国内外に80ホテルを展開する「オークラ ニッコー ホテルズ」。1962年に開業した「ホテルオークラ東京(現 The Okura Tokyo)」をフラッグシップホテルとしており、その格式とおもてなしで世界の賓客からも愛される日本を代表するホテルグループです。
そんなオークラ ニッコー ホテルズの新たなホテルとして、2022年1月20日、自然と歴史、文化が調和した京都・岡崎に「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」が開業しました。ホテルオークラ初のスモールラグジュアリーホテルで、館内は、京都の伝統工芸の後継者6人によるプロジェクトユニット「GO ON(ゴオン)」が手がけた伝統工芸品に彩られ、大人の隠れ家的雰囲気が漂います。誕生したばかりのこのホテルで、上質な大人の時間を堪能してきました。
京都の四季を堪能できるロケーションに佇む「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」
「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」は繁華街から少し離れた岡崎エリアにあり、周辺には平安神宮、金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)、南禅寺などの歴史的観光名所のほか、京都市動物園や京都国立近代美術館、京都市京セラ美術館といった文化施設、さらには、琵琶湖疏水に沿って続く散策に最適な哲学の道、蹴上インクラインなど、四季折々の美しい自然を楽しめる京都らしいロケーションにあります。
ホテルへは、京都駅からタクシーで約25分。地下鉄東西線・蹴上(けあげ)駅からは徒歩約15分で、ぶらぶらと散策しながら向かうのもおすすめです。
今回は、荷物もそう多くなく、天気もよかったので歩いて行くことに。白川通から丸太町通を西へ歩を進めると、平安京遷都の際に王城鎮護のために建立された岡崎神社、親鸞(しんらん)上人の草庵跡と伝わる寺院・真宗大谷派岡崎別院(東本願寺岡崎別院)、そして、その隣地に今回の目的地「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」があります。
日本庭園を見渡すラウンジでゆったりとチェックイン
ホテルに到着すると、出迎えてくれたスタッフの案内で、心地よい水音を奏でる水盤に沿うように設けられた回遊式通路を進みます。
入口の扉が開くと、大通りの喧騒が嘘のように静かなロビーが。華美な装飾を排したシンプルな造りがとても素敵です。四季を感じる迎え花が飾られた気品あふれるロビー空間が、自然とゲストを奥へと誘います。
チェックインは窓際のソファー席で、ウェルカムドリンクをいただきながら。ウェルカムドリンクは祇園辻利のかぶせ茶と、ホテルのパティシエによるオリジナル焼き菓子。オークラのシンボルマークでもあるイチョウの葉がモチーフになっています。
ソファーエリアは美しい庭園を堪能できるように床を上げ、窓と並行に設けられています。
京都の伝統工芸を担う後継者たちの現代的な手仕事が散りばめられた館内
館内で出合うのが、さりげなく配された上質な京都の伝統工芸品。「新時代の京の美意識」をテーマに作られた意匠やしつらえに注目しながら、客室に向かいましょう。
レセプションで目を引くのが、職人の手仕事が光る京金網のブランド「金網つじ」のランプシェード。菊だしという菊の花の模様に編む技法と亀甲編みを組み合わせ、美しい編み目の模様が天井に映し出されるのも幻想的です。
後ろには書家・川尾朋子氏によるオリジナルの書が。「鳳鳴朝陽(ほうめいちょうよう)」と書かれ、元旦に鳳凰が朝日に向かって鳴くとその年は縁起がいいという故事から、京都の東に位置するホテルで、次世代の息吹を感じられる空間であることを暗喩しているそうです。
ここから先は宿泊者だけの空間。扉横のカードーリーダーにルームキーをかざすと、静かにその扉が開きます。
開放的で明るいロビーから一転。ぐっと落ち着いたラグジュアリーな雰囲気に。エレベーターホールの壁面を彩るのは、京都で120年以上続く竹芸品の老舗「公長齋小菅(こうちょうさい こすが)」が手がけた竹格子。間接照明とともに温かく包み込み、ゲストを非日常へと誘います。
