2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・明智光秀ゆかりの地として「山崎」が注目を浴びています。「天下分け目の戦い」の舞台となった天王山は眺望が美しく、ハイキングコースとしても人気。周辺には、離宮八幡宮やサントリー山崎蒸溜所、アサヒビール大山崎山荘美術館など観光スポットが集まっています。外せない名物グルメもご紹介。大阪駅から約30分、京都駅から約15分とアクセスにも恵まれたJR山崎駅を起点に散策を楽しんでみませんか?
天下分け目の天王山とは?
大阪府と京都府の境にある「山崎」は、明智光秀の終焉の地。天正10(1582)年、本能寺の変で織田信長を討った明智光秀は、羽柴(豊臣)秀吉と争うことになります。天下を決めた戦い「山崎合戦」が行われたのが天王山でした。今でも勝負の分かれ目のことを「天王山」というのは、これに由来しています。
「天下分け目の天王山」は、JR東海道本線「山崎」駅から、約1時間で天王山に登る「天王山ハイキングコース」として整備されています。登り口はJR山崎駅から徒歩約3分(約200m)。京都駅方面へ線路に沿って歩き、最初の踏切を渡った先にあります。明智光秀と羽柴秀吉が覇権を争った地を、歴史ロマンに思いを馳せながら散策してみましょう。
青木葉谷展望台
登り口から緩やかな登り道を約15分(約800m)歩くと「青木葉谷(あおきばだに)展望台」に到着します。桂川と宇治川、木津川の三川が合流する地点や大阪平野が一望できます。天気が良ければ、あべのハルカスや大阪城が見えることもあります。
旗立松展望台
ハイキング道の7合目付近には大きな松が目印の「旗立松(はたたてまつ)展望台」があります。山崎合戦で羽柴軍が士気を高めるために、老松の樹上に秀吉の千成瓢箪(ひょうたん)の旗印を揚げたところ、戦局が優位になったといわれています。それ以来、「旗立松」と呼ばれるようになり、現在の松は7代目です。
旗立松展望台の眺望も見事です。桂川と宇治川、木津川の三川の合流地点と、青木葉谷展望台とは方向が異なりますので違った景色が楽しめます。山崎合戦で、明智光秀軍、羽柴秀吉軍が布陣した古戦場跡も見えます。また、両軍の配置がよく分かる、案内板が設置されています。
旗立松展望台付近では、「ひょうたん掛け処」をお見逃しなく。「いざ、天王山!木製瓢箪」が、天王山山麓の大山崎町商工会(大山崎ふるさとセンター内1階)等で購入できます(500円・税別)。羽柴秀吉の勝ち運にあやかってみてはいかがでしょうか?
天王山山頂・山崎城跡
登り口から約1時間で天王山の山頂に到着。約1.5㎞の道のりですが、登るにつれて坂が急になります。地元では朝の散歩コースとして親しまれていますので、特に険しい箇所はありませんが、トレッキング用の服装で登る方もいますので、履き慣れた靴の着用をおすすめします。
山頂には、山崎城跡があります。標高270.4m、京都の出入口にあたるため古くから地理的、地形的に重要視され、山上一帯には度々城が築かれました。現在残る城跡は、天正10(1582)年の山崎合戦直後に羽柴秀吉が築城。天下統一の出発点になった城です。天守台や門、井戸、土塁、礎石等の跡が残されています。
茂っている木の合間からは、大阪平野や大阪市街の高層ビル群が見渡せます。山崎合戦で勝利した羽柴秀吉は、織田信長の後継者を意識し、茶人・千利休らと茶会を開いたとされるほど「山崎」の地を重視しました。しかし、その後に大坂城を築城して移ったため、天正12(1584)年に山崎城は壊されてしまいました。
天王山ハイキングコースその他の見どころ
天王山ハイキングコースには見どころが点在しています。羽柴秀吉の天下取りの物語が6枚の陶板画で語られ、登山をしながら天下を取るまでの道のりを知ることができます。物語の監修は作家の堺屋太一さんです。
