山暮らしに精通した
女将さんのおもてなし
温泉宿 岩間山荘(石川県白山市)
猟師が射止めたジビエや山菜を使った郷土料理-
日本三霊山・白山の恵みから心と体に元気をもらう
富士山、立山とともに日本三霊山のひとつに数えられる白山。山頂の御前峰(2,702m)、大汝峰(2,684m)、剣ヶ峰(2,677m)の三峰とその周辺の山々を中心に、石川県から富山県、岐阜県、福井県に広がる南北約40km、東西約30kmのエリアが白山国立公園に指定されています。また、2023年5月には石川県白山市全域が「白山手取川ジオパーク」としてユネスコ世界ジオパークに認定され、注目度が高まっています。その白山の中腹にある「温泉宿 岩間山荘」は、猟師の主人が射止めた熊や猪などの肉を、女将が調理してもてなすマタギの宿。ジビエ以外にも、山菜や木の実など女将が自ら採取した山の幸が豊富に盛り込まれていて、白山がもたらす恵みの豊かさに感謝の気持ちが湧いてきます。
山での暮らしに精通した
女将さんがおもてなし
石川県と岐阜県を結ぶ白山国立公園内のドライブルート「白山白川郷ホワイトロード」の石川県側の入口からすぐに位置する一里野(いちりの)温泉。スキー場のゲレンデを囲む宿泊施設のひとつが「温泉宿 岩間山荘」です。一里野温泉は、数年前に起きた自然災害で、山奥から引いていた温泉の配管が大きく損傷し、温泉が宿まで届かなくなってしまいました。復旧の目処が立たず当面の間、温泉を楽しむことができませんが、白山麓の自然を愛する女将さんが山の魅力を存分に教えてくれます。
宿に入って最初に目に付くのは、ロビーに飾られた2体の熊の剥製。白山麓で猟をするご主人が射止めたものだそうです。「獲物のお肉は、猟の仲間と分け合うの。お父さんが持って帰ってきたお肉を、私がおいしく料理してお客様に食べてもらっています」と女将の北村祐子さん。女将さんご自身も、山歩きのガイドを務める山のスペシャリストで、周辺の森でとった山菜やキノコ、木の実なども味わえます。
お待ちかねの夕食です。女将のおすすめジビエコースは、熊肉の料理を中心に、猪のチャーシュー風サラダやニジマスと堅豆腐のお刺身など品数もたくさん。小鉢にも、黒豆のなますやふきのとうの佃煮など丁寧に料理された山の味覚が盛り付けられています。
今回の熊肉料理は、熊のあばらの塩茹でと熊ハンバーグ、熊鍋の3種。熊のあばらの塩茹では、骨からほろっと身が外れ、噛むほどに肉のうま味が広がりますが、後味はさっぱり。一方、熊のハンバーグは、熊肉の脂が木の実のような良い香りが漂います。そして、熊鍋の熊の骨から取ったダシの奥深い味わいには驚きです。「熊の鍋にはアザミの葉が合うのよ」と女将さん。一緒に煮込んだアザミの葉は、特有の香りとちょっとした苦味で熊肉の脂分を和らげます。
「こうして自然の幸を大切にいただく工夫は、おじいさんやおばあさんから教わった山の暮らしの知恵なんですよ」と女将さん。白山麓はもともと熊や猿などの動物たちが暮らす場所。この地域では、そこに人間が住まわせてもらっていて、山からのいただきものをお裾分けしてもらっているのだと考えられているそうです。山の動物たちと自然の恵みを共有する暮らしが、ここにあります。
食事がひと段落ついた頃、女将さんが紙芝居を読んでくれました。女将さんは白山麓に伝わるいくつかの民話を紙芝居にして、宿泊客に読み聞かせてくれます。この地に伝わる民話の多くは人生の戒めになるような内容が多いそうですが、今回読んでくれたお話はハッピーエンドな『緑の谷の昔話』。女将さんの優しい口調に物語の世界観がぴったりで、もっとお話を聞いていたいと思うほどでした。
翌日はチェックアウト後に、女将さんに「ガイドと一緒にトレッキング」に連れて行ってもらいました。白山の動植物や地形、歴史をあれこれと教わりながら山を歩くのはとても気持ちが良く、気分がリフレッシュします。「元気がなくなったらまた山においで。山は元気をくれるよ」。そう言って見送ってくれた女将さんのおおらかな笑顔が、山のもたらす不思議な力を証明してくれているように感じました。
温泉宿 岩間山荘
住所/石川県白山市尾添チ81-3
交通/北陸自動車道小松ICから車で約50分、またはJR松任駅から車で約1時間
チェックイン/15:00~24:00(チェックインが18:00以降の場合要連絡)
チェックアウト/10:00
料金/1泊1名10,800円~(税・サ込/2食付き/大人2名利用時)、女将のおすすめジビエコース1泊1名16,650円~(税・サ込み/2食付き/大人2名利用時)
※入湯税別途150円/1人
ガイドと一緒にトレッキング
電話/076-255-5340(白山ろくスローツーリズム研究会)
