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何度でも新しい深浦で、人想う旅。

3度目の深浦へ3度目の深浦へ

何度でも、初めてでも、人との出会いは旅を特別なものにする。そう感じさせられた3度目の深浦町。
世界遺産・白神山地が新緑に包まれ、日本海が陽光にきらめく5月半ば。慶應義塾大学環境情報学部・加藤文俊研究室としては3度目となる青森県深浦町でのフィールドワークが始まりました。折しも2017年4月に同町を含む7県11市町にまたがる“北前船寄港地・船主集落”が日本遺産に認定されたばかり。“世界遺産”と“日本遺産”のW認定に、町も沸いています。
「フィールドワークで取材を受けた町民は、その後不思議なくらいイキイキしはじめるんですよ」とは深浦町役場の方。3度目の深浦で起きた、学生と町民の化学反応やいかに――。

作りたいのはラブレター

作りたいのはラブレター作りたいのはラブレター

加藤研究室のフィールドワークでは、学生が2人1組で町の人を取材し、自分たちで撮影した写真とコピーをもとにポスターに仕上げます。今回は2人1組に分かれて7人の町民を取材しました。その成果発表は取材翌日の午前中。かなりの短時間勝負です。
「今回のメンバーは、ほとんどがフィールドワーク初体験。だから手探りの中で取材を進めることになる。でも、初めてだからこそ見えるものがあるかもしれないですね」。期待とかすかな不安を感じながら、加藤教授は学生たちを見守ります。
取材前日、加藤教授は学生たちに伝えました。「深浦町のいいところをPRするポスターを作るんじゃない。その人の一番かっこいい姿、もしくはかっこ悪い姿でもいい。人となりを伝えるのが目的。取材の明朝までに、その人宛のラブレターをしたためるつもりでポスターを作ってほしい」。

若きトマト農家に密着

若きトマト農家に密着若きトマト農家に密着

取材班が同行したのは、深浦は2度目でフィールドワークは実に7度目という橋本彩香さん(4年生)と、深浦もフィールドワークも初体験の中原慎弥さん(2年生)。
「私はフィールドワークを数多く経験しているので、逆に考えすぎないように気をつけないと。初めて組む中原君とのコミュニケーションにも、楽しみ半分、プレッシャー半分ですね」とベテランながら緊張感がうかがえる橋本さん。一方の中原さんは「あまり心配はしてないですね。楽しもう、という気持ちのほうが強いかな」と余裕を見せます。
2人が取材するのは若きトマト農家・工藤雅夫さん(36歳)。愛知県からIターン就農して9年目、深浦の農業を担う若手のホープです。

世界遺産と町民が育む深浦トマト

世界遺産と町民が育む深浦トマト世界遺産と町民が育む深浦トマト

工藤さんに会うべくやってきたのは深浦・大館地区にある通称“トマトハウス団地”。深浦町がバックアップするビニールハウスと野菜集出荷施設です。
若くして農協の野菜生産部・部会長をつとめる工藤さん。慣れた様子で2人にトマトハウス団地の説明を始めます。ビニールハウスが全部で90棟ほどあること、ボイラーのおかげで雪でも安心なこと、深浦トマトは今や収穫前から予約が入るほど人気があること――。工藤さんのなめらかな解説に、2人は聞き入ります。
「白神山地の美しい水、きれいな空気、豊かな土壌、それに育てている生産者も素晴らしい人ばかり。だから深浦のトマトは美味しくなるんですよ」。その核心に迫るべく、工藤さんのビニールハウスへと足を運びます。

トマト半分、婚活半分!?01
トマト半分、婚活半分!?02
トマト半分、婚活半分!?03

トマト半分、婚活半分!?トマト半分、婚活半分!?

「すごい…!」整然と並んだトマトのつるの美しさに、2人から感嘆の声があがります。工藤さんの人柄が表れたかのような、美しいビニールハウス内。「茎や葉を見るだけで、生育が順調かどうかすぐわかるんです」。愛おしげな様子で作業を始める工藤さん。作業中に流すラジオも「音があったほうが作物が美味しく育つと聞いたので…」と、どこまでもトマト想い。
と、そこで橋本さんから素朴な疑問が飛び出します。「作業中はどんなことを考えているんですか?」「半分くらい婚活のことですね」。想定外の答えに戸惑う2人。都会に暮らす若い2人にはまだ現実味のない話題なのかもしれません。ですが、適齢期の工藤さんにとっては切実な問題でもあります。「僕が結婚してトマトで成功すれば、後に続く若い人にとっても希望になると思うんです」。

深浦への恩返し01
深浦への恩返し02
深浦への恩返し03

深浦への恩返し深浦への恩返し

もともと就農希望だった工藤さん。父親が郷里・深浦に帰ることなどをきっかけに、深浦での就農を開始しました。当時27歳。「はじめは不安もありました。友人もいないし、彼女も紹介してもらえない(笑)。でもトマト栽培は、手間と知恵を働かせた分だけ結果が返ってくるんですよね」。次第にトマトと心が通い合うかのような奥深さも、トマト作りの魅力だと言います。
「農家仲間にも恵まれました。互いの不在時には、ハウスの温度管理や雨天時の開閉をするなど、いつも助け合っています」。取材中も、周囲の農家から温かい声がかかることしばしば。その様子に、工藤さんの人柄が伺えます。「今まで助けてもらった分、これからは深浦に恩返ししたい」。今後は後進の育成にも力を入れていきたいと語ります。

充実の取材と思いきや!?01
充実の取材と思いきや!?02
充実の取材と思いきや!?03

充実の取材と思いきや!?充実の取材と思いきや!?

