ちいさな「赤い靴」がセピアな館内によく似合います。
野口雨情記念 湯本温泉 童謡館
センチメンタルな詩の世界に浸る午後
『しゃぼん玉』も『赤い靴』も『七つの子』も、
そして『十五夜お月さん』も。
よく知っている童謡だけれど、
そういえばすごくせつない歌のような気がする。
でもせつない歌だからこそなぜか心が落ち着く。
その歌たちの作者は実はみな同じ。
野口雨情。
明治から、昭和初期にかけて、
美しくて郷愁と童心溢れる名曲の数々を残した、
日本を代表する童謡作家の一人です。
その生涯は、波乱万丈でした。
いわきに近い茨城の北部で生まれ、東京で詩人として活動…
という矢先に父をなくし実家に戻り
最初の家庭を持ったけれど、その生活に耐えられず樺太へ。
母の死去で再び実家へ。ここでも、まだ終われない。
今度は湯本で、才人として、男として、
そして父としての生きがいを見つけるためにもがきます。
その後、不遇と幸福との狭間で、昭和20年、
終戦の報を聞く前に宇都宮で亡くなりました。
才気あふれる若いころの野口雨情。ヒゲも初々しく感じます。
雨情の波乱万丈の人生の中でも、湯本での日々は、
東京での華々しい活躍の時期と同様、
悩み苦しみながらも自分を取り戻した日々だったようです。
芸者とのロマン、慣れない会社員経験、
感性豊かな友人との出会い。
今は静かな湯本の街ですが、当時の華やかさの中で
発揮されたアーティストとしての才能。
そのころの雨情を知ることができる場所が、
ここ、童謡館です。
雨情直筆の原稿用紙、当時のイケメンだったポートレート。
時間が止まったように感じる、ノスタルジックな静けさ。
人懐っこい笑顔で、運営を支えるボランティアの方々が
作品を説明してくれます。
きっと周りを巻き込んだ数々のドラマを生んでいた雨情。
そのやんちゃぶりも、ここ湯本は、
今も昔も暖かく包んでくれているのでしょう。
『赤い靴』の直筆原稿。書き直しされた部分に創作時の苦悩も偲ばれます。
青い眼をしたお人形は アメリカ生まれの セルロイド
日本の港についたとき いっぱい涙を浮かべてた
わたしは言葉がわからない 迷い子になったらなんとしよう
やさしい日本の嬢ちゃんよ 仲良くあそんでやってくれ
雨情の場合、同じ日本の中で言葉は同じ、
しかし、心は迷い子だったのかもしれません。
放浪ともいうべき人生の中で湯本を頼った雨情本人こそ、
このお人形。そんな想像もしてしまいます。
あの時も、今、ここを守っているボランティアと市民も。
湯本は、疲れた旅人を暖かく迎えてくれる場所のようです。
野口雨情記念 湯本温泉 童謡館
福島県いわき市常磐湯本町三函204
JR湯本駅より徒歩7分 開館時間:9:00~16:00
観覧料:無料