桜の名所である目黒川が流れ、神社仏閣が点在し、東京にいながら自然と歴史を感じる旅ができる目黒エリア。東京都指定有形文化財『百段階段』をはじめ、歴史的建造物と華麗な芸術品に触れられるラグジュアリーホテルが「ホテル雅叙園東京」です。
滞在中は館内の芸術を鑑賞し、宿泊者限定のアートツアーやヨガでは通常入ることのできないエリアも見学。さらに客室は全室ジェットバス&スチームサウナ付きで、80平米以上のスイートルーム。エグゼクティブラウンジアクセス付きプランを楽しむホテル雅叙園東京1泊2日滞在記をご紹介します。
日本美のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」へのアクセス
90年以上目黒で愛され続けている「ホテル雅叙園東京」。ルーツを紐解くと、創業者・細川力蔵さんが芝浦にあった自宅を改築し、純日本式料亭「芝浦雅叙園」として開業したことから歴史は始まります。
そして1931年に庶民や家族連れも楽しめる料亭として「目黒雅叙園」が現在の目黒に誕生しました。目黒雅叙園の名前になじみがある人も多いかと思いますが、2017年に「ホテル雅叙園東京」にリブランド。現在は「日本美のミュージアムホテル」をコンセプトに、レストランだけではなく全60室の客室でゲストをもてなしています。
アクセスは目黒駅より徒歩約3分。大きな荷物がある時には無料ホテルバスの利用がおすすめで、JR「目黒駅」東口からは平日11:00〜21:00、土日祝9:00〜21:00の間、1時間に3本運行しています。JR「品川駅」からも1日3便運行中です。
所蔵する美術工芸品は約2,500点。豪華絢爛な1階を進む
まずはチェックイン時間より少し早めに到着し、ホテル1階の美術品を鑑賞。大きな荷物はエントランスで預けると、そのまま客室へと運んでくれます。
エントランスから続く回廊は見事な美人画の彩色木彫板が展示され、東海道の日本橋から鴨川までが描かれています。ホテルが所蔵する美術工芸品は約2,500点。これらは全国から集められた腕の立つ芸術家や職人が住み込みで旧目黒雅叙園のために作り上げた作品で、昭和〜平成初期に行われた建て替え時も保存され、現在の場所に展示されています。
豪華絢爛な装飾は「教養の有無に関係なく、誰が見ても『素晴らしい』と感じる本物の芸術をお客様に届けたい」という創業者の想いが込められたもの。修復を施しながら、現在も大切に受け継がれています。
美人画を横目に進んだ先に見えてきたのは『招きの大門』。本瓦の屋根には鈴木丘さんの作品である『縁結び』を象徴する銅製の棟飾りがあしらわれています。ホテル雅叙園東京は一つの施設に神殿・衣裳室・美容室・写真室・宴会場を集めた日本初の総合結婚式場でもあり、現在も多くのカップルが結婚式を挙げる場所。そのため館内には縁起の良いモチーフが散りばめられ、パワーをもらえるような空間となっています。
門の手前にずらりと並んでいるのは、旧目黒雅叙園旅館部玄関の天井を飾っていた『木彫板 全国名所景勝図』。原画は浮世絵師・日本画家の尾竹竹坡さん、彫刻は盛鳳嶺さんの作品で、以前は彩色だったものを吹き漆で仕上げています。
見どころが盛りだくさんのホテル1階で、見逃せないのが美人画や螺鈿(らでん)細工が入り口に施された「トイレ」。中も目黒川にかつて掛けられていた太鼓橋がイメージされた赤い橋や美人画で豪華に彩られています。これは「料亭で優雅な気分を味わってもらっているのに、トイレが質素では夢が覚めてしまう」という創業者の想いから生まれ、現在も引き継がれている文化です。
動の世界から静の世界へ。心落ち着く宿泊エリア
多彩な美術品を鑑賞しながら進むと、ホテル入口のエレベーターに到着。回廊からホテル入口まではさっと歩いて5分かかりませんが、ご紹介した通り細部までこだわりが詰まっているのでゆっくり時間をかけて入口へと向かうのがおすすめです。
エレベーターに乗りフロントのある8階で降りると、「動の世界」から「静の世界」へ。1階はレストランなどに訪れる人でにぎわっていますが、ここは宿泊者だけの空間。着物を着たスタッフが出迎え、座りながらゆったりとチェックインを行いました。
