提供:ことりっぷ
京都の秋の観光といえば、紅葉、ミュージアムの特別展、そして文化財の特別公開。渋いものからイマドキのもの、さらに和情緒たっぷりのものから洋風のものまでバラエティ豊かです。今年の特別公開のおすすめは「聖護院門跡」。江戸時代には天皇が住まいにされたこともあり、御所のような雅な部屋もあるとか。さらに、仏像や猫スポットとしても注目度が急上昇中。静かな門跡寺院で和みの時を過ごしてみませんか。
紅葉の美しい平安神宮や金戒光明寺からひと足のばして
菊の御紋を施した山門が迎えてくれる
聖護院門跡へは京都駅からバスで約30分の熊野神社前で下車。東大路通りを北へ向かい、京大病院の交差点を東へ入ります。道沿いには、京都のおみやげの代表格、八ツ橋の総本店が並び、ニッキの香りがふわりと漂ってくることも。2~3分で山門前に着きます。
また、平安神宮や金戒光明寺からも徒歩で10分ほどの距離。近くまで来たら、ぜひ立ち寄ってみましょう。
きらびやかな障壁画に飾られた宸殿
狩野永納、益信の筆による障壁画
玄関を入ると、絢爛豪華な障壁画がどこまでも続きます。聖護院全体でその数は130面にもなるそう。緑鮮やかな堂々とした松をはじめ、花鳥図まで画風もさまざま。江戸時代、絵画の世界で力を持っていた狩野派によるものです。
左から不動明王(江戸時代)、蔵王権現、役行者、不動明王(鎌倉、室町時代)
まずは仏間でお参りをすませましょう。ここで珍しいのが、正面に不動明王が3体も祀られていること。明治時代に行われた廃仏毀釈や修験道廃止令により、行き場をなくした末寺の仏像が現在お祀りされています。
正式な対面所として使われていた上段之間
仏間の奥にある宮廷を思わせるような部屋は宸殿です。江戸時代、火事で御所をなくした光格天皇が、御所再建までの約3年間、ここで天皇としての公務をされました。金飾りのついた違い棚や、鮮やかな牡丹の色彩、向こうが透けて見える欄間、すべてがエレガントですね。
中央の額には「研覃(けんたん)」の文字。覃は畑を耕すクワのことで、クワを研ぐことにたとえて、自分磨きに励みなさいという意味です。また、額の縁が丸いのは、他者を傷つける「角」を持たないようにということを表しています。
本堂にも頼もしいお姿の不動明王像
聖護院の創建時から伝わる不動明王像(重要文化財)
御本尊の不動明王像は、平安時代の作。背の低いちょっと子供のような体形がかわいらしい仏様です。赤く燃えさかる炎を背にし、右手には煩悩を断ち切る剣を、左手には人々を救い上げるための縄を持ちます。右目を天に、左目を地に向けているのは、仏教を守るために世界を見渡しているからだそう。
修験道の聖地でもある聖護院・役行者の傍らにかわいい猫も
山伏の持つほら貝にちなんだ「法螺みくじ」500円
雅な聖護院には意外な一面も。野山を駆け巡り荒々しい修行をする修験道(しゅげんどう)の本山でもあるんです。特別公開では、等身大の山伏人形をはじめ、巨大なほら貝も展示されています。
本堂前の役行者像。この日はここで猫を発見
宸殿や本堂の前に広がる白砂の庭には、こんな風景も。
修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)の石像の横には、黒猫と白猫。南の庭では、陶器で作られた猫たちが、木に登っていたり、木陰でまったり寝ていたり。参拝者への和みになるようにというお寺の粋なはからいです。
庭を囲むように建つ宸殿(左)と本堂(右)
猫たちは動き回るそうなので、いつも同じ場所にいるとは限りません。
いったん玄関を出ると、左側に南の庭の入口があります。本尊の不動明王が祀られている本堂まで庭を横切りながら、どこかに隠れている猫たちを探してみるのも面白そうですね。
※南の庭は特別公開終了後も参拝できます。
文:戸塚 江里子