にぎやかな京都駅からタクシーで約6分。鴨川に近く、町屋が立ち並ぶ昔ながらの暮らしが息づく住宅街で、ひときわ存在感を放つ建物が現れます。
昭和初期に建てられた「任天堂」旧本社社屋を最大限生かした既存棟に、世界的建築家・安藤忠雄氏が手がけた新築棟を加え、ホテルとして再生した「丸福樓(まるふくろう)」です。
名建築、オールインクルーシブで楽しむ料理やドリンクの数々、任天堂の軌跡が詰まったライブラリーなど、「丸福樓」だからこその体験が詰まった至福の滞在記をお届けします。
チェックインは昭和初期の面影が残る「スペード棟」で
1930年に建てられた任天堂の旧本社社屋は、事務所棟と倉庫棟、創業者が住んでいた住居棟の3棟からなります。まさにここが「任天堂」のはじまりの地。
そこに安藤忠雄氏が監修した新築棟を増設し、4つのスイートルームを含む全18室のホテルへと生まれ変わりました。
4つの建物は、任天堂がかつてトランプを製造していたことにちなんで、スペード棟、ハート棟、クラブ棟、ダイヤ棟と名付けられています。それぞれの特徴をご紹介しましょう。
到着して、まず迎えられるのが事務所として使われていた「スペード棟」。「できる限りそのままの形で残してほしい」という創業家の思いを汲んでリノベーションされた館内は、まるで昭和初期にタイムスリップしたかのようです。
当時、ヨーロッパで大流行していたアール・デコ様式を用いた幾何学的なデザインや鮮やかな色合いに目を奪われます。
商談などに使われていたかつての応接間はゲストラウンジに。ソファをはじめとした家具は、当時使われていたものを一部置いているそうです。
丸福樓は、滞在中の食事やドリンクなどがフリーのオールインクルーシブなのも特徴。ゲストラウンジではコーヒーや紅茶、ワイン、ビールなどのドリンクとスナックを24時間自由に楽しめます。
チェックインはこのゲストラウンジで行います。受け取ったお部屋のカギもレトロかわいい! エントランスに掲げられた表札がモチーフのキーホルダーは、販売もされています。
かつて住居だった「ハート棟」で住まうように泊まる
創業家である山内家が暮らしていた住居をリノベーションした「ハート棟」は、クラシックな雰囲気が魅力です。ハート棟であることをそっと示すように、ステンドグラスにはハートのモチーフが。さりげない遊び心を感じます。
露天風呂と和室を備えた「ジャパニーズスイート」
丸福樓には多彩な客室タイプがあり、それぞれのお部屋でインテリアデザインも異なります。
ハート棟1階にあるのが、館内で唯一、和室と露天風呂を備えた「ジャパニーズスイート」。山内家の居間だった場所で、入口や木彫りの欄間、床の間などはほとんど当時のまま。どこか懐かしい、ほっとくつろげる空間です。
中庭に備えられた露天風呂は解放感抜群。檜風呂にゆったりと浸かり、癒やしの時間を満喫できます。
中庭を挟んだ向こう側にあるベッドルームにはキングベッドが。広々としたベッドは高さを抑えているので、お子さんとの添い寝にもぴったりです。
ちなみに丸福樓では全室、お子さんの宿泊も可能。ベビーベッドやおむつ用ゴミ箱などのベビーアメニティも用意されています。館内での朝食や夕食もキッズメニューがあり、お子さん連れでも安心して宿泊できます。
暖炉が残るレトロな客室「スーペリアキング」
人気の客室のひとつが、ハート棟に4室ある「スーペリアキング」。かつての客間で、暖炉が残り、クラシックな雰囲気を楽しめる一室です。
オールインクルーシブの丸福樓では、夕食・朝食(素泊まりなど、一部宿泊プランを除く)、ラウンジのドリンクや軽食に加え、客室のミニバーも無料。客室の冷蔵庫はジュースや京都のクラフトチューハイなど、旅気分を盛り上げてくれるラインナップです。
京都に本店を構える日本茶専門店「一保堂」の玉露と、丸福樓オリジナルブレンドのドリップコーヒーやスナックも用意されていました。
丸福樓は全室、ゆったりと浸かれるバスタブ付き。水回りは清潔感にあふれ、快適に過ごせます。
「NEHAN TOKYO」のバスソルトは檜の香りが心地よく、深い眠りへと誘ってくれます。
シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、ハンドソープ、ボディミルクは「OLTANA」を用意。ジェンダーレス、エイジレス、オールスキンタイプのアイテムなので、誰もが心地よく使えます。
レトロなエレベーターが目を引く「クラブ棟」
