香川県高松市にあるお庭の国宝ともいわれる特別名勝「栗林公園」。ミシュラン三つ星を獲得した美しい園内では、舟遊びやお茶をいただいたり工芸品を鑑賞したりと、バラエティに富んだ楽しみ方ができます。平庭部だけで東京ドーム3.5個分もある広い栗林公園は、アクセスのよい高松市内の中心にありながら一日のんびり過ごせるおすすめスポットなのです。美しい庭を時間をかけてめぐってみませんか。
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香川県高松市にある「栗林公園」は、お庭の国宝ともいうべき特別名勝に指定され、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでも最高の三つ星評価を獲得した大名庭園の傑作です。
日本を代表する広い庭園でありながら高松市内の中心部にあり、アクセスも便利。高松空港から市内行きのリムジンバスに乗れば約25分、公園内にはコインロッカーもあり、ホテルのチェックイン前に立ち寄れてしまいます。電車では高松駅からJR高徳線で約5分の栗林公園北口駅で下車し、そこから徒歩約3分。
池の周りを散策できるように造られた回遊式庭園内には6つの池と13の築山があります。その広さは約16.2ヘクタールと東京ドーム3.5個分もあり、大名庭園の中では最大級。庭の背景、後ろの紫雲山(しうんざん)を含めれば約75ヘクタール(!)にも及び、文化財指定の庭園としては日本一の広さです。
広い庭園を効率的に回るために、入園時にもらうマップに回遊コースが記されています。
コースの所要時間は、江戸時代のお殿様になった気分で豪華な庭園を散策できる南庭回遊コースが約60分、近代公園として明治末期から大正初期にかけて整備されたのびやかなつくりを観賞できる北庭回遊コースが約40分。また、入口で待機している無料のボランティアガイドさん(奥に見える緑のハッピ姿の人たち)と園内を散策する、約1時間のコースもあります。
和船に乗れば、船頭さんが園内の見どころをダイジェストで教えてくれます。ですので最初に和船に乗って、その後に船頭さんの話を思い返しながら園内を歩いてみるのもおすすめです。
早朝の清々しい空気の中で散策ができるよう、栗林公園は4~9月は早朝5:30から開園しています。まずは入口東門を左に進み、南庭からめぐってみます。
人も少ない早朝の時間帯は、公園がかつて高松藩主松平家の下屋敷だった江戸時代へタイムスリップしたような、凛とした静寂に包まれています。
そして、早朝散歩の後にぜひとも食べていただきたいのが、東門入口近くにある「花園亭」の朝がゆ(1,300円~、要予約メニュー)です。
朝がゆは花園亭の向かいにある、こちらの離れの茶室「泛花亭(はんかてい)」でいただきます。
※混雑時には、食事場所が売店側になる場合もあります。
瀬戸内・塩飽(しわく)諸島の伝統料理「ちゃがいさん」(1,620円)は、大変貴重なものとされる完全発酵茶の碁石茶をダシに使った珍しい茶がゆ。
季節を感じられるトッピングをしているそうで、4月上旬の取材時には桜の花の塩漬けがおかゆに彩りを添えていました。
部屋からの北湖と芙蓉峰の眺めを独り占めしながらいただく朝がゆは、なんとも風流なひとときです。
花園亭
- 住所
- 香川県高松市栗林町1-20-3 栗林公園内
- 営業時間
- 8:00~18:00 ※朝がゆ提供は、7:00~10:00(要予約)
- 定休日
- 不定休
- 電話番号
- 087-831-5255
朝がゆをいただいた花園亭から少し歩けば北湖と南湖の境になり、そこから和船が出ています。約30分かけて南湖を一周する和船は、人気の園内のめぐり方。
船からでないと近づけないスポットや見られない眺めもあり、旅の記念にもぜひ乗っておくことをおすすめします。
30分毎(一部時間帯は15分毎)に運航している和船のチケットは入場券売り場で購入できますが、人気のため希望の時間に乗れないことも。公園のホームページでネット予約ができるので、事前に予約しておく方が確実です。
