釜石はまゆり飲食店会

釜石はまゆり飲食店会この道51年の女将さん。テキパキというよりもむしろかわいらしく、たおやか。

釜石はまゆり飲食店会
消えない人情、受け継がれる美味

居酒屋や小料理屋、ワインバーにラーメン屋、
肉料理に魚料理、スナック、バーなど、
約40店以上の多彩な飲食店が集まり、
今や釜石の名所ともなった「釜石はまゆり飲食店会」。
陽が落ちて夜が明けるころに、
少しずつ店の灯りがつきはじめます。
釜石駅から歩いていくと最初に目に入るのが
「歓迎　呑ん兵衛横丁」の看板。
早速、そのすぐ横、「お恵」の暖簾をくぐってみましょう。
８人も入ればいっぱいのカウンターのみのお店。
紳士おふたりが心地良く上気した感じで盃を重ねています。
「はい、いらっしゃい。どうぞぉ」
という温かい声は、女将の菊池悠子さん。
2014年に創業50周年。26歳でこの道に入ってから
震災の前も後も一人で店を切り盛りしていました。
凛とした雰囲気はあるものの、言葉も笑顔も
ふわっとやさしく、温かく包んでくれるようです。

釜石はまゆり飲食店会甘めで濃厚なみそでいただくおでん。日本酒と一緒だとついついどちらも進んでしまいます。

「何にする？燗でもつけようか？お疲れ様ならビール？」
押し付けないけど優しくリード。
女性でも安心して素敵な「酒場体験」をさせてくれます。
すると隣の紳士（後で聞いたら市の偉い人でした）も
「ここはね、イカの一夜干しがおいしいんだよ」
と、これも優しいアシスト。地元のお酒「浜千鳥」の燗と
紳士のアドバイスにのり、一夜干しをいただきましょう。
「あ、ごめんね、ちょっと熱かったかもぉ」
人生では大先輩の女将さん。でもとっても可愛らしい。
その人柄が生む空間にいると、いつのまにかリラックス。
震災で流され、一度はたたもうかと考えていたお店。
それが周りの声もあっての再開の決意だったそうです。
隣の紳士が帰るとすぐに、スーツ姿もかっこいい
5人の紳士たちが暖簾をくぐってきます。
ちょっと席を詰めると彼らが「ありがとうございます」
ととても気持ちの良い言葉で返してくれる。
心地良くなって燗のお代わりと、名物のみそおでんを注文。
燗は「浜千鳥」の特別ラベル。それは東京・渋谷の
「渋谷のんべえ横丁」からの支援で生まれたお酒でした。

釜石はまゆり飲食店会・会長としても活躍するバーテンダーの山崎さん。

こういう場所なら、はしごをしないのはもったいない。
公園をはさんで、もう１棟。
その２階にある「BAR LINK」へ。
正統派のショットバーであるこちらのお店、
バーテンダーで店主の山崎さんは、
都内の有名ホテルでもシェイカーを振っていた本格派。
その腕前で作られるカクテルも、
すでにデッドストックになっているようなウィスキーも
リーズナブルかつ明瞭会計で安心して楽しめます。
この夜は、ギムレット、そして、サムライという名の
「浜千鳥」を使ったカクテルをいただきました。
世界基準のカクテルと、地元の味を生かしたカクテル。
その両方を軽やかに、巧みに、
心地良いシェイカーの音とともに…。
「いやー、長男なんでね、しょうがなかったんですよ」
と山崎さんは釜石に戻ってきた理由を
笑いながら話してくれました。
「正直、帰ってきた当初はあまり面白くはなかった。
でも、もっと変えることは出来るんじゃないか、
って思ってはいたんですよ。震災もあったけど、
だからこそ、ド派手になんかやんなきゃとも思ったし」
山崎さんは、「釜石はまゆり飲食店会」を取りまとめる
会長としても活動しています。
ジャズフェスティバルの招致や、広報活動など
忙しい本業の時間を縫って「面白くする」取り組みを
仲間たちと、そして会のみなさんと続けています。
「ここに来て楽しく飲んでくれる人が増えること。
それが僕たちの喜びですから」
その言葉に、今宵はもう一杯。