1棟貸しのオーベルジュ「LOQUAT西伊豆」で叶える。地産地消のイタリアンを堪能する美食の旅
「LOQUAT(ロクワット)西伊豆」は、旧邸宅を改装しレストラン、バー、ベーカリー、ジェラテリアなどが併設した宿泊施設。1日3室のみの1棟貸しの客室では、歴史のある建築物を感じられる空間でゆったりとした滞在が楽しめます。そんな大人の隠れ家で過ごす、非日常の宿泊体験をご紹介します。
1日3組限定の特別な空間。土肥温泉にある「LOQUAT西伊豆」
伊豆半島の西側、静岡県伊豆市に位置する土肥(とい)温泉。江戸時代、金山の採掘中に湧出した、西伊豆の中でも最古の温泉です。四季を通して温暖な気候で、駿河湾に沈む夕日が美しく、旅人岬などの観光スポットが点在。また、夏場には海水浴を楽しむ多くの観光客が訪れ、町がにぎわいます。
「LOQUAT 西伊豆」があるのは、JR三島駅から車で約60分の場所。およそ100年前に建てられた土肥の名家・鈴木家の母屋と蔵をリノベーションした複合施設で、3組限定の客室に加え、レストランとカフェ(ジェラート&ベーカリー)を併設しています。
昔から地域の人に愛されてきた場所で、今もなお地域の人や土肥海水浴場に遊びに来た人が、食事を楽しんだり、パンやジェラートをふらっと買いに来たりする、土肥エリアになくてはならない存在です。
施設名の「LOQUAT」は、英語で枇杷(びわ)という意味。土肥エリアでは日本で唯一、白枇杷を栽培しており、その原木に近いといわれる白枇杷の木がLOQUAT 西伊豆の裏庭にあります。
通常の枇杷は薄いオレンジ色ですが、白枇杷は淡いクリーム色で芳醇な甘さが特徴。土肥地区の数軒の農家だけで栽培している、中々市場には出回らない貴重な果実です。LOQUAT 西伊豆では収穫の時期になると、収穫体験ができたり、食事で提供されたりすることもあり、町のシンボルを後世に伝えていく役割も担っています。
レストラン、ベーカリー、ジェラテリアのある母屋
敷地に入ると、旧・鈴木家の母屋が現れます。ランチとディナー営業をしている「タケル・クインディチ」。自然光がたっぷりと入る開放的な店内では、素材を活かしたここならではのイタリアンを提供しています。宿泊者の夕食と朝食の会場もこちらです。
入口にあるのは「GELATO & BAKE SANTi」。人工添加物不使用の鎌倉発の人気ジェラートショップです。SANTiではメニューを固定せずに、季節ごとに一番おいしい素材を近隣から仕入れてジェラートにしているため2カ月に1度メニューが変わります。営業時間は10時〜16時ですが、宿泊者は好きなタイミングで何度でもジェラートを味わえます。
「ウェルカムスイーツに好きなものをどうぞ」と言われ、南伊豆産高橋養蜂の非加熱はちみつを隠し味にした「季節のミルク」、人気フレーバーの「ピスタチオ」、「カカオ」をチョイス。
ジェラテリアの奥にはベーカリーも併設。国産小麦と天然酵母を使用したこだわりのパンが20種ほど並びます。近隣に住む方にも人気で、早い時間に売り切れることも多いのだそう。
それでは母屋から移動して、客室へと向かいましょう。客室までの道は緑が生い茂り虫の鳴く声も。大自然の中、ゆったりと歩を進めつつ非日常へと誘われます。
100年以上の歴史のある蔵を独り占め「三ノ蔵」に宿泊
LOQUAT西伊豆の客室は、蔵をリノベーションした客室2室と離れの別邸1室のみ。1日3組限定のぜいたくな滞在があなたを待っています。
今回宿泊したのは、母屋と同じ敷地内にある「三ノ蔵」。二階建てで、約100平米の広さを誇ります。入口の暖簾(のれん)には枇杷が3つ描かれたマークがあしらわれています。
1階の中央に階段が配置されており、階段を挟んで吹き抜けのリビングと開放感のある専用テラス、そしてシャワー&洗面室などに分かれています。