乗船時間の10分前になったら、南湖の端にある待合所へ集合。
笠をかぶり船頭さんからの説明を受けたら、いよいよ出発です。
迎春橋をくぐり抜けると、偃月橋(えんげつきょう)が左奥に見えてきます。
杜鵑嶼(とけんしょ)にある「恋ツツジ」と名付けられたハート型のツツジは、長年の剪定作業で偶然ハート型になったのだそう。
園内でもカップルに人気の撮影スポットとなっていて、ハート型をこの角度からきれいに眺められるのは和船周遊ならではの特権です。
正面に見える石塔をのせた島が「天女嶋(てんにょとう)」。
不老不死をテーマにしている天女嶋には、亀に見える石と対にさせた鶴をイメージした松や木の根の化石など、長寿に関連のあるもので形づくられています。
右側2番目の石は「猿石」と呼ばれています。江戸時代は猿は縁起のよい動物とされていたのだとか。なるほど、猿の顔に見えますよね。
和船から見る、掬月亭と根上り五葉松。
根上り五葉松は、1833年に11代将軍徳川家斉(いえなり)から賜った鉢植えの盆栽を地植えしたところこのように大きくなったのだそう。
よく見る黒松や赤松とは違い、五葉松は一ヶ所から短い5本の葉が出ています。松がたくさん植樹されている栗林公園ですが、五葉松はこの一本だけです。
南湖周遊和船
- 運航時間
- 9:00~16:30
9:00~16:00(11~1月)
- 料金
- 大人610円 小・中学生300円
和船を下りたら、散策しながら広い園内の見どころをまわってみましょう。
まずは、和船を下りて右手に進めば、富士山を模した築山の「飛来峰(ひらいほう)」。紫雲山を背景にした掬月亭と偃月橋の眺めは素晴らしく、飛来峰からの眺めは園内No.1と言われています。
飛来峰を下ってすぐのところにある、偃月橋とたもとにある吹上亭。
取材日は公園内で結婚式があり、偃月橋では新郎新婦が記念撮影をしていました。
吹上亭名物の焼きだんご(1本350円)。
口に入れるとじゅわっと溶けてしまう、カラフルな香川の伝統菓子の「おいり」をのせた「おいりソフト」(400円)も売っています。
吹上亭
- 営業時間
- 8:30~17:00
- 定休日
- 不定(公園に準じる)
南湖の奥に江戸初期に建てられた「掬月亭」があります。園内のどこからでも出入りができるように、「四方正面」という珍しいつくりになっています。
こちらは園内にある茶屋風の建物の中で一番大きいことから、「大茶屋」とも呼ばれていました。床を低くし、風や光を取り入れた自然と一体感が感じられる数寄屋づくりの建物は、歴代藩主たちのお気に入りの場所だったのだそう。
池に面した奥の部屋は大きな船をイメージして建てられており、斜めになった欄干の先から手を伸ばせば、水面に手が届きそうな感覚を覚えます。
取材日のこの日は、奥の部屋ではこれから結婚式があるとのことで、その準備がされていました。
手前の部屋では、お茶菓子付きのお抹茶(700円)がいただけます。
お茶菓子は季節によって変わり、この日に出されていたのは桜をイメージした「桜花」というお菓子。豪華なお庭を見ながらいただく一服は、まるで時代劇の役者になったかのような気分が味わえます。
茶室らしさが最も感じられる中の部屋の見学もできます。
掬月亭
- 営業時間
- 9:00~16:30
- 定休日
- 年末休
南庭を回り終えたら、次は北庭エリアに行ってみましょう。
南湖を中心とした回遊式の豪華な大名庭園の南庭とは違い、北庭は明治末期から大正初期にかけて整備された近代庭園としての雰囲気が漂う場所です。
うどん県で有名な香川ですが、実は松盆栽において全国生産1位の盆栽県でもあるのです。高松市の松盆栽は全国生産量のうちの8割を占めており、「松盆栽地の先進地高松」を象徴するように、こちらのエリアには大きな松が植えられています。
写真は、亀をかたどった110個の石の上に鶴が舞うような姿の黒松を配した「鶴亀松」。
こちらは、皇室や英王室の方々が来園記念にお手植えになった「お手植え松」。大正3~14(1914~1925)年に植えられたとのことで、植樹後100年くらい経った黒松です。
