北海道東部に位置する網走(あばしり)市には、「網走監獄」という珍しい博物館があります。ここはかつて、網走刑務所で実際に使われていた建造物を移築、復原して博物館として利用している施設。東京ドーム約3.5個分の広大な敷地には、歴史的建造物25棟が保存展示されています。
移築復原された建物は、19世紀後半から20世紀初頭に建てられたもので、現存する木造行刑建築物としては世界最古。敷地内の建造物は国の重要文化財、登録有形文化財にも定められています。
当時の囚人たちの様子を知るだけでなく、建築を鑑賞するのにもおすすめのスポットです。
至るところに点在する人形や監獄食、バラエティ豊かなお土産など、見どころは盛りだくさん。そんな「博物館 網走監獄」を中心に、周辺の観光スポットも合わせてご紹介します。
北海道開拓を担った「網走監獄」の歴史
「博物館 網走監獄」へのアクセスは、まずJR網走駅へ。女満別(めまんべつ)空港から移動する場合は、車やバスで約25分。札幌駅から電車移動の場合は、特急「ライラック」で旭川駅下車後、特急「大雪」に乗り換えて約5時間30分。新千歳空港からは、車で約4時間50分(高速道路利用)です。
網走駅から網走監獄までは車で約7分。バスの場合は、観光施設めぐり線(季節運行)で「博物館網走監獄」下車し、徒歩約1分。あるいは、路線バスの呼人線か女満別空港線に乗って「天都山入口」で下車し、そこから徒歩約15分です。
明治維新後の日本は西南戦争で政治犯が続出し、全国的に監獄は過剰収容となっていました。同時に、明治政府にとってロシア帝国の南下政策に備えること、そのための北海道開拓が急務でした。
これらの課題を解決するため、政府は徒刑(とけい・ずけい=労役に服させる刑)や流刑(るけい=辺地や離島に送る刑)、懲役刑12年以上の者を収容する集治監(しゅうちかん)を東京・宮城・福岡・北海道に設置。そして、北海道に5カ所設置された集治監のうちの一つが、「網走監獄」の始まりとなった「釧路監獄署 網走囚徒外役所(あばしりしゅうとがいえきしょ)」です(のちに「北海道集治監網走分監」に改称)。そこに全国各地から囚人たちを移送し、北海道開拓に従事させました。
1890年の開設時、「網走囚徒外役所」に収容されていた1,200人の囚人は、網走市から旭川市までつながる中央道路の開通作業にあたり、163kmをわずか8カ月で完成させました。これを皮切りに、囚人たちは北海道内の道路、鉄道網、農地を切り拓く原動力となっていったのです。
重要文化財や建築の様式美にも注目
鏡橋
「博物館 網走監獄」の入り口前には、「鏡橋(かがみばし)」が設置されています。「鏡橋」は1890(明治23)年から現在まで4回架け替えられてきましたが、これは二代目の「鏡橋」を再現したもの。
網走監獄は大きな網走川にはさんだ場所にあり、橋を渡らなくては出入りができませんでした。「鏡橋」には、川面に映る自分に「我が身を見つめ、自ら襟を正し目的の岸にわたるべし」という意味が込められています。
重要文化財「旧網走監獄 庁舎」
正門をくぐると、正面に見えてくるのが庁舎です。1912年建造、1988年に移築された当時の建物を利用しています。屋根の上に突き出した、小さな屋根付きのドーマー窓が特徴的です。
当時、庁舎内は刑務所最高責任者の部屋である典獄室(てんごくしつ)をはじめ、会議室、総務課、戒護課、用度課、教育課、作業課など、管理部門の中心となる課ごとに区切られていました。
現在は、網走監獄に関する資料室やミュージアムショップとしても利用されています。
上げ下げ窓や天井の装飾など、趣向を凝らした建築様式も見どころです。
重要文化財「旧網走監獄 舎房及び中央見張所」
庁舎の奥には囚人たちが収容されていた舎房(しゃぼう)と、そこを看守が見張るための見張所(みはりしょ)があります。
放射状に広がった5つの棟からなる舎房は、看守が1カ所から舎房全体を見渡せるように、八角形の中央見張所が設けられています。
舎房には独居房・雑居房を合わせて計226房あり、最大700名を収容。1984年まで72年間、実際に獄舎として使われていました。
鉄筋でつないだ小屋組(こやぐみ)と、天井から差し込む光、そして黒光りした木の美しさがとても印象的です。
房の中に入って、監獄の閉ざされた空間を感じることもできます。