また、ただの山道ではなく、竹林に覆われている箇所もあります。目で涼を感じながら、休憩がてら、風にそよぐ竹の葉の音に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。ちなみに、天王山ハイキングコースの途中にはお手洗いはありませんのでご注意ください。
歴史を深く知るなら妙喜庵と大山崎町歴史資料館へ
JR山崎駅前に構える「妙喜庵」には、国宝の茶室「待庵」があります。俳諧連歌の祖である山崎宗鑑の隠棲地であると伝えられている跡を、東福寺の春嶽禅師が寺に改めました。明智光秀と争った山崎合戦の際、羽柴秀吉は山崎に陣を敷き、陣中に千利休を招いて二畳の茶室を造らせたという伝承が残ります。千利休は妙喜庵3世・功叔和尚とともに羽柴秀吉に茶を点じ、労を慰めたといわれています。
国内には国宝の茶室が三棟あり、茶人・千利休の作として伝えられる確かなものはこの待庵のみ。にじり口が設けられた小間の茶室で、数寄屋造りの原型となっています。
拝観申し込みは、事前に往復はがきで希望の日の1カ月前(春、秋、ゴールデンウイーク前後などはとても混み合います)まで受け付けています。希望日は指定できるものの拝観時間は午前中のみです。月・水曜日と12月20日以降から1月15日の期間は受け付けていません。人数は1グループ10名様まで。高校生以下の拝観はできません。
妙喜庵
- 住所
- 京都府乙訓郡大山崎町竜光56
- 定休日
- 月・水曜日、12月20日頃~1月15日頃
※拝観希望日の1カ月前までに往復はがきで予約
- 拝観料
- 1,000円
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅より徒歩すぐ、阪急京都線「大山崎」駅より徒歩約5分
明智光秀が戦った、山崎合戦について深く知るなら、「大山崎町歴史資料館」がおすすめです。大山崎の地形や歴史的な特色をコーナーごとに紹介。展示室は5つのテーマごとに分かれ、古代、中世、山崎合戦と待庵・利休、近世という構成です。
特に、明智光秀の関係では「山崎合戦と待庵・利休」のコーナーは必見。山崎合戦について、羽柴秀吉・明智光秀の動向を中心に映像で見学でき、両軍の着陣の図も残っています。
千利休ゆかりの茶室「待庵」の複製も展示されています。内部には入れませんが、外観や内部の様子が鑑賞できます。
館内では、夏休みということもあって、熱心にガイドの解説に耳を傾ける子どもたちの姿が目立ちました。最近では外国人の観光客も増えているそうです。世代や国籍を超えて、歴史ロマンをかき立ててくれます。
大山崎町歴史資料館
- 住所
- 京都府乙訓郡大山崎町竜光3
- 営業時間
- 9:30~17:00(入館は16:30まで)
- 定休日
- 月曜日(祝日の場合は翌日)
- 入館料
- 一般200円、小・中学生無料(企画展・特別展は別途)
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅から徒歩約5分、阪急京都線「大山崎」駅から徒歩約2分
油で栄えた山崎を知る!「油の神様」離宮八幡宮に参拝
日常生活に欠かせない油。この「油の神様」がJR山崎駅近くに祀られています。古くは石清水八幡宮と呼ばれ、貞観元(859)年に大和国(現在の奈良県)大安寺の僧・行教が、豊前国(現在の大分県)宇佐八幡神の分祀を受け嵯峨天皇が営んだ、河陽(かや)離宮に鎮座させたことに始まります。
平安時代末に始まった荏胡麻油(えごまあぶら)生産が活発化すると、鎌倉時代には油座が結成され、神社は座の会所となり大いに繁栄。室町時代になると、大山崎油は九州北部から美濃(現在の岐阜県)地方まで独占販売するほどになりました。
守護(役人)であっても、立ち入りは許されず、離宮八幡宮は、東の日光東照宮に対して、「西の日光」と語られるほど広大な敷地と多くの社殿を持つ八幡宮となったのです。作家・司馬遼太郎の『国盗り物語』にも描かれています。
