九州西部、穏やかな山々と川のせせらぎに抱かれた温泉地・嬉野(うれしの)。ここは、古くから“日本三大美肌の湯”として知られ、江戸時代には長崎街道の宿場町として多くの旅人が疲れを癒してきた名湯の地です。
そんな嬉野の中心に「和多屋別荘(わたやべっそう)」はあります。昭和25年創業の老舗旅館ながら、モダンな佇まい。川の流れを借景にした建築やアート、照明に至るまで計算し尽くされた空間は、まるで“日本の美”をテーマにしたひとつの作品のようです。そんな和多屋別荘に滞在し、その魅力を体験してきました。
美肌の湯が育む癒しの温泉地「嬉野温泉」
嬉野温泉の魅力を語るうえで欠かせないのが、その泉質。ナトリウム‐炭酸水素塩・塩化物泉という珍しい泉質は、重曹成分が肌の角質をやさしく落とし、肌がつるりと滑らかに。pH7.9の弱アルカリ性で、湯上がりはしっとり潤いをキープしてくれます。
アクセスも便利。2022年に西九州新幹線が開業し、嬉野温泉駅が誕生したことで、福岡・博多駅からは特急と新幹線で約1時間。長崎空港からはバスと新幹線で最短45分ほど。東京からも飛行機と列車を乗り継げば、約3時間で到着します。
街には古い町家を改装したカフェや茶舗などが並び、湯上がりに散歩するのもおすすめ。温泉街を流れる嬉野川のほとりを歩けば、やわらかな湯けむりとともに、どこか懐かしい香りが漂ってきます。
進化する老舗旅館「和多屋別荘」
嬉野川をまたぐ約2万坪という広大な敷地に、さまざまな宿泊棟が点在する「和多屋別荘」。昭和25年創業の宿は単なる老舗ではなく、常に新しい風を取り入れる“進化する宿”でもあります。
象徴的なのが、国立新美術館(東京)やヴァン・ゴッホ美術館(オランダ)などを手がけたことで知られる建築家・黒川紀章氏が設計した「タワー館」。メタボリズムを取り入れた造形が周囲の自然と調和しています。
さらに、専属の大工チームが常に館内のどこかを改修しているといい、進化し続けているのも特長。館内を歩けば、社長自ら選んだ北欧デザインの名作チェアや現代アーティストの作品にも出合えます。
そして、敷地の真ん中を嬉野川が流れ、せせらぎが館内至るところで耳に届きます。まさに“自然と調和する宿”という言葉がぴったりです。
至福のおこもりステイをかなえる温泉付き客室
今回宿泊したのは、温泉付きの客室「塩原」。床の間や障子などに伝統的な意匠を残しつつ、専属大工が手がけたモダンな家具や灯りが洗練された雰囲気を醸し出しています。
12畳の本間に書斎と広縁が付いた約60平米のゆったりした造りで、4名まで宿泊できます。
特徴は、自家源泉の湯がぜいたくに注ぐ檜の浴槽が付いていること。窓を開けると川からの風が入り、まるで露天風呂のような開放感を味わえます。誰にも邪魔されない、自分だけの癒しの時間に浸れました。
自然に囲まれた温泉大浴場・露天風呂で美肌の湯を堪能
館内の大浴場も見逃せません。御影石と檜が見事に調和し、洗練を感じます。大きな浴槽は自家源泉から引いた美肌の湯で満たされ、男湯・女湯それぞれにサウナと水風呂も。
大きな岩を積んだ露天風呂は、目の前を嬉野川が流れます。緑に囲まれ、川のせせらぎを聞きながらの湯浴みは、心身ともにリセットできます。
茶と酒と和食の饗宴を楽しむ「利休」の夕食
夕食は「日本料理 利休」で。嬉野の酒蔵「瀬頭(せとう)酒造」と茶農家「きたの茶園」が手を組んだ新しい日本料理店で、和食と日本酒と有機栽培茶のマリアージュを楽しめます。
“和敬清寂”の精神を掲げ、余計なものを足さず、土地の素材の力を引き出す――。その哲学は料理だけでなく、器、酒、そして空間のすべてに息づいています。静かな個室、白磁の器に並ぶ料理は、まるで美術品のようです。
メニューは季節ごとに変わりますが、夏のとある日のコースは、きたの茶園の紅茶葉を瀬頭酒造の酒「金紋東長(きんもんあずまちょう)」に漬け込んで抽出した紅茶酒、鱧と夏野菜の冷菜、枝豆風味の湯葉の小鉢からスタート。
お造りは、ヒラマサをお茶を抽出した出汁で漬けにした独創的な一品。続く肉料理は佐賀牛ロースの炙り焼き。地元食材の魅力を存分に楽しめます。
凌ぎには、嬉野名物の温泉湯豆腐を冷や汁仕立てにアレンジした「利休特製冷や汁」が登場。コースの途中で供される嬉野の伝統的製法で作られた有機釜炒り茶は、料理との相性も抜群でした。
玄界灘でとれた鯛の揚げ出しや、嬉野で100年以上続く茶農家「永尾豊裕園」が手がけるお米「永尾茶飯事」の炊きたてご飯、有田町名物の呉豆腐(ごどうふ)が入った吸い物など、佐賀ならではの料理がまだまだ続きます。
そして、酒米「山田錦」を炒って玄米にし、煎茶と合わせたお茶で締めくくる流れは、まさに酒と茶と和食の融合。コースを通して、口福で満たされました。
名物・温泉湯豆腐を堪能する「利休」の朝食
翌朝の朝食も「利休」で和定食をいただきました。奉書と呼ばれる上質な和紙に包んで焼いた焼き魚や、旬の魚を利休和えにした小鉢、永尾茶飯事のご飯などが並びます。
名物は、嬉野の水と大豆で夜中1時半から仕込むという「福田とうふ店」の豆腐を使った温泉湯豆腐。温泉水でぐつぐつと温めると、豆腐がとろとろになり、甘みが増します。
丁寧に作られていることが伝わる料理の数々を堪能し、最後にきたの茶園の煎茶をいただきながら、静かに旅の余韻を味わいました。