1人3,500円(約2時間、2名~10名)※トレッキングポールレンタル料は別途500円、岩間山荘宿泊者以外も参加可
霊峰・白山のパワースポットをめぐり
神秘的な力を感じる
古(いにしえ)より白山は、神の座する霊山として崇められてきた聖地。その白山の麓で、神秘的なパワーが感じられる場所を、ガイドと訪ねる「白山信仰パワースポットめぐり」に参加しました。今回、案内してくれるのは地元で約20年間ガイドを務め、白山手取川ジオパーク公認観光ガイドにも認定された磯部雄三さんです。
コースは、全国に三千社ある白山神社の総本宮・白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)からスタートします。「一の鳥居をくぐってすぐにある結界橋を渡ると神域に入ります」と磯部さん。老杉の並木が続く表参道には清らかなせせらぎの流れる音が響き、歩を進めるごとに心と体が清められるような気分です。並木の中には、根元は一本で幹が二本に分かれた夫婦杉があり、樹齢は800年ほどともいわれているそう。
白山比咩神社の御祭神=白山比咩大神は、『古事記』に登場する女神・菊理媛尊(くくりひめのみこと)。「国生み」「神生み」を命じられた、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)の二神の仲を取り持ったことから、人々の縁を結ぶ神様として崇敬を集めているそうです。唐破風造りの厳かな弊拝殿で手を合わせていると、神社の中ではご祈祷が行われているのか、太鼓の音が聞こえてきました。
「本宮自体は白山の山頂から遠く離れているため、境内で白山を拝めるようになっているんですよ」と磯部さんが案内してくれたのは、神門の右側にある白山奥宮遥拝所。鳥居の中には白山三山の形をした岩が祭られていて、山頂の御前峰に鎮座する奥宮を拝むことができます。いつか奥宮へ登拝してみたいという願いを胸に、今回は遥拝所から白山に手を合わせました。
パワースポットめぐりでは白山比咩神社のほか、豊富な水の流れが生み出した景勝地「手取峡谷」、白山信仰の修験者が山頂を目指した加賀禅定道の登山口「一里野温泉」などあり、コースのアレンジは自由。ガイド申し込みの際に希望を伝えましょう。
白山信仰パワースポットめぐり
電話/076-255-5340(白山ろくスローツーリズム研究会)
住所/石川県白山市三宮町ニ105-1(白山比咩神社)
交通/集合場所の白山比咩神社まではJR松任駅から車で約25分
料金/一人3,500円(移動費用は別途、約3時間、2名~40名、要予約)
山の幸をいただく
伝統のおやつ「こびり」を作る
「こびり」とは、この地方の人たちが農作業の合間に食べるおやつのこと。食べると力がわいてくるのだそうです。今回はそんな「こびり」のひとつである「くずまわし」を岩間山荘の女将さんに教えてもらいました。
材料は、女将さんが自ら山でとったオニグルミと栗、山芋、田畑で育てた米の粉、サツマイモ。まずは、たくさんのオニグルミをひとつずつトンカチで割り、クルミの殻から中の実を取り出します。「クルミは山から分けてもらった大切な食料。クルミ料理は結婚式や報恩講(ほうおんこう)の時に作る祝い料理でもあったのよ」と女将さん。
そして、クルミと、栗、山芋、サツマイモを水で煮て、柔らかくなったら箸でかき混ぜ続けます。山芋が崩れてきたら砂糖、しょう油で味付けして、最後に米粉を入れて全体を混ぜ、粘りが出て具材の角がなくなったらでき上がりです。
できたてと熱が取れて味がなじんだ頃とでは違った風味に。熱々をひと口いただくと、木の実や穀物特有のホクホクした食感と優しい甘さが口いっぱいに広がり、冷めると山芋や米粉のつなぎの部分がねっとりとして、香ばしい木の実が良いアクセントになります。熊や猿も同じ木の実を食べていると思うと、山の動物たちを身近に感じられます。
こびりづくり
電話/076-255-5340(白山ろくスローツーリズム研究会)
住所/石川県白山市尾添チ81-3(温泉宿 岩間山荘)
交通/JR松任駅から車で約1時間
料金/一人3,500円(2名~受付、要予約)
親鸞聖人の教えとともに
受け継がれる特別な料理
一里野温泉スキー場のゲレンデに面した「ホテル牛王印(ごおいん)」では、この辺りの「尾添(おぞ)集落」で受け継がれる報恩講(ほうおんこう)の際の料理を味わえます。「報恩講」とは、浄土真宗の開祖、親鸞聖人の祥月命日の前後に行う法要のこと。この地方で暮らす人々は山岳信仰と同時に浄土真宗も熱心に信仰しており、白山麓だけでなく広く北陸地方では、法要の際には特別な料理を作って振る舞うのが習わしとなっています。その料理は地域ごとの特色を交えながら変化して集落ごとに受け継がれています。
