創業江戸末期の料理旅館「川魚・山菜料理 和田屋」で白山麓の恵みを堪能

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江戸末期創業。白山信仰と海山のものが集まる行商拠点だったこの地に商いを始めたという「川魚・山菜料理 和田屋」。神社の境内に位置し、料理やお風呂にも白山の澄み切った冷泉を使用しているのが特徴です。目の前の囲炉裏でゆっくりじんわりと焼き上がる川魚の味はもちろん、その時間を含めてがご馳走。家族代々で紡いできた料理旅館にお腹だけでなく、心も満たされます。

 

 

 

ロケーション

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石川県金沢市と小松市の間を流れる手取川は県随一の大河川。その川の源流をたどると、平坦な町並みから緑深い山々へと景色が変わり、奥に控えるのは日本三名山の白山(はくさん)。

 

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手取川の源であり、水の恵みをもたらす県の最高峰は古代より崇敬を集め、そのふもとに鎮座するのは全国に広がる白山神社の総本山、白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)。地元では「白山(しらやま)さん」と呼び親しまれ、手水舎や身体の穢れを落とす禊(みそぎ)場にはご神体とする白山の伏流水を利用しています。

 

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その一角の山草に彩られた小道の先にたたずんでいるのが「和田屋」です。宿の名前も、店は濁らずが良いから「わたや」と読むそうです。

 

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山口県出身という経緯ゆえ、暖簾(のれん)には長州藩毛利氏の家紋である一文字三ツ星の家紋。その奥には丁寧に住み続けられてきた日本家屋特有の落ち着いた空間が続き、ここで早速ほっと一息。

 

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「和田屋」は金沢駅、小松駅ともに車で30分ほど。大阪方面なら特急サンダーバードで小松駅まで約2時間半、東京方面も新幹線で金沢駅まで約2時間半と、どちらからも実はアクセスが良い立地です。

 

 

客室

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部屋数は全6室で、1階の3室は神様にまつわる名前を。例えば「一月十一日(ひとひ)」は鏡開きを意味し、お供えした鏡餅をいただくことで神様から新しい命をいただき、無病息災につながります。2階の3室は白山と水に関係する名前で、「白嶺(しらね)」は白山の古称に由来。十畳ほどの広さの「白嶺」は床の間や竹天井など数奇屋造りの趣がありつつ、雪見障子の存在がこの地が屈指の豪雪地帯であることを思い出させてくれます。

 

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縁起が良い雪という意味の「瑞雪(ずいせつ)」は、落ち着いた赤の弁柄(べんがら)色が映えるお部屋。障子や帯戸も同じ色あいで統一され、いるだけで元気がもらえそう。

 

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どの窓からも庭が望め、その向こうには獅子吼(ししく)高原も。冬に訪れた今回は、山肌がほのかに雪化粧されていて、雲との距離も近いです。庭では金沢の冬の名物詩である雪吊りも。四方を自然に囲まれた白山麓は、四季がはっきりしているのだとか。

 

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そして「和田屋」で欠かせないのが、広縁に設けられた囲炉裏です。お部屋それぞれに専用の囲炉裏がある環境は希少で、これは100年近い歴史を持つ建物だからこそ。この囲炉裏の存在が訪れた人を悠久の時に誘います。

 

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お部屋には浴衣と作務衣、綿入れハンテンや足袋のほか、お風呂に向かう際に着替えやタオルを入れるのに丁度良いかごバッグが用意されています。

 

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同じ白山麓にあるお店の焼き菓子をいただいたら、身体を温めにお風呂へ。何でもご利益があり、肌にもうれしい効果があるのだとか。

 

硬水のお風呂

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ゴツゴツと岩壁の野趣溢れるお風呂は、白山の冷泉(地下水)を沸かしたもの。軟水が一般的の日本では珍しい硬水で、ミネラルが多いことから肌もつるつるになると好評です。

 

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さらにこのお水は白山比咩神社と同じなので御神水でもあります。身を清める禊場と同じものだと聞くと、お湯に浸かっているだけで気分も清々しく、晴れやかに。冷え性や肩こり、にきびや疲労回復にも効能があるので、冬にこそ浸かりたいお風呂です。

 

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脱衣所には、保湿効果の高いヘチマ水を配合した化粧水が置かれています。大正4(1915)年から愛され続け、アミノ酸やビタミンC、酵素などの美肌成分がたっぷり。美容液やクリームはないので、自分のものを持参しましょう。

 

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湯上がり後は、隣にある休憩所「和楽(わらく)」へ。白山比咩神社の表参道に面した縁側では、青々しい白山麓の自然が視界一面に広がります。

 

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脚をのばせる和室もあり、黒電話や火鉢が置かれた空間は時間の流れもゆるやか。用意された桑の葉茶、菊芋茶を飲みつつ、黒電話を使っていた人たちのエピソードを読んで、さらにほんわか気分に。本棚には美術書も充実しているので、これを機にアートの世界に想いを馳せてみるのも一興です。

 

囲炉裏で仕上げる夕食

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日が沈むと待ちに待った夕飯の時。一皿目の先付けは、柚子を器に見立てた百合根のごま豆腐で、ふきのとうのソースが一足早い春の訪れを告げています。地元の銘酒やワインも充実していて、お料理に合わせた日本酒のカップリングを料理長自らが提案してくれるのも心強いです。おすすめの「萬歳楽(まんざいらく)・白山純米」は、お米の香りがふわっと香り、爽やかな飲み口が山菜と合います。

 

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旬の海老芋、イノシシが入った大吟醸酒粕仕立てのお椀物は、身体を内側から温めてくれる一品。イノシシの肉は柔らかく、弾力もありますが、それも硬水ならではの効果。硬水だとジビエの硬いお肉が柔らかくなると聞き、霊水がもたらすさまざまな効果に驚かされます。

 

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お