築300年の古民家
オーベルジュ
うだ薬湯の宿 やたきや
(奈良県宇陀市)
薬の発祥といわれる地で
薬草と地元野菜を使った
グルメを堪能
奈良県の東部にある宇陀市は、大宇陀(おおうだ)・菟田野(うたの)・榛原(はいばら)・室生(むろう)の4エリアに分かれ、面積の大半が森林という緑豊かな町。縄文時代からの生活の痕跡が残るほか、万葉集で柿本人麻呂の「かぎろひ」の歌に詠まれるなど、歴史の深い場所です。また、日本書記に日本最初の薬猟(くすりがり)の記録もあり、薬草の町としての側面も。古くから「大和当帰」などの薬草が育てられており、伊勢へ続く街道を通って薬の流通が盛んに行われていました。そんな宿場町の面影が残る町並みを歩いたり、日本最古の薬草園を見学したり、古民家オーベルジュや地元グルメを満喫したり…。日本の原風景が残る山村エリアを訪ねて、身も心も整えましょう。
天空の古民家オーベルジュ
伝統野菜と薬草で心も体も喜ぶひとときを
奈良県の東側、「大和高原」と呼ばれる標高400mほどの高台にある「うだ薬湯の宿 やたきや」。築300年の茅葺き屋根のある古民家をリノベーションし、それぞれ趣の異なる4室を設けたオーベルジュです。運営するのは地元で100年続く畳屋で、ここ榛原の古き良き文化や技を未来に残していきたいという想いのもと、2022年5月にオープン。ランチ・ディナーのみの利用もOKとあって、すでに遠方からも客が訪れる人気スポットになっています。
4室ある客室のうち最も広い約65平米の「真秀(まほろば)」は、プライベートガーデン付き。縁側や浴室のテラスから日本庭園の景色を独り占めでき、四季の花々を眺められます。
蔵を改装したメゾネットタイプは2室あり、「陽炎(かぎろひ)」は欅の梁があるシックな空間、「古楽(こらく)」は土壁をそのまま活かしたワイルドな雰囲気が特徴です。また、「万葉」はペットと一緒に泊まることができます。もともと納屋だったので2階の天井が低く、人気アニメ「アルプスの少女ハイジ」の部屋のような可愛いベッドルームが人気だそうです。
食事は、奥様が宇陀市の隣の桜井市出身で、子育てをきっかけに宇陀市に移住したシェフによるコース料理。敷地内の農園で栽培するオーガニック野菜や、地元でとれた伝統野菜、薬草、山菜などを使った、体に優しいメニューを提供します。ランチは、朝どれ野菜たっぷりのサラダと、前菜盛り合わせ、スープ、パスタ、デザートがセットの「やをらコース」(3,850円)に。肉料理付きの「たまひコース」(6,600円)もあります。「やをらコース」のパスタは宇陀牛を使ったものと、季節野菜のパスタの2種類から選択可能。今回選んだパスタは宇陀牛とカブのラグーソース。ゴロゴロ入った牛肉と、とろけるようなカブの食感がたまりません。驚いたのはフォカッチャの美味しさ。もっちりしっとり、噛めば噛むほど香ばしい味わいです。
シェフの考えは「なるべく動物性食品を使わないこと」。そのため、オーベルジュでは珍しく、希望すれば「ヴィーガン対応」も可能です。季節野菜のパスタはクリーム系で、事前にリクエストすれば動物性である生クリームの代わりにカシューナッツをペースト状にして作ってくれます。マネージャーの上本さんは「ここでまかないを食べるようになって体の巡りが良くなったように感じます」と話してくれました。
「薬湯の宿」の名が付いている通り、風呂は薬草「大和当帰」を配合した自家製入浴剤を入れて入浴します。客室ごとに違う信楽焼の陶製風呂釜がとてもお洒落で、いつまでも浸かっていたくなる心地良さです。
宿でのお楽しみはまだまだあります。上本さんは、「私たちが大切にしているのは『観天望気』という考え。雲を見て天気を予測するなど、自然に即した生活をして心身の調子を整えていただくのが願いです」と話します。例えば、朝は裏山を散策しながら、薬草を見つけたり、鳥の声を聞いたりと、五感を研ぎ澄まして自然を体感する観天望気ツアー(宿泊予約時に要予約)を実施。暖かい季節には農園での収穫体験や薬草ハーブボール作り(事前予約制)なども行っています。スタッフはヘルスツーリズム資格を持っているので、日常の中でもできる健康づくりのポイントを教えてもらえるのも嬉しいですね。
