南禅寺や永観堂、平安神宮など京都の名所にほど近い場所に佇む、いま注目のスモールラグジュアリーホテル。それが2021年4月に開業した「ふふ 京都」です。全室にひのき造りの運び湯温泉を備え、夕・朝食には庭園に臨むダイニングで美食を楽しみ、京都市中心部にいながら温泉旅館のようなステイが叶います。
京の都に息づく雅な文化や風景、空間、そして、おもてなしを堪能する――。「佳麗幽雅(かれいゆうが)」(整っていて美しく、上品で深い趣のある様)な滞在の様子をご紹介します。
「四神相応」に則った美しい景色
京都地下鉄東西線・蹴上(けあげ)駅から徒歩約7分、京都駅からタクシーで約20分の場所に位置する「ふふ 京都」。南禅寺の傍らを流れる琵琶湖疏水のほとりにその建物はあります。
じつは京都は、平安京を中心に、方角を司る神「四神相応」の地といわれていて、東西南北それぞれに適した地勢や地相の条件を満たす土地に長く住むと、長く繁栄すると考えられています。「ふふ 京都」にもこの思想が取り入れられていて、方角ごとに特徴ある景色が望めます。たとえば、北側(四神:玄武、色:黒、地相:丘陵)に位置するメインエントランス。かつて京都の邸宅で使用されていた葛石の古材でつくられた門の先には、ゆるやかに湾曲した真黒石が敷き詰められ、今回の滞在への期待が高まる風景が続きます。
門に掲げられた表札は、南禅寺の管長がしたためたもの。
奥に進んでいくと、スタッフの方が出迎えてくれます。宿泊の旨を伝えると、そのまま客室に案内され、チェックインはお部屋で行います。
京の文化や匠の技を随所に感じる館内
館内に一歩足を踏み入れると、日常を忘れ去るような、穏やかで厳かで、ゆるりとした空気が流れています。そして、館内の至るところに京都を印象づけるしつらえが。こちらは、繊細な和紙とほの明るい行灯の光が印象的なロビースペース。
手つかずのままに見えて、細部まで計算し尽くされた日本庭園を眺めながらホッとひと息。お部屋ではなく、こちらでチェックインやチェックアウトをすることも可能です。
京の息遣いが聞こえてくる全40室の客室
「ふふ 京都」には、6タイプ、全40の客室が用意されています。各部屋に百人一首にちなんだ漢字2文字の名前がつけられているのもこの宿ならでは。
廊下には京の四季を感じる生け花も。その影さえ、「佳麗幽雅」な世界を体現しているようです。
木のぬくもりを感じる「コンフォートツイン」
今宵宿泊するのは、リビングスペースとベッドスペースをもつ「コンフォートツイン」。柔らかな光が差し込む格子、職人の手仕事が光る小物など、シンプルでありながら、確かな京の粋が感じられます。
各客室には、金工作家・坂井直樹氏が手がけた鉄瓶が。鉄瓶で沸かしたお湯は、鉄が溶け出すことで口当たりがやわらかく、まろやかになり、そのお湯で淹れるお茶はまた格別です。「ふふ 京都」オリジナルの宇治の煎茶と、上級抹茶を使ったお饅頭とともにまずは一服。
コーヒーも「ふふ」オリジナルのキリマンジャロブレンドのドリップバックを用意。冷蔵庫にはお茶やジュース、ビールなどが冷えていて、これらもフリー。うれしいおもてなしがそろいます。
そして、注目はなんといっても温泉。ひのきが香るゆったりとした浴槽には絶え間なく温泉が注ぎ、障子を開け放てば、まるで露天風呂のような趣に。体をやさしく包み込むアルカリ性単純温泉の湯が、身も心もほぐしてくれます。
また、アメニティにもこだわりが。シャンプー、コンディショナー、ボディソープは、オーガニックで保湿力が高く、桜と白檀が香る「ふふ 京都」オリジナル。
洗面台には、「ふふ」オリジナルのクレンジング、化粧水、乳液に、「ふふ 京都」オリジナルのボディジェルを用意。女性が手ぶらで来てもしっかりスキンケアできるラインナップです。ドライヤーはダイソン製。旅先でもうるつや髪をキープしてくれます。
さらに、ふわふわの今治タオルに、やはりふわふわで心地よい肌触りのバスローブも。
パジャマはもちろんですが、浴衣と羽織、足袋も用意されていて、レストランをはじめ、館内はこの浴衣と草履で移動OK。京都市内では珍しい、温泉旅館のようなステイが楽しめます。
館内を移動する際には、浴衣にも洋服にもマッチするかわいらしい小物入れに貴重品や身支度品を入れて。この小物入れは持ち帰りもOKで、うれしい京都みやげにもなります。
そして、ベッドスペースには、ゆったり使えるダブルサイズのベッドが2台。シモンズ社と共同開発したマットレスが最高の眠りに導いてくれます。
ちなみに、客室の照明は、月の満ち欠けを模したボタンで4段階に調節可能。こんなところにも京の美意識を感じさせます。全室に備えられているタブレット端末でも照明を操作できるほか、ルームサービスのオーダーや館内の案内なども見ることができ、とても便利です。
コンフォートツイン
- 広さ
- 42.62~47.32平米
- 定員
- 2名
ほかにも魅力的な客室の数々にうっとり
「ふふ 京都」には、今回宿泊した「コンフォートツイン」以外にも、一度は泊まってみたい魅力的な客室がそろっています。