「ヤチダモ」という硬い木で造られた舎房の扉には、視察孔(看守が囚人たちの部屋を監視するために使用した覗き穴)と食器口があり、外からのみ施錠できるようになっています。
廊下から中の様子を伺える堅格子(たてごうし)には、舎房側からは向かいの部屋が見えない工夫もされています。
天井を見上げると、服役中に何度も脱獄を決行し、「昭和の脱獄王」の異名を持つ白鳥由栄(しらとりよしえ)の脱獄シーンを再現した人形も。
重要文化財「旧網走刑務所 二見ヶ岡刑務支所」
「旧網走監獄 舎房及び中央見張所」を出て、西に進むと、網走の西方にある丘陵地・二見ヶ岡(ふたみがおか)にあった「網走刑務所 二見ヶ岡刑務支所」が再現されています。
「二見ヶ岡刑務支所」には自給自足を目指して造られた農園があり、当時の農作業の先導的施設とされていました。
建物は庁舎、舎房、教誨堂および食堂、鍵鎖附着所(けんさふちゃくじょ)、炊事場の5棟で形成されており、渡り廊下でつながっています。所内での生活態度などに改善が認められ、出所時期の近づいた囚人は、ここに移送されていたようです。
重要文化財「旧網走監獄 教誨堂」
正門をくぐって東には「旧網走監獄 教誨堂(きょうかいどう)」があります。ここは、収容者に対する精神的、倫理的、宗教的な指導を行うために設置された施設。外観はお寺を思わせる和建築で、当時の囚人が焼いた鬼瓦や瓦が使用されています。
内装は上げ下げ窓やシャンデリアボックス、頭の部分がとがった尖頭(せんとう)アーチの扉など、外観とは対照的に洋風な造りが特徴です。
当時の様子を物語る人形たち
網走監獄の広大な敷地内にある各施設には、当時の様子を再現した囚人や看守の人形があります。
ここでしか味わえない監獄食
「博物館 網走監獄」入館受付のすぐ隣にあるレストラン「監獄食堂」。こちらでは、現在の網走刑務所の受刑者が食べているメニューを再現した「監獄食」が人気です。
監獄定食A(さんま定食 950円)と監獄定食B(ホッケ定食 950円)があり、米と麦が7対3の割合で炊かれたご飯に、味噌汁、焼き魚、副菜がセットになっています。そのほかにも、ラーメンやカレーライス、蕎麦などもあります。
ほかにも左右前方の3面スクリーンには、中央道路の開通作業がテーマの「赫い囚人の森 体感シアター」が設置された「監獄歴史観」など、「博物館 網走監獄」には見どころが満載。1日かけてじっくり回るのもおすすめです。
博物館 網走監獄
- 住所
- 北海道網走市字呼人1-1
- 開館時間
- 9:00~17:00(入館受付16:00まで)
- 休館日
- 12/31、1/1
- 料金
- 大人1,500円、高校生1,000円、小中学生750円
- アクセス
- JR網走駅から車で約7分、またはバス観光施設めぐり線「博物館網走監獄」下車、徒歩約1分
- 公式サイト
- 博物館 網走監獄
「博物館 網走監獄」周辺のおすすめスポットも紹介
本物の流氷を体感できる「オホーツク流氷館」
「博物館 網走監獄」から北東に車で3分ほどの場所には「オホーツク流氷館」があります。ここは、流氷とオホーツク海の生き物をテーマとした施設です。
特に注目したいのは、四季を通じて本物の流氷を体感することができる「流氷体感テラス」。
夏でもマイナス15度に設定された空間では、濡れたタオルを凍らせる「しばれ実験」も体験できます。
ほかにも360度カメラを使った「流氷海中ライブ」や、オホーツク海に生息するクリオネなどの不思議な生き物の展示、大迫力の「流氷幻想シアター」などが設置されています。
また、屋上にある展望テラスからは、網走の街並みやダイナミックなオホーツク海、網走湖の景色を望めます。
ここで食べる「流氷ソフトクリーム」(400円)は格別な味わいです。
オホーツク流氷館
- 住所
- 北海道網走市天都山244-3
- 営業時間
- 5月~10月/8:30~18:00(最終入館17:30)、11月~4月/9:00~16:30(最終入館16:00)、
12月29日~1月5日/10:00~15:00(最終入館14:30) - 定休日
- なし
- 料金
- 大人990円、高校生880円、小中学生770円
- チケット
- オホーツク流氷館 入館Eチケットの予約はこちら【楽天ポイントが貯まる・使える】