うだ薬湯の宿 やたきや
住所/奈良県宇陀市榛原八滝1835
交通/近鉄大阪線榛原駅から車で約10分(宿泊者は送迎あり)
チェックイン/15:30~17:00
チェックアウト/10:00
宿泊料/1泊1名31,950円~(税込み/夕食朝食付き/2名利用時)
※食事のみ利用 11:30~14:30(14:00 LO)、18:00~21:30(21:00 LO)
450年の歴史を有する吉野葛の老舗に併設
日本最古の薬草園で宇陀の
薬作りの歴史を知る
薬草の町の歴史を支えてきた「森野旧薬園」。1729年に開かれた薬草園で、国の史跡にも指定されています。もともと吉野葛を生業として450年前に創業し、徳川吉宗の時代に、当時では貴重な中国産の6種の薬草木を幕府から賜ったのをきっかけとして開園したそう。園内は急な石段を上る小高い山となっており、道々では約250種類もの薬草を観察できます。赤色ではないシロナンテン、樹齢300年の花の木、群生のカタクリなど、右にも左にも珍しい草木があり、植物の奥深さに感じ入ってしまいます。
山腹には創始者が1749年に設けた「桃岳庵(とうがくあん)」があります。茅葺き屋根の茶室から草花を眺めながら深呼吸すると、それだけで心が元気になってきます。30分ほどで見て歩くことができるので、宇陀市に来たらぜひ訪れたい場所です。
もちろん本業の吉野葛もお見逃しなく。葛の根を叩いて繊維を潰し、デンプンを採取して糖分に変えるという製造工程は、気の遠くなるほど手間がかかる作業です。「葛粉はデンプンなので何にでも使えます。また葛根湯にも使われる植物なので、体を温める作用もあるといわれています」と20代目当主である森野さんが言う通り、葛粉を使えば、汁物にとろみをつけて冷めにくくしたり、練り胡麻と混ぜるだけで胡麻豆腐が作れたりします。店頭では葛粉(180g 1,242円)のほかに、季節限定の葛粉入りのうどん(550円)や羊羹(2,000円)も販売。葛粉を使った新たな料理にチャレンジしてみようとワクワクです。
森野旧薬園
電話/0745-83-0002
住所/奈良県宇陀市大宇陀上新1880
交通/近鉄榛原駅より奈良交通バスで約20分、「大宇陀」下車徒歩約3分、または名阪国道針ICから車で約50分
営業時間/9:00~16:30
定休日/不定休
料金/入園料300円
奥大和のハーブや果物を使った
ハーバルクラフトビールを味わう
(※お酒は20歳になってから)
古民家をリノベーションした建物が印象的な「奥大和ビール TAP ROOM」。ビール好きの店主・米田さんがオリジナリティのあるビールを提供したいと2018年に地元・宇陀市にオープンさせました。奈良県産の桃やブルーベリー、宇陀産の和ハーブ・大和当帰などを使用したクラフトビールの製造と販売を行っています。TAP ROOMはカウンター席が中心で、その奥に醸造室があります。また、ゲストハウス「奥大和ビール TAP to BED」も併設していて、ビールを満喫した後、ゲストハウスに宿泊してゆっくり過ごす…という楽しみ方もできます。
ビールは定番が3種類、季節限定が5~6種類揃います。初めて訪れた人には、奥大和ビール定番3種飲み比べセット(グラス1,199円、瓶2,013円)がおすすめ。カモミールなどのハーブの香りが印象的なアロマホワイトと、ドライな琥珀ビールのハーバルエール、ほろ苦い黒ビールのスパイスダークが味わえます。爽やかなものから、パンチの効いた味のものまでバリエーション豊かで、ビールのおいしさを再確認しました。
ビールによく合う、フードメニューも充実。ローズマリーで味付けされた鹿肉のアヒージョ(990円)は、柔らかな食感で臭みがないのが特徴です。こちらは甘味と香ばしさが感じられるオリジナルの麦芽パン(110円)と一緒にいただきます。鹿肉の旨味を更に引き立ててくれるスパイスダークとペアリングするのがぴったり。また、ランチタイムには鹿肉キーマカレー(1,430円)と、バターチキンカレー(1,045円)のスパイスカレーの2種を扱っています。
