清水寺や高台寺など、観光でも人気の神社仏閣が多い京都・東山地区。なかでも石畳沿いに町家が立ち並ぶ二寧坂(二年坂)から産寧坂(三年坂)付近は、京都らしい風趣がとくに豊かなエリアです。
その二寧坂の入り口に位置するのが、「パーク ハイアット 京都」。小高い丘の中腹にあり、京都の街並みと八坂の塔を同時に望む眺めのよさが魅力です。京都の歴史と雅、現代のエレガンスが溶けあうホテルステイを紹介します。
神社仏閣に囲まれた好立地にある「パーク ハイアット 京都」
「パーク ハイアット 京都」へは京都駅からタクシーで約15分。京阪電鉄の祇園四条駅からは徒歩約12分、市バスのバス停「東山安井」からは徒歩約6分。二寧坂を目前に、高台寺には隣接、八坂神社や祇園も徒歩10分程度と、京都の文化や歴史、美食にアクセスしやすい立地にあります。
コンセプトは、丘の中腹にある「ラグジュアリーゲストハウス」。門をくぐると、右手に「叡心庭(えいしんてい)」と呼ばれる日本庭園が広がります。
31個の石を配した庭園は、建仁寺の方丈の庭などを手がけた北山安夫氏によるもの。この石は、アメリカ・コロラド州にあるハイアット会長の私邸から贈られたもので、3億年以上前の石と推定されています。
左手には水盤が広がり、アプローチを歩いているだけで、静かな非日常へと誘われます。
邸宅のリビングでウェルカムドリンクとともにひと息
「ゲストハウス」の入り口にあたるのが、ラウンジスペース「ザ リビングルーム」です。金色の天井、花弁を模した照明、暖炉の炎のゆらぎ、季節の花を飾ったウォールナットのテーブル、それぞれがもつ静寂と雅が響きあう場がゲストをもてなします。
チェックインはフロントではなく、「ザ リビングルーム」で。天井をあえて低くしたラウンジは、滞在中、ふとしたときに訪れたくなる居心地のよさがあります。
ウェルカムドリンクは、写真のシャンパンと金木犀ブレンドの紅茶のほか、赤・白ワイン、コーヒーやカプチーノ、ソフトドリンクなどから選べます。それぞれのドリンクに合わせたお茶菓子とともにいただきながら、くつろぎの中でチェックインが完了。
八坂の塔から京都の伝統的な街並みをひとり占めできる客室「ビューツイン」
今回宿泊するのは、約45平米の「ビューツイン」。横幅を広く取った窓の外に広がる、二寧坂から八坂の塔、瓦屋根が続く京都の街並みまで、「パーク ハイアット 京都」が誇る景観が広がります。
勾配天井と庇が邸宅のようなリラックス感と開放感を演出。部屋に一歩入ると、しつらえに使われているタモ材の芳しい香りが漂い、木の温もりに包まれます。
館内に入って驚いたのは、観光客でにぎわう二寧坂が目の前にありながら、とても静かなこと。もちろん客室内も同様です。
夕暮れ時には正面に夕日を見ることができます。静寂の中で眺める、夕日に染まる京の街並みはひときわ美しいもの。
上質な時間を演出するアメニティ
バスアメニティはニューヨーク発のフレグランスブランド「Le Labo(ル ラボ)」の「SANTAL (サンタル)33」。ウッディで温かみある香りが優雅なバスタイムを彩ります。
また、歯ブラシやコームなどはプラスチック製品を使わず、環境にも配慮しています。
入浴剤は、京都生まれのオーガニックコスメブランド「京都ちどりや」の2種類を用意。ノンアルコールの酒粕をフリーズドライした「酒粕ミルクバス」と、柚子をはじめとする柑橘が香るバスソルト。
客室にはバスローブのほかに、浴衣も。自然との調和をイメージしたような、水色のモダンな柄が印象的です。
そして、ミニバーには、京都産にこだわったドリンクが並んでいます。ミネラルウォーターは、伏見の酒蔵「黄桜」がお酒の仕込みに使う地下水「伏水(ふしみず)」。オリジナルのクラフトジン「季の美 青龍」(有料)は、玉露や柚子など、日本ならではのフレーバーをふんだんに取り入れています。
陶器の器に入った三角形のティーバッグは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)出身のデザイナーが設立した「Tea Forte(ティーフォルテ)」のもの。ほか、ネスプレッソや日本茶もあり、客室でゆったりとした時間を過ごせます。
ルームキーには、番傘や草履など、京都の風物をとらえたカメラマン・大杉隼平氏の写真があしらわれています。和紙のケースは、着物の襟元をイメージ。京都らしさを感じるポイントです。
