創業明治10年 草津の老舗旅館「奈良屋」で記憶に残る温泉旅を

創業明治十年 草津温泉の老舗旅館「奈良屋」で贅沢ステイ

草津は「温泉番付」の温泉地部門で、9年連続最上位である東の横綱を張る人気温泉地。そんな草津で今年、創業144年目を迎える草津温泉の老舗旅館のひとつが「奈良屋」。
草津湯畑からすぐ近くの場所に佇み、「湯守」という職人が守る温泉、何代にも渡るおもてなしを心ゆくまで堪能できます。

今回は、「奈良屋」でのおもてなしやサービス、料理や温泉など、人気を支える魅力を宿泊して体験してきました。

 

草津の「温泉街情緒」を味わえる老舗宿

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」

創業明治10年、奈良屋は草津のシンボル、湯畑から徒歩1分ほどの場所にある立地のよさが魅力です。草津湯畑をかこむように情緒あるレトロな街並みが広がり、湯めぐりを堪能しに訪れる人たちでにぎわいます。

こちらのすぐ裏手には、お土産屋さんやお食事処が立ち並ぶ「湯滝通り」も。宿に着いたら浴衣に着替えて、温泉街散策に出かける楽しみ方も気軽にできます。

玄関に掲げられた木製の大きな看板、紺地に白抜き文字の暖簾、左右には屋根付きの提灯と、入口の雰囲気も日本の懐かしさを感じる造りに。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 チェックイン

滞在への期待を高め、奈良屋にチェックイン。入口でのお出迎えや、消毒・検温の誘導などスタッフの方々が温かく出迎えてくれてくれます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 チェックイン

こちらの帳場は、スタッフがお客さんの目線より高くならないように、あえて30センチほど低い位置となっているのだそう。それによって、お客さんとの会話がよりスムーズになる工夫がされています。また、フロントの後ろに屏風を貼ることで、チェックインした際の印象を和らげているそうです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 コムブッカ

お部屋へ案内される前に「コムブッカ」というハーブティーがウェルカムティーとして提供されます。ほんのり甘酸っぱいやさしい風味で、旅の疲れを癒してくれます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 ロビー&ラウンジ

旅館の創業時から使用していた、囲炉裏や自在鉤もインテリアとして採用。左手は休憩処(ロビー&ラウンジ)で、まるで映画撮影用のセットのような和風情緒を演出しています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 休憩処

休憩処は、奥のほうに置かれたアートや調度品にも目を奪われます。館内には能画家 飯塚正賢(いいづかせいけん)氏の作品が多く見られますが、実は正賢氏はよく草津の地に訪れていて、奈良屋ともゆかりが深いアーティストです。ぜひ、館内を散策する際は様々な作品を楽しんでみてください。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 カフェ&バー「喫茶去(きっさこ)」

こちらは玄関入ってすぐ右手にあるカフェ&バー「喫茶去(きっさこ)」です。喫茶去とは、「どうぞ、一服召し上がれ」という禅語のひとつ。お酒やカフェを楽しむことができ、日本の風情ある造りとともに温かみを感じられます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 売店

 五感で感じる和の心地よさを大切にしている奈良屋は、館内にやさしいお香の香りが漂っているのも特徴のひとつ。

明治時代を代表する薫香づくりの天才「鬼頭勇治郎」によってつくられた香水香「花の花」を使用しており、売店でも購入することができます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 階段

館内に上がってみましょう。奈良屋では安全性と清潔感を考えて、スリッパを廃止しています。お年寄りの方が階段を上がるとき、スリッパが脱げて危なくならないようにと、女将の気遣いが感じられますね。

裸足で歩くことも「五感で感じる和の情緒のひとつ」で、直接、畳の感触を確かめ、自宅にいるときのような解放感を感じてもらうためなのだとか。畳敷きの廊下を素足で歩くと、どこか懐かしく開放的な心地よさがあります。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 調度品
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 調度品

奈良屋の建物は左右奥に4棟にも広がっているため、館内は広々とした造り。客室に行く途中の階段や廊下にもたくさんのアート作品や調度品が飾られていて、非日常な趣ある和の情緒をゆったりと感じることができます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 バリアフリー廊下

こちらは2020年に改装された「ゆけむり館」4階部分の廊下ですが、見ての通りバリアフリー仕様で段差がなく、足の裏からほんのりと伝わる温かみがゆったりしたくつろぎを与えてくれます。

段差のない、フラットな畳は心地よさとともに、安心して歩くことができる心遣いを感じますね。


伝統とモダンの融合、優雅な時間と寛ぎの空間

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 部屋

お部屋を見てみましょう。客室タイプには標準客室と、特別フロアの泉游亭があり、その中でそれぞれ洋風、和風と分かれています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 部屋
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 部屋