奥大和ビール TAP ROOM
電話/0745-88-9001
住所/奈良県宇陀市大宇陀拾生672-1
交通/名阪国道針ICから車で約25分
営業時間/11:00~14:00、17:00~20:00、土曜11:00~20:00、日曜11:00~18:00
定休日/月・火曜
食通に知られる「大和榛原牛」の老舗で
とろける霜降り肉の贅沢ランチを
宇陀に来たら押さえておきたいのは、明治19年創業のうし源本店の「大和榛原牛」。肉質がシルクのように柔らかで、香りと旨みがギュッと凝縮された豊かな味わいが特徴です。その大和榛原牛にこだわった「うし源」は、130年前の創業以来、精肉卸や小売りを行い、全国のレストランのシェフや食通からも支持される有名店。3階のレストランではランチやディナーで大和榛原牛のすき焼きやしゃぶしゃぶ、焼肉、ステーキなどを味わえます。
おすすめは大和榛原牛の焼肉Bランチ(4,380円)。ロース、赤身上モモ、上バラの3種に、野菜やライス、味噌汁などが付くセットです。煙が出ずベストの焼き加減になるという温度、180℃を保つことができる優れもののロースターを使って自分で焼くスタイル。1人前でもボリュームたっぷり。
ロースは、キメ細かな美しい霜降りで、口に入れた瞬間にすうっととろけます。上モモはふわっと柔らかな弾力で、赤身の旨みが濃厚。上バラは脂身と赤身のバランスが良く、上品な香りです。シンプルに塩コショウや柚子入りポン酢でさっぱりいただくと、より肉の旨みが引き立ちます。また、八角などの香辛料が入った特製ダレも食欲をそそります。そのほか、1階の精肉店には牛すじ(200g 648円)や牛タタキ風「雅」(1,080円)、すき焼き用モモ(100g 864円)、シャトーブリアン(100g 5,400円)などが並んでいます。帰りに購入すれば、店の味を自宅でも楽しめます。
大和榛原牛 うし源 本店
電話/0745-82-0017(完全予約制、予約受付:9:00~18:00)
住所/奈良県宇陀市榛原萩原2482
交通/近鉄榛原駅から徒歩約5分、または名阪国道針ICから車で約15分
営業時間/11:30~21:00(20:00 LO)通し営業 ※ランチは11:30~15:00(14:00 LO)
定休日/火曜(祝日の場合は翌平日休)
かつて宮内省に献上された
吉野葛の名店が手掛けるご当地スイーツ
宇陀市で生産が盛んな葛。「黒川本家」は江戸時代初期から葛を製造する老舗です。現在の代表・13代目の黒川伸一さんによると「宇陀市は葛作りに適したきれいな水と冬場の寒冷な気候、葛の原料となる葛根が集まりやすかったことから、初代の黒川道安がこの地で葛の製造を始めました」とのこと。「黒川本家」の商家は、かつて城下町として栄え重要伝統的建造物群保存地区に選定されている、宇陀市松山伝統的建造物群保存地区にあり、築280年以上の歴史ある建物も必見です。
店の中に入ると、まず目に飛び込んでくるのが「宮内省御用達」と書かれた大きな看板。「当時京都にいた道安は吉野から葛根を取り寄せて葛粉を作り、朝廷に献上。その後宇陀松山に移住し、明治時代に宮内省御用達となったという歴史があります」と黒川さん。葛湯は昭和天皇がご愛飲していたそうです。
葛を使ったおみやげで人気なのは、葛餅(1個 440円)。弾力がありつつも、滑らかな舌触りが特徴です。付属の黒蜜ときな粉をたっぷりとかけていただきます。葛餅のほかにも桜の形をしたかわいらしい葛の干菓子である葛菓子(750円)、お湯を注いで楽しむ葛汁粉(1,285円)なども揃い、おみやげにもおすすめです。
黒川本家 本店
電話/0745-83-0025
住所/奈良県宇陀市大宇陀上新1921
交通/名阪国道針ICから車で約25分
営業時間/9:00〜17:00
