■慶応2年2月5日 桂小五郎(木戸孝允)宛 薩長同盟の裏書/所蔵 宮内庁書陵部
- 桂さんが)表にお書きになっている六条は、小松帯刀、西郷隆盛の両氏及び貴殿(桂小五郎)、龍馬らも同席の上で論議したところであって、毛頭違いないものです。将来においても決して変わるものでないことは、神様の知るところであります。
慶応二年
二月五日 坂本龍馬
- 土佐脱藩浪人の龍馬が、犬猿の仲であった薩長に遂に手を握らせたことを裏付ける手紙、世に言う「薩長同盟の裏書」です。
慶応2年1月19日、龍馬は下関から神戸を経て京都に入りました。翌20日、龍馬は薩長同盟がすっかり成ったものと思い、薩摩藩・小松帯刀の別邸にいる桂を訪ねたものの、桂も西郷も互いの面子を気にするが余り、話し合いは全く進んでおりませんでした。それどころか桂は長州に帰ろうとさえするところでした。怒り心頭の龍馬は二本松の薩摩藩邸にいる西郷を訪れ、西郷をひどく叱り、長州の実情を訴えます。そして薩摩藩から歩み寄るように説得し、この日西郷は承諾しました。
そして1月21日、桂の屋敷に西郷が赴き、薩長同盟の密約が成立します。
ではなぜ龍馬が裏書をしたのか。
これまで薩摩藩に散々煮え湯を飲ませられてきた長州の桂としては、密約後でさえも薩摩藩が信じられませんでした。そこで1月23日に桂は大坂の薩摩藩邸から龍馬に手紙を書き、その密約の証拠として龍馬が裏に朱書でサインをしたのが実情のよう。仲介者ではあるものの一介の浪人に過ぎない龍馬の裏書がどれほどの効力があるか、実はその点に龍馬の信頼度が最大限現れている気がします。もっとも桂にしては龍馬にすがるしかなかった、とも取れますが・・・。負傷した手で書いている。一緒に寺田屋の手紙も送っている。
ちなみにこの裏書、龍馬は負傷した手で書いています。というのも桂が手紙を書いた1月23日夜、龍馬は桂と同じ長州の三吉慎蔵と伏見・寺田屋に滞在しているところを幕府に襲われており(寺田屋事件)、その旨を記す手紙も、この裏書と共に桂に送っています。
■慶応2年1月20日 坂本春猪宛 所蔵 北海道坂本龍馬記念館
- 春猪どのよ春猪どのよ。この頃は赤いあばた面を白粉で、はけで塗り篭手で塗りつぶして、もし引っかかったら、横町の菓子屋の婆のところへちっくと出かけて、金平糖の鋳型に一日(ひいとい)、ご相談申そうかと(どうすれば綺麗になるがか)というばぁのことかえ。
乙女姉やんの癇癪もこの頃は、ちっくとふやりふやりと心が不安定になっちゃあせんかと心配しゆうぞ。大変なことやねぇ。二町目(本家の才谷屋)へ打ち捨ててもええがやないろうかねぇ。
おまんは他の女の人より一歩も二歩も(強いから)、男という男は皆逃げ出してしまうき、気づかいもしちゃーせん。またあいにく心もかなりしっかりしちゅうき、なんちゃー心配はせん。
けんど、これから先の心配心配はちりとりでもかきわけることができん、鎌でも鍬でもはらうことができん、随分随分と精出して長生きしとぉせや。
わしももしも死なんかったら、四、五年の内に(土佐へ)帰るかもしれん、露の命は計られん。
先々ご無事でお暮らしなさいよ。
正月廿日夜
りょうより
春猪様
足下
- 龍馬がもっとも可愛がった姪の春猪(権平の一人娘)に送った手紙です。言っていることは悪口ばかりですが、逆にそれが愛情であり、かつ文体にリズムが感じられます。龍馬はよほどこの春猪が可愛かったらしく、あばたを消すためなどと言いながら外国製の白粉など、全国各地から実に様々なものを春猪に送ってあげました。
ところがこの手紙、最近ではもう一つの側面を持つ重要な手紙と考えられています。
この手紙はこれまで慶応3年のものと言われてきましたが、近年では慶応2年とされます。
慶応2年1月20日、つまり薩長同盟前日。龍馬の一番長い日の夜に書かれた手紙です。
桂をなだめ、西郷を怒り、そして二人に薩長同盟を承諾させた一日の夜、龍馬は前日からの熱もあり眠れませんでした。恐らく明日の薩長同盟成立を控えて興奮しつつも、実は安堵していたのではないでしょうか。明日への一抹の不安があるものの、実は達成感と安堵感が入り混じっている感じ。その気持ちを記したのが、隣に寝ている池内蔵太の家族宛に書いた手紙(脱藩の頃を振り返る内容が伝わっています)であり、鬱憤晴らしができるたった一人の愛すべき姪・春猪に宛てた悪口満載の遺書とも言える手紙でした。
最後に龍馬は自分の身に危険が迫っていることを春猪に伝えています。それが「露の命ハはかられず。」となるわけです。事実この日から三日後、龍馬は寺田屋にて幕府に襲われ、九死に一生を得ています。
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