房総半島中央部に位置する養老渓谷は、東京から電車で最短約2時間という近さにもかかわらず、山深く自然豊かな場所のため「房総の秘境」とも呼ばれます。さらに「小湊(こみなと)鉄道」と「いすみ鉄道」が半島を横断していて、ローカル列車の旅を楽しめるのもうれしいポイント。2つの鉄道を乗り継いで沿線の見どころをめぐる、1泊2日のおすすめルートをご紹介します。
1日目:五井駅からスタート!
10:00 小湊鉄道で里山風景を楽しむ
房総旅行の初日の朝は、小湊鉄道の出発駅である市原市の五井(ごい)駅から始まります。
小湊鉄道は、五井駅と上総中野(かずさなかの)駅を結ぶ、全長39.1kmの鉄道路線。18駅あるうちの3分の2以上が無人駅であり、風光明媚な里山の景色が楽しめるなど、首都圏でありながら、のどかな旅気分を味わえる路線として人気です。
五井駅へは、東京駅からJR総武線快速で約1時間。内房線への直通列車なら、乗り換えなしで行ける便利さです。小湊鉄道の改札は、JR五井駅の中にあり乗り換えも簡単。改札に近づくと、昭和を思わせる昔懐かしい雰囲気が漂いはじめます。
五井駅で「里山トロッコ」のチケット購入
乗車には整理券(500円・税込)が必要で、空きがあれば当日でも購入可能ですが、事前にウェブサイトから予約しておくのがおすすめ。五井駅の専用カウンターで、4桁の受付番号を伝えて整理券を購入します。
トロッコ列車の始発駅・上総牛久駅までは、五井駅から普通列車で約30分。ツートンカラーがかわいい車両に乗り込みます。
この普通車は、1961年から77年までの間に製造されたキハ200形の車両。長いつり革や天井の扇風機など、そこかしこにレトロな感じが漂っています。
小湊鉄道でおすすめなのが、3~12月の週末を中心に運行する「里山トロッコ」。SLタイプの機関車が展望車両を引く観光列車で、上総牛久(かずさうしく)駅から養老渓谷駅までの18.5kmを走っています。
上総牛久駅で、里山トロッコ列車にご対面!
上総牛久駅で、いよいよトロッコ列車にご対面! 機関車はかつて小湊線で活躍していたSLをモデルにしたもので、蒸気機関ではなくディーゼルエンジンを搭載。窓ガラスのない展望車と、窓ガラスのある普通車を2両ずつ牽引します。
自由席なので、申し込んだ車両の好きな席に着きましょう。どちらかというと、見どころの多い進行方向左側がおすすめです。
トロッコ列車から菜の花畑の絶景!
トロッコは養老渓谷駅までを、約1時間かけてゴトゴトと走ります。気候や天気にもよりますが、窓ガラスのない展望車が、開放感があり写真も撮りやすくておすすめ。ゆっくり走るので、風もあまり強くなりません。
のどかな田園風景の中を、トロッコは進んでいきます。時折川や湖が見えたり、古い駅舎のある駅を通過したり。春の沿線は、菜の花が美しいことで知られています。観光案内のアナウンスに耳を傾け、列車を眺める人や駅員さんたちと手を振り合いながら、くつろいだ気持ちで過ごせる1時間です。
途中下車の旅も楽しめる駅舎
里山トロッコが止まるのは、里見、月崎、そして養老渓谷駅のみ。里見(さとみ)駅では少し長めに停止し、反対方向から来る列車とすれ違います。昔ながらの木造の駅舎がいい感じです。
通過する駅のなかには、「関東の駅百選」に選ばれた上総鶴舞駅や、湖のある高滝駅、世界一大きなトイレと銘打ったユニークな女性用トイレがある飯給(いたぶ)駅などがあるので、また別の機会に途中下車の旅を楽しむのもよさそうです。
撮影スポット「石神の菜の花畑」へ
里見を過ぎると、養老川が下方を流れるダイナミックな車窓風景が見られます。そして、養老渓谷駅に着く少し前に、石神の菜の花畑を通過します。撮影スポットとして有名なこの場所には、カメラを構えた人がいっぱい。養老渓谷駅から徒歩15分ほどなので、列車が来るタイミングを見て訪れてみるのもいいですね。
11:30 養老渓谷温泉郷の中心部をぶらり散策
養老渓谷駅からは、トロッコ列車の到着に合わせて、粟又の滝方面に向かうバス「養01」が出ています。これに乗っていよいよ養老渓谷の観光スタートです。
バスが走り出して5分ほどして、進行方向右手に朱塗りの二連アーチ橋が見えたら下車します。バス停は「温泉郷入口」。この「観音橋」は、養老山立國寺(りっこくじ)へと続く歩行者用の橋で、養老渓谷のシンボル的存在。2019年4月にリニューアルされ、鮮やかな色がよみがえりました。
