淡水湖として日本最大の面積を誇る滋賀県の琵琶湖。2023年8月、雄大な琵琶湖の湖畔に「YANMAR SUNSET MARINA CLUBHOUSE&HOTEL」がオープンしました。客室はわずか7室で、コンセプトは「人間の豊かさと自然の豊かさの両立」。ハンモック付きの全客室から琵琶湖を望むことができ、建物の設計からアメニティにいたるまで環境負荷の軽減に取り組むサステナブルなスモールラグジュアリーホテルです。
絶景を満喫できるインフィニティプールや本格的なサウナ、オールインクルーシブのバーラウンジなど施設も充実。自然のなかで心身ともにリフレッシュした1泊2日の滞在記をお届けします。
アクセス、チェックイン
滋賀県のJR湖西線「堅田(かたた)」駅から車で10分ほど走ると、広大な琵琶湖が見えてきます。その湖畔に建つのが「YANMAR SUNSET MARINA CLUBHOUSE&HOTEL」です。建築家の芦澤(あしざわ)竜一氏が設計した建物は、まるで大地から立ち上がっているかのような曲面形状の屋根が特徴的。建築材には滋賀県の木や土といった天然素材を積極的に使い、緑化されたエントランスや階段が周囲の自然とも融合しています。
最寄りの堅田駅へは京都駅から電車で22分。京都駅まで新幹線を使えば、関西からはもちろん、東京方面をはじめ各地からアクセスしやすい立地です。
まずは1階のラウンジで、ウェルカムティーの朝宮(あさみや)茶を飲みながらチェックイン。滋賀県甲賀市信楽町の朝宮地区で生産され、日本五大銘茶の一つに数えられる香り豊かな緑茶です。
バーラウンジ
案内を受けたあとは2階のバーラウンジへ向かいました。こちらでもウェルカムサービスがあり、カヌレと好きなドリンクが提供されます。ドリンクは、ミントたっぷりの爽やかなモヒートなど豊富なアルコールが自慢。ストローは環境に配慮したサトウキビ製が用意されています。
カヌレは隣接する系列ホテル「セトレマリーナびわ湖」オリジナルで、濃厚な味わいにファンも多いのだそう。
広々としたバーラウンジからは琵琶湖を見渡せ、開放感抜群!ウェルカムサービスはチェックインのあと自分の好きなタイミングでお願いでき、テラスやプールサイドに出て味わうことも可能です。
屋外プール&ジャグジー
ひと息ついたら、さっそくアクティビティを楽しみましょう。屋外に設けられているのが、琵琶湖とつながっているように見える温水のインフィニティプール。
3~11月に開放され、宿泊客は自由に利用できます(利用時間:7:00~10:00、15:00~23:00)。プールに入っていると眼前の美しい景色と一体となったような感覚になり、心が癒やされていくのを感じます。
すぐ隣には水着のまま入るジャグジーも。バーでオーダーしたシャンパンを片手に、ラグジュアリーな時間を満喫しました。
サウナ&水風呂
プールの向かい側にはサウナと水風呂があり、こちらも水着着用で自由に利用可能。サウナは温度が約90℃に保たれたフィンランド式で、大きな窓越しに琵琶湖を望めます。
セルフロウリュができるのも好ポイントで、ロウリュ専用のクラフトほうじ茶と和のハーブティーが用意されています。香りと熱気がふわりと広がるロウリュは新感覚の気持ちよさです。
水着は無料レンタルできるので、用意がなくてもご安心を。ラッシュガード、サウナハットも貸出しています。
客室
広々としたテラスを有する「MARINA SUITE」
客室は全7室あり、どのお部屋も琵琶湖に面していて抜群の眺望を誇ります。こちらは2階の「MARINA SUITE」(定員4名)。テラスを含めると最も広く175平米あり、広々としたリビングや寝室、バスルームのほか、和室とキッチンもついています。