定休日/日曜
今では少ない「生酛(きもと)造り」の蔵元
辛口酒の新たなおいしさを教えてくれる
(※お酒は20歳になってから)
1702年創業という「久保本家酒造」。江戸時代に確立された「生酛造り」という製法を守り続ける稀少な蔵元で、現在は11代目の久保順平さんが伝統を受け継いでいます。2022年12月に『世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識(日本経済新聞社出版)』という本を出版したという久保さんは、日本酒の歴史や製法について知見が広く、初心者にも分かりやすく説明してくれます。
久保本家では糖分を極限まで残さないようにする「完全発酵」を目指しており、造られる酒はどれも辛口のスッキリ系。しかしながら、自然の力でじっくり「酒母」を育てる生酛造りによって、キレがありながらまろやかで含みのある味わいに。中でも自信作が「生酛のどぶ」(720ml 1,760円)です。通常、にごり酒は甘口が多いのですが、こちらはどっしりしているのに甘さがないので、熱燗にも向いているとのこと。
また、日本酒にはあまりない「熟成酒」も造っており、5~10年寝かせた「睡龍 生酛純米 熟成」(720ml 1,815円)は、食中酒としてどんな料理とも相性がいい1本。「飲みすぎた次の日も目覚めが爽やかで、シャキッと起きられますよ」とのこと。お酒好きには嬉しい1本です。また、2023年春には近くの「道の駅 宇陀路大宇陀」横に「酒蔵カフェ」をオープン予定。日本酒や甘酒ドリンクのほか、日本酒チーズケーキなどのスイーツも味わえるそうです。なお、酒蔵カフェの駐車場では月一回マルシェを開催しており、地元の作り手を集めて野菜や加工品、フードなどを販売しています。この時にタイミングを合わせて訪れてみるのもいいですね。
久保本家酒造
電話/0745-83-0036
住所/奈良県宇陀市大宇陀出新1834
交通/近鉄榛原駅から奈良交通バスで約18分、「大宇陀」下車徒歩約3分、または名阪国道針ICから車で約30分
営業時間/9:00〜17:00
定休日/不定休
宿泊施設の紹介
「なつかしい未来へ」をコンセプトにした「うだ薬湯の宿 やたきや」。標高400mの高台にあり、薬草農園や森林散策道など自然に溶け込んだロケーションが魅力です。茅葺き屋根のダイニング、蔵や納屋を改装した客室で過ごしながら、昔の里山の暮らしを疑似体験できます。地元食材にこだわった体に優しいイタリアンや、郷土の味を楽しめる朝食で、体の中から健康に。1名での宿泊や、食事のみの利用もできます。
うだ薬湯の宿 やたきや
住所 | 奈良県宇陀市榛原八滝1835 |
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交通 | 近鉄大阪線榛原駅から車で約10分(宿泊者は送迎あり) |
チェックイン | 15:30~17:00 |
チェックアウト | 10:00 |
宿泊料 | 1泊1名31,950円~(税込み/夕食朝食付き/2名利用時) ※食事のみ利用 11:30~14:30(14:00 LO)、18:00~21:30(21:00 LO) |
<新型コロナウイルス対応>
- ○スタッフ対応
- 手洗い・うがい・マスク着用
- 定期検温を実施
- ○除菌対応
- 定期的な館内の除菌清掃
- 客室の除菌清掃
- ○換気対応
- 定期的な館内(料飲エリア)の換気
- 定期的な館内共有部分の換気
- ○客室対応
- 消毒液の設置
- 体温計の設置
※掲載している観光情報は2024年6月時点の情報です。
※掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。
※店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
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