観音橋から石段を登り、徒歩5分ほどの場所にあるのが「養老山立國寺」です。この寺は、戦いに負けてこの地へ落ち延びた源頼朝が、再起をかけて祈願した場所と伝えられ、「出世観音」とも呼ばれています。
出世のほかに、開運招福、良縁成就のご利益もあるそうなので、ぜひお参りしていきましょう。
養老渓谷温泉は珍しい黒湯の温泉
先ほどバスで走ってきた県道178号に戻り先へ進むと、養老渓谷温泉郷の中心部。「嵯峨和旅館」の先の「足湯やすらぎ」前に源泉が湧き出ています。
とろみのある黒湯で知られる養老渓谷温泉。源泉を触ってみると、思ったより冷たいことに驚くはずです。実はこの温泉は25度以下の冷鉱泉で、各温泉宿や足湯の施設では加温をして提供しているのです。「嵯峨和旅館」をはじめ、周辺には日帰り入浴ができる宿が多くあるので、一風呂浴びるのもいいかもしれません。
SNSでも話題の「2階建てトンネル」
少し先、バス停「弘文洞入口」の手前で右に曲がると、向山(むこうやま)トンネルがあります。東側を向山トンネル、西側を共栄トンネルと呼び分ける一つのトンネルです。1970年の改良工事の際、共栄トンネル側のもとの出口の下に新しい出口を掘りました。
もとの出口が埋めずに残され、2階にあるように見えるため「2階建てトンネル」と呼ばれています。上の穴から差し込む光で中は比較的明るく、緑色のライトの効果と相まってとても幻想的。SNSでの投稿が絶えない人気スポットです。
12:30 ランチは「ラ・フランス」で地元の新鮮な野菜を味わう
「弘文洞入口」バス停のすぐ隣にある「ラ・フランス」は、長年料理人として活躍してきた河野さんと、そのお母さんの2人で切り盛りする洋食店。5つのコースがあり、おいしくてコスパのいいランチが楽しめます。
店内は明るく、クロスのかかったテーブルが並びエレガントな雰囲気。11:30にオープンし、ラストオーダーは14:30。それ以降はティータイムとなります。
手間ひまかけて丁寧に作られたコース料理
コースメニューはどれも地元野菜のサラダ付き。シャキシャキ新鮮な地元野菜で体の中から元気になれそうです。温泉卵やスモークした鶏むね肉もあるのがうれしいところ。この日はお母さん手作りの、フキノトウの佃煮も添えられていました。
※サラダの内容は日によって変わります
一番人気の「若鶏の香草焼き」(1,500円・税込)。サラダのほか、パンまたはライス、飲み物、デザート付きです。香草でマリネしてから焼いた鶏肉は、皮はパリパリで香ばしく、肉はやわらかくジューシー。付け合わせにも手を抜かないのがこの店のこだわりで、手間ひまかけて調理された季節の野菜がどれもいいお味です。
「牛すね肉の煮込み」(2,500円・税込)。こちらもサラダ、パンまたはライス、飲み物、デザート付きです。赤ワインと香味野菜のソースにはほどよい甘味とコクがあり、牛肉をさっぱり食べやすくしています。
冬にはイノシシやカモなどのジビエも提供するという「ラ・フランス」。真心のこもったお料理と、店内の静かな雰囲気を楽しんだら、この日メインの滝めぐりに出かけましょう。
#ラ・フランス
- 住所
- 千葉県夷隅郡大多喜町葛藤180-1
- 電話
- 0470-85-0477
- 営業時間
- 11:30~18:00(L.O. 14:30)※ディナーは応相談
- 定休日
- 木曜
- 座席数
- 20席
- 駐車場
- あり(5台・無料/台)
- アクセス
- 【車】圏央道市原鶴舞ICより約25分
【電車】小湊鉄道 養老渓谷駅よりバスで約5分、「弘文洞入口」下車
14:00 いよいよ初日のハイライト、養老渓谷の滝めぐり
養老渓谷のメインの見どころ「粟又(あわまた)の滝(養老の滝)」から、下流に向かって約2kmの長さの「粟又の滝自然遊歩道」が設けられています。いくつもの滝が見られるこの遊歩道を、美しい渓谷の自然を楽しみながら、上流に向かって歩いてみましょう。
「ラ・フランス」から、滝めぐりの出発地点となる禅宗の古刹「水月寺(すいげつじ)」までは約3.5km。バスの本数は少ないので、タクシーを呼ぶといいでしょう。バスなら「原ノ台」バス停で下車します。
水月寺からは「滝めぐり遊歩道」の矢印に従って、民家の建ち並ぶのどかな道を歩くと、10分弱で「小沢又(こざわまた)の滝(幻の滝)」の入り口に着きます。
幻の滝と呼ばれる「小沢又の滝」