こちらは標準客室の和室タイプで、標準客室の中でも様々なデザインのお部屋があるのも魅力のひとつ。和室タイプは8畳~と余裕のある広さで、ゆったりと落ち着いた空間に、和モダンのインテリアが心地いいくつろぎ感を演出しています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 部屋

天井の梁が特徴的なお部屋や照明の色でクラシックな雰囲気を現したお部屋など、装飾が異なるのでお部屋によってさまざまな楽しみ方ができます。

 

奈良屋のスイートルーム「泉游亭」

奈良屋の特別フロア「泉游亭」は、高山植物「こまくさ」をイメージした、落ち着きのある隠れ家的雰囲気のお部屋です。ベッドルーム、ソファのあるリビングルーム8畳、和室6畳と三間続き。手前は畳の上にこたつ(冬仕様)が置かれ、奥は板敷きの広縁に、椅子とテーブルのセットが配置されています。

 

奈良屋のスイートルーム「泉游亭」
奈良屋のスイートルーム「泉游亭」

3階の木造の部屋を広く改築し、歴史を刻んだ古い木の梁を天蓋代わりにしてある寝室スペースには、ふっくらと厚みのあるローベッドが置かれています。

泉游亭のお部屋は、コンセプトごとに広さや間取り、色調やデザインが異なるため、宿泊する度に楽しみにされるゲストも多いそうです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 新泉游亭「雅」

こちらは、2020年末にリニューアルしたばかりという新しいタイプの泉游亭です。新泉游亭「雅」は約45平米の広々したお部屋に、シャワーブースがついた和洋室の客室。畳敷きのお部屋に、ベッドとソファを設置。高めの天井で、ゆっくりと寛げるワンランク上の空間になっています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 新泉游亭「雅」
奈良屋 新泉游亭「雅」 アメニティ

「雅」はゆけむり館4階にあり、部屋や間取りが違っても、フロア全体で同じコンセプトの内装に統一されています。他のお部屋にはないシャワーブースもあり、アメニティにも化粧水や乳液、洗顔フォームがセットになった雪肌精のスキンケアセット、男性用ケアセットも豊富に置いてありました。

「雅」以外の泉游亭のお部屋には、すべて和の花にちなんだ名前が付けられています。

 

草津温泉 奈良屋 宿泊プラン


今も「湯守」が守る草津最古の湯、「御汲上げの湯」へ

草津温泉 奈良屋旅館

いよいよ奈良屋旅館の温泉の魅力へ迫ってみましょう。草津温泉は「恋の病以外は全て治る」と言われるほど、効能の高さで有名で、江戸時代には将軍「吉宗公」が湯治のため、その湯を江戸まで運ばせたという記録も残っています。

その草津で主な源泉とされるものは全部で7つほど。その中で最古の湯が源頼朝が発見したと伝えられる「白旗源泉」です。奈良屋ではその白旗源泉から湯を引いています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 温泉

大浴場は先ほどの故事にちなんで名付けられた「御汲み上げの湯」と「花の湯」の2つ。それぞれ個性的な内湯と露天があり、時間帯で男女の入浴が切り替わります。

草津の源泉は全体に温度が高めで、湯畑近辺のものは52~55度程度。酸度も強く、レモンと同程度の強酸性と言われています。白旗源泉は、それに加えて他の源泉より硫黄分が多めで、ちょっと白濁しているのが特徴です。

 

その分効能も高いのですが、当然そのままでは熱すぎて入れません。そこで一度湯小屋に貯湯して一晩置いてから、その日の気候温度に合わせて湯量を調節し、湯舟に届く頃に入りやすい41~42度になるよう管理しているとのこと。

その調節をする職人を「湯守」と呼びます。今ではほとんど見かけなくなった伝統文化ですが、ここ奈良屋では、今でもこの湯守が常駐して湯の管理をしているそうです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂

さらに、お部屋(お座敷)付きの貸切風呂「信楽」「檜」でも、湯畑の隣で湧出している名湯「白旗」源泉が掛け流しで注がれています。ゆっくりと家族や友人同士、カップルで温泉を楽しみたい方には貸切風呂がおすすめです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂

貸切風呂は、湯舟の種類が違う檜(ひのき)、信楽(しがらき)、家族風呂の3種。湯舟だけではなく、その手前に休憩ができるお部屋とのセットになっており、宿泊客は予約を入れれば24時間いつでも利用可能です(1室45分2,700円)。

そして外来の立ち寄り湯としても利用出来るのもうれしいポイントです。その場合は時間帯が12:30~14:00で、別途入浴料(大人1,200円、3歳から小学生まで600円、小タオル付き)がかかりますが、この入浴料で大浴場も利用出来るとのことです。(大浴場のみ利用時は入浴料のみ)

