1日1組限定の料亭旅館「金茶寮」で加賀料理と金沢の文化の粋を堪能
加賀藩・前田家の城下町として栄え、華やかな文化が築かれた金沢。独自に発達した食文化、輪島塗や九谷焼などの伝統工芸、歴史ある建築や日本庭園。金沢で受け継がれてきた文化に、一度に触れられる場所として料亭が挙げられます。
約1,000坪の庭園と前田家の元家老・横山男爵が明治時代に建てた邸宅を譲り受け、昭和8年に開業した料亭旅館「金茶寮(きんちゃりょう)」。純和風の歴史的建築で加賀料理を楽しみ、離れに泊まる――。そんな非日常を体験した1泊2日の滞在記を紹介します。
歴代首相ももてなしてきた料亭旅館「金茶寮」
創業以来続く「一客一亭」の伝統を守り、1日1室2名の宿泊客だけをもてなす「金茶寮」。過去には皇族や、吉田茂氏、佐藤栄作氏といった歴代首相をもてなしてきた由緒ある料亭です。2016年には料理が評価され、『ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016 特別版』で一つ星を獲得しています。
現在は約1,000坪の庭園の中に、明治期に建てられた本館と、4棟の数寄屋風の離れがあり、そのうちの1棟に泊まることができます。
金沢駅から車で約20分、閑静な寺町エリアへ
金茶寮があるのは、金沢駅からタクシーで約20分の場所。金沢城の西側を流れる犀川(さいがわ)岸の高台、約70もの寺社が集まる閑静な寺町エリアにあります。繁華街からは少し離れているため、喧騒とは無縁。緑に囲まれ、自然の音だけに耳を傾け、非日常のときを過ごせます。
到着し、車を降りると、接客係の方のお出迎えが。客室へと続く踏み石は打ち水で清められています。風格を感じる門構えもさることながら、たった1組のためだけに整えられたしつらえに感動をおぼえます。
金沢独自の文化を感じられる客室「梅の間」
お庭の石段を降りて、宿泊する離れ「梅の間」へ。金茶寮は犀川まで約40mの斜面に離れが点在し、ほかに食事だけを楽しみに来たゲストがいる場合も、豊かな木々や花々によってプライベートな空間が保たれています。
「梅の間」は紅殻色(べんがらいろ)で彩られた華やかな数寄屋風。紅殻色は金沢の料亭や茶室で使わる伝統的な色で、金沢らしい文化を感じます。1棟貸切の客室内には、8畳の和室と6畳の次の間、4.5畳の茶室があり、とても広々。ゆとりある空間で心落ち着く滞在が叶います。
床の間には季節に合わせた掛け軸と花が生けられ、宿泊客をもてなします。
客室に入ると、お茶を点ててくださり、390年続く金沢の和菓子店「加賀藩御用菓子司 森八」のお菓子とともに味わいます。
せっかくなので、横山家から受け継いだ庭園を見ながら広縁でいただきました。悠久の時を生き抜いてきた木々に思いを馳せ、時を忘れそうに。
江戸時代末期に建てられた茶室で加賀料理を堪能
夕食の時間、客室係の方のお迎えで食事用の離れ「御亭(おちん)の間」へと移動。浴衣で庭園を歩くと、改めて歴史ある空間に身を置く幸せを感じます。
茶室として江戸時代末期に建てられた「御亭の間」は、金茶寮の建物の中で最も歴史があり、ここで食事を楽しむこと自体が特別。歴代首相も目にした庭園を眺めながら、加賀料理を堪能します。
内容は季節によって変わりますが、食前酒の加賀梅酒と、この日の先付けは「伊勢海老ソテー 敷雲丹ソース」。伊勢海老と雲丹にキャビアをのせた、豪華な一品から懐石がスタート。
金沢の新鮮な野菜や近海で獲れた海の幸など、若崎潤一料理長自ら近江町市場で買い付けた地元の旬の食材を用いた料理が並びます。冬には金沢港に揚がる香箱(こうばこ)ガニやズワイガニなども登場するそう。
続いて、目にも美しい前菜。卵黄を味噌漬けにし、ほおずきに見立てた「鬼灯(ほおずき)玉子」や、フルーティーな甘みが特徴のとうもろこし「ゴールドラッシュ」のすり流し、イチジクの白ワイン煮、夏に旬を迎える岩だこの柔らか煮、鰻棒寿司など、季節を感じる料理が目も舌も楽しませてくれます。
