ふるさと割

店主お手製の看板。ひなびた温泉街で鮮やかに。

ことり菓子店
幸せな時間を運んでくれる小鳥

温泉の街の午後は、とても静か。
ふらりと昔ながらの街角を散策してみましょう。
湯本駅を背に2分も歩くと、
右手に可愛らしい看板が見えてきます。
ノスタルジックともレトロとも感じるけれど、
ちょっとコケティッシュ、最新アドレスにも感じる
その看板に書かれたお店の名前は、「ことり菓子店」。
店内の雰囲気も、看板どおり。
小鳥をテーマにしたオブジェや小物が迎えてくれます。
店主は、長岡裕子さん。オープン8年目を迎えました。
名前の由来は、もともとお父様が営んでいた小鳥店から、
というのもなんだか素敵なエピソード。
製菓衛生士の資格を独学で取得。可愛らしい看板は、
内装時に大工さんからもらった杉の端材を使っての手作り。

長岡さんのコレクションだけではなく、お店のファンからも小鳥たちが届きます。

こだわりと情熱は、どこまでもやさしいおいしさに。
地元・塩屋埼の塩を使ったバターケーキは、
ジューシーともいえるようなバターが
じんわりと口の中でほどけていったあとから、
小気味の良い塩の食感にうれしい驚き。
そしてじわじわと塩自体の旨みがあとを追いかけていきます。
シンプルだと思っていたバターケーキの驚くほどの複雑さ。
「時間をかけて天日干しした塩ならではの旨みですね。
いろいろ探したのですが、結局は地元のこの塩、
これが一番良かったんです」と長岡さん。

「塩屋埼の塩を使ったバターケーキ」を淹れたてのコーヒーとともに。

「でも…」と長岡さんの表情が少し曇ります。
「震災後、塩屋埼で塩が作られなくなったので、
今、持っているだけで終わりなんです。
あと、2、3年もつかなあ…」
他に同じような味を出せる塩はないかもしれません。
それでも長岡さんは前を向きます。
今、出せるベストの味はこれかもしれないけれど、
そのとき、また違うベストが見つかるかもしれない。
「今、新しいお菓子にチャレンジしているんです。
ちょっと試してもらえますか？」。
小さなカフェスペースも併設。美味しいコーヒーとともに、
飾らないけれど、しっかり作りこまれた
愛情たっぷりの洋菓子を食べて過ごす、幸せな時間です。