スタジオタイプのような設計の「プレシャススイート」
「コンフォートツイン」より広い、およそ52平米の「プレシャススイート」は、ワンルームのような造り。
すだれを下ろして、ベッドスペースとリビングスペースを仕切れるようになっています。すだれを下ろすとがらりと雰囲気が変わります。
このお部屋のお風呂は凛とした四角形。もちろん、ひのき造りで、かけ流しの温泉を堪能できます。
プレシャススイート
- 広さ
- 52.26平米
- 定員
- 2名
最上級の客室「ふふラグジュアリープレミアムスイート」
「ふふ 京都」が誇る最上級の客室が「ふふラグジュアリープレミアムスイート」。314号室「憂山」は、約101平米の広々とした空間に、リビングルームとベッドルームをゆったりと配置。桜の木が使われた床、四季折々の生け花、そして日本庭園を望む大きな窓。どれをとっても、最上級の滞在が約束されています。
リビングルームの一角には手水鉢が。さらに、ほかの客室とは異なり、茶釜が用意されています。京の粋がこんなところでも味わえます。
遠くには「京都五山の送り火」の「大」の字でおなじみ、大文字山を見ることも。東山の風景を眺めながら特別な一服を。
バスルームも洗面スペースも広々。大きなひのき風呂の窓の向こうには、京都の四季が楽しめる景色が。訪れるたびに新たな想い出が紡げます。
ふふラグジュアリープレミアムスイート
- 広さ
- 101.63平米
- 定員
- 4名
「絶景かな絶景かな」と思わずこぼれる美しい日本庭園
「ふふ 京都」の魅力のひとつ、それはこのホテルが建つずっと前から大切に手入れされてきた日本庭園です。お隣の、山縣有朋の別荘として造営された近代日本庭園の傑作「無鄰菴(むりんあん)」と同じ、明治期に造られたものだそう。
庭園内には琵琶湖疏水の水が流れ、澄んだ水音に木漏れ日がやさしく差し込みます。
のんびり散策していると、時が経つのを忘れてしまいそう。かつて南禅寺の美しい景色を見て、石川五右衛門が「絶景かな絶景かな」と思わずこぼしたことが知られていますが、この日本庭園を訪れた人もきっと同じ台詞を呟いてしまうでしょう。
庭園を眺めながら、京都の旬を味わう至福の夕食
夕食はレストラン「京野菜と炭火料理 庵都(いほと)」にて。こだわって選び抜いた京都の旬の食材の炭火焼きなど、料理長・上西康文さんが手がける「ふふ 京都」ならではの日本料理のコースを提供しています。
店内にはプライベート感ある席が用意され、1~2人での利用におすすめなのが、美しい庭園を眺めながら食事ができるカウンター席。
もうひとつのおすすめは、料理する様子を目の前で見られるライブ感が魅力のカウンター席。隣の席との間には間仕切りもあるので、プライベート感も確保できます。
空中に浮かぶ盆栽や、源氏香の図をモチーフとした格子、手すきの落水紙、そして京都の職人による蒔絵盆など、インテリアにも京都の伝統と職人の技が光ります。
そして、よりプライベート空間を味わいたい人には、完全個室もあります。
夕食は、前菜、御椀、お造り、八寸、炭、鍋、食事、水菓子の全8品。京の旬を感じる目にも舌にも美味しいお料理が並びます。
まずは、前菜「新緑」。「ふふ 京都」の日本庭園をイメージした、色鮮やかなアートのような一皿です。食べる直前に、目の前で鳴門蛸や車海老、紋甲烏賊などが入ったソースをかけて仕上げてくれるので、できたての一番美味しい状態をいただけます。
続く御椀は、うぐいす豆腐に甘鯛の葛打ち、九条葱をたっぷり添えて。これも、夏の日に照らされたお庭の青葉を思わせる、鮮やかな緑が美しい一品です。
お造りは「鮮と炭遊び(ひあそび)」と題し、新鮮なお造りを炭火で炙っていただきます。もちろん、炙らずそのままいただくこともできますが、ここは「ふふ 京都」オリジナルのスタイルを堪能して。また、繊細な盛り付けにも注目です。
八寸は、鯛の白子蒸しや湯葉、穴子寿司、鱧の落としなど、旬の高級食材が並びます。
こちらはメインのひとつ、「青竹炭焼き」。黒毛和牛の味噌漬けを竹の皮に包み、炭火で蒸し焼きにしています。甘さが魅力のさつまいも「紅はるか」に酒盗チーズをかけたものや、京野菜の万願寺唐辛子なども添えられています。
もうひとつのメイン、「葡萄山椒鍋」。黒豚や蛤、冬瓜などを、特製味噌仕立てのお鍋でいただきます。
そして、京丹波産のコシヒカリを使用した「鮎釜炊き御飯」も絶品! ここまで結構な量をいただいているはずが、ぺろりと平らげ、おかわりまでしてしまう美味しさ。締めの水菓子まで、大満足の夕食でした。
「離れ」のBarで京都の夜を楽しむ
先ほど、日本庭園をご紹介したとき、奥に平屋が見えていたことにお気づきでしたか? じつは庭園に溶け込むようにデザインされた離れがあるのです。
夜はBarに様変わり。庭園の夜の表情を眺めながら、非日常の空間でお酒を楽しめます。別途、芸舞妓を呼んで、舞を鑑賞したり、お座敷遊びを体験することもできます。
Bar
- 営業時間
- 17:00~23:00(L.O.)
