神戸随一の繁華街、三ノ宮。あまり知られていませんが、龍馬が塾頭をつとめ、のちの日本海軍の礎になったとされる勝海舟の私塾「海軍塾」は三ノ宮駅のほど近く、三宮神社のあたりに建っていたと考えられています。駅から10分ほど歩いた海沿いには、「神戸海軍操練所跡」が。龍馬のほかにも陸奥宗光ら、後に亀山社中や海援隊に名を連ねる塾生たちの寄宿舎も駅周辺にあったとされます。幕府と諸藩の垣根を越えて集った若者たちは、眼前に広がる大海に想いを馳せながら神戸での日々を過ごしたことでしょう。
今でこそ横浜とならび、日本を代表する貿易港の神戸も、当時は回船問屋が数軒と酒蔵十数戸が並ぶ小港でした。日本海軍発祥の地ともいえるこの港町は、慶応3年(1868)に開港。操練所の設立をきっかけに、急速に発展を遂げていきます。
文久2年、龍馬は土佐を脱藩します。時に28歳。半年間、下関、九州、大阪、江戸へと転々とした彼の足跡には、明確な「志」は見当たりません。むしろ、求めるべき「志」を探すため、自分自身を窮地に追い込んだようにすら見えます。
そんな龍馬にひとすじの光を示したのが、のちの江戸城無血開城の立役者としても知られる勝海舟でした。幕臣きっての西洋通だった海舟は、龍馬に世界情勢を語り、航海学や海軍について説きました。田舎町だった神戸を日本の中枢港湾にすることを幕府に建言。私塾「海軍塾」を立ち上げ、官僚らしからぬ闊達(かったつ)さで龍馬をはじめ各地の脱藩者や荒くれ者の受け皿とします。
海舟の広い識見とおおらかさにほれ込んだ龍馬は、出会ったその場で弟子入り。のちに日本海軍の基礎となる「神戸海軍繰練所」の設立に奔走する日々が始まります。
- 勝海舟の銅像(東京都墨田区)
龍馬は福井に3度にわたって旅しています。当時の越前福井藩主は「幕末の四賢公」とうたわれた名君・松平春嶽。富国強兵策を推進し、殖産興業をすすめて豊かな藩財政を誇っていました。
龍馬が初めてこの地に赴いたのは、神戸海軍操練所の設立に向けて走り回っていた文久3年4月のこと。勝海舟から神戸海軍操練所の設立資金の調達の命を受け、春嶽に謁見した龍馬は、持ち前の「商人」としての才を発揮し、5千両という大金の借り受けに成功しています。最後の3回目の訪問は慶応3年11月のこと、京都で絶命する直前で、龍馬の「最後の旅」にもなったこの地には、春嶽と勝海舟の関連資料が多くある福井市立歴史郷土博物館などみるべき史跡が多く残っています。
- 文久2年(1862)
- <3月24日>
沢村惣之丞とともに土佐藩を脱藩。
(8月生麦事件)
<10月ごろ>
勝海舟の門下生となる。 - 文久3年(1863)
- <2月25日>
勝のとりなしで脱藩の罪を許される。
(3月:将軍家茂上洛・5月10日攘夷決行と朝廷に回答)
(4月土佐勤王党、土佐藩執政・吉田東洋を暗殺)
(5月10日:長州藩・下関で外国船砲撃)
(7月:薩英戦争)
<5月16日>
海舟の親書をたずさえ、越前福井藩松平春嶽のもとへ。
(8月18日の政変 三条実美ら七卿は長州へ失脚)
(9月:土佐勤王党の弾圧始まる)
<10月>
神戸で勝海舟の私塾「海軍塾」の塾頭になる。
<12月>
土佐藩の帰藩命令に従わず、再び脱藩する。 - 元治元年(1864)
- <2月>
勝の長崎出張に龍馬同行。
勝の使者として熊本で横井小楠に会う。
(6月:池田屋事件で同志・北添佶馬らを失う。
(7月:禁門の変で長州藩、京都政界から失脚)
(7月24日:幕府による第一次長州征伐)
(8月5日:4ヶ国連合による長州・下関砲撃)
< 8月>
おりょうを伏見寺田屋に預ける。
勝の使者として京都で西郷隆盛と面会。
(8月17日 天誅組挙兵)
<10月>
勝海舟の失脚により、神戸海軍操練所が事実上の廃止。
龍馬らは薩摩の庇護下へ
260年にわたる鎖国の終わりとそれに伴う貿易開始は、社会に大きな混乱をもたらしました。
金貨の大量流出に端を発した物価の高騰により、経済活動と庶民生活は大きく混乱。噴出した開国策・不平等条約への不満はナショナリズムの高揚をもたらし、外国人排斥の攘夷思想につながっていきます。外国人を狙った「異人斬り」が各地で横行。尊王思想(国王や天皇を重んじる考え方)と結びついた「尊皇攘夷」が隆盛し、「討幕」の機運はさらに高まっていきます。
尊皇攘夷派の志士は京都に集い、「天誅」と称して反対派の暗殺を繰り返すなど、治安は極端に悪化します。幕府が治安維持に設置した新選組は、市中の池田屋で長州藩(山口)の志士たちを殺害(池田屋事件)。報復の形で上京した長州藩兵と幕府兵らによる合戦(禁門の変)で京都は火の海に包まれますが、一敗地にまみれた長州は京都から追放されます。各地の尊攘勢力による乱も鎮圧、攘夷派による外国勢との交戦(薩英戦争、四国艦隊下関砲撃事件など)もいずれも大敗に終わり、攘夷思想は衰退していきます。
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