お部屋には滋賀県の土や周辺に生育するサクラなどの木材がふんだんに使われ、気品がありながら家のような温かみも。アースカラーで統一されているので、窓の外に広がる景色とも融合しています。
窓を開けると、琵琶湖からの気持ちよい風が入り込んできました。部屋の入口側にも大きな窓が設けられているので、窓から窓へと風が通り抜け、室内にいながら五感で自然を感じることができます。
全室にハンモックが備えられているのも大きな魅力です。ハンモックに揺られながら、琵琶湖と比良(ひら)山系の雄大な景色を堪能できます。
ベッドはシモンズ社製のダブルサイズが2台のハリウッドツイン。カーテンを開けるとバスルーム越しに琵琶湖も見えます。夜は間接照明で落ち着いたムード、朝は日の光を取り入れて爽やかにと、時間帯で雰囲気を変えられるのがよいですね。4名で宿泊する場合は、和室に布団を2組敷いて眠ることもできます。
明るいテラゾー(大理石などを粉砕した粉をセメントや樹脂と練り混ぜ、なめらかに磨いた人造石)の壁と床に囲まれたバスルームは、大きな窓から光が差し込み開放的な雰囲気。湯船に浸かりながら琵琶湖を眺めることができます。
備え付けのシャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュは日本発のトータルライフケアブランド、「Waphyto(ワフィト)」のもの。天然由来、植物由来の原料を可能な限り使用した、人にも環境にも優しい製品です。
木製の家具はオリジナル。施設名にもなっている「マリーナ」を意識し、ソファの前に置かれたテーブルは船をモチーフにした楕円形になっています。裏の部分は船底をイメージし、あえてデコボコとした手触りに。細部までこだわりを感じます。
キッチンもあるので、好きなものを準備して琵琶湖を眺めながら食事をすることも可能です。ドイツの高級家電ブランド「Miele(ミーレ)」のIHクッキングヒーターを備え、使いやすくスタイリッシュなキッチン。
キッチンにはコーヒー豆と「Kalita(カリタ)」の電動ミルが用意され、挽きたての香り高いコーヒーを味わうことができます。コーヒー豆は滋賀県守山市のカフェ「米安(こめやす)珈琲焙煎所」のオーナー川那辺成樹(かわなべ しげき)氏が監修した、オリジナルの「サンセットブレンド」。湖でのセーリング後に夕日を眺めながらお部屋でほっとひと息つく場面をイメージしてブレンドされたのだそう。
ティーバッグは、同じく滋賀県守山市にある「井入(いいり)農園」の無農薬ハーブでつくられた和ハーブティー。ほのかな甘みに癒やされます。冷蔵庫のドリンクはペットボトルフリーで、紙パックのミネラルウォーターのほか、ご当地ドリンク「甲賀コーラ」と「忍ジャーエール」が入っていました。いずれも宿泊料金に含まれています。
アメニティは環境負荷を減らすため、チェックイン時に必要なものを伝える方式です。歯ブラシ、ヘアブラシ、ボディウォッシュタオルなどがあり、メイク落とし、洗顔フォーム、化粧水、保湿液はシャンプー類と同じくWaphytoのもの。アメニティが入ったオリジナルの巾着袋は持ち帰り可能です。出てしまったゴミも環境保護を考え、分別できるように客室内に資源ボックスが設置されています。
ドライヤーは人気ブランドの「ReFa(リファ)」で、頭皮をマッサージできる「ETVOS(エトヴォス)」のリラクシングマッサージブラシまで用意されているのもうれしいポイントです。
お部屋だけでなくレストランやダイニングバーでも着用できる館内着も。肌触りがよく、一日中リラックスして過ごすことができます。あえて大きめのサイズに作られていて、ロールアップして自分なりの着こなしを楽しめます。