「9年目にしてようやく自信も出てきました。僕のトマトが深浦で一番美味しい、って言ってくれる人もいるんですよ」。工藤さんのトマトを食材に利用する町の定食店でランチを取りつつ、その後も工藤さんの会話に引っ張られる形で取材は続きます。他の農家のハウスを見学したり、工藤さんの実家を訪問するなど、工藤さんのサービス精神のおかげで内容的には盛りだくさん。充実した取材かに見えました。
しかし、取材も終盤という空気が漂う頃、橋本さんが頻繁に質問を投げかけ始めます。子どもの頃の話、兄弟の話…。何か意図があるのでしょうか。

すれ違う2人の想い

すれ違う2人の想いすれ違う2人の想い

夕方にまで及んだ取材の終了後、2人に想いを聞きました。
「工藤さんは、すごく話が上手。だからこそ焦りがあったんです。本当の工藤さんが見えてないような気がして。だから最後、パーソナルな部分に踏み込みたくてちょっと食い下がってしまいました」と橋本さんは物足りなさをにじませます。
対する中原さん、「僕は同じ男だからなのか、節々に共感できる部分を感じていました。密に仲良くなることが目的ではないから、これくらい聞ければ十分かな、と」。
それでも橋本さんは納得しません。「1日で一人の人間を理解しようなんておこがましいですよね。でも何かもっと他の面があるような気がして、もどかしかったんです」。取材直後からすれ違う2人の想い。果たしてポスター制作は順調に進むのでしょうか。

トマトはありか?なしか?01
トマトはありか?なしか?02
トマトはありか?なしか?03

トマトはありか?なしか?トマトはありか?なしか?

「工藤さん自身も気付いていない一面を表現したい」という想いだけは一致していた2人。写真の選定で大いに悩みます。トマトの作業をする工藤さんの姿か?トマトとは切り離した他の一面をビジュアルにするのか?2人の議論も分かれます。
「たとえば結婚式の時に飾ってもらうとか、ポスターを贈った後のコミュニケーションまで含めて考えたいんです」。これまでの経験から、ポスターとして形に残す責任の重さを感じているという橋本さんに対して「さすが4年生ですね。僕はポスターの重みについて、そこまで考えていなかった。些細なことでも、もっと突っ込んで話を聞けばよかったと今は思います」と中原さん。次第に重なり合い始めた2人の想い。制作は深夜2時半にまで及びました。

2つの意味を込めたポスター01
2つの意味を込めたポスター02
2つの意味を込めたポスター03

2つの意味を込めたポスター2つの意味を込めたポスター

翌朝、深浦町役場のロビーを舞台に行われたポスター発表会。感情があふれ出し、涙を見せる学生もいる中、橋本&中原ペアの順番が迫ります。「最後は素直な気持ちで作りました」と橋本さんが語るそのポスターとは――。

『見ればわかる。』

ハウス内で作業をする工藤さんの姿に、そのシンプルな言葉が重ねられています。
「工藤さんのトマトへの優しさがあふれていた」と選んだ写真について語る中原さん。「実はこのコピーには2つの意味があるんです。『“見るだけで”トマトに必要なものがわかる』と話していた工藤さんの優しいまなざし、そしてもう1つは、“見ているだけでわかる”工藤さん自身の魅力。経験に裏付けられた自信、周囲から愛されている姿、何より美しいトマトに、工藤さんのすべてが表れている。逆にいえば、工藤さんの素晴らしさを説明するのに言葉はいらない、と思ったんです」と橋本さん。果たして工藤さんの反応は――。

意外な反応

意外な反応意外な反応

「僕より若い世代に、深浦の魅力、そして農業の魅力を伝えたいと思いながら取材を受けていました。少し話しすぎた部分もあるかもしれません。でも2人ともすごく一生懸命聞いてくれてうれしかったですね。『見ればわかる。』と話したのは覚えているんですが、他の想いまで重ねてくれるとは」と感動を新たにした様子。
ですが、ポスターのビジュアルについては「実は、役場の広報誌でも同じようなアングルで撮影されたことがあるんですよ」と素直な感想を口にします。その言葉に、悔しげな様子を隠せない橋本さん。反省の色を浮かべる中原さん。

