提供:ことりっぷ
歴史的建造物が点在する上野恩賜公園。上野駅を背に、国立科学博物館、東京国立博物館などを越えた先に現れるレンガ積みの大きな洋館が「国立国会図書館国際子ども図書館」です。レンガと石を組み合わせた外壁は、重厚感と上品さが同居するクラシカルなデザイン。児童書専門図書館として子供たちに親しまれているほか、歴史を感じる優れた建築を楽しみにも来館する方も多いそうです。束の間のタイムトリップ気分を楽しみに出かけてみませんか?
レンガ建築の帝国図書館として創建
建物の東側の外壁は、ベージュ色の化粧煉瓦をフランス積みに
「国際子ども図書館」はレンガ棟とアーチ棟の2棟からなる、国立の児童書専門図書館です。明治39(1906)年に帝国図書館として創建されたレンガ棟は、明治期を代表するルネサンス様式を採用。緩いアーチの窓が特徴で、外壁は明灰色の白丁場石とベージュ色の化粧煉瓦で上品にデザインされています。
建物の西側の外壁には、白薬掛け煉瓦を採用。平成の改築時にガラスボックスの中に収納された
昭和4(1929)年には、エントランスからつながる左端のブロックを増築。元からある建物のレンガ積みのデザインを踏襲し、建物全体に統一感が持たされています。さらに、建築家の安藤忠雄氏が参画し、旧建物の内外装の意匠と構造をできるだけ生かしつつ、ガラスボックスが既存の建物を貫くイメージで増築が行われ、平成14(2002)年に完了しました。
自然と集いたくなる円形の「子どもの部屋」
テーブルや椅子、本棚まですべてのモチーフが円形に
1階の「子どものへや」には、小学校までの小さな子どもを対象とした約1万冊の蔵書があります。子どもたちが自然と集まりそうな中央の丸い読書テーブルを囲むように、長く読み継がれてきた絵本や物語、知識の本など、幅広いラインナップの本が並んでいます。
天井全体が照明になっているのも特徴で、LED照明が部屋の隅々まで照らし、どこにいても影になることなく、快適に読書を楽しめる工夫がされています。
やわらかな光が部屋の隅々まで照らす
高貴な雰囲気が残る「世界を知るへや」
上品な装飾と子ども向けの本の意外な組み合わせ
「子どものへや」からつながっているのが「世界を知るへや」。世界の国々や地域の地理、歴史、文化などを紹介した児童書、外国語の絵本や読みものなどを約2000冊蔵書しています。帝国図書館時代には、貴賓室として使われていたというだけあり、部屋に入ると、天井や床の美しい装飾に目を奪われます。
「鏝絵」で彩られた美しい漆喰の天井
天井に施された漆喰の模様は「鏝(こて)絵」という技法によるもの。漆喰に鏝で“描く”方法が用いられ、細かい装飾や彫刻が職人たちの技術によって仕上げられています。また、床に目を落とすと、そこには伝統的な寄木細工で描かれた幾何学的な模様が広がります。創建時につくられたものを、箱根の職人が約3カ月かけて再生させたという寄木細工は、日本の伝統工芸らしい緻密な美しさを表現しています。
上を歩くのがためらわれるような見事な寄木細工
宮殿の中のような「児童書ギャラリー」
「竹小舞」を採用した円柱のフォルムに注目
広い空間と高い天井、そしてそれを支える4本の円柱が印象的な、2階の「児童書ギャラリー」。明治から現代までの日本の子どもの本の歩みをたどる展示室です。漆喰の円柱には、創建時にも使われていた「竹小舞」という技法が採用され、漆喰の下地に細く裂いた竹を1周ぐるりと貼ることで、竹のたわみが柱のふっくらとした自然なふくらみを作り出しています。
照明は当時のデザインをもとに復元
高さ20mにおよぶ圧巻の大階段
高い窓と大階段の組み合わせが画になる
1階の床から天井までの約20mの吹き抜けに設置された大階段はとてもダイナミックな空間。創建時からある鋳鉄製の手摺は、クラシカルななかにモダンさすら感じさせる洗練されたデザインです。階段の裏側は艶やかなフローリング材でカバーされ、見上げた時の美しさにもこだわった高い意匠性が確認できます。
創建時の手摺は現在の建築基準に合わないため、改修時にガラス製の手摺が加えられた 創建時から使われている天井のシャンデリア 大きな窓から降り注ぐ陽光が吹き抜けにあふれる
建築好きはもちろん、建築の知識がなくても十分に楽しめる、見どころいっぱいの「国際子ども図書館」へ、ぜひ足を運んでみては?
文:内藤香苗(クレッシェント) 撮影:依田佳子