北海道の東部に位置する釧路湿原は多くの野生生物が繁殖し、生活の場としている大自然の宝庫です。広大な湿原は釧路市をはじめ、周辺市町村にまたがっており、中でも鶴居村(つるいむら)や釧路市の阿寒町(あかんちょう)は、タンチョウの越冬地として全国的に知られています。毎年11~3月中旬は給餌(きゅうじ)期間で、特に多くのタンチョウが集まるため、間近で観察・撮影することが可能です。
タンチョウとは、赤い頭頂部が特徴的な大型のツルのこと。かつては北海道各地に生息していましたが、乱獲や明治時代の北海道開拓によって棲家を奪われたため、姿を見ることがなくなり、絶滅したと思われていました。
しかし、1924年に数十羽が発見され、1935年には「釧路丹頂鶴繁殖地」として国の天然記念物に指定。2019年には約1,800羽まで回復し、現在に至ります。そんなタンチョウたちが「最後に選んだ村」といわれている鶴居村を中心に、タンチョウにまつわるさまざまなスポットや周辺の観光地をご紹介します。
鶴の居る村「鶴居村」へのアクセス
鶴居村へは車で移動する場合、札幌から高速道路を利用して約4時間10分、釧路市内からは約40分です。公共交通機関を利用する場合は、JR札幌駅から「特急おおぞら」に乗ってJR釧路駅まで約4時間、その後、阿寒バス(鶴居線・幌呂線)に乗り換えて約70分。飛行機を利用するときは、たんちょう釧路空港からタクシーで約30分です。
鶴居村や阿寒エリアでは、いたるところに「鳥注意」の道路標識が点在しており、タンチョウに対する愛情を感じます。
厳冬の朝、川霧に浮かぶ美しいタンチョウ
厳冬期の鶴居村は、気温がマイナス30度近くまで下がります。そのためタンチョウたちは、川底から湧き出る水が温かく、冬でも凍らない雪裡川(せつりがわ)を寝ぐらとしています。雪裡川にかかる音羽橋(おとわばし)からは、タンチョウたちの様子をじっくりと観察することができます。
早朝の音羽橋から見る川霧と樹氷、雪景色の中に浮かぶタンチョウの姿は、とても幻想的です。この光景を見ようと、シーズンには朝早くから多くの観光客が訪れます。
音羽橋
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村雪裡原野北7線東
- アクセス
- JR「釧路」駅から車で約40分
釧路湿原を知り、木道でタンチョウなど野生動物に出会う
釧路湿原の西端にある「温根内(おんねない)ビジターセンター」では、釧路湿原の成り立ちや湿原に生息する動植物の情報を、立体展示やパネルでわかりやすく学ぶことができます。
屋外には湿原内をトレッキングできる約3kmの「温根内木道」が設置され、四季折々の表情を楽しむことができます。雪と氷に閉ざされた冬には、タンチョウのほかにもエゾシカの群れや雄大なオオワシに出会えることも。
※「温根内木道」は改修工事のため、2023年10月20日~2024年3月31日の期間は木道が一部通行止め
温根内ビジターセンター
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村温根内
- 開館時間
- (4月~10月)9:00~17:00、(11月~3月)9:00~16:00
- 休館日
- 火曜、年末年始(12/29~1/3)
- 入館料
- 無料
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約30分、または路線バスで「湿根内ビジターセンター」下車、徒歩約7分
- 詳細
- 温根内ビジターセンター - 釧路湿原国立公園連絡協議会
鶴見台でタンチョウ観察を楽しみながら、ちょっとひと休み
「温根内ビジターセンター」から北へ車を走らせること約10分、北海道道53号沿いにある「鶴見台」は、タンチョウが多く集まる給餌場です。タンチョウ観察は11月〜3月が見頃。「コーカッカッ、コーカッカッ」と鳴き合う姿や、羽を広げてたわむれたり、背伸びをしながらゆっくりと歩いたりする様子、飛び立っていく瞬間などを間近で観察、撮影することができます。
鶴見台
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村下雪裡
- 営業時間
- 24時間(給餌の時間は朝※不定期、14:30頃)
- 料金
- 無料
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約35分、または路線バスで「鶴見台」下車、徒歩約1分
「鶴見台」の道路を挟んだ向かい側には、レストラン「どれみふぁ空」があります。
冬の空に舞うタンチョウを観賞しながら、グリーンカレーをベースにした名物の白いカレー「丹頂カレー」(1,390円)を食べてホッと一息。
食後には、鶴居村のミルクで作られた「丹頂ソフト」(380円)もおすすめです。
敷地内の止まり木には、白い妖精と呼ばれて話題のシマエナガも顔を出してくれることがあるとか。
どれみふぁ空
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村下雪裡
- 営業時間
- 10:00~16:00
- 定休日
- 火曜日、第3水曜日(2月は無休)
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約35分、または路線バスで「鶴見台」下車、徒歩約1分
- 公式サイト
- 鶴居村のレストラン『どれみふぁ空』
鶴居村・阿寒町とタンチョウの深い絆を知る
鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」は、長年タンチョウを愛し、給餌活動を続けてきた故・伊藤良孝さん夫妻の協力と全国からの寄付をもとに、「日本野鳥の会」が設立したタンチョウ保護の施設です。
冷え込みが厳しくなるシーズンには、1日200羽を超えるタンチョウが飛来。2月にはつがいの息のあった求愛ダンス「鶴の舞」が見られることも。
施設内のネイチャーセンターでは、常駐するレンジャーによる解説やタンチョウに関する最新情報を入手することができます。
鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村字中雪裡南