椀物は鱧の葛打ち。石川県輪島市の伝統工芸・輪島塗の椀で提供され、蓋を開けると東海道五十三次の一幕が繊細に描かれていました。お造りには黒まぐろ、太刀魚、そして加賀料理に欠かせない梅貝。
焼き物は、高級魚ののど黒で舞茸を包んだもの。とろけるような上質な脂がのったのど黒はこの上ないおいしさで、芳醇な舞茸との相性も抜群です。
石川は魚だけでなく、肉も見逃せません。強肴として、夏野菜とともに登場したのは「能登牛」のロースステーキ。
出荷頭数が少ない希少な能登牛の中でも、最高級のA5ランクのものを選んでいるそう。きめ細かい肉質が特徴で、口に運んだ瞬間、その柔らかさに驚きます。のど黒とはまた違った、極上の脂と旨味が口の中にあふれます。
そして、蒸し物は金沢の郷土料理「はす蒸し」。加賀野菜のひとつである加賀れんこんをすりおろし、海老などを加えて蒸した料理で、縁起ものとしてお正月などに食べられていたのだとか。
加賀れんこんは、すりおろしたときの粘り気の強さが特徴で、もっちりトロトロの食感に、中に入った海老や百合根の食感がよいアクセントに。
若崎料理長が「良いアサリが入ったので」と、この日のメニューに出してくださったのが、「浅利と山椒ご飯」。土鍋で炊いたご飯の上にはたっぷりのアサリが。白味噌と田舎味噌を合わせた加賀味噌の味噌汁と一緒に堪能しました。
最後は、金箔がトッピングされた夏らしいフルーツのうす蜜仕立てで締めくくり。一品一品が心に刻まれ、金沢の豊富な食材、そして伝統的な郷土料理を味わい尽くしました。
夕食後、すぐに寝られる幸せを噛みしめる
夜のお庭を歩いて、心地よい気分で客室に戻ると、和室には布団が敷かれていました。程よい厚みのマットレスは身体への負担を軽減し、深い眠りに誘ってくれます。
お風呂はチェックイン前にお湯を入れておいてくれるので、いつでも入ることができます。ひのきの浴槽は、肩までしっかり浸かれる深さ。
アメニティとして、シャンプー、コンディショナー、ボディソープに加え、金沢の金箔メーカー「箔一」のスキンケアアセットまで用意されているのはうれしいかぎり。
金箔入りのクレンジング、ソープ、ローション、エッセンス、クリームと、金箔の技術を応用した「金箔打紙製法」で、箔一が日本で初めて商品化したあぶらとり紙がセットになっています。スキンケアの時間も金沢の華やかな文化に浸れます。
石川の食材や郷土料理が並ぶ朝食
ぐっすり眠って心地よく目覚めた翌朝、朝食は再び食事処「御亭の間」で。朝の光に照らされた鮮やかな緑を眺めながら、朝食をいただきます。
朝食も、メダイの西京漬けやうざく、なすのオランダ煮など、金沢の旬の食材を使った料理が並びます。朝からお刺身が味わえるのも、とても贅沢です。
そして、鴨肉やすだれ麩、季節の野菜などを煮込む金沢の郷土料理「治部煮(じぶに)」も。金茶寮の治部煮の鴨肉はとても柔らかく、料亭の味のレベルの高さを実感します。
土鍋で炊いたご飯は、加賀・能登の豊かな自然に育まれたお米「ひゃくまん穀(ごく)」。艶やかでふっくら大粒のお米は噛めば噛むほど甘く、おかずがなくても、ご飯だけで食べられるおいしさです。
ミシュランにも評価された料亭の味を存分に堪能し、客室に戻ると、布団があげられ、元のくつろげる空間に整えられていました。
金沢らしい雅やかな紅殻色の離れに泊まり、歴史ある建築で至高の料理を味わえる料亭旅館「金茶寮」。宿泊は1日1組限定なので、プライベート性を大事にした静かな空間で、古都・金沢の文化を堪能してみたいと願う人に、ぜひおすすめしたい一軒です。
金茶寮
- 住所
- 石川県金沢市寺町1-8‐50
- アクセス
- 金沢駅より車で約20分
- 駐車場
- 無料(要予約)
- チェックイン
- 16:00(最終チェックイン19:00)
- チェックアウト
- 10:00
撮影・取材・文:小浜みゆ