見学には200円(税込)の入場料が必要。崖に作られた急な階段を下って、落差約7mの滝の正面へ。起伏のある地形が特徴的な滝で、日によって水量が変わることから「幻の滝」と名付けられましたが、地名から「小沢又の滝」と呼ばれることが多いようです。
「小沢又の滝」を出ると、5分程度で養老川のほとりに到着。ここに「粟又の滝自然遊歩道」が延びています。新緑の季節は緑がみずみずしく、紅葉の季節には木々が赤や黄色に染まるこの場所は、マイナスイオンたっぷり。自然のよい気に満ち、滝から神秘的なパワーをもらえるような気がすることから、パワースポットとしても人気です。
繊細に流れ落ちる姿が美しい「万代の滝」
遊歩道に沿って主要な4つの滝(昇龍の滝、万代の滝、千代の滝、粟又の滝)がありますが、晴れた日が続くと滝が細くなったり、消えてしまったりすることも。雨が降った後の訪問がベストです。
写真は「万代(ばんだい)の滝」。落差は10mほどで、いく筋にも分かれて流れる姿が繊細な美しさです。
ついに房総一の名瀑布「粟又(あわまた)の滝」へ
遊歩道の終わり近くで、ついに房総一の名瀑布として名高い「粟又の滝(養老の滝)」にたどり着きます。落差30m、幅30mほどの幅広の滝で、100mの長さにわたって流れ落ちます。
滝つぼが広いため、水に入らない限りはあまり近くまで行くことはできませんが、川を渡ってから左右に分かれる右の道を行くと、滝を上から眺められます。岩肌をゆるやかに流れ落ちる滝はどこかやさしげで、水の音を聞きつつ眺めているととてもリラックスできます。
粟又の滝から県道までは、崖を上ってすぐ。通りに出てから時間があれば、約1km先の日帰り入浴施設「ごりやくの湯」から徒歩10分ほどの場所にある、「金神(こんじん)の滝」を見学するのもいいでしょう。岩山からほぼ垂直に流れ落ちる、落差30m前後の美しい滝です。
滝めぐりが終わるころには、そろそろ日も傾いてくるはず。このあとは養老渓谷最奥部、自然に囲まれたとっておきの宿へと向かいます。
18:00 養老渓谷滝巡りの後は、養老川近くの宿に宿泊
養老渓谷の滝めぐりを終えたあとは、養老川の上流部にある「鹿の音(ね)がこだまする御宿 離れ 花山水(はなさんすい)」へ。
子どもの頃からこの地を訪れ、自然の中で遊んできたというオーナーが、「都会の人にも房総の自然を楽しんでもらいたい」という想いで始めた旅館。周囲を森や川に囲まれ、ゆったりとした客室や酵母の湯などが人気の宿です。
客室は本館と離れの2タイプあり、おすすめは離れです。古民家を改装した品格のある部屋は23畳もの広さがあり、露天の岩風呂やウッドデッキまで備えるという充実ぶり。加えてマッサージチェアや、Yogibo(ヨギボー)のビーズソファがあるのはうれしい限り。のんびりくつろいで、旅の疲れを癒しましょう。
夕食の炉端焼きは、房総ならではの海山の幸を
夕食は炉端焼きで地元食材を堪能。炭火の力で食材の香ばしさが増し、うまみが引き出されます。具材を焼く過程も楽しく、思わず会話もはずみます。服に臭いがつかないよう、専用の作務衣を用意してくれるという心遣いも素敵です。
※食材やメニューは宿泊プランによって異なります。
かわいい猫たちに癒される猫カフェ
フロント脇にはなんと猫カフェがあります(利用は有料)。ここで迎えてくれるのは、宿の敷地内で保護された猫やその子どもなど。興味津々に近づいてくるフレンドリーな4匹に、癒されること間違いなしのスポットです。
房総の自然とお風呂に癒される
「花山水」は自然を満喫しながら入れるお風呂も自慢。離れの各部屋には露天風呂と内風呂があり、プライベート空間でくつろげます。さらに、京都の酵母研究所から特別に入手した、発酵した果物に米ぬかを混ぜた入浴剤がもらえるサービスも。お風呂に投入すると、やわらかな白いお湯となり、酵母の作用で肌がしっとりなめらかになると評判です。
お風呂でさっぱりしたら、部屋でのんびり。宿は携帯の電波が届かない場所にあるので、デジタルデトックスにも最適。豊かな房総の自然を五感で楽しみましょう。空にまたたく星を眺めたり、木々のざわめきに耳を澄ませたり。時折近くまで鹿がやってくるので、「ピーッ」という鳴き声が聞こえるかもしれません。
心身ともにリラックスしたら、明日の旅に備えてゆっくりお休みましょう。
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取材・写真・文/菅沼佐和子
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