「パーク ハイアット 京都」には、スタンダードからスイートまで、ユニークな客室タイプがそろっています。今回宿泊した「ビューツイン」のほかの客室も一部ご紹介します。
坪庭付きの客室「ガーデンテラスキング」
「ガーデンテラスキング」は、坪庭に面した客室タイプ。「ビューツイン」と同じく、広さは約45平米。プライベート感の中、しっとりと落ち着いた時間を過ごしたいときに選びたい客室です。
燈篭を配し、石が敷かれた坪庭からは、日本の美意識のエッセンスが感じられます。チェアに腰かけ、お庭を眺めてゆったりと過ごしたいもの。
リビングとベッドルームに絶景が広がる「二寧坂ハウス」
「パーク ハイアット 京都」には、9室のスイートルームがあります。そのうちの1つ、「二寧坂ハウス」は、約68平米の空間に独立したベッドルームとリビングルームが。どちらの部屋も、大きく取られた窓から、ホテルが誇る景観をたっぷりと楽しめます。
リビングの鏡面仕上げのテーブルは、景観を映し、室内へ取り込む――。まるで日本庭園の池のようです。
バスルームに使われているのは、「ジュパラナ」という御影石。海外産の石でありながら、墨を流したような模様が和を感じさせます。洗面台は、広々として使いやすいツインシンク。
スイートルームのバスアメニティは、オーストラリア発のスキンケアブランド「イソップ」のもの。ボディクレンザー、ボディバームまで、たっぷり使えるサイズのものが用意されています。
ホテルにいながらにして京都の歴史と自然を感じる館内散策
広々とした館内には、リラックスできるスポットが点在。さっそく館内の散策に出かけました。
「何もせずに風景を眺める」贅沢が叶うティーラウンジ
5階のティーラウンジは、「パーク ハイアット 京都」を手がけた建築家、トニー・チー氏のこだわり。「自然の風や音を感じ、移りゆく景色を目にしてほしい」と設けられた、自然を感じ、静謐(せいひつ)に包まれて過ごすスペースです。宿泊ゲストは自由にアクセスできます。
ティーラウンジからは、敷地内の日本庭園越しに愛宕山までを望みます。庭園は、春は桜や藤の花が咲き、夏は青もみじ、秋は紅葉、冬は時として雪が彩ります。四季の草花と、その向こうにそびえる山々。巡る四季と大いなる自然に想いを馳せ、何もしない時間を過ごす。日常の中では忘れがちな、贅沢な余白です。
ライブラリーでゆったりと読書
同じく5階にあるライブラリーも、建築家、トニー・チー氏のこだわり。チー氏が「art」「food,wine」「architecture」「travel」の4ジャンルでセレクトした本が並びます。日本の書店ではなかなか出合えない本が多く、新たな本とじっくり向き合えるのがうれしいところ。
敷地内に立つ歴史ある料亭「山荘 京大和」
「パーク ハイアット 京都」がある場所は、もともと、約3,000坪を擁した料亭「山荘 京大和」の敷地でした。明治初期から7代続く料亭で、建物のなかには、江戸時代に建てられたものも。幕末にはここで、桂小五郎らが討幕のための会合を開いたともいわれ、歴史の息づかいが感じられる場所です。
その貴重な建物を保存し、曳家(ひきや)と呼ばれる技術で移動させ、「山荘 京大和」とのコラボレーションで、2019年に敷地内にホテルが誕生。先ほどティーラウンジで眺めたのも料亭の建物や庭園で、館内を歩くだけで、歴史や和の情緒を感じられます。
外へ足を伸ばさずとも、『ミシュランガイド』に3年連続一つ星として掲載された名料亭にアクセスできるのは、ほかのホテルにはない特色です。
また、庭園の階段の上に見えるのは、「山荘 京大和」の中で最も古い建物「送陽亭」。宿泊者限定のランチやディナーのほか、茶道体験も行っています。
「送陽亭」前には月見台があり、まるで絵葉書のようなパノラマが展開します。さらに、「送陽亭」の名の通り、ここから見る夕日の美しさは格別です。
散策の途中、庭に瓢箪池を見つけました。この池は、昔から料亭の庭にあったもので、建物を移動させるとき、池も同じように場所を移したそう。池に住んでいた絶滅危惧種のモリアオガエルは、卵をいったん引き上げて保護し、移動後、池に戻したというエピソードがあります。
今もモリアオガエルはこの池に住み、春から夏にかけて鳴き声を響かせるのだとか。歴史や自然を大切にし、共存する。そんなコンセプトが感じられるお話です。
細やかな気づかいが光る廊下
廊下を歩いていると、照明が控えめなことに気が付きます。あえてそうすることで、障子から明かりが射し込み、日本家屋のようなしっとりとした趣が。燈篭やぼんぼりをイメージしたランプも情緒を高めます。