商工奨励館が建てられた明治32(1899)年、建物の前部を飾る樹木として植えられたヒマラヤ杉。高さは20m以上あり、栗林公園内の全樹木中で最も大きな木です。ちなみにヒマラヤ杉はスギとつきますが、マツ科の植物です。
ヒマラヤ杉の大木の後ろにあるのが、明治建築の趣を残す商工奨励館。1階には、公園の見どころや歴史がビデオやパネルで展示されています。
西館には地元産の食材にこだわった「ガーデンカフェ栗林」があり、新鮮な瀬戸内イタリアンが楽しめます。
東館には香川の伝統工芸品の展示や実演コーナーがあり、香川県の伝統産業について学ぶことができます。
取材日は、手描きのぬくもりが可愛らしい小さなサイズの鯉のぼりを、細かく優しい筆使いで、職人さんが丁寧に和紙に色をのせて作っていました。
伝統の香川漆器の職人技も間近で見学できました。
実演・展示コーナーの内容は定期的に変わります。
商工奨励館
- 営業時間
- 8:30~17:00(ガーデンカフェ栗林は10:00~16:00)
- 定休日
- なし(ガーデンカフェ栗林は毎週月曜が定休日※祝日の場合は翌日振替休)
最後に紹介するのは、東門入場口横、香川みやげが揃う「かがわ物産館 栗林庵」。香川県民なら誰もが知る定番商品から隠れた逸品まで香川の魅力を再発見できます。栗林庵は公園の外にあるため、入園券は必要ありません。
栗林公園を回った後、栗林庵で買い物をしてもう一度入園したい場合には、店員に申し出てチケットにスタンプを押してもらえば再入園することができます。(1日1回限り)
店内には讃岐うどんや小豆島のオリーブオイルなどの食品から、高松張子などの工芸品や雑貨まで、香川の特産品を約2,500アイテム取り揃えています。
砂糖きびを原材料とする伝統的な製法で作られる和三盆は定番のものから季節ものまでいろいろな種類が並んでいます。
イベントコーナーでは伝統工芸品などの展示販売も行われており、商品の特長やこだわりを確かめながらのお買い物も楽しめます。
かがわ物産館 栗林庵
- 営業時間
- 9:00~(閉店時間は栗林公園の閉園時間と同じ)
- 定休日
- 年中無休
栗林公園がある高松市は、言わずと知れた讃岐うどんの本場。市内には、おいしいと定評のある「竹清」「誠うどん」など、本場の名店が軒を連ねています。
栗林公園のチケット売り場でうどん店マップをもらえるので、地図を見ながらお好きなところに行ってみましょう。
香川の人はだいたい自分の行きつけのうどん屋がありますので、栗林公園のボランティアガイドさんに「おすすめのうどん屋さんは?」と尋ねてみるのも楽しいですね。それぞれおすすめの店が違い、ひいきのうどん店がどれだけおいしいかという、熱のこもった話が聞けるかもしれません。
基本的にどのうどん屋さんもそれぞれおいしいです。うどん屋さんのハシゴができるように、食べるメニューはかけうどんの小だけにして、各店で食べ比べをしてみるのもおすすめです。
一日いても足りない!「一歩一景」の魅力がある栗林公園
園内の石ひとつにも魅力があり、多彩な楽しみ方ができる栗林公園は、一歩歩くごとに風景が変わる「一歩一景」の魅力があると言われています。
広大な敷地の中に配置された池や築山を散策しながら、庭園の歴史に思いを馳せたり、手入れされた庭木や花を眺めたり、季節の移ろいを楽しむ。園内に数か所あるお食事処で季節の味を楽しんだり、商工奨励館や讃岐民芸館で伝統工芸について学んだり。
一日いても、まわり切れない多彩な魅力あふれる公園が栗林公園です。ぜひ一度足を運んでみてくださいね。
栗林公園
- 住所
- 香川県高松市栗林町1-20-16
- 開園時間
- ほぼ日の出から日没まで(月毎に異なる)
- アクセス
- JR栗林公園北口から徒歩で約3分
ことでん栗林公園駅から徒歩で約10分
栗林公園前バス停から徒歩で約1分
- 料金
- 大人410円、小中学生170円(1/1及び3/16の開園記念日は入園無料)
取材・写真・文/林ぶんこ
※掲載内容は公開時点のものです。ご利用時と異なることがありますのでご了承ください。