好きなものを好きなだけ食べたい派には、広間でのビュッフェ朝食がおすすめ。福田とうふ店の温泉湯豆腐をはじめ、温泉卵や地元農家の野菜を使ったサラダ、フルーツなど、和食も洋食もバラエティに富んだ料理が並びます。
お茶と本とスイーツに浸れる館内施設めぐり
和多屋別荘の魅力は、泊まるだけでは終わらない“文化の体験”にあります。館内には多彩なショップやアートピースなどが置かれ、館内散策も楽しめます。
ピエール・エルメ・パリ 和多屋別荘
館内の施設めぐりで注目は、世界的パティシエ、ピエール・エルメ氏によるカフェ。嬉野茶を使ったマカロンやチョコレートケーキなど、ここでしか味わえないスイーツは見逃せません。
庭園を眺めながら、アフタヌーンティーを楽しむことも可能。セイボリーやマカロン、クロワッサンなどが、嬉野で作られる肥前吉田焼の陶磁器ブランド「224porcelain」の白磁で提供されます。さらに、きたの茶園の嬉野茶やスペシャルティコーヒーが飲み放題というぜいたくな内容です。
BOOKS&TEA 三服
お茶と読書を楽しむための書店兼ラウンジ「BOOKS&TEA 三服」で、ゆったりとした非日常の時間に浸るのもおすすめ。書店「三服」には、お茶、暮らしなどのテーマでセレクトされた約1万冊の本がそろいます。
嬉野で100年以上続く茶農家「副島園」の本店を併設し、目の前で一杯ずつ丁寧に淹れてくれるお茶を片手に、ゆっくり読書を楽しめます。
宿泊者は無料、宿泊者以外は大人1,100円、小学生550円で利用できます。
多彩な宿泊棟、多彩な客室タイプ
また、旅のスタイルに合わせて選べる多様な客室ラインナップも和多屋別荘の魅力のひとつ。今回宿泊した「花鳥苑」温泉付き客室以外のお部屋も一部、紹介します。
タワー館 和モダンツイン
建築家・黒川紀章氏が設計した「タワー館」。その最上階にある「和モダンツイン」は、大きな窓から嬉野川や山々を望みます。リビングとベッドルームが分かれたスイートルームで、スタイリッシュな家具とやわらかな照明が心地よい滞在を演出します。
歴史と静寂に包まれる特別室「水明荘 洗心」
そして、全室檜風呂付きの離れ「水明荘」。その中の一室「洗心」は、佐賀・鍋島藩の別邸を移築したもので、高く立派な折上格天井(おりあげごうてんじょう)に欄間、当時のままの窓ガラス、障子越しの光、どこを切り取っても“時の重なり”を感じさせる美しさです。2023年には藤井聡太王位(当時)の王位戦の舞台にもなりました。
一方、ベッドルームはモダンなデザイン。古き良き和の趣と、現代的な快適さを見事に両立させています。
さらに、専用の庭園、露天風呂、デッキテラスも付いて、誰にも邪魔されないワンランク上の温泉旅をかなえてくれます。
水明荘のもう一室の「白竜」は、大きく切り取られた窓が印象的。窓の外の風景がまるで絵画のようです。木々は春から夏は緑に輝き、秋は紅葉に染まり、デッキテラスは能楽の舞台のような美しさ。
そして、白竜にも白で統一されたベッドルームや、掘りごたつタイプの書斎が。文豪気分でおこもりステイすれば、仕事や読書もすいすい捗りそうです。
もちろん、このお部屋も温泉付き。檜の内風呂と、モダンなデザインで秘密基地のような雰囲気の露天風呂が備わっています。
水明荘の客室には、イタリアのラグジュアリービューティーブランド「ACCA KAPPA(アッカ カッパ)」のバスアメニティ、400年以上続く伝統の薫香技術をもつ「日本香堂」によるフレグランスブランド「Yohaku」のハンドフレグランスなど、上質なアメニティがそろっています。
そして、水明荘は全室、夕食・朝食ともに部屋食での提供。地元の旬の山海の幸、佐賀牛などを使用し、専属の料理人が手がけた懐石をじっくり堪能できます。器も有田焼や肥前吉田焼など地元の伝統工芸品を用い、見た目にもこだわっているのもポイントです。
さらに、水明荘の宿泊者は専用の温泉大浴場「湯殿心晶(しんしょう)」も自由に利用可能。高い吹き抜けの天井や檜と御影石の2種類の浴槽など、源泉かけ流しの温泉とともに、空間でも心地よさを演出してくれます。
「和多屋別荘」での滞在は、美肌の湯に浸かり、地元の食材や茶、器など、地域の文化にも触れ、静寂の中で自分をいたわるぜいたくな時間を過ごすことができました。歴史ある旅館でありながら、モダンなアートやデザインが見事に溶け込んだ心地よい空間も魅力です。日常から少し離れて、嬉野の川のほとりにあるこの宿で、自分を癒す滞在を体験してみませんか?
嬉野温泉 和多屋別荘
- 住所
- 佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙738
- アクセス
- JR「嬉野温泉」駅から車で約5分
長崎自動車道「嬉野」ICより車で約5分 - 総部屋数
- 102室
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン22:00)
- チェックアウト
- 10:00
- 駐車場
- 無料
撮影:福羅広幸 取材・文:楽天トラベルガイド編集部
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