また、客室番号の表示やドアノブは通常よりも低い位置にあります。これは、廊下を歩く人の視線が自然と下がるように設計されているのだそう。廊下で人とすれ違っても、お互い視線が下の方に向き、プライベート感の演出にひと役買っています。
5階の散策を終え、戻る途中、八坂の塔が目に入りました。往路と復路で見える風景が違い、発見の喜びがあります。
絶景が広がるテラス
4階には見晴らしのよいテラスがあります。客室からの眺めもすばらしいものですが、風に吹かれながら見る景色もまた格別です。夏は夕涼みスポットとしても人気です。
カジュアルダイニング「KYOTO BISTRO」でディナー
ディナーをいただくのは、二寧坂に面し、宿泊ゲスト以外も迎えるカジュアルダイニング「KYOTO BISTRO」。オープンキッチンで活気に満ち、アットホームな雰囲気の中、京都の食材の持ち味をじっくりと引き出したインターナショナルフードを味わえます。暮れゆく二寧坂を眺めながらのディナーは、京都での一日の締めくくりにぴったり。
今回は、4皿のコース「4 COURSE MENU」(7,150円)を選びました。コース以外にもアラカルトもあります。
まずは2種類から選べるサラダ。シーザーサラダは、香ばしくグリルしたベーコンの旨みとセミドライトマトが、シーザードレッシングやロメインレタスとマッチ。食べ応えのあるサラダです。
「KYOTO BISTRO」で使われている器は、ほぼすべて、京都・宇治にある窯元「朝日焼」のもの。シンプルなデザインや手仕事ならではの釉薬の色合いが、料理をさりげなく引き立てます。
選べるサラダのもう1種類は、「真蛸の炭火焼き 野菜のサラダ」(+900円)。炭火で香ばしく焼かれた真蛸の風味が広がる一品です。
2皿目は季節野菜のスープ。この日は、金時人参の甘みを存分に堪能できるポタージュ。
続いてのメインディッシュは、3種類から選べます。「日吉ポークのグリル チミチュリソース」は、京都府中部に位置する南丹市日吉町で育ったジューシーな「日吉ポーク」を、京野菜の万願寺とうがらしなどとともにいただきます。
選べるメインディッシュのもう1種類は、「和牛ステーキのグリル 赤ワインソース」(+1,500円)。赤身の味が強い経産牛を8時間ほど低温調理した後、炭火で焼いてステーキに。シンプルかつストレートに赤身の旨みを味わえます。
もう1種類の「サーモンのグリル レモンとディルのクリームソース」は、生食できるノルウェーサーモンをマリネした後グリルし、さらにオーブンで焼いたもの。どれも時間と手間をかけて丁寧に作られた料理ばかりです。
デザートは、りんごがゴロゴロ入ったアップルパイ。コーヒー、紅茶といただきました。
食事から戻ると、客室はターンダウンサービスですぐに就寝できる状態になっていました。ベッドサイドにはスリッパが置かれ、枕元にはミネラルウォーターと、アメリカ・サンフランシスコ発のクラフトチョコレート「Dandelion Chocolate(ダンデライオン・チョコレート)」のタブレットチョコレートが。添えられた折り鶴が京都らしい風情を醸し出します。
1日の終わりにはフィットネスやサウナでひと汗
3階には宿泊者のみが利用できるフィットネスセンターやバスハウスなどがあります。
障子の間仕切りが和テイストなフィットネスセンターには、「テクノジム」社の最新トレーニングマシンが並びます。トレーニングウェアやシューズの無料レンタルもあるので、思い立ったらすぐに利用できます。
バスハウスは、ドライサウナやミストサウナ、水風呂、ホットジャグジーを備えています。洗面台には、京都・宇治のオーガニックスキンケアブランド「KOTOSHINA」のスキンケアアメニティも用意。有機緑茶を使った、京都の自然の恵みが感じられるスキンケアアイテムです。
- 営業時間
- フィットネスセンター 24時間
バスハウス 7:00~22:00 - 料金
- 無料
清水寺へ早朝散歩
2日目の朝、気持ちよい目覚めの後は、清水寺を目指して早朝散歩に出かけます。いつもは観光客でにぎわう二寧坂も、この時間帯は静か。二寧坂一帯は京都市の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、瓦屋根の京町家が連なります。
館内から眺めていた八坂の塔が間近に。さらに産寧坂まで足をのばして、清水寺へ参拝。早朝の凛とした空気に心が洗われます。起きてすぐ、散歩がてら、京都を代表する神社仏閣に参拝できるのはこの立地あってこそ。