「悔しい!非常に悔しいです。もっと工藤さんの驚く顔が見たかった!まだまだ工藤さんの内面に踏み込めていないな、と取材中に感じていた不安が的中しました」(橋本さん)

「反省のほうが大きいですね。フィールドワークを始める前は、かっこいい写真とコピーがあればいいと思っていたんです。そうじゃない。取材相手、ただ一人に贈るポスターなんですよね。素直に取り組めてなかった気がします」(中原さん)

悔しさと、収穫と

悔しさと、収穫と悔しさと、収穫と

でも大きな収穫もありました。実は深浦に来るまで、ほとんど旅行に出かけたことがなかったという中原さん。「僕は今、こども食堂の運営に携わっています。居場所のない子どもたちに、食事を提供するという活動です。今回の旅では、食事に使われている食材の生産過程、生産者の想いに触れ非常に勉強になりました。旅っていいもんだな、もっと旅をしていろんな世界を見てみたいと思いました」。
今回のフィールドワークで2人は、1日だけでは知り得ない人の奥深さを感じ、自分自身の新しい一面をも垣間見ることとなりました。普段生活する場所から離れ、自分とは違う世界に生きる人たちに会う。旅についても同じことがいえるのかもしれません。出会う人、季節、自分の年齢…様々な要素によって旅先の印象は色を変え、新たな思い出として残ります。懸命に取り組んだ2人のフィールドワークは私たちにもまた、新しい深浦の姿と、旅の奥深さを教えてくれた気がします。
(文・中神しのぶ/ビデオ撮影・吉澤茉里菜、スパンタリダー・ピッチャー、家洞李沙)

学生が想いを込めたポスター

工藤 雅夫さん

ポスターの人

工藤 雅夫さん

Iターンで深浦へ。近年増えつつある若手就農者のひとり。トマト作りと婚活イベントへの執念は計り知れない。

製作者

中原 慎弥さん、橋本 彩香さん
中原 慎弥さん、橋本 彩香さん

「コピーにはトマトを見つめれば状態がわかるという自信と、そのやさしい眼差しからトマトへの愛情がわかるという2つの意味をこめました」

学生が想いを込めたポスター

斉藤 靖子さん

ポスターの人

斉藤 靖子さん

深浦町外から嫁いできた。地域振興に携わりたいと役場マグステ食堂の仕事に就く。

製作者

保浦 眞莉子さん、柿嶋 夏海さん
保浦 眞莉子さん、柿嶋 夏海さん

「興味がなかったという深浦へのプライドを感じました。町のために働きたい、ここで生きていきたいという強さと愛を表現しました」

学生が想いを込めたポスター

今 まり子さん

ポスターの人

今 まり子さん

3世代で深浦町に同居。生まれたばかりのお孫さんが可愛い。

製作者

金 美莉さん、阿曽沼 陽登さん
金 美莉さん、阿曽沼 陽登さん

「人のことを思える、女性として尊敬できる方でした。話を聞くはずが、これまでで一番話を聞いてもらった取材でした」

学生が想いを込めたポスター

岩根 陽子さん

ポスターの人

岩根 陽子さん

白神ガラス工房「Hoo(フー)」のガラスアーティスト。工房のチーフとして若手アーティストを牽引する。

製作者

佐々木 瞳さん、塙 佳憲さん
佐々木 瞳さん、塙 佳憲さん

「手の荒れや絆創膏が写った写真から、自分の手よりも作品が大事だという裏側にある大切なことを表現しました」

学生が想いを込めたポスター

宮野ご夫婦

ポスターの人

宮野 宜久さん、智子さん

山と海があり、四季の移ろいを感じられることから深浦町へ移住して夫婦でペンションを開業。

製作者

和田 悠佑さん、高橋 茉鈴さん
和田 悠佑さん、高橋 茉鈴さん

「ペンションを営む中で様々な人に出会えるご縁、深浦に出会えたことへの感謝の気持ちをストレートに手書きの文字に込めました」

学生が想いを込めたポスター

米谷 定さん

ポスターの人

米谷 定さん

深浦町観光課長。役場内では“鬼軍曹”と呼ばれているが、役場をいったん離れると笑顔の絶えない優しき太公望。

製作者

最上 紗也子さん、津田 ひかるさん
最上 紗也子さん、津田 ひかるさん

「私たちのお父さんと同じ世代ということもあり、父親の姿を垣間見ることができました。課長としての一面と、父としての一面を表現したかった」

学生が想いを込めたポスター

加藤 彌生さん

ポスターの人

加藤 彌生さん

80歳を過ぎてもアクティブ。最近まで新聞配達もしていた元気なおばあちゃん。

製作者

比留川 路乃さん、田島 里桃さん
比留川 路乃さん、田島 里桃さん

「可愛くて、おちゃめで、印象的な笑顔の写真を使いました。コピーは話していた中で最も印象に残った言葉です」

スポット紹介リゾートしらかみで
深浦へ