エレベーターをおりると、ここにも「公長齋小菅」による繊細な竹格子が。エレベーターホールから客室までの道のりにはストーリーがあり、エレベーターホールは東山に佇む修学院離宮の竹門、廊下は木々の間にのびる散策路、客室は山荘に見立ててデザインされているそうです。そんなストーリーを楽しみながら客室へ。
廊下を進むと、佐藤聡氏の蓮の花びらをイメージしたガラス作品に出合います。廊下の奥には、気鋭の作家・石塚源太氏の蓄積した小石をイメージした漆作品も。
客室玄関のルームナンバーを記した照明は、明治8年創業、日本で一番古い歴史を持つ手作り茶筒の老舗「開化堂」によるもの。時とともに深みを増す経年美化が楽しめる作品です。
レセプションの「金網つじ」のランプシェードや、西陣織の老舗「細尾」の西陣織ウォール、「公長齋小菅」の竹格子や竹細工、「開化堂」の客室玄関の照明などの先進的な作品は、京都の伝統工芸を担う後継者6名によるプロジェクトユニット「GO ON(ゴオン)」が手がけています。このほか、レストランに飾られている3点の茶盌も「GO ON」メンバーのひとり、宇治「朝日焼」十六世当主・松林豊斎(まつばやし ほうさい)氏の作品。スイートルームに飾られているのは、人間国宝の中川清司氏を父にもつ「中川木工芸」中川周士氏の作品です。「GO ON」オールメンバーが集結し、ホテルとコラボレーションするのは初の試みだそう。
ほかにも、書家・川尾朋子氏、陶芸家・北野勝久氏や村田匠也氏など、京都を拠点に活動する芸術家たちのアートが館内を彩り、現代的な京の美や手仕事を間近で感じることができます。
周囲の景観と調和するくつろぎの客室
8室ある「別邸スイート」はすべて庭園に臨み、70平米という広さ。いずれもベッドルームとリビングルームが分かれていて、北山杉やウォールナットなどの木材とグレーを基調とした上品な色合いでまとめられています。
こちらはベッドルーム。ヘッドボードには、「細尾」の西陣織を採用。山荘から眺めた湖畔の水面を、独自の織り技で立体的に表現しているのだとか。見る角度や時間帯によって変化する豊かな表情も楽しめます。また、テラスに出ることもできます。
8室ある別邸スイートのうち6室のリビングルームには、レセプションの書を手がけた川尾朋子氏の作品「呼応」の連作があり、つなげるとひとつのストーリーができあがるそう。
リビングの奥には広縁が設けられ、お庭を眺めながら、ゆっくりと流れる癒しのひとときを堪能できます。
壁には「中川木工芸」の中川周士氏による作品も。「柾合わせ(まさあわせ)」という木の正目を合わせる桶指物の技法を用いた大盆は、美しい年輪の模様が魅力です。
そして、客室にはドリンク類が種類豊富に用意されています。チェックイン時もいただいた「祇園辻利」のかぶせ茶もあり、ゆっくりお茶を淹れるのも贅沢な時間の使い方。かぶせ茶とは、新芽が芽吹く時期に覆いをかぶせることで、渋みが少なく旨み成分を多く含むお茶に育ち、玉露と煎茶の中間のような味わいが特徴です。
香り高いコーヒーが楽しめるネスプレッソ、「祇園辻利」の煎茶にほうじ茶、「ディルマ」のティーバッグまでたっぷり。さらに、冷蔵庫のドリンクもすべてフリー。ビールや京都・青谷の梅を使用した地域限定のクラフトチューハイ、お茶やジュースなどもそろっています。
窓の外に京都ならではの景色が広がる北側客室
ホテルオークラ京都 岡崎別邸には、別邸スイートのほか、45平米とより広い「デラックスルーム」など、全5タイプの客室がそろいます。
北側の客室からは東山の山並みや、地元で「くろ谷さん」と親しまれている金戒光明寺の山門も見えます。いずれの客室も銘木・北山杉の丸太を床柱に使用し、床の間に見立てた違い棚があるなど、洋室でありながら書院造を思わせる空間構成がとにかく秀逸です。
オークラ伝統のフレンチと京都の食文化を融合させたディナー
今回の宿泊でとても楽しみにしていたディナーの時間。館内にあるダイニング「ヌーヴェル・エポック」へ向かう足取りも軽く、期待が高まります。
店内に入ると、最奥の壁を、京都を拠点に活躍する日本画家・小島徳朗氏による抽象絵画が彩る空間が。この作品は、ここにインスピレーションを得て描かれた1点ものです。