全体的に洗練されたシックな印象ですが、当時の梁や土壁が残っており、それを活かした造りになっているからか、温かさも感じます。
リビングの反対側にはサニタリー機能がそろいます。浴槽はテラスにあるので、シャワーをこちらで済ませ、バスローブを着て移動しましょう。
約40平米の広々としたテラスには、2人で入っても十分な広さの露天風呂とデイベッド、テーブル&チェアが備え付けてあります。自分たちだけのプライベートな露天風呂。好きな時間に好きなだけ浸かることができるので、太陽光を浴びながら日中に、星空を眺めながら夜にと……ぜいたくに何度も湯あみを楽しめます。
肌に優しいと言われる土肥温泉の源泉をかけ流し。浴槽には希少価値の高い十和田石を使用しています。
寝室は階段を上った2階にあります。セミダブルベッドが2台設置されており、マットレスはシモンズ製。伊豆溶岩を使用した壁にも注目です。
ウェルカムドリンク&ジェラートをいただきながらチェックイン
チェックインは客室でくつろぎながら行います。ウェルカムドリンクは、複数あるドリンクのメニューから自家製のレモネードを選択。ジェラートは店頭でいただくことも可能ですが、チェックインの際にウェルカムドリンクと一緒に味わうこともできます。
ドリンクやジェラートをいただきながら、施設の説明を受け、食事の時間を決めます。
ウェルカムドリンク以外にも、シャンパンやクラフトビール、ご当地ジュースなどさまざまなドリンクが用意されていました。こちらのドリンクはすべて客室料金に含まれているので無料。温泉の前後やお部屋でのひとときに堪能できます。
アメニティもこだわりの品がそろいます。枇杷の葉エキスを使用したトリートメントオイルや石けんは、古くから民間療法でも使われてきたそうで、肌本来の力を引き出す効能があるそうです。優しい香りで、つけた後に肌がしっとりとしました。
枇杷の枝から抽出した染料を使用し、手染めで作ったあずま袋もありました。夕食や散歩の際に小物入れとして利用でき、お土産に持ち帰ることもできます。
シャンプー、トリートメント、ボディーソープは備え付けで、日本の風土を前提に考えられたヘアケアシリーズの「余」。シャンプーはさっぱり/しっとりの2種類から選べます。
お部屋でゆったり過ごしてほしいとの想いから、伊豆にまつわる書籍や音楽好きのスタッフがセレクトしたアナログレコードなどもさりげなく置かれています。
土と水と太陽、西伊豆の厳選食材を堪能するディナー
ディナーは母屋にあるレストラン「タケル・クインディチ西伊豆」にて、イタリアンコースをいただきます。「タケル・クインディチ」は、季節の野菜や魚などを使用したこだわりの一品がそろう、鎌倉の隠れ家レストランです。
西伊豆店のオープンとともにエグゼクティブシェフに就任されたのが大関淳士さん。ミシュラン一つ星を獲得した名店、アロマフレスカの料理長や都内のイタリアンレストランを経て、そのエッセンスを加えたオリジナル料理を提供しています。
大関シェフのメニューは、シンプルに素材の名前が並び、どんな料理が出てくるのだろうと想像力をかき立てられます。内容は季節に合わせて変わり、前菜3種、パスタ2種、メイン2種、デザートの計8皿で構成。伊豆エリアの食材をメインに取り入れているそうです。
大関シェフ「季節を感じてもらえる料理構成を意識しています。食べ終わった後に満足感はあるけど、重すぎず、翌朝も元気に迎えられるようなメニューを選んでいます。旬な素材を取り入れるのはもちろんのこと、素材を発酵させて使用することも多いです。」
発酵によって素材の旨味を引き出し、更には食材の日持ちもし、食品ロスが少なくなるのだそう。
大関シェフ「約2年前に伊豆に移住し、ゼロから仕入先を探していく中で、このエリアは野菜のポテンシャルが高いことに気が付きました。以前はメインの2種を魚と肉にしていたのですが、旬の野菜と肉に変えてコースを作り上げた方が西伊豆らしさを出せると思い、変更しました。」