カードキーとともに受け取るのは、東京都指定有形文化財『百段階段』の割引券。企画展開催中、宿泊者は好きな時にお得に鑑賞できます。
ジェットバス&スチームサウナで癒やしの時を。「ジャパニーズ(和室)」
客室は全60室あり、今回は「ジャパニーズ(和室)」に宿泊。6階〜8階にある客室のうち、ジャパニーズのある廊下だけは和の趣が感じられる旅館のような空間となっています。廊下に漂う「凛」という柑橘系の心地良いオリジナルアロマに癒やされながら、靴を脱いで客室に上がりました。
ジャパニーズは約80平米の広々としたお部屋で、次の間+寝室+バスルームというレイアウト。寝室は足触りの良い畳敷きながら、布団ではなくベッドが2台備わっているため、快適に睡眠できることも特徴です。定員4人。
ヘッドボードは西陣織。細やかな部分にまで、日本美が宿る空間です。
縁側のような場所にはテーブルと椅子が置かれ、ゆったりと景色を楽しむことができます。今回の客室は眼下に目黒川を見下し、晴れた日には富士山も見える方向でした。春は桜が目黒川沿いに咲き誇り、それを客室から望むのも一興です。
客室に備わっているコーヒー・日本茶・紅茶は無料。急須でお茶を淹れ、のんびりと過ごしたくなります。
お茶とともに用意されていたのはホテルオリジナルの「折り紙」。鶴を折ると、羽の部分にホテル雅叙園東京の見事な美術品が現れます。童心に戻って鶴を折るのは意外と楽しく、懐かしさを感じました。
高級感のある洗面所はダブルシンクで、大きな鏡付きです。2人で宿泊してもそれぞれのシンクで身支度ができます。
ホテル雅叙園東京の客室の大きな魅力が、全室「ジェットバス」と「スチームサウナ」付き。ジェットバスは足側と背中側の両方から噴射し、全身を心地良くほぐしてくれます。
スチームサウナは約45度の適温で身体をじんわり温めるもの。プライベートな空間でサウナを楽しめるのは、とても贅沢です。
バスアメニティはオーガニック精油や自然原料を配合した「Natural Foundation」。シャンプー・コンディショナー・ボディミルクはラベンダー・パチョリ・イランイランの上質な香りです。
Natural Foundationのスキンケアキット(クレンジングリキッド、フェイシャルウォッシュ、フェイシャルローション、フェイシャルエマルジョン)も用意されているので、荷物少なく、身軽に泊まれます。シートマスクをつけて、スチームサウナに入るのもおすすめ。
環境に配慮し、シャンプー類は詰め替え用ボトルで提供。さらにもみ殻を15%配合した素材を使ったカミソリや木製ヘアブラシで、プラスチックの削減にも取り組んでいます。
ドライヤーは振動気化乾燥方式の「復元ドライヤーPRO」。髪にあてて低温で乾かすタイプで、育成光線とマイナス電子の働きにより髪にうるおいをもたらす高性能ドライヤーです。
室内着として用意されているのはバスローブとワンピースタイプのルームウェアの2種類。お風呂上がりにバスローブに身を包み、窓際で腰を落ち着かせる時間も幸せです。
特別な記念日に。6室限定の「アンバサダースイート」
ホテル雅叙園東京の中でも、特別な記念日や長期滞在におすすめの客室が6室限定の「アンバサダースイート」。広さ約120平米の空間にリビング+ダイニング+ベッドルーム+バスルームというレイアウトで、余裕をもって滞在を楽しめます。定員4人。
西洋式のスイートルームですが、カーペットに井草や麻の葉紋様をイメージしたデザインが施されていたり、ヘッドボードは柿渋染めが採用されていたりと、日本の伝統が随所に隠れています。ジェットバスとスチームサウナも付いているので、おこもり滞在にもおすすめですよ。
エグゼクティブラウンジで「アフタヌーンティー」に舌鼓
客室でゆっくりした後は、8階エグゼクティブラウンジ「桜花」へ。ここはラウンジアクセス付きプランを選んだ人だけが入れる特別な空間で、11:00〜22:00の間、時間ごとにさまざまなドリンクや軽食が提供されます。
14:00〜17:00(LO16:40)は「アフタヌーンティー」の時間。ジュースなどのソフトドリンクと、ホテルメイドのスイーツをブュッフェスタイルで自由に味わうことができます。