お部屋でのくつろぎの時間をサポートしてくれるのが、オリジナルのアロマオイル。滋賀県大津市発のアロマブランド「MILIS CRANN(ミリッシュクラン)」の今井ゆうりさんが実際にホテルに滞在し、風景からインスピレーションを得て調香したアロマオイルをドライフラワーに垂らします。
アロマオイルは3種類あり、朝・昼・夜にそれぞれ感じたい香りをブレンド。宿泊後はドライフラワーをそのまま包み込み、香り袋として持ち帰ることができます。
開放感あふれる「SUNSET SUITE」
最上階の3階にある「SUNSET SUITE」は、天井が高く広々としたお部屋。定員4名、広さ125平米で、和室と本格的なダイニングキッチンを備えています。
入口を入って右側の壁は扉になっていて、その扉を全開にすればバーラウンジのテラスに通じ、より開放的な空間に。目の前に広がる琵琶湖とつながっているような爽快感を味わえます。
ソファの前のオリジナルテーブルは琵琶湖をイメージ。形だけでなく水深も反映されていて、裏を触ると実際に一番深い部分が厚くなっているんです。
ベッドはハリウッドツインで、シモンズ社製のダブルサイズベッドが2台並んでいます。和室に布団を2組敷くこともでき、ファミリーにも最適なお部屋です。
ベッドから琵琶湖を望む「GUEST ROOM 」
5室ある「GUEST ROOM」は定員2名、広さ約44平米。ベッドはセミダブルサイズが並んだハリウッドツインで、カップルや友人同士での利用にぴったりです。
何よりも引かれるのが壁一面の窓からの琵琶湖ビュー。時間帯によって表情が変わる景色は、まるでフレームに収められた絵画のよう。土を突き固めた版築(はんちく)の土壁や天然木でできたシンプルな内装が、美しい眺めをより引き立ててくれます。
厳選した熟成肉と近江の食文化を感じるディナー
夕食は1階のレストランで。シェフを囲むように8席のみ用意されたフルオープンスタイルで、ライブ感のあるディナーを味わえます。カウンターは琵琶湖周辺に生育する楓でできた特注品。全面ガラス張りで、夕暮れから夜まで刻一刻と変わる琵琶湖の景色もご馳走の一つです。
ディナーは「記憶にのこる」をテーマに、厳選された熟成肉と近江の食文化をコースで提供。ソムリエがセレクトするワインや日本酒とのペアリングも楽しめます。熟成肉は全国の食のプロから注目されている滋賀県草津市の精肉店「サカエヤ」から仕入れたもので、限られたレストランしか取り扱いできないプレミアムな食材です。
シェフが熟成肉をプレートにのせて見せてくれたあと、目の前で調理がスタートしました。塊肉が備長炭で焼かれていく姿は迫力があり、視覚や嗅覚、聴覚でも食欲が刺激され、料理への期待が高まります。
コース内容は季節ごとに変わり、和食やフレンチのアプローチで熟成肉のおいしさを引き出しています。この日は全9品で、ペアリングドリンクはインクルーシブです。
アミューズのあとに出されたのは近江牛のローストビーフ。近隣で無農薬栽培された芽ネギが巻かれ、ホクホクの新小芋が添えられています。味付けはシンプルに塩のみで、冷たいローストビーフと熱々の新小芋のハーモニーがたまりません。繊細かつ濃厚なシャンパンとともにいただきました。
驚いたのが近江牛と滋賀の郷土料理・ふなずしのごはんを組み合わせた一品。近江牛はリブロースを51日間熟成したもので、発酵食品であるふなずしと一緒に味わうと、時間が生み出す独特の旨みが口の中に広がります。酸味と渋みのバランスが取れた赤ワインが、その複合的な味わいを受け止めてくれました。
豚肉の料理も絶品です。とろける脂身の甘みが特徴の岩手県産佐助豚をとんかつに。水分調整をして旨みを濃縮したお肉はとてもやわらかく、添えられたヨモギの香りがふわりと漂います。ともに提供されたのは熟成した放牧牛のメンチカツで、隠し味の山椒が力強い牛肉の味にマッチ。すっきりとした白ワインによく合います。
