静岡県の中西部・島田市から川根本町をつなぐ「大井川鐵道(おおいがわてつどう)」はレトロな観光SL列車が数多く走る、全国でも珍しい路線。川沿いののどかな風景や昭和の風情が漂う駅舎など、ノスタルジックな景色が残った場所です。少し足を延ばすと秘湯や南アルプスの自然を望む絶景スポットも。そんな大井川鐵道の沿線や周辺エリアの見どころをご紹介します。
目次
大井川鐵道について
大井川鐵道とは、大井川本線と井川線の2つの路線のことを指します。
大井川本線は「金谷駅」から「千頭駅」までの区間ですが、2022年に起きた台風の影響で「川根温泉笹間渡駅」から先の運行を休止しているため、2024年現在は「川根温泉笹間渡駅」が終点です。(所要時間約40分)
井川線は「千頭駅」から「井川」駅まで(所要時間約1時間40分)をつないでいます。本線「川根温泉笹間渡駅」から井川線「千頭駅」間は、バスや車での移動が必要です。
SL始点へのアクセス
SLは「新金谷駅」から「家山駅」または「川根温泉笹間渡駅」までの区間を走っています。「新金谷駅」に車で向かう場合は、新東名高速道路「島田金谷IC」から国道473号線経由で約10分。もしくは東名高速道路「相良牧之原IC」から国道473号線を経由して約20分です。
公共交通機関を使う際は、「静岡駅」から約25分かけて「金谷駅」へ行き、そこから大井川鐵道に乗り換えて約5分。または、「島田駅」で路線バスに乗り換え「新金谷入口」停留所まで目指す行き方もあります。そこからは徒歩3分ほどで到着です。
「家山駅」と「川根温泉笹間渡駅」へ行くにはそのまま「金谷駅」から大井川本線に乗車。「千頭駅」へは、「家山駅」から川根本町コミュニティバス、もしくはタクシー(要予約)での移動がスムーズです。
SL旅の始まりはここから!「新金谷駅」
今回は「新金谷駅」からSLに乗車しました。まず注目したいのが木造駅舎です。大正15年から昭和2年頃に建造されたといわれており、国の登録有形文化財に指定されています。味のある佇まいが、乗車前からノスタルジックな気分にさせてくれますね。
SL乗車の予約券受け取りや当日券販売の窓口は、駅向かいにある「プラザロコ」です。
お弁当やグッズの売店、古いSLや駅舎を展示するミュージアム、休憩所なども併設されているので、乗車前の時間も楽しく過ごせます。
プラザロコ
- 住所
- 静岡県島田市金谷東2-1112-2
- 営業時間
- 9:00〜17:00、売店は9:00〜15:00または17:00※日によって異なる
- 定休日
- なし
- アクセス
- 大井川鐵道「新金谷」駅から徒歩すぐ
いよいよSLに乗車!
SLは全席指定で1日2~3往復の運行。事前に公式サイトまたは電話での予約が必要で、空席があった場合のみ当日券が販売されます。事前予約した切符を「プラザロコ」で受け取ったら、駅舎へ向かいましょう。
改札を通ると、目の前には黒煙を上げる蒸気機関車が!その大きさと風格は圧巻です。発車前には燃料となる石炭を機関室のボイラーに入れていく様子も見られました。間近で聴く汽笛の音も相まって、出発前のワクワクする気分をより一層盛り上げてくれます。
どこか懐かしい雰囲気の漂う車内を満喫
当時の雰囲気がそのまま残る車両は、昭和10~30年代に製造されたものです。
木の座席や床、真ちゅうの衣類掛け、古い扇風機など見どころが満載。客車によっては栓抜きが付いているので、探してみてください。
ゆっくりと走り出したSLの、ガタンゴトンという電車とは違う揺れに身を任せて、窓越しに大井川や茶畑を眺めていると、日常が遠のいていくようです。移り行くのどかな景色を心ゆくまで堪能しましょう。
道中では、車内販売やハーモニカなどの実演が行われています。SL車内でしか買えない限定のお菓子やおもちゃはお土産にもぴったりです。
大井川鐵道SL
- 運行期間
- 通年
- 運行日
- 季節により異なる
- 運行区間
- 大井川鐵道新金谷駅~家山駅もしくは川根温泉笹間渡駅
- 料金
- 普通運賃+SL急行券1,000円
- 公式サイト
- 大井川鐵道SL公式サイト
- 備考
- 2024年5月29日~9月18日は整備のため運休
フードパークや資料館など沿線の見どころスポット
待ち時間にのんびり散策「家山駅」
沿線の各駅それぞれに特徴があります。SLの停車駅となっている「家山駅」は、井川線とのバス接続地点でもあります。