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂

貸切風呂とそのお部屋は、シンプルな造りながら、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を彷彿させる和の情緒と伝統美が感じられます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂 アメニティ
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 貸切風呂

洗面台シンクがモダンな陶器製だったり、用意されているアメニティがポーラの高級ブランド、エステロワイエシリーズだったりと、快適さには手抜きはありません。

また、宿泊客のお部屋には、すぐに大浴場や貸切風呂に入れるよう、タオルと手拭い、白足袋ソックスのセットが手提げバッグに入って用意されています。


食事は専用の個室部屋で。地元の食材、季節の旬の和食フルコース!

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事
2020年に新設された「能」の個室

温泉後の楽しみといえば、お食事ですね。四季折々の旬な食材に、地元の特産・名物の数々をコース料理で用意。食事処は椅子・テーブル席、または掘りごたつタイプがあり、快適な空間で食事を楽しめます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」
個室食事処「能」への入口
 
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」
個室食事処「蔵」への入口

通常の旅館なら、食事は宿泊しているお部屋へ直接配膳されるか、もしくは大広間や宴会場などでいただくことになるかと思いますが奈良屋では「蔵」「能」「苑」と3つの個室食事処を用意していて、食事はその専用個室部屋でいただくというユニークな方式をとっているのです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事処

こちらは、個室に区切られている「蔵」の内部。大正時代、奈良屋の食品や家具を保存しておく蔵がここにあり、その由来から蔵という食事処になっています。

昨今の感染症問題で、不特定多数での大部屋での会食には不安が残ります。宿泊客専用の個室食事処を用意することで、大人数での会食を避け、より迅速で快適な食事体験が可能となりました。宿泊した際に、どこのお食事処になるかは旅館にお任せで、宿泊人数や予約日などによって変わってくるそうです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事

彩り豊かなお食事が、一品一品運ばれてきます。奈良屋の夕食は旬の食材による和食会席です。この日は、強肴に上州牛ステーキや、向付に盛られた牡丹海老やホタテのお刺身など…大満足のボリュームです。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事

具体的な献立は、もちろん季節ごとに変わりますが、丁寧なお造りの飾り付けからは確かな料理人の技量をうかがえます。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事 上州牛
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事

白い四角いお皿に盛り付けられているお肉は群馬の名産、上州牛。卓上の陶板焼き器に、付け合わせの野菜と一緒に並べ、最終的には蓋をかぶせて蒸し焼きにしていただきます。

鍋物は主役の鮟鱇(アンコウ)を白菜、水菜、エリンギなどが盛り立て、上品な滋味が鍋全体に染み渡る逸品です。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事
草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事

他にも、先付けが湯葉豆腐に隠れたフカヒレの姿煮だったり、かわいらしく盛り付けられた八寸の一皿だったりと、小鉢の中にも小宇宙を垣間見せてくれる和の達人には脱帽、すばらしい夕食体験となりました。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 食事

個室の各テーブルには呼び鈴があり、それを押すと中居さんがすぐに来てくれます。飲み物の追加注文がしやすかったり、個別鍋の仕上がりタイミングのアドバイスをしてくれたりと、個室食事処ならではの利点と言えるでしょう。

また、こちらでは朝食も同じように個室食事処を利用するシステムになっています。

 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」 朝食

その朝食も、定番の焼き鮭から、茶碗蒸し、ひじきや煮物の小鉢、コンニャク刺身などのほか、卓上蒸し器を使う蒸し物まで付いて、朝から豪華で贅沢なおもてなしとなっていました。

草津温泉 奈良屋 お食事詳細


和の情緒を大切にしたノスタルジック空間で

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」

今や草津温泉を代表する老舗旅館となった奈良屋。五感で感じる和の情緒は、今では最新設備とモダンデザインで支えられていますが、特筆すべきは、草津最古といわれる源泉の素晴らしさと温泉街情緒との調和をそのままに、時代の変化に合うサービスを生み出す先進性も併せ持っていることです。 

草津温泉の老舗旅館「奈良屋」

伝統とモダンが融け合う空間で過ごす特別なひと時は、誕生日や結婚記念日などの特別な日の滞在にもぴったり。日本を代表する名湯と、昔ながらの伝統美に癒される温泉旅をぜひ堪能してみてくださいね。

 

草津温泉 奈良屋のアクセス・予約

草津温泉 奈良屋

住所
群馬県吾妻郡草津町草津396
アクセス
草津温泉バスターミナルから徒歩約5分
客室数
36 室

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取材・撮影・文/久保田耕司 

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