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塩原温泉 四季味亭ふじや 記念日−Anniversary−

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素敵な思い出を記念日

ふじやで過ごす記念日。大切な人との特別な一日を
ストーリー仕立てでお届けいたします。

大切な方に旅行のプレゼント あんなに一人喋りをしていたのに、
僕のつぶやきは決して聞き逃さない、母に完敗。

「また行きたいわ~」それが母の最初の一言。帰ってくるなりずっと話し続けている。「露天風呂付って初めてだったけど、いいものね~。」「広いお風呂がいいって思ってたけど、ああいうのって何だか自分のための空間って感じでねぇ」「お母さん、5回も入っちゃった」「館内が広すぎなくてよかったわ。迷子にならなくて。あはは」「お夕食の場所も素敵なの。ね、お父さん」それまで圧倒されていた父が、ようやく口を開く。「あの、あれだ。スパークリングワインも、ありがとな。」

それは、僕が2人の為に宿にお願いしておいた結婚記念日のサプライズ。友人から教えてもらった旅館を僕が予約し、昨日から嬉しそうに出かけて行った2人。がさがさと鞄の中を探っていた母が「これお土産」と紙に包まれた箸置きを取り出した。「夕食の時に可愛いなと思っていたら、売店にあったのよ」と、きちんと自分のも買ってきている。楽しんでくれたみたいで良かった。正直ほっとした。

自分が行っていない宿だから、少し不安だったのだ。父に、どうだった?と尋ねると「栃木県なのに、刺身が旨くて驚いた」と一言。へえ、と繰り返したら、その言葉をまた母が奪い去る。「そうなのよ!お刺身もそうだけど、とにかく料理が美味しくて。だからお母さん、つい飲んじゃってね~」「あのワイン、ほとんど空けたな、お前が」父が呆れ顔でつぶやく。普段全く飲まない母なのに。相当料理がお気に召したか。そう思うと僕も嬉しくなった。社会人になってから親孝行なんてしてこなかったけど、少しは挽回できたかな。「また記念日に行きたいわね」と繰り返す母。来年の分までおねだり?

でも、そんなに良かったなら、僕も来月行こうかな…ふと自分の事を思い返してみる。彼女と付き合って1年の記念日。「あら、あなたそういう相手がいるなら、紹介してよ」恐るべし、母。聞こえていたのか?まさに地獄耳とは、このことなり。

結婚記念の旅行 一緒に祝える人がいる
ただ、それだけで記念日になる。

「ただいま」と言ってリビングに入ると、「おかえり」と妻が言った。当たり前の毎日。昔と変わったといえば、息子が高校生に、娘が中学生になってからは家族全員で出かけることが減ったこと。まそれも仕方ない。スーツを脱いでダイニングに行くと、娘が急いで自分の部屋へ上がっていく。なんだよ、、お父さんキラーイつてお年頃か?少し寂しく思いながら食卓につく。立ち上がる湯気と愛用の有田焼のシャンパングラスを眺めて、あぁ今日も疲れた、とごくり。うん、旨い。

ふと白い封筒が目に入った。「四季味亭ふじや…あぁ、あの旅館」と右手にある有田焼を眺める。俺が有田焼ファンになったのは、実はこの宿がきっかけだ。何度か行っているが、いつも新鮮な食材を丁寧に盛り付けた、その器までもが印象的で。「結婚記念日ですねって、それ届いたの」そう妻に言われて思い出し年を数える。「あ、ちょうど20年だ」思わず声にして、瞬間、反省してしまった。

そういえば結婚10年の時も妻に「スイート10」なんて言われて…でも何もしなかった。10年前がついこの間のよう。でも息子は小学生で野球に夢中だったし、娘はパパ~!と抱きついてくれた。今はすっかり大人になってさ。俺だけ相変わらず仕事して、酒飲んで、なーんにも変わっちゃいないんじゃないのか?10年前の記念日も何もしなかった。しかし、照れるだろう、そういうの…。何していいのかもわからないし。そんなことを考えながら手紙に目を向ける。この宿にはずっと変わらないものがあるんだろうな。あの旨い料理も、女将さんの笑顔も、そして…ん?記念日プラン?ワインにラベル?中身を読み進めていくうちに「これなら俺にもできるかも」と思い始めた。

俺はあんまり器用じゃない。妻が喜ぶことを、どんなふうにしたらいいのかなんてわからない。だから10年の記念日も気づかないふりしてた。「四季味亭ふじやがお手伝いします」 え、本当ですか?と今すぐ電話をかけたい衝動に駆られたが、そこはぐっとこらえて。「ご飯おかわり」と妻をキッチンに向けた。そのすきにスケジュール帳をチェックして、俺はその空欄に『四季味亭ふじや』と書き込む。明日の朝、会社に着く前に電話をして相談してみようかな…。こんな俺でも妻の喜ぶ顔はみたいんです。少し、手伝ってもらえますか?

誕生日のお祝い旅行 誰にとっても、幾つになっても
やっぱり1年に一度の特別な日

買い物をして自宅のドアを開こうとしたら、薄桃色の封筒が目に入った。買い物袋を片手にまとめ、私は封筒を取る。「あぁ、四季味亭ふじやさんだ」と、すぐにあの露天風呂から眺めた青空を思い出した。そしてあの時食べた新鮮な鯵を思い出して、買い物袋に入った鮭を想った。私に料理の才能がもっとあれば…などと言っても仕方ない。そのまま夕食の支度をし始めたら、封筒はダイニングテーブルの上へ。「あれ?ここって前にいった旅館?お前もうすぐ誕生日なんだっけ」夕食をテーブルに並べると、旦那がやってきて言った。

「そうよ。私来月、誕生日なの」アピールしながら鮭のホイル焼きを運ぶと、旦那はくんくん、と鼻を動かして「お、いいにおい。でもさ、あそこの料理はうまかったよなー」…それはそうだけど、私の料理を目の前にして、何を言うか。そんな私をよそに、旦那はビールを飲みながら封筒の中身を取り出す。私は他のお皿を並べ終わると、自分のグラスを持って向いに座った。

「へえ…」ホイル焼きには手を動かすだけで、ちっとも見ていない。ビールを飲む時だけは、グラスの位置を確認して、また手元に目を戻す。「なぁ、花束ってもらって嬉しいのか?」「当たり前じゃない。花屋の私に何を言うのよ」「ケーキとどっちが嬉しい?」「…どっちも…」「それじゃあ、選べないよ」え?「とちぎ和牛って前に食べたよな」「そう、ひらがなのとちぎ、ね」栃木県の和牛の中でもひらがな表記のとちぎ和牛は、特別なものだと以前聞いた。自分で作った料理を食べながら、前に食べたとちぎ和牛の溶岩焼を思い出す。

柔らかくて、とろけて…美味しかったなぁ…。「とちぎ和牛の、霜降りトロ握りだって」口に入れていた鮭がびっくりして生き返るかと思う勢いで「食べたい!」自分でも驚くくらいの声が出ていた。旦那が大笑いしながら、ビールを口に運ぶ。なんでそんなに笑ってるの?「なぁ、いつも食事作ってくれるのが当たり前だけどさ。誕生日くらいは旨いもの食べにいこうか」と鮭をぱくりと口に入れて。

「お前も花屋のバイト、休み取っておけよ」と赤いペンを持って立ち上がり、カレンダーに『四季味亭ふじや』と書き加えた。えええ?本当?店長!私、来月の金曜はお休みもらいます!