木造の駅舎や構内、改札など昭和時代にタイムスリップしたかのようなノスタルジックな雰囲気漂う「家山駅」は、テレビや映画などのロケ地にも使われたことがあるそうです。
SLやバスなどを待っている間は、周辺の散策をしてみましょう。茶畑や公園など自然の多い素朴な街並みは、里山の心安らぐ風景。路線沿いには桜の名所、川遊びのできる河川敷などがあります。いずれも徒歩圏内なので、そこでSLや列車を眺めながら駅弁を食べるのもおすすめです。
地元農家の手作りメニューが味わえる「さくら茶屋」
家山駅周辺には、散策途中にひと休みできるお店も点在しています。お店の種類は、老舗のお茶屋や地元の人が集うおでん屋、新しいカフェなどさまざまです。
近隣農家の人が営む「さくら茶屋」では、提供されるメニューがすべて手作り。イートインもテイクアウトも可能で手打ち蕎麦や芋から作ったこんにゃく、地元素材のお惣菜などがそろいます。
こんにゃくを揚げた「こんカツ」(150円)や酢飯の代わりに蕎麦を使った「そば稲荷(いなり)」(5個入り500円)、山に自生する朴葉(ほおば)や、よもぎを使った「朴葉もち」(3個入り400円)、「よもぎ饅頭」(2個入り270円)など「さくら茶屋」ならではのメニューを堪能してみてはいかがでしょうか。
川根家山 さくら茶屋
- 住所
- 静岡県島田市川根町家山4164-1
- 営業時間
- 9:00~16:00
- 定休日
- 火曜日
- アクセス
- 大井川鐡道「家山」駅から徒歩約15分
- 公式サイト
- 川根家山 さくら茶屋
井川線・寸又峡への接続駅「千頭駅」
「千頭駅」は大井川鐵道井川線の始発駅であり、寸又峡方面のバス乗り継ぎ地点となります。
駅構内には、人力で動かす珍しい「転車台」があり、営業時間内ならホームから随時見学可能です。※駅へは入場料140円が必要になります。
構内には 「SL資料館」(入館料100円)もあるので、そこで昔のSL部品などの資料を見たり、駅周辺の飲食店や道の駅でひと休みしたりしながら過ごすのもいいですね。
「門出駅」直結の体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA」
SLでは停車しませんが、本線の中でも「門出駅」は縁起の良い名前の駅として親しまれているスポット。
さらに緑茶・農業・観光の体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA(かどでおおいがわ)」に直結しており、グルメやショッピングを満喫できます。
静岡ならではのメニューも豊富。緑茶を使った「KADODEバーガー」(880円)、マルシェの新鮮な果物を使用した「フルーツティー(煎茶・和紅茶)」(各600円)、濃厚な「プレミアム煎茶ソフト(普通)」(620円)など、どれを食べようか迷ってしまいます。
施設内にある「お茶エリア」も見逃せません。マルシェ棟中央にはお茶の「蒸し時間」と「火入れの強弱」を段階別に組み合わせ、「KADODE OOIGAWA」オリジナル緑茶の特徴を表した「MANDARA茶柱」が建っています。
自分が茶葉になってお茶の製造工程を体験する「緑茶ツアーズ」も開催されており、学びながら遊べるエリアです。
ほかにも、16種類のお茶を手軽においしく淹れる「緑茶B.T.Yスタンド」や、今日の気分に合ったお茶を選んでくれる「茶みくじ」などもあるので、自分好みのお茶に出会えるかもしれません。
気に入った茶葉やティーバッグはもちろん購入可能です。お土産にしても良いですね。
KADODE OOIGAWA
- 住所
- 静岡県島田市竹下62
- 営業時間
- 9:00〜18:00※一部エリアは営業時間が異なります。
- 定休日
- 第2火曜、1月1日、その他臨時休館あり
- アクセス
- 大井川鐵道「門出」駅直結
- 公式サイト
- KADODE OOIGAWA
駅弁やオリジナルグッズなど限定品も要チェック
地域色豊かで旅情をそそる駅弁を味わう
列車旅には、やっぱり駅弁が欠かせません。地元の特産品を取り入れた大井川鐵道の駅弁は、包装紙にSLが描かれていたり、昔ながらの竹皮を使ってお弁当を包んであったりと、旅情あふれるパッケージも魅力的。
大きめのおにぎり2つに川魚の甘露煮、野菜の煮物などが入った「大井川ふるさと弁当」(1,200円)は素朴なおかずが郷愁を誘います。
