新鮮で懐かしい
島の暮らし体験
ホームビジット
久米島には「ホームビジット」という体験プログラムがある。
島で暮らすご家庭を訪ねて半日いっしょに暮らすように過ごす、いわば宿泊をしない民泊体験だ。私が訪れたのはフクギの木に囲まれた築60年を超える古民家に住む、宇江城さんご夫婦のお宅。お二人は昭和始め頃の生まれで80代後半になられるそうだが、たいへんお元気。親しみを込めて「オジー」「オバー」と呼ばせていただこう。庭の木陰のテーブルで「家の中よりこっちのほうが、風が通って涼しいさー」とオジーとオバーは笑顔で迎えてくれた。
「じゃあ、畑を見に行こうかね」とオジー。青々とした葉が茂る畑に行って、葉をかき分けると驚くほど大きなずっしりとした実が現われた。シブイ(冬瓜)だ。獲れたばかりのシブイの実には硬い産毛が生えていて、抱えるとチクチク手に刺さり思わず「いててっ」と声をあげてしまうが、これが新鮮な証拠。他にもゴーヤーやモーウイ(赤毛瓜)、ナーベラー(へちま)などなど、沖縄ならではの野菜がたくさん植えられ、実りの季節を迎えていた。
お世話になった宇江城さんご夫婦
オジーの畑で島野菜の大漁
ちゃんぷるーに入れる島豆腐は手で崩しながらフライパンに入れると味が良くからむし、ナーベラーンブシーは最後に入れる島ニンニクが隠し味、おつゆはキャンベルの缶スープで味付け……と次から次に手際よく料理をしながら、島の料理ならではのコツをオバーが教えてくれた。野菜を切ったり、鍋の中を混ぜたり、味噌を入れたり、あれこれ手伝ううちにあっという間に大皿に料理が山盛りになる。
強い日差しを浴びて育った滋味深い島野菜づくしの味は、まさに「島のおふくろの味」。木漏れ日が降り注ぐ野外のテーブルで、できたての料理を頬張ると、汗をかいた体に健康的な野菜の旨みがすっと入りこんでくる。日差しと涼しい風と料理が合わさって、なんとも贅沢な味わいだ。
沖縄の定番食材ポーク缶
豪快に手で島豆腐を崩してゴーヤーちゃんぷるーに投入
島野菜づくしオバーの味
フクギの木陰でオジーとオバーの昔話を聞きながら
テーブルを囲んでいっしょにたくさん食べながら、笑いながら、おしゃべりしながら。オジーとオバーの口からは、60年前に家を建てた時の話、戦争の時代からアメリカの統治時代に通貨が次々と変わって苦労した話、畑の話、子育ての話など、数十年を経た日々が、つい昨日のことのように語られる。この島に根づき、繰り返され続けてきた日々の暮らしをその言葉の端々から鮮やかに思い描くことができて、なんだか私はオジーとオバーのほんとうの子どもか孫にでもなった気分で、何度も二人の話に相づちを打っていた。
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「前はもっと広く(畑を)していたけど、今はこれだけさー」とオジーは言うけれど、こんなに広い畑をご夫婦二人で今もやっているのかと思うと、その体力にあらためて舌を巻く。
新鮮な島野菜はすぐにその日のお昼ご飯に。オバーが腕をふるって作ってくれたのは、「ゴーヤーちゃんぷるー」「ナーベラーンブシー(へちまの味噌炒め)」「シブイ(冬瓜)のおつゆ」「島らっきょうとイカの和え物」。