湯宿温泉 ゆじゅく金田屋 |
「湯の宿温泉まで来ると私はひどく身体の疲労を感じた。数日の歩きづめとこの一、二晩の睡眠不足とのためである。其処で二人の青年に別れて、日はまだ高かったが、一人だけ其処の宿屋に泊まる事にした。」(『みなかみ紀行』大正13年)
法師温泉の帰り道、歌人の若山牧水は湯宿温泉に投宿している。著書の中に宿名は記されていないが、その宿屋こそが金田屋である。
明治元年創業。牧水が立ち寄った大正11年は、2代目の時代だったという。
「当時は、窪湯(共同湯)側に玄関がありました。現在の玄関ロビーのあたりは中庭で、牧水さんが泊まられた部屋は、離れの蔵座敷でした。どうぞ、こちらです」と5代目主人の岡田洋一さんに案内されて、今はロビーつづきになっている蔵の中へ。
ひんやりとした空気と重厚な白壁に包まれた急な階段を上がる。床の間の横に、なにげに座卓が置かれていた。ここが“一浴後直ちに床を延べて寝てしまった”という部屋なのか。なんとも言い知れぬ感慨に、しばし窓から牧水も眺めたであろう路地を見下ろしていた。
とりあえず、我も一浴することにした。浴室は玄関ロビーの隣。不思議な造りだと思っていたら、「浴室の位置は変わらないのですが、昭和30年代に現在の形に建物を改築したものですから」と主人が教えてくれた。なるほど、歴史の年輪がそこかしこに見え隠れする宿である。
湯は熱からず、ぬるからず、ちょうど良い塩梅である。湯宿の湯はどこも熱いので懸念していたが、ホッと気が抜けて、十分に長湯が楽しめた。
部屋にもどると外から、赤ん坊の泣き声とそれをあやす女性の声、つづいて子どもの笑い声が響いてきた。2階の窓からのぞき見たが石畳の路地に人影はない。どうも共同湯からのようだった。地元の人たちが家族で湯浴みに来ているのだろう。古き良き、湯の町風情が今も残っている。
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(C)2010 Jun Kogure / Hajime Kuwabara |
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源泉名 |
湯宿温泉 窪湯 |
湧出量 |
測定不能(自然湧出) |
泉温 |
59.1度 |
泉質 |
ナトリウム・カルシウム―硫酸塩温泉 |
効能 |
リウマチ性疾患、創傷、高血圧症、動脈硬化症、眼病疾患ほか |
温泉の 利用形態 |
加水なし、加温なし、完全放流式 |
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