スイーツのメニューは季節ごとに変わり、この日は秋らしいスイートポテトや栗蒸しようかんもお目見え。1階にあるPATISSERIE「栞杏1928」のチョコレートやマカロンはぜひとも食べたい一品です。
コーヒー・日本茶・紅茶・ハーブティーはスタッフが一杯ずつ淹れてくれるスタイル。カップは彩り豊かな有田焼・九谷焼・信楽焼・清水焼などから好きなものを選べるのも、うれしいサービスです。
約90年前の建築。『百段階段』を鑑賞
続いて割引券を利用し東京都指定有形文化財『百段階段』を鑑賞。そもそも百段階段は通称名で、1935年に建造された旧目黒雅叙園3号館にあたります。広大な敷地に建っていた旧目黒雅叙園の1号館・2号館は戦火や建て替えで残っていませんが、3号館は奇跡的に現存。当時宴会が行われていた7つの部屋を99段の長い階段廊下がつないでいます。
7つの部屋や階段を彩るのは、目を見張るほど美しい螺鈿細工、日本画、浮彫彫刻、組子細工など美術工芸品の数々。特に純金箔や彩色木彫板で彩られた『漁樵(ぎょしょう)の間』は、見るもの全員の目を奪う傑作です。
歴史ある建造物の中で、季節ごとにさまざまな企画展が行われているのも東京都指定有形文化財『百段階段』の特徴です。2023年10月7日(土)〜11月26日(日)は特別企画 東京都指定有形文化財 名建築『百段階段』秋の見学会、2023年12月2日(土)~12月24日(日)と2024年1月1日(月・祝)~1月14日(日)は「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」を開催。なぜ100段ではなく99段なのか、その理由が頂上の間でわかるのでチェックしてくださいね。
日本ワイン、料亭のおつまみを自由に楽しむ「イブニングカクテル」
企画展の鑑賞後はエグゼクティブラウンジ「桜花」に戻り、17:30〜20:00の「イブニングカクテル」を堪能。洋食や和食の軽食とともに、お酒を自由に楽しめます。
お酒はワイン、日本酒、スピリッツ、リキュールと多彩なラインナップから選択可能。特に栃木県「ココ・ファーム」の「こころぜ」や「マンズワイン」の「千曲川ブラン」など、日本生まれのワインやリキュールが数多くそろっており、ここでも日本の文化を堪能できます。
一品ずつ小鉢に盛り付けられた料理は、上質なメニューばかり。季節ごとに内容は変わりますが、この日は「水晶茄子の味噌山椒」や「鱧の唐揚げ」などで、料亭の味を体験できました。
自然派イタリアン「CANOVIANO CAFE」でディナー
食前酒を楽しみ、続いては2023年9月にオープンした「CANOVIANO CAFE」でディナー。自然派イタリアンの第一人者・植竹隆政さんが手がける料理を、有機栽培やサステナブルなワインとともに味わうことができます。
料理は唐辛子、バター、クリームなどを使用せず、素材の旨みを活かした味わいが特徴。「銘柄豚ロースの藁焼き」(180g 2,530円)、「栗のカフェラッテ」(季節限定、1,100円)などアラカルトでカジュアルに注文できるのも魅力です。「塩サバと生姜の“にんにくを使わない”アヒージョ」(1,100円)はにんにくを使っていないにも関わらずしっかりとした味付け。ほかの料理も物足りなさは一切なく、前菜からデザートまで堪能しました。
リラックスアメニティがうれしいターンダウンサービス
部屋に戻ると、枕元に置かれていたのはチョコレートとアイマスク。快適な睡眠へと誘う、リラックスアメニティのターンダウンサービスです。特にアイマスクは珍しく、宿からのおもてなしにほっこり心が温まりながら眠りにつきました。
200点を超える美術品に囲まれて。「モーニングヨガ」
翌朝は少し早めに起きて、無料のアクティビティに参加。毎週水・金曜日の7:30に和室宴会場ロビーで「モーニングヨガ」が実施されています(祝日を除く)。
和室宴会場は本来宴会利用者のみしか入れない空間で、早朝の人が全くいない時間帯に足を踏み入れることができるのは参加者の特権。特に旧目黒雅叙園の玄関を再現した和室宴会場の入り口は、ホテル雅叙園東京に宿泊したらぜひとも見たい豪華さです!