器は比良山系の麓に位置する陶房「日ノ出窯」の龍爪梅花皮(りゅうそうかいらぎ)というシリーズで、琵琶湖の龍神伝説にちなんだ龍の爪痕のような模様が美しい作品です。
メインディッシュの前に登場したのは6種類のナイフ。新潟県燕三条やフランスなど、さまざまな生産地やデザインから自分の好きなナイフを選ぶことができます。思いがけない演出に、わくわくした気持ちで次の一皿を待ちます。
メインディッシュは43日間熟成した北海道産の黒毛和牛の経産牛と、岡山県で放牧されて育ったブラウンスイス牛を27日間熟成したもの。シロップ漬けの大粒マスタードとともにいただきます。ワインは2013年産の「トロワ・ド・ヴァランドロー」で、新樽の香りと熟成した複雑な味わいがお肉のおいしさをさらに高めてくれました。
バー&ナイトプール
お肉づくしの大満足のディナーを堪能したあとは、バーラウンジへ。夜景を眺めながら大人のリラックスタイムを満喫しましょう。
アルコールを含むすべてのドリンクが宿泊料金に含まれ、おつまみのナッツなども用意されています(一部有料)。メニューにあるドリンク以外もバーテンダーさんにリクエストすることが可能です。
バーカウンターや棚にはお酒のボトルがずらり。特にウイスキーのラインナップが豊富で、貴重な銘柄も多く、お酒好きな宿泊客の方に驚かれるのだそう。この日はスコットランド・アイラ島のシングルモルトウイスキー「BOWMORE(ボウモア)12年」をロックでいただきました。
プールも昼間とは打って変わり、ライトアップされてロマンチックな雰囲気に。23:00まで開いているので、ドリンク片手にナイトプールも泳げます。
朝食、チェックアウト
朝食は、自身がプールに入りながら、料理をプールに浮かべて食事ができる「Floating Breakfast」。まるで南国のリゾートのようにプールに浮かべたり、テラスで琵琶湖を眺めたりしながら食べることができます。メニューは地元の食材を中心に、野菜たっぷりで体を整えてくれるヘルシーなものばかり。
約10種の野菜が入った「菜園風サラダボウル」は、敷地内の畑で育てられたサニーレタスも使われています。琵琶湖の固有種であるウロリ(ヨシノボリの稚魚)のポテトサラダや琵琶湖産のニジマスといった、滋賀ならではの食を味わえるのがうれしいですね。
もちろんお部屋でゆっくりと食べることもできます。品数は約15種類とボリュームがありますが、野菜メインなので重く感じません。朝日を浴びながらこだわりの朝食を食べていると、体だけでなく心にも栄養がチャージされていくのを感じました。
チェックアウト前にホテルの周辺をお散歩していると、生物が集まって暮らしている空間・ビオトープが敷地内にあるのを見つけました。こちらはかつて琵琶湖の周りに多く存在した内湖を再現したもので、魚が泳ぎ、鳥も集まってきています。
ホテルのコンセプトである「人間の豊かさと自然の豊かさの両立」を象徴するかのような場所です。ほかにも使用電力の一部をソーラーパネルや風車で自家発電するなど、自然との共生への取り組みが随所に見られます。
日常の喧騒を離れ、自然の豊かさを感じながらゆったりと過ごすことができる「YANMAR SUNSET MARINA CLUBHOUSE&HOTEL」。美しい琵琶湖を望むお部屋には、テレビはもちろん余計な装飾もありません。
ただ心地よい空気と時間が流れ、移り変わる景色とともに「何もしないぜいたく」を満喫することができます。もし日々の生活に疲れを感じているのなら、今度のお休みは琵琶湖畔でハンモックに揺られ、心と体をメンテナンスしてみてはいかがでしょうか。
撮影/大林博之 取材・文/土田理奈