写真が報恩講体験の料理です。輪島塗の椀に盛り付けた、ご飯、報恩講汁、クルミの甘露煮、なます、煮物が主な5品で、それ以外にきんぴらや酢の物と、体験の特別メニューとして天ぷらが付きます。煮物に入った豆腐の大きさに驚いていたら、「本当はこの4倍の大きさなんですよ」と女将の林恵子さん。この豆腐は白山麓特有の”堅豆腐”で木綿豆腐よりも堅く、椀を覆い尽くすほどの大きさが本来の報恩講の料理なのだそうです。
「クルミの甘露煮がフタ付きのお椀に入っているのは、かつてクルミが貴重な油分で重要な素材のひとつだったからなのよ」と女将さん。クルミはもちろん、料理に使う食材のほとんどは山からとってきたものや自分たちで育てたもので、どれも食材や作り方は決まっているそうです。本来は年に一度だけ振舞われる料理ですが、体験は通年可能。白山の地に受け継がれる味を体験しましょう。
「報恩講料理」体験
電話/076-255-5340(白山ろくスローツーリズム研究会)
住所/石川県白山市尾添一里野60-12(ホテル牛王印)
交通/JR松任駅から車で約1時間
料金/一人3,080円(2名~受付、要予約)
素朴な味のおみやげが目白押し
白山麓グルメを持ち帰る
白山中腹へ続く国道沿いにある「道の駅 瀬女(せな)」。白山麓には川に沿って山奥にまで幾つかの集落が点在し、そこで暮らす人々は、山の恵みをいただきながら、知恵を絞り、独自の保存食や生活用品などを作って暮らしてきました。そんな白山麓ならではの食品や工芸品を取り揃えた特産品売り場でおみやげを探します。
作り手の思いがこもった白山麓ならではの食品を集めた「白山百選」のコーナーには、気になる商品がたくさん。かんこの家の「とちもち」(850円)は山でとったとちの実をじっくりとアク抜きして作られており、とち特有の風味がたまりません。白山で育ったなめこを使った「コトコトなめこちゃん」(640円)や、中宮温泉の湯で茹でたにしやま旅館の「おんたまさん」(6個570円)、特産のそばの実を使った「にわかそば」(580円)などは、どれも素朴ながら、白山の恵みの豊かさが感じられます。この地方ならではの「堅豆腐」は、できれば豆腐自体を持ち帰りたいところですが、日持ちが気になる方には、堅豆腐の豆乳を使った「白山堅どうふショコラ」(720円)がおすすめです。
ここにはパン工房「山のパン屋さん瀬女」が併設されていて、毎日、焼き立てパンが店頭に並んでいます。甘いパンやお惣菜パンをメインに約30種類ほどあり、あんやクリームも手作りしているそう。恐竜の化石が見つかった桑島地区の地層をデザインした「ジオキューブ」(300円)は、よもぎ、プレーン、とちの実の生地を三層にして、中に化石をイメージした小豆の粒が入ったこだわりのパン。白山水系の水でキリマンジャロ豆をドリップした「白山きりまんじゃろ」(300円)と一緒に、カフェタイムを。
道の駅瀬女
電話/076-256-7172
住所/石川県白山市瀬戸寅163-1
交通/JR松任駅から車で約45分
営業時間/9:00~17:00(12~3月は~16:00)
定休日/4~5月水曜、12~3月水・木曜、ホワイトロード開通期間中6月中旬〜11月中旬無休 ※「山のパン屋さん瀬女」はホワイトロード開通期間中も水曜
宿泊施設の紹介
一里野温泉にあるジビエ料理がいただける宿。猟師の主人が射止めた熊やイノシシ、鹿などの肉と、女将が山でとってきた山菜やキノコ、木の実などを使った料理で白山麓の豊かさを感じられます。現在、温泉の供給がストップしていますが、白山の天然水を沸かした風呂で旅の疲れが癒やせます。
温泉宿 岩間山荘
住所 | 石川県白山市尾添チ81-3 |
---|---|
交通 | 北陸自動車道小松ICから車で約50分、またはJR松任駅から車で約1時間 |
チェックイン | 15:00~24:00(チェックインが18:00以降の場合要連絡) |
チェックアウト | 10:00~ |
料金 | 1泊1名10,800円~(税・サ込/2食付き/大人2名利用時)、女将のおすすめジビエコース1泊1名16,650円~(税・サ込み/2食付き/大人2名利用時) ※入湯税別途150円/1人 |
※掲載している観光情報は2024年6月時点の情報です。
※掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。
※店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
石川県白山市の
いいもの、美味しいもの
-
楽天市場で名産品を!
※楽天市場の検索結果に遷移します
-
ふるさと納税で応援しよう
※楽天市場ページへ遷移します