静岡・西伊豆というと海鮮のイメージが強いですが、温暖な気候や水はけの良い土などの条件がそろい、野菜の旨みや甘みが強くなるのだそう。メインのひとつの野菜料理では、地物のズッキーニをフリットにした一品が登場。バジルのさわやかさやチーズの濃さが感じられ、奥深い味わいでした。
美食体験へと昇華する驚きのペアリング
今回はお料理に合わせて、アルコール7杯のペアリングをいただきました(追加料金15,000円)。ワイン、クラフトビール、日本酒、カクテルなど枠にはまらないペアリングの提案をしてくれるのが、ホスピタリティエキスパートの伊邉(いべ)耕祐さん。イタリアンに合わせるのはワインという固定観念を壊してくれ、新たな美食体験を楽しませてくれます。
1品目は「ブルーベリー」。千葉県産の水牛モッツァレラチーズに、LOQUAT西伊豆で白枇杷の世話をしている方が栽培しているブルーベリーで作ったソースを合わせます。カタバミの葉やソースの隠し味に使われている茗荷がアクセントになり、さわやかな味わいに。合わせるのはイタリアのスパークリングワイン「Ca’del Bosco Franciacorta」。少し飲んだところで、フランボワーズのリキュールを追加。1杯目から味変が仕込まれているとはおどろきです。
2品目はフリットされた「鮎」。修善寺の養魚場で育った鮎は、大きく成長する前に仕入れているので身がやわらかく、頭から尻尾までおいしくいただけます。先程大関シェフが仰っていた発酵が登場。きゅうりと青トマトを乳酸発酵させたソースが添えてあり、鮎と合わせることでよりさわやかに楽しめます。
2杯目は、伊豆市のブリュワー・ベアードビールの「わびさび ジャパンペールエール」を。鮎の苦味に寄り添った大人の組み合わせです。
3品目は「ダルマイカ」。初夏から晩秋が旬の肉厚なダルマイカを絶妙な火加減で調理し、香ばしさ、甘さ、やわらかさを感じる一品です。一皿ずつ運ばれてきたので気づきませんでしたが、ここまでの3皿はまだ前菜……すでに満足度が高く、期待を超えていきます。
4品目は「しらす」。船で釜揚げした駿河湾産のしらすとイタリア・サルディーニャのからすみとあわせたパスタ。
ペアリングでは、曲げわっぱの器に入った伊豆・万大醸造の日本酒「あらばしり 辛口」が登場。まさかパスタに日本酒を合わせるとは思いませんでしたが、「からすみに合わせるのは日本酒でしょう」と伊邊さん。そのまま飲むとドライに感じますが、食事と合わせることで最高の組み合わせに仕上がります。
5品目の「とうもろこし」は、インカのめざめとリコッタチーズで作ったニョッキに地物のとうもろこしとサマートリュフ、パルミジャーノチーズをあしらっています。そして6品目の「ズッキーニ」へ。
合わせたワインでは、グラスを回すスワリングで味わいに変化が起こることや、ワインとグラスの組み合わせによって香りや口当たりが変わることを体験させてもらいました。おいしいものを組み合わせるだけでなく、今後の食事がより楽しみになるような食体験が非常に興味深かったです。
メインディッシュの7品目は「天城黒豚」。サシが多くジューシーな味わいの天城黒豚を骨付きのまま3時間薪火で調理した一品です。大関シェフ自ら火入れしたり下ろしたりして、ベストな焼き加減を調整しています。合わせるのは、お味噌&唐辛子のにんにくソース、わさび&ライム、生胡椒の塩水漬け「純胡椒」の3種類。薪の香ばしさとジューシーな脂身が絶妙で、味付けを変えるごとに新たな味わいを楽しめました。
最後の一杯は、オリジナルのわさびのジンをつかった「ジンソーダ」。天城豚のジューシーさと、ほんのり感じるわさびのさわやかな香りが相性抜群で、永遠にリピートできそうな組み合わせ!