地元食材を豊富に使った「KYOTO BISTRO」の朝食
選べるメイン付きの朝食ブッフェ
散歩から戻ったら、「KYOTO BISTRO」の朝食ブッフェへ。オープンキッチンの周りに料理がぐるりと並び、目移り必至。
彩りが美しい野菜の料理から、スモークサーモン、抹茶グラノーラ、ドレッシングまで自家製です。お店で丁寧に作られた朝食が、心も体も満たします。
クロワッサンはもちろん、柑橘タルトや抹茶クロワッサンダマンドまで、ペストリーコーナーも充実しています。
朝食ブッフェは、6種類から選べるメインディッシュ付きです。人気のフレンチトーストは、バターをふんだんに使ったブリオッシュを、生クリームや卵液に1日しっかり漬け込んでから焼いたもの。そこにフレッシュなベリーの甘酢っぱさ、キャラメリゼしたバナナの甘みが溶けあいます。
もうひとつの人気メニューがアボカドトースト。京都・松ケ崎の「吉田パン工房」のカンパーニュの上に、アボカドのディップ、ポーチドエッグが乗っています。
ほかには、パンケーキや卵料理、鶏粥、フライドヌードルといった選択肢が。
老舗料亭「山荘 京大和」の味を気軽に楽しめる和朝食
「KYOTO BISTRO」の朝食では、「山荘 京大和」の和定食を選ぶこともできます。料亭の味を気軽にいただける、またとない機会です。
和定食は、まずは「目覚めの玄米茶」から。香ばしい茶葉は「山荘 京大和」の料理長が厳選したもので、温かいお茶で目を覚まし、「京大和」の朝食を堪能してほしいという想いが込められています。
そして、旬菜、おばんざいが詰まった二段重、焼物、丹後米こしひかり、麦味噌仕立ての味噌汁、季節の果物と続きます。
この日の旬菜は、京野菜の京水菜や湯葉のお浸し、焼物はぶりの西京漬け焼き。二段重には、えびいも、金時人参、菊菜といった旬の京野菜の炊き合わせや、地鶏の出汁巻き玉子、京都の老舗豆腐屋「賀茂とうふ 近喜(きんき)」の冷奴などが。京の食材を使ったしみじみ美味しい料理が並びます。
料亭、鉄板焼フレンチなど、個性豊かなレストラン
「パーク ハイアット 京都」には、「KYOTO BISTRO」や「山荘 京大和」、ラウンジスペース「ザ リビング ルーム」のほかにも、新たな食体験を楽しめるダイニングが2つあります。
鉄板で仕上げるフレンチレストラン「八坂」
シグネチャーレストラン「八坂(やさか)」は、目の前の鉄板で一品ずつ仕上げるスタイルのフレンチレストラン。地元産の食材を使った驚きのある料理と、オープンキッチンならではのライブ感、広く取った窓から見える京都市街の遠景。食以外にも“ご馳走”があるレストランです。
料理に使用する野菜は、京都・丹後産が中心。写真は春メニューの一例で、ホタテ貝のソテーに京都産のたけのこを添えたもの。仔牛のエッセンスをベースにしたソースに、木の芽の緑のソースを添え、春らしい風味を詰め込んだ一皿です。
バー「琥珀」で京都の夕景から夜景をカクテルとともに
バー「琥珀」のカウンター席からも、京都市街を一望できます。シグネチャーカクテルは、客室のミニバーにも入っているホテルオリジナルのジン「季の美 青龍」で作る「琥珀ジントニック」。16:00オープンなので、夕暮れに合わせて食前の一杯をいただけば、ドラマチックな時間を過ごせます。
眺望、歴史、文化…。発見が楽しい充実した京都ステイ
さえぎるものなく、京都を囲む山々から瓦屋根が連なる伝統的な街並み、八坂の塔までが見渡せる「パーク ハイアット 京都」。ホテル内にはその景観を借景にしたり、切り取ったりと、さまざまに堪能できる工夫が散りばめられていました。
また、神社仏閣に囲まれた立地に加え、この土地で歴史を紡いできた料亭が同じ敷地内にあることから、京都の歴史や文化を色濃く感じられるホテルでもあります。
邸宅に招かれたかのような気持ちで館内を巡り、もてなしの心や美意識を見つける。「パーク ハイアット 京都」は、そんな“館内おこもりステイ”を実現してくれるラグジュアリーゲストハウスです。
パーク ハイアット 京都
- 住所
- 京都府京都市東山区高台寺桝屋町360
- アクセス
- 「京都」駅より車で約15分
京阪電鉄「祇園四条」駅より徒歩約12分 - 駐車場
- 5,000円/泊
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 12:00
撮影:福羅広幸 取材・文:仲川僚子