- アクセス
- JR網走駅から車で約7分、またはバス観光施設めぐり線「天都山流氷館」下車、徒歩約1分
- 公式サイト
- オホーツク流氷館
道内の多様な文化を知る「北海道立北方民族博物館」
「オホーツク流氷館」から車で2分ほど走ると、「北海道立北方民族博物館」があります。いにしえの北海道のオホーツク文化をはじめ、東はグリーンランドのイヌイト(エスキモー)、西はスカンディナビアのサミ(ラップ)まで、広く北方諸民族の文化を紹介する博物館です。
館内には、6〜11世紀にかけてオホーツクでの海獣狩猟や、漁を生業として栄えたオホーツク文化の遺物展示のほか、各民族の衣食住など暮らし方がわかる約900点の資料と映像が常設展示されています。
北方圏地域の文化や社会に見られる共通性や、民族ごとの異なる多様な文化に触れられます。
北海道立北方民族博物館
- 住所
- 北海道網走市字潮見309-1
- 営業時間
- 9:30~16:30(7~9月は9:00~17:00)
- 定休日
- 月曜日(祝日の場合は翌平日休み)、年末年始
※2月、7〜9月は無休 - 料金
- 一般550円、高校生・大学生200円
※小中学生・65歳以上・障害のある方およびその引率者などは免除 - アクセス
- JR網走駅から車で約8分、またはバス観光施設めぐり線「北方民族博物館」下車、徒歩約3分
- 公式サイト
- 北海道立 北方民族博物館
オホーツクの環境保護に取り組む「流氷硝子館」
「博物館 網走監獄」からオホーツク海側に向かい、車で約11分の場所にあるのは「流氷硝子館」。「流氷をなくさないために」を最大のミッションに、環境問題に取り組んでいる工房です。
代表の軍司氏は、大学時代に出会ったガラスの美しい世界に魅了され、製作技術のみならず、窯や原料についても研究を重ねています。
長年、「生まれ育ったオホーツクの環境を守りながら、自分にできることはないか」を模索し続けて辿り着いた答えが、廃蛍光灯リサイクルガラスカレットを使った流氷硝子「エコピリカ」の製作でした。
作品は、工程上どうしても細かい気泡が入りやすい「リサイクルガラス」の特性を生かし、氷や雪、風の文様を表現。テーマは同じでも、一つひとつ違う表情が魅力的です。
また、サンドブラスト(ガラスに砂など研磨材を吹きかけ、表面を削る技法)やアクセサリー組み立て、吹きガラスなどのガラス制作体験(要事前予約)も実施。家族や友人との旅の思い出にもぴったりです。
流氷硝子館
- 住所
- 北海道網走市南4条東6-2-1
- 営業時間
- 10:00~17:00(ガラス制作体験は10:00~11:30、13:00~16:00)
- 定休日
- 水曜日、ほか不定休あり
- アクセス
- JR網走駅から車で5分、またはバス「東5丁目」下車、徒歩約8分
- 公式サイト
- 流氷硝子館 | オホーツク海を臨む網走の手作りガラス工房
北海道ならではのお土産がそろう「オホーツクバザール」
「博物館 網走監獄」から北東に車で約5分走ると、「オホーツクバザール」があります。オホーツク海や道東で水揚げされる新鮮な海産物、地元のお土産品などを豊富に取りそろえています。2023年春にリニューアルし、売り場を全面改装。
オリジナルの海鮮加工品やレストランもパワーアップし、多くの観光客でにぎわっています。
オホーツクバザール
- 住所
- 北海道網走市大曲1-14-19
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 不定休
- アクセス
- JR網走駅から車で約3分、またはバスで「ハローワーク前」下車、徒歩約4分
- 公式サイト
- オホーツクバザール
全国的に見ても類を見ない、刑務所をテーマにした「博物館 網走監獄」は、当時の様子を知るだけでなく、その建築美も見逃せない貴重な施設です。また、網走には流氷やいにしえのオホーツク文化、そして、おいしい海鮮など見どころが盛りだくさん。季節を問わず、さまざまな楽しみが堪能できる北海道有数の観光地です。ぜひ、足を運んでみてください!
取材・文/柏崎 直人 撮影/FULLMARKS 北川 剛
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