなタイル絵が広がり、ホテル内であることを忘れてしまう迫力です。
実はこのタイル絵、全国でも数名しかいない銭湯絵師の方が、京都をイメージしてフリーハンドで書き上げたもの。山々に囲まれた景色の中央に大きな川が流れ、そこに橋が架かっている見事な絵は、盆地を雄大に流れる鴨川を連想させます。
真新しい空間ながらも「老舗銭湯も昔はこういった雰囲気だったのだろう」と感じさせる懐かしい内装は、「ぽて湯」ならではの魅力です。
梅小路ポテル京都
- 住所
- 京都府京都市下京区観喜寺町15
- アクセス
- JR嵯峨野線「梅小路京都西」駅下車、徒歩約3分
次に京都に訪れる際は有名な寺社仏閣を巡るだけではなく、ぜひ町中に立つ銭湯の煙突を目指して歩いてみてはいかがでしょう。地元の人もよく訪れる銭湯では、これまでの京都旅では出会えなかった、ローカルな文化にふれあえるはずです。
取材・写真・文/鈴木 健介