「川根路三色弁当」(1,300円)は、3種のご飯に桜えびの佃煮、黒はんぺんフライなど静岡らしい食材が満載です。地元の「川根茶」(180円)や客車の栓抜きで開けられる「大井川鐵道ビール」(500円)と一緒に味わってみてください。
オリジナルの鉄道グッズなど、地域の名産品がたくさん
大井川鐵道では、オリジナルグッズを多数展開しています。旅の記念にぴったりなSLグッズは、運転士の気分になれる帽子、日常に使えるタオルやキーホルダーなどさまざま。
石炭を模したあられやカレー、SLがプリントされたクッキー、SLをイメージしたカレーなど、食品類も豊富です。紹介した駅弁とグッズは「プラザロコ」の売店と「千頭駅」にある売店のみで販売されています。車内での販売はないため買い忘れがないようにしましょう。
また、日によって販売する商品が異なります。各売店の営業時間も変更もあるため、公式サイトにて確認してください。
温泉街や「夢のつり橋」など情緒豊かな寸又峡エリア
千頭駅から少し足を延ばすと、寸又峡(すまたきょう)エリアがあります。ここは奥大井県立自然公園として指定されているエリアで、渓谷や高山植物などを見ることができます。
秘湯といわれる寸又峡温泉があるほか、「夢のつり橋」という全長約90メートル、高さ約8メートルの大きな鉄線のつり橋は静岡を代表する景観地のひとつです。千頭駅からは寸又峡エリアへの路線バスが出ており、40分ほどで行くことができます。
素朴でのどかな歴史ある秘湯「寸又峡温泉」
温泉入口にある駐車場から「夢のつり橋」までの間に建ち並んでいるのは温泉宿や飲食店、お土産店。川魚やジビエ・山菜・蕎麦といった地の物が味わえる食堂や足湯カフェなど、個性豊かなスポットが軒を連ねているので「夢のつり橋」を目指しながら、色々と巡ってみてください。
また、この土地の温泉は歴史が長く、起源は江戸時代にもさかのぼるのだとか。アルカリ性の泉質は肌がすべすべになるため「美女づくりの湯」ともいわれています。温泉宿はもちろん、日帰り湯もあるので散策後に立ち寄り、汗を流して帰るのもいいですね。
寸又峡温泉街
- 住所
- 静岡県榛原郡川根本町千頭
- 営業時間
- 施設により異なる
- 定休日
- 施設により異なる
- アクセス
- 大井川鐵道「千頭」駅から寸又峡線路線バスで「寸又峡温泉入口」停留所下車、徒歩すぐ
- 公式サイト
- 寸又峡温泉街
寸又峡の自然をダイレクトに感じる絶景「夢のつり橋」
温泉街を抜けてゲートを通り、景観を楽しみながら遊歩道を歩くこと約30分。「夢のつり橋」が見えてきました。これは寸又川をせき止めて作られた「大間ダム」の上にかかる大きな吊り橋で、ここからは渓谷など周囲の自然を直に感じることができます。
ダム湖は条件によって変化する水色が特徴的で、不思議な青さの湖面は、名前の通り夢のような美しさ。
新緑、紅葉など季節によって表情が異なるので、何度でも訪れたくなるスポットです。つり橋前後は急な階段が続き、一方通行で長い距離を歩くため、体力や時間に余裕がない場合は「飛龍橋」付近からつり橋を眺めるのもおすすめ。つり橋入口の坂を降りず、遊歩道を少し先まで歩いた途上にあります。
夢のつり橋
- 住所
- 静岡県榛原郡川根本町千頭
- 営業時間
- 6:00〜日暮れ前(夏期18:00、冬期16:00)※ゲート開門時間
- 定休日
- なし
- 料金
- 入場時に景観保全金協力金として任意の料金の支払いが必要※2025年度より定額制予定
- アクセス
- 大井川鐵道「千頭」駅から寸又峡線路線バスで「寸又峡温泉入口」停留所下車、徒歩約40分
- 公式サイト
- 夢のつり橋
築150年古民家でひと休み「古民家お茶カフェ山口屋」
散策後は再び来た道を戻って、温泉街でひと休み。築150年の温泉旅館を利用した「古民家お茶カフェ山口屋」で、静岡産のお茶とスイーツをいただきましょう。
靴を脱いで上がる店内は、囲炉裏や火鉢が並ぶ広間になっていてまさに古民家。店主お手製の和紙灯りやアンティークな調度品なども置かれ、ついつい長居したくなるよな居心地の良い空間です。疲れた足を畳の上でゆっくり休められるのもうれしいですね。
ここでは、自分で淹れる「川根茶」(200円)や「きびぜんざい」(500円)、「五平餅」(300円)など、どこかほっとする品々がいただけます。
古民家お茶カフェ山口屋