境内には油にちなんだ見どころが点在し、油つぼを持つ「油祖像(ゆそぞう)」が目を引きます。
「本邦製油発祥地」と書かれた石碑は、「油の神様」離宮八幡宮の長い歴史を感じさせてくれます。
社務所では「油断大敵」というユニークなお守り(800円)の授与が行われています。「何事においても機運を逃さないよう、油断をしないように」と宮司はおっしゃいます。ダイエット祈願の「御神油(荏胡麻油)」の授与(1,300円)もあります。
離宮八幡宮
- 住所
- 京都府乙訓郡大山崎町大山崎西谷21-1
- 参拝時間
- 自由
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅から徒歩約1分、阪急京都線「大山崎」駅から徒歩約2分
離宮八幡に奉納された良質な油を使った「三笑亭」の名物天丼
「油の神様」離宮八幡の脇には、離宮八幡の油にちなんだ天ぷらが名物の「三笑亭」が店を構えています。
三笑亭の向かいには、山城国(京都府)と摂津国(大阪府)の国境の関所があり、現在では京都府と大阪府の境界になっています。そんな交通の要衝に立地し、もともとは旅籠を営んでいました。
現在は4代目が経営しています。離宮八幡の御神油をゆずっていただき、天ぷらを始めて好評を得たのがきっかけで、名物料理となりました。天ぷらを使った「離宮天丼」(1,600円)が人気メニューで、天丼に汁物と漬物、デザートが付きます。
季節の旬の野菜をつかった天婦羅は、サクサクした歯ざわりと、クセのない味が楽しめます。
「四季を感じられるよう、味と技法に代々の当主が時代に合ったものを取り入れてきました」と、カウンター越しに店主の酒井邦彦さんが気さくに話してくれました。
取材時のデザートは「麦茶のゼリー」。夏らしさを感じさせる爽やかな食感が味わえます。デザートは店主の息子さんが考案されたもので、家族を中心に力を合わせて切り盛りしているのが伝わってきます。カウンター席(7席)と和室があり、代わるがわる観光客が訪れては、店主との会話を弾ませて食事を楽しんでいました。最大で60名の予約が可能です。
小鉢や焼き合わせなどがついた「天麩羅御前」(2,800円)は昼限定メニュー。さらにお造りがついた「天麩羅ミニ懐石」(4,000円)などのメニューも揃います。
※料金はサービス料別。10月1日以降変更予定。
三笑亭
- 住所
- 京都府乙訓郡大山崎町大山崎西谷1
- 営業時間
- 12:00~14:00 (L.O.13:30)、17:00~21:00 (L.O.19:30)※夜の部は要予約
- 定休日
- 不定休
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅から徒歩約2分、阪急京都線「大山崎」駅から徒歩約5分
サントリー山崎蒸溜所で山崎の名水とウイスキーにふれる
山崎は名水の地としても知られ、古くは『万葉集』にも歌われているほどです。この名水を利用して、おいしいウイスキーを作っているのが、サントリー山崎蒸溜所。JR山崎駅・阪急大山崎駅から徒歩約10分の距離にあります。1923年に建設着手。本格的な国産ウイスキーづくりの場として、サントリーの創業者・鳥井信治郎(とりいしんじろう)によって造られました。
山崎蒸溜所の「山崎ウイスキー館」では、ウイスキーの歴史や製造工程を知ることができる展示、多彩なウイスキー原酒などが並ぶウイスキーライブラリーなどを見学できます。
「山崎」ブランドや蒸溜所ならではのウイスキーなど、約30種類のウイスキーが楽しめるテイスティングコーナーもあります。さらに、山崎蒸溜所限定グッズを販売するショップもお見逃しなく。山崎ウイスキー館の見学は無料ですが、予約が必要になりますのでご注意ください。
そして、サントリー山崎蒸溜所では製造工程の見学ができる「山崎蒸溜所ツアー」(1,000円)が人気です。ウイスキーづくりの熱気を五感で感じた後は、「山崎」のテイスティング。サントリー山崎蒸溜所でしか味わえないモルトウイスキー原酒も味わえます。