※2021年8月現在、まん延防止等重点措置発令にともない営業休止中
彩り豊かなお重の朝食で1日をスタート
温泉に浸かって、ぐっすり眠って迎えた翌朝。朝食は客室でいただくこともできますが、せっかくなので、夕食と同じレストラン「庵都」で朝のお庭を眺めながらいただきました。
目の前に運ばれてきたのは、「福を重ねる」という意味から「福重膳(ふくえぜん)」と名付けられた縁起のよいお重。
蓋が開いた瞬間、感動のあまり思わず「わー!」っと声が。鮪や壬生菜(みぶな)の胡麻和え、貝柱のぬた和え、豚の角煮などが彩り豊かに盛り付けられています。
もうひとつの器には、烏鰈の西京焼きと出汁巻き。京都らしいメニューがそろいます。
「ふふ」特製の白味噌と出汁で作るやさしい味わいの「庵都汁(あんとじる)」は、湯葉や豆腐、豚肉、牛蒡、蓮根など具がたっぷり。ヘルシーでいて、ボリュームもある一品です。なお、「庵都汁」と釜炊きの御飯はおかわりも可能です。
京都の文化を体験できる「ふふ 京都」ならではのアクティビティ
「ふふ 京都」には、華道や茶道、香道など、京都の伝統に触れられるさまざまなアクティビティが用意されています。なかなかない京都の文化を体験できるチャンスなので、今回は離れでの香道(2,500円/約60分間)に挑戦してみました。
最初に香道の歴史などを説明いただき、香りの元である香木をブレンドした3種類の匂香(爽やか・甘い・白檀)を好みの分量でブレンドしていきます。
ブレンドしたものは、小さな匂袋に入れて持ち歩いたり、和紙に包んで栞にしたり……。「ふふ 京都」での想い出が、香りを嗅ぐたびによみがえりそうです。
アクティビティはほかに、離れでの華道や茶道、隣接する名勝庭園「無鄰菴」でのプライベートヨガレッスン、南禅寺の管長による座禅体験などが。ふつうの京都観光だけでなく、よりディープな京都を堪能したい人や、雨の日にもおすすめです。
この旅の想い出を持ち帰るスーベニールをチェック
名残り惜しいけれど、チェックアウトの時間。ホテルをあとにする前に、入り口横に並ぶスーベニールをチェック。「ふふ 京都」オリジナルのアメニティや緑茶、京都の工芸品などが販売されています。
お部屋にも置かれていた「ふふ」オリジナルのバスアメニティも。京都は桜と白檀の香り、熱海は海の香り、河口湖は森の香りといったように各地の「ふふ」で香りが異なり、ここにはほかの「ふふ」のアイテムもそろいます。
お部屋にあった美しいグラスも、この旅の記念に連れて帰りたくなります。グラスも「ふふ」それぞれで色や形が違うのだとか。各地の「ふふ」をまわりながら、コレクションする楽しみがありますね。館内の至るところで香っていたお香も、お土産やプチギフトに最適です。
京都を味わい尽くせる「ふふ 京都」。雅で粋な空間で、温泉を堪能し、京の旬に舌鼓をうつ、至福の1泊2日でした。家族やパートナーとの記念日や女子旅にも、忘れられない旅を演出してくれるに違いありません。
- 住所
- 京都府京都市左京区南禅寺草川町41
- アクセス
- 地下鉄東西線「蹴上(けあげ)」駅より徒歩約7分
京都駅よりタクシーで約20分 - 駐車場
- なし
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 11:00
撮影:福羅広幸 取材・文:水谷映美