- 開館期間
- 10月1日~3月30日
※2023年の給餌は12月1日開始予定 - 開館時間
- 9:00~16:00
- 閉館日
- 火曜、水曜(祝日除く)、12月26日〜1月1日
- 入館料
- 無料(館内の募金箱にご協力をお願いしています)
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約45分、または路線バスで「役場前」下車、徒歩約1分
- 公式サイト
- 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
阿寒国際ツルセンター【グルス】
釧路市阿寒町にある「阿寒国際ツルセンター【グルス】」では、専門の研究員がタンチョウの生態や行動の研究、発信を行っています。その活動を通じて、タンチョウの保護に役立てている国内唯一の施設です。野外飼育場では四季を通じてマナヅルやタンチョウが見られるほか、冬期には給餌を行います。給餌場では100羽以上の野生のタンチョウの舞姿を見ることができます。
自然の状態に近いタンチョウや人工飼育によって育てられた個体の様子も、年間を通して観察することができます。
パネルや立体模型を使ってタンチョウの生態を知ることができる展示コーナーや、迫力のある映像が視聴できるコーナーなども常設されています。
阿寒国際ツルセンター【グルス】
- 住所
- 北海道釧路市阿寒町上阿寒23線40番地
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 休館日
- 年中無休
- 入館料
- 大人(高校生以上)480円、小人(小・中学生)250円
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約40分、または路線バスで「丹頂の里」下車、徒歩約3分
- 公式サイト
- 阿寒国際ツルセンター【グルス】
地元グルメや買い物、温泉、アートを堪能
大自然が育てたおいしいチーズ「鶴居」
鶴居村は酪農の盛んな地域。品質の良い生乳だけを使った「鶴居」は、職人が一つひとつ丁寧に仕上げた、無垢でコク深いナチュラルチーズで、「ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」で金賞を受賞するほどの逸品です。
購入したい方は、鶴居地域の観光情報を発信するほか、特産品や地場産品を販売している「鶴居たんちょうプラザ つるぼーの家」へ。
鶴居たんちょうプラザ つるぼーの家
- 住所
- 北海道阿寒郡鶴居村鶴居東1-1-3
- 営業時間
- 夏期/9:00~18:00、冬期/9:00~17:00
- 定休日
- 夏期/無休、冬期/毎週月曜日 ※変更の可能性あり
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約40分、または路線バスで「役場前」下車、徒歩約3分
- 公式サイト
- 鶴居たんちょうプラザ つるぼーの家
温泉を堪能してお土産も購入
まりも国道の愛称で親しまれる国道240号沿いには「道の駅 阿寒丹頂の里」があります。
敷地内には、日帰り温泉を楽しめる宿泊施設があるので、旅先で冷えた体をここで温めましょう。美肌の湯「赤いベレー天然温泉」には、「天然保湿成分メタケイ酸」と「炭酸水素イオン」が含まれており、保湿効果が高い美肌の湯として親しまれています。
温泉の向かいにある「クレインズテラス」には、お土産コーナーのほか、ご当地グルメが食べられるカフェもあります。
地元阿寒産のエゾシカ肉をたっぷり使った「エゾシカバーガー」(550円)や、一つひとつ表情が違うツルの顔が愛らしい「たんちょうボーロ」(330円)、「シマエナガのおまんじゅう」(141円)が人気です。
また、「クレインズテラス」に隣接する「阿寒マルシェ」では、阿寒や釧路市の畜産物、魚介、野菜、お菓子などの特産品が販売されています。
売れ筋は、ブランド豚「阿寒ポーク」のフランクフルト(972円)やあらびきウィンナー(540円)などの加工品。
ほかに、ピリッと辛い醤油ベースのタレが絶妙な鹿肉ジンギスカン「阿寒もみじ」(900円)も人気です。
道の駅 阿寒丹頂の里
- 住所
- 北海道釧路市阿寒町上阿寒23-36-1
- 営業時間
- 【日帰り温泉】10:00~22:00
【クレインズテラス】5月~9月/9:00~18:00、10月~4月/9:00~17:00
【阿寒マルシェ】9:00~17:00 - 料金
- 【日帰り温泉】大人540円、中学生410円、小人130円
- 定休日
- 年中無休
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約45分、または路線バスで「丹頂の里」下車、徒歩約2分
動植物の命の輝きをおさめた絵画を鑑賞
「道の駅 阿寒丹頂の里」から歩いてすぐの場所にある「釧路湿原美術館」。「湿原の画家」と呼ばれた佐々木榮松(えいしょう)氏の作品や資料、遺品などが常設展示されています。
道東の風土や動植物を、観る者の魂を揺さぶるような独特なタッチで描き続けた佐々木榮松氏。その心象表現の世界は、釧路湿原やタンチョウを巡る旅にふさわしい魅力にあふれています。
釧路湿原美術館
- 住所
- 北海道釧路市阿寒町上阿寒23-38
- 開館日
- 夏期(5月20日〜10月31日)/金〜月曜日、冬期(11月1日〜5月19日)/金〜日曜日
- 営業時間
- 10:00〜16:00
- 入館料
- 大人・大学生1,000円、シニア(65歳以上)900円、中・高校生800円、3歳〜小学生300円
- 休館日
- 夏期/火〜木曜、冬期/月〜木曜、年末年始
- アクセス
- JR「釧路」駅より車で約40分、または路線バスで「丹頂の里」下車、徒歩約3分
- 詳細
- 釧路湿原美術館
季節や時間によってさまざまな表情を見せてくれる、国の特別天然記念物タンチョウ。鶴居村や阿寒町には、タンチョウが暮らすにふさわしい豊かな自然と、それを支え、守り続ける多くの人々がいます。タンチョウを巡る旅はきっと、ツルの美しさだけでなく、人の優しさにも出会える旅になるのではないでしょうか。
取材・文/柏崎 直人 撮影/FULLMARKS 北川 剛