サントリー山崎蒸溜所
- 住所
- 大阪府三島郡島本町山崎5-2-1
- 営業時間
- 10:00~16:45(最終入場16:30)
- 定休日
- 年末年始・工場休業日(臨時休業あり)
- 入館料
- 無料 ※要予約
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅または阪急京都線「大山崎」駅から徒歩約10分
アサヒビール大山崎山荘美術館で国内有数のコレクションを鑑賞
実業家・加賀正太郎が大正から昭和初期にかけて建設した「大山崎山荘」を創建当時の姿に修復し、安藤忠雄氏設計の新棟「地中の宝石箱」などを加えて1996年4月に開館したのが、「アサヒビール大山崎山荘美術館」です。
JR山崎駅・阪急大山崎駅から徒歩約10分。天王山の山麓にあり、坂道を上り下りすることになりますので、山崎駅・大山崎駅から運行されている無料シャトルバスの利用もご検討ください。
若き日にヨーロッパへ遊学した加賀正太郎は、イギリスのウィンザー城を訪れた際に見たテムズ川の記憶をもとに、木津川、宇治川、桂川の三川が合流する大山崎に土地を求めました。
本館と地中館は、コンクリート打放しの通路で結ばれています。両側を高い壁に囲まれた階段を下りると、地中の展示空間へ。階段通路の上部四方と正面にガラスを使用しているため、美しい木々の緑を楽しめます。展示室には、クロード・モネの『睡蓮』など、西洋美術が展示されています。
モネの作品を連想させる睡蓮をはじめとして、敷地内には数多くの植物が配され、桜や紅葉など四季折々の植物を愛でることができます。
本館2階の元寝室は喫茶室として利用されています。室内席だけでなく、テラスからの眺望を楽しめるオープンカフェもおすすめです。
アサヒビール工場限定のワインケーキ(420円)は、ワインの風味が口の中で広がり、あっさりとした後味の上品な味わいが楽しめます。コーヒー(470円)との相性も抜群。
企画展に合わせた期間限定メニューも人気です。鑑賞した作品とともに思い出に残ること間違いありません。
アサヒビール大山崎山荘美術館
- 住所
- 京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
- 営業時間
- 10:00~17:00(最終入館16:30)
- 定休日
- 月曜日(祝日の場合は翌火曜 ただし2019年11月18日、25日は開館)、臨時休館、年末年始
- 入館料
- 一般900円、高・大学生500円、中学生以下無料
- アクセス
- 【電車】JR東海道本線「山崎」駅または阪急京都線「大山崎」駅から徒歩約10分
※山崎駅・大山崎駅から無料シャトルバスあり
JR山崎駅と阪急大山崎駅がアクセスの起点
天王山周辺の観光の起点となるのは、JR東海道本線「山崎」駅または、阪急京都線「大山崎」駅です。両駅は約250mの距離で、JR山崎駅にアクセスする場合は、JR京都駅から約15分、JR大阪駅から約30分です。
また、阪急大山崎駅にアクセスする場合は、河原町駅(京都府)から約25分、梅田駅まで約30分です。
観光スポットが密集しているため、駅からは徒歩で十分回ることができます。アサヒビール大山崎山荘美術館へは両駅前から無料シャトルバスが運行しています。ただし、定員24名ですので、紅葉シーズンなど繁忙期には満席になる可能性があります。その場合は、木々を愛で散策を楽しみながら美術館に向かいましょう。
2020年大河ドラマで注目を浴びる明智光秀ゆかりの地。天下分け目の戦い・山崎合戦の舞台となった天王山ハイキングコースを散策するだけでなく、周辺の観光スポットも一緒にめぐってみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文/藪内成基