- 住所
- 静岡県榛原郡川根本町千頭340-3
- 営業時間
- 11:00~17:00
- 定休日
- 不定休※事前に電話(0547-59-2301)にて要問合せ
- アクセス
- 大井川鐵道「千頭」駅からバスで「温泉入口」停留所下車、徒歩約5分
SLだけじゃない、大井川鐵道を特別な列車
日本で唯一のアプト式に乗れる「南アルプスあぷとライン」
SL以外にも、大井川鐵道は特徴的な路線や車両があります。大井川鐵道井川線は別名「南アルプスあぷとライン」といい、日本で唯一アプト式が採用されている路線です。赤いトロッコの観光列車で「千頭駅」から「井川駅」までを走ります。
アプト式とは急勾配を上るための鉄道システムの一種のこと。中間にある「アプトいちしろ駅」から次の「長島ダム駅」までの区間は90パーミル(勾配の程度を示す単位)もあり、なんと普通列車では日本一の急勾配です。ここを上り下りするためにアプト式電気機関車の連結と切り離しが行われます。
連結と切り離しの様子はこの2つの駅でそれぞれ見学可能なので、乗車した際はぜひ列車から降りて間近でその様子を観察してみてください。
ほかにも、接岨(せっそ)湖に浮かぶような秘境駅「奥大井湖上駅」、川にかかるいくつもの吊り橋など、見どころが盛りだくさんです。
大井川鐵道 井川線・南アルプスあぷとライン
- 運行区間
- 大井川鐵道千頭駅~井川駅
- 料金
- 乗車区間により異なる※全席自由席のため事前予約不可
- 公式サイト
- 大井川鐵道 井川線・南アルプスあぷとライン
運行開始から10周年記念リニューアル!「きかんしゃトーマス号」
毎年夏になると期間限定で走行する「きかんしゃトーマス号」。2024年は運行10周年記念ということで、さまざまなリニューアルがされています。
運行区間が川根温泉笹間渡駅まで延伸され、2024年は通常2往復、7・8月は3往復運転で乗車パターンも3種類になったため、以前と比べて乗車できるチャンスが増えました。
客車内はシートやフラッグなどにトーマスとなかまたちがいっぱい。新しくなったトーマスの説明アナウンスも注目です。
「新金谷トーマスフェア会場」(入場料400円)では新しい仲間が増え、タイミングが良ければトーマス号の転車作業も見学できます。
またトーマスのお弁当や、トーマス号車内販売限定品と大井川鐵道限定品のグッズも販売されているので、お見逃しなく。
井川線では「トビー号」が奥大井をご案内
「千頭駅」から先の井川線では、「奥泉駅」までの往復遊覧運転で「トビー号」が案内してくれます。SLとはまた違った客車内装で、車両の説明や観光案内などトビーのおしゃべりを聞きながら渓谷や森林の風景を満喫できる列車です。
折り返しの「奥泉駅」では、トビー号の前後入れ替え作業が行われる様子も見られます。
路線途中ではトーマスとなかまたちの看板が設置されているので、どこにあるか探してみるのもおもしろそうですね。
また、運行期間中「千頭駅」には「トーマスフェアサテライト会場」(入場料150円)が設置され、パーシーたちの運転席の見学ができます。トーマス号、トビー号いずれも乗車は完全予約制のため、公式サイトで運行予定をチェックして予約しましょう。
大井川鐵道 きかんしゃトーマス号・きかんしゃトビー号(2024年)
- 運行期間
- 2024年6月8日~12月25日
- 運行日
- 月によって異なる
- 運行区間
-
【きかんしゃトーマス号】新金谷駅~川根温泉笹間渡駅
【きかんしゃトビー号】千頭駅~奥泉駅※乗降は千頭駅のみ可 - 料金
- 移動区間によって異なる
- 予約方法
- 公式サイトにて要確認
- 公式サイト
- 大井川鐵道 きかんしゃトーマス号
ノスタルジックなSLや、珍しいアプト式電気機関車、トーマス号が走る大井川鐵道。都会の喧騒を離れてゆっくりとリフレッシュするのに絶好の路線です。
途中にある寸又峡エリアでは、山里ならではの食事、空や緑を眺めて入る温泉でのんびりとした滞在時間を過ごせます。夢のつり橋といった景観地もあるので宿泊して1日目は大井川鐵道での列車の旅を満喫し、2日目は寸又峡エリアを堪能する旅はいかがでしょうか。
取材・文/野秋 知子 撮影/窪野 晃子、野秋 知子
画像提供:大井川鐵道、(C)2024 Gullane(Thomas)Limited.、KADODE OOIGAWA、川根本町まちづくり観光協会