8品目のデザートは「三島マンゴー」とパッションフルーツ、ココナッツのジュレなどの上に、アマゾンで栽培されたカカオを振りかけています。
全8品のコースメニューを食べ終えると、お腹はいっぱいですが、胃や身体はスッキリとしている不思議な感覚を味わいました。これも大関シェフが仰っていた“重すぎない構成”だからなのかもしれません。
一ノ蔵で食後の一杯を堪能
食事を終え、お部屋に帰る前に宿泊者限定のバー「一ノ蔵」を訪れます。こちらも蔵を改装した場所で、淡い光が灯る中大人のひとときを楽しめます。
ぜひとも味わってほしいのが、先程、案内していただいた伊邊さんが厳選した特別なアルコールカクテル。メニューはなく、お客さまの好みに合わせて一杯を提供しています。今回は“さわやかなもの”と“静岡っぽいもの”の2種類をオーダー。
さわやかなドリンクは「ニューサマーオレンジのリモンチェッロ」。伊豆産のニューサマーオレンジ・はるかのピールをふんだんに使っています。静岡っぽいものを……と出していただいたのは「静岡ぐり茶ジン」。真空にしたジンとぐり茶を70度で1時間程火入れして味を移したそうで、お茶の風味とまろやかな味わいを楽しみました。
こちらのバーでは、ほかにも伊邊さん手作りのお酒がそろいます。ユニークなものだと原木椎茸のブラッディメアリーなど、なかなか出会うことのない組み合わせのカクテルがいただけるので宿泊の際はぜひ行ってみてください。
心ゆくまで露天風呂に浸かってリフレッシュ
日が落ちると露天風呂の雰囲気もロマンチックに変わります。風や虫の音も聞こえ、顔を上げると満点の星空が。大自然を独り占めしたようなぜいたくな時間に心も身体もほぐれていくのを感じます。
お風呂上がりには再度ジェラートをオーダー。深夜0時までであればお部屋まで好きな味わいのジェラートを届けてくれます。
おいしい食事とアルコールを味わって、のんびり温泉に浸かって、ジェラートをいただく……幸せな気持ちで1日を締めくくります。
地物のお刺し身を井田塩で味わう、和朝食
ゆっくりと休んでリフレッシュした翌朝は、地の物をふんだんに使用した和朝食から始まります。地元産のウスバハギのお造りをメインに、真鯛の焼き魚、釜炊きご飯、自家製味噌の味噌汁などが並びます。
ウスバハギのお刺し身は数日熟成しており、口に入れただけで旨味が広がります。そのままでもおいしいですが、井田塩やライムと合わせることでよりおいしさがアップ。
井田塩とは、有名寿司店などでも使用されている塩で、駿河湾の海水を13時間焚き続けて作っているため、塩味だけでないまろやかな味わいがあります。自家製の味噌を作るときにも使用し朝食の味噌汁に、ディナーでも各所で使用するなど、シェフの大関さんが惚れ込んで使用している素材のひとつです。
チェックアウトまでのんびり過ごし、「GELATO & BAKE SANTi」でお土産を購入
チェックアウトの時間は11時。最後にもう一度露天風呂に浸かったり、敷地内や土肥海岸まで散策したりと時間が許すまでのんびりと過ごしましょう。
チェックアウト前に「GELATO & BAKE SANTi」でお土産のパンを買うのもおすすめです。お昼すぎには売り切れる商品もあるそうで、全品そろった状態で選べるのは宿泊者だからこその特権。井田塩を使用した塩パンやクロワッサンが人気です。
昔から愛されているこの地を、さらに魅力的に創り上げ、土肥という地域や文化を後世に伝え続けている「LOQUAT西伊豆」。古き良き建物の魅力もさることながら、出迎えてくれるスタッフの方のおもてなしにも感動した滞在でした。西伊豆の光と風を感じながら、自分だけのぜいたくな空間で、豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
LOQUAT西伊豆
- 住所
- 静岡県伊豆市土肥365
- チェックイン
- 15:00 (最終チェックイン:18:00)
- チェックアウト
- 11:00
- 総部屋数
- 3室
- 駐車場
- あり(無料・予約不要)
撮影/岡村智明 取材・文/加藤あやな