商品を保管する倉庫だった「クラブ棟」。かつてトランプや花札を運んでいたエレベーターがそのまま残されています。階段の手すりも当時のままで、独特のカーブには今では再現できない手法が使われているのだとか。
館内には当時のトランプや花札の展示も。博物館のようなワクワク感がたまりません。
バルコニー付きの客室「バルコニーキング」
クラブ棟の最上階に佇む客室「バルコニーキング」は、その名の通り、プライベートバルコニーが魅力。
春は桜や新緑、秋は紅葉に染まり、観光スポットとしても人気の東山や、日常の京都の街並みを一望できます。閑静な住宅街だからこそ、バルコニーに出ても静かに過ごせるところもポイントです。
安藤忠雄ファンにはたまらない「ダイヤ棟」
シンプルで洗練された安藤建築を体験したいなら、安藤忠雄氏監修のもと新築された「ダイヤ棟」へ。なかには、安藤氏直筆のサインが壁に記された客室もあり、ファンの心をくすぐります。
安藤建築らしさを感じる客室「レジデンシャルスイート」
ダイヤ棟3階の「レジデンシャルスイート」は、安藤建築の特徴であるコンクリートの無機質な柱と、大きな窓からたっぷりと注ぐ自然光を楽しめる一室です。
74.65平米の広々とした空間にベッドルームとリビング、ミニキッチンやランドリー、ウォークインクローゼットを備え、長期滞在にもぴったり。大きなハリウッドツインのベッドにエキストラベッドを加え、3名まで宿泊可能です。
グループ旅行におすすめの客室「スタンダードツイン」
気軽に泊まってみたいという人には、「スタンダードツイン」がおすすめ。木目と白を基調としたシンプルな空間で穏やかな時間を過ごせます。
また、隣接するスタンダードツインを同時に2室予約すると、コネクティングルームとしても利用できます。
ディナーは五感で楽しむ優しい洋食料理に舌鼓を
ディナーの時間。料理家の細川亜衣氏が監修したレストラン「carta.(カルタ)」へ。
レストランはクラブ棟にありますが、「家に帰ってきたような気持ちで訪れてほしい」との思いから、あえて一度ホテルの敷地を出て、外の道を歩いてレストランに向かいます。
店内に入ると、あえて加工せず風合いを残した楠のカウンターやガラス作家が手がけた照明など、どこかほっとする優しい空間が広がっています。
こちらでは発酵食品や日本古来の調味料を隠し味に、旬の食材の美味しさを存分に引き出した洋食料理が味わえます。
前菜からメイン、デザートまで6~7品ほどのコース仕立てで、メニューは季節ごとに変わるそう。
この日の1品目「チーズトースト」は、チーズを挟んだマフィンに北海道産の帆立をのせ、海苔で巻いて食べるというもの。
初めての組み合わせでしたが、帆立の甘さとチーズの風味が絶妙。手で食べるラフさも、気取らないレストランの雰囲気にマッチします。
こちらで提供されるお料理は、京都や京都近郊の旬の野菜をたっぷり使用。この日のメイン「ポトフ」には、海老芋、白菜、水菜、壬生菜(みぶな)、九条ネギなどの京都の野菜が入っていました。
野菜本来の味わいを生かす優しいお味のなかに、ピリリと効かせた山椒の刺激がたまりません。熊本で育った柔らかな「あそび豚」と京丹波地鶏の旨味も抜群です。
コースを締めくくるデザートは、サワークリームとイタリアの有機マーマレードを混ぜたアイスクリーム。「サンふじ」のコンポートと、キャラメリゼした愛媛の柑橘「紅まどんな」とともにいただきます。
オールインクルーシブの丸福樓は、レストランでのお料理だけでなく、食事中のドリンクも無料(一部、素泊まりや夕食なしのプランを除く)。お料理の美味しさはもちろん、京都のクラフトビールやワイン、日本酒など、こだわって選ばれたアルコールを好きなだけ堪能できるのも魅力です。
自家製のフルーツスカッシュをはじめ、ソフトドリンクもそろっているので、アルコールが苦手な人も楽しめます。
任天堂のDNAを感じながらお酒を嗜む、大人だけの贅沢時間
夕食の後は、スペード棟2階のライブラリー・バー「dNa(ディーエヌエー)」へ。チェックインの際に聞いた暗証番号を入力して入室するため、秘密基地に入るようなドキドキ感が味わえます。
このライブラリーは創業家である山内家がプロデュース、谷尻誠氏と吉田愛氏率いる建築設計事務所「サポーズデザインオフィス」が監修しています。
任天堂や京都にまつわる書籍、ファミリーコンピューターやゲームボーイなどのゲーム機がディスプレイされていて、任天堂の軌跡に触れることができます。ゲームファンなら、思い出のゲームについて時間を忘れて語りたくなること間違いなしの空間です。
隣接するバーカウンターではセルフでお酒を作り、自由に楽しむことも。これもオールインクルーシブの対象なので料金は不要。
創業家が愛したウイスキーやジンを片手に任天堂の歴史に思いを馳せる、大人だけの特別な時間を過ごせます。
ダイニングラウンジではドリンクや軽食、夜食までフリー
館内にはチェックイン手続きをしたゲストラウンジともうひとつ、新築棟1階にもダイニングラウンジがあります。こちらでは京都のクラフトビールやワイン、ウイスキーをはじめとしたアルコール類のほか、生ハムやチーズなどのおつまみを、24時間いつでも自由にいただけます。
甘党には焼き菓子やコーヒー、ジュースなどが。なかでも細川亜衣氏が監修した「丸福樓 味噌バターパウンドケーキ」はお味噌の香りと甘じょっぱさがたまらない美味しさで、滞在中、何度もいただいてしまいました。
さらに、このダイニングラウンジでは21:00~23:00に夜食も提供。京漬物のお茶漬け、青菜のかけうどん、アイスクリームやシャーベットをオーダーでき、お酒を飲んだ後のシメにうれしいサービスです。
また、カトラリーは子ども用も用意。0歳から宿泊可能、お子さんも大歓迎の丸福樓ならではの心配りを感じます。
ダイニングラウンジでは安藤忠雄氏からの寄贈品や草間彌生氏の作品などアートにふれることもできます。好きな時間に立ち寄れて、リビングのような居心地のよさがあり、客室の次に、長い時間を過ごした場所かもしれません。
心と身体が喜ぶ朝食から1日をスタート
朝食は夕食と同様、レストラン「carta.」でいただきます。メニューは和食と洋食の2種類からチョイス。コース料理のように1品ずつ提供され、朝から優雅な気分に浸れます。
メニューは季節によって変わりますが、この日の和食は、かやぶきの里で知られる京都・美山の汲み上げ湯葉や、無農薬で釜炒り茶を作る「お茶のカジハラ」のお茶の葉入りの白和え、焼き魚、おにぎり、味噌汁、ヨーグルトなどが登場。
こだわりの食材で丁寧に作られたメニューの数々が、心と身体に優しく染み渡ります。
洋食はごぼうのポタージュからはじまり、驚くほど黄身が濃い「龍のたまご」の半熟卵、本場・ドイツ仕込みの伝統的な製法で作られた鹿児島「ふくどめ小牧場」のハムや栗がのったオープンサンド、フルーツとカリフラワーやカブをあわせたサラダ、パンケーキ、ヨーグルトといった内容。
ドリンクは「お茶のカジハラ」の和紅茶やレモングラス茶、オリジナルブレンドのコーヒー、ジュースなどを堪能できます。
無料のレンタサイクルで京都観光へ
丸福樓では電動自転車の無料レンタルも用意。目の前を流れる鴨川沿いをサイクリングしたり、清水寺や八坂神社へも自転車で10分程度なので、スムーズに京都観光も楽しめます。
レンタサイクルは7:00~21:00まで。予約制ではなく先着順なので、朝早めの利用がおすすめです。
昼食付きプランでランチもしっかり楽しむ
チェックアウトが12:00と遅めなところも丸福樓の魅力。朝食・夕食に加え、昼食まで付いた宿泊プランもあり、しっかりランチも楽しんでから出発するのもおすすめです。
ランチは11:00~14:00にダイニングラウンジでいただけます。メニューには、カレーライス、ミートソースグラタン、フルーツオープンサンド、シーザーサラダ、フライドポテトをラインナップ。
さらには、パンケーキやスフレチーズケーキなどのスイーツまで味わえます。これだけのメニューをオーダーし放題だなんて、とても贅沢です。
昭和レトロと現代の建築美が融合した空間で過ごす特別感。食事やドリンクを好きなだけ楽しめる贅沢感。随所に任天堂の歴史を散りばめた遊び心。そして、フレンドリーで心地いいスタッフのもてなし。五感すべてを刺激する最高の自由時間を味わえました。
18室のお部屋はそれぞれに異なる魅力があり、訪れるたびに新たな魅力を発見できそうです。クリエイティビティ―を感じる旅を、「丸福樓」で体験してみませんか?
丸福樓
- 住所
- 京都府京都市下京区正面通加茂川西入鍵屋町342
- アクセス
- 「京都」駅より徒歩約15分、タクシーで約6分
京阪本線「七条」駅より徒歩約6分 - 駐車場
- なし
- チェックイン
- 15:00(プランにより異なる)
- チェックアウト
- 12:00(プランにより異なる)
※この記事の内容は2024年1月時点のものです
撮影:大林博之 取材・文:石川知京