「ヌーヴェル・エポック」では、日本のフランス料理を牽引してきた料理人のひとり、ホテルオークラ東京の開業当時の総料理長・小野正吉氏が築いたオークラフレンチに、京の食文化を融合させた料理を提供。その名のとおり、“新しい時代”(Nouvelle Epoque)を感じる京都ならではのフランス料理を堪能できます。
シェフを務めるのは、ホテルオークラ東京のフランス料理「ラ・ベル・エポック」をはじめ、ホテルオークラ洋食調理部門で豊富な経験を持つ山下亮一氏。ミシュラン二つ星を獲得しているホテルオークラアムステルダムの「シェルブルー」や、フランスのミシュラン一つ星レストラン「ラ・メゾン・ジョンヌ」など海外でも研鑽を積み、ホテルオークラ京都 岡崎別邸の開業に伴い総料理長に就任されました。
テーブルには、西陣織特有の箔が光をとらえるスタイリングマットや「開化堂」のシュガーポットなど、職人技が光るテーブルウエアが並びます。
メニューは季節に合わせて変わりますが、この日は春のコースをいただきました。
アペリティフ、アミューズに続いて登場したのが、春野菜と本マスの西京味噌クリーム。低温調理した北海道産のサクラマスに、うるいやクレソンなどの春野菜を添えた一品。うるいのほろ苦さとクレソンの独特の香りが、濃厚な味わいのサクラマスとマッチし、さらに甘味のある西京味噌クリームが旨味を引き立てます。
お肉料理は、フランス産仔羊のロースト。トマトや春ニンジン、チーマデラーパ(イタリア菜の花)、ソラマメなどの春野菜が彩りを添えます。どのお料理もアートのような美しい盛り付けに目を奪われます。
全8皿のコースを締めくくるデザートには、白トリュフが香るクレームブリュレを閉じ込めたチョコレートクリームと季節の果物。さらに、小菓子、コーヒー・紅茶が続きます。
京都の旬の食材を取り入れ、繊細な味わいを表現した料理や、オークラフレンチを代表するスペシャリテに京のエッセンスを盛り込んだ一品など、革新的で美しい料理の数々。ひと皿ひと皿に新鮮な驚きと感動があり、次はどんなお料理が運ばれてくるのかとワクワクさせられます。
料理だけでなく、店内にディスプレイされた京都を中心に活躍する気鋭の作家たちによる作品も、ゲストの目を楽しませてくれます。熟練した職人の高度な手仕事により一本一本巧妙に編みこまれた「公長齋小菅」の竹細工のシェルフ。そして、そこには木工、漆、ガラスなど多様な素材で作られたアートピースがリズミカルに展示されています。
また、最大10人まで利用可能な個室もあります。寄棟造を思わせる空間に、ブルーが美しい朝日焼の松林豊斎氏の茶盌が象徴的にしつらえられています。
ヌーヴェル・エポック
- 朝食
- 7:00~10:00
- ランチ
- 12:00~15:00(L.O.14:00)
- ディナー
- 17:30~21:30(L.O.20:00)
※ドレスコードあり(朝食はスマートカジュアル、ランチ・ディナーはスマートエレガンス)
※利用は中学生(12歳)以上から
もう少しゆっくりと夜を楽しみたいときは、ダイニングに隣接するラウンジへ。ここからは「迎春の庭」と名付けられた庭が望め、春には枯山水とともに梅や桜が楽しめます。
ラウンジ
- 月~金
- 10:00~22:00(L.O.21:30)
- 土・日・祝日
- 10:00~21:00(L.O.20:30)
開放感のあるバスルームで爽やかな朝のバスタイム
別邸スイートのバスルームはベッドルームと外の景色を見通す開放的な造りになっています。夜はさっとシャワーを浴び、翌朝、窓の外の景色を堪能しながら、ゆっくりと爽やかなバスタイムを楽しむことに。広いバスタブに手足を伸ばしてお湯に浸れば、心身ともにすっきり。
バスアメニティは、オーガニック植物由来の成分にこだわった「bamford(バンフォード)」のシャンプー、コンディショナー、ボディーウォッシュ、ボディーローションが用意されています。
お風呂上がりは、今治産タオルとふわふわのバスローブの贅沢な触感に包まれます。
保湿・保水にこだわった自然派化粧品「plusui(プラスイ)」のスキンケアアイテムもうれしいサプライズ。クレンジング、洗顔料、ローション、アクアジェルがそろっています。