ほかにもヨガを開催しているホテルはありますが、日本画、彩色木彫板、組子障子、螺鈿細工など200点を超える美術品に囲まれる会場で行うヨガは、ここでしか体験できません。ヨガ初心者でも負担のないポーズをとり、朝起きたての身体を目覚めさせます。
天井を見上げたり、遠くを見つめたりすると、目線の先にあるのは見事な芸術品!その美しさを目の当たりにすると自然と心も整い、気持ち良く1日をスタートできました。
宿泊者限定アクティビティ「雅叙園アートツアー」もおすすめ
ヨガのほか、祝日を除く月・火・木曜日の9:00~10:30に無料で開催している宿泊者限定アクティビティが「雅叙園アートツアー」。約2,500点の中から、その日厳選した美術工芸品や空間を、スタッフの解説付きで案内してくれます。
一般には見学できないような場所も入れるのが、このアートツアーの魅力。例えば本来結婚式の参列者のみが入れる神殿『大巳殿』が見学できることも。新郎側には荒波に立ち向かう鶴、新婦側には温かな紅葉の彩色木彫板が飾られており、最良の門出を祝うのにふさわしい空間となっています。
中国料理「旬遊紀」の「玉城」は美人画の大家・益田玉城の『美人花笠踊の図』が描かれた秀麗な特別個室。現存する最古と言われる「回転テーブル」があるお部屋で、天井には美人画とリンクする花笠の彫刻があしらわれています。まるで美術館のように作品を鑑賞していると、ここがホテルであることを忘れてしまいます。
できたて料理を味わう朝食ブッフェ
朝食は1階New American Grill「KANADE TERRACE」でブッフェを満喫。和食、洋食、中華と多彩なメニューの中から、好きなものを自由に味わうことができます。
まずは乾いた喉を、フレッシュなスムージーで潤しました。野菜や果物の甘みを感じるスムージーは、朝の運動後にぴったりです。
オムレツ、フレンチトースト、豚バラ肉の焼きチーズカレー、煮込みハンバーグ、ベビーホタテのミックスバター焼きなどのホットミールは注文ごとにスタッフが調理。ブッフェとはいえ、できたての温かい料理を提供してくれるのがうれしいポイントです。
鮭やえぼ鯛といった焼き魚も、注文ごとにスタッフが網の上で焼いてくれます。小鉢に入ったおかずはどれもごはんに合うものばかりで、「洋食も食べたいけれど、ごはんもおかわりしたい……」という贅沢な葛藤に頭を悩ませました。
チェックアウト後も、エグゼクティブラウンジでゆっくりと
客室でくつろいだ後、余裕をもって12:00にチェックアウト。チェックアウト後も最後にエグゼクティブラウンジでドリンクを飲むことができます。ホテルを出るその瞬間まで、心地良いおもてなしを感じました。
豪華絢爛な美術工芸品を鑑賞しつつ、落ち着きのある上質な客室でリラックスできる「ホテル雅叙園東京」。地方の人はもちろんのこと、東京周辺に住んでいる人にも非日常を感じてもらえる空間です。日本文化の良さを再認識できるミュージアムホテルに泊まってみませんか。
ホテル雅叙園東京
- 住所
- 東京都目黒区下目黒1-8-1
- 客室数
- 60室
- アクセス
- 目黒駅から徒歩約3分
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 12:00
取材・撮影・文/小浜みゆ