身支度を整えたら、朝食をいただきに、昨夜と同じダイニング「ヌーヴェル・エポック」へ。
オークラ伝統のフレンチトーストもいただける至福の朝食
ダイニングからは、朝の清々しい空気に包まれた日本庭園が。春の桜、初夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色を想像すると、季節ごとに訪れたくなる、そんな風景が広がります。
朝食は、京都市の北にあり、美食の宝庫として知られる美山(みやま)の食材をふんだんに使った「アメリカン・ブレックファスト」と「きょうと・ブレックファスト」の2種類。「きょうと・ブレックファスト」は、メインをエッグベネディクトとオークラ伝統のフレンチトーストから選べる人気の朝食です。
「きょうと・ブレックファスト」は、京都・伏見のお酒の仕込水に使われる「伏水」からスタート。まずは、まろやかな天然水で身体を目覚めさせます。
続いて、サラダ「京都の農園 ~旬の畑の恵み 西京味噌を使った自家製ドレッシング」とフレッシュジュース(オレンジまたはグレープフルーツ)が。
オリーブセック、ゴボウとレンコンを細かく刻んだもの下に敷いて土を表現し、その上にホワイトアスパラ、京かんざしニンジン、黒・白ニンジン、紅芯大根、ウグイス菜などが美しく盛り付けられています。最もおいしく食べられるよう、素材ごとに切り方や厚みが異なり、野菜本来の味わいとみずみずしさが口の中で賑わいます。
美山の平飼い卵を使用したエッグベネディクトには、スモークサーモン、温野菜が添えられています。メインと、自家製ジャム、美山のヨーグルト、コールドミート(ハム)とチーズ、フルーツがお膳スタイルで一緒に運ばれてきます。
フレンチトーストは、亀岡の天然はちみつ「そよご」をたっぷりとかけていただきます。オークラ伝統のレシピで、丸一日かけて卵液に浸しているだけあり、中までしっかり染み込み、極厚なのにふわふわ。京都の食材をふんだんに取り入れつつ、オークラらしい朝食がいただけます。
「アメリカン・ブレックファスト」は、メインとなる卵料理以外は「きょうと・ブレックファスト」と同じ内容です。卵料理は、オムレツ、スクランブルエッグ、目玉焼き、ポーチドエッグ、ゆで卵から選べ、サイドには丹波高原豚のソーセージ、ベーコン、ハッシュドポテト、温野菜が。ケチャップ代わりの、白インゲンのトマト煮込みと一緒にいただきます。
朝食を堪能し、チェックアウトの時間が迫るにつれ、心地いい上質なサービス、京都の伝統・文化を取り入れた気品あふれる空間、美しい工芸品の数々……。名残惜しい気持ちがどんどん募ります。
そんな気持ちを抑えつつ客室を後にしたにもかかわらず、もう少しだけとラウンジへ。
ラウンジでは、スイーツやサンドイッチなどの軽食、アルコールなどが用意されています。庭を眺めながら、「パティシエおすすめデザート“和栗のモンブラン”」(2,057円)をいただきました。サブレブルトンの上にスポンジ、和栗のブリュレ、ホイップクリーム、細かく刻んだ栗を重ねたモンブランに、「祇園辻利」の抹茶アイスが添えられた、石庭のような美しいひと皿。京の食と美を改めてじっくり堪能し、ホテルを後にしました。
新風を吹き込みながらも、オークラが大切に育んできた伝統が息づく、ブランド初のスモールラグジュアリーホテル「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」。これから時を重ねるとともに、館内を彩る工芸品や庭園も表情を変え、私たちの目をより楽しませてくれることでしょう。
次の京都旅は、オークラならではの格式と京都らしさにあふれた大人のための隠れ家で、唯一無二の時間を過ごしてみませんか。
ホテルオークラ京都 岡崎別邸
- 住所
- 京都府京都市左京区岡崎天王町26-6
- アクセス
- 京都市営地下鉄東西線「蹴上(けあげ)」駅より徒歩約15分、「京都」駅よりタクシーで約25分
- 駐車場
- なし
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン23:00)
- チェックアウト
- 11:00
撮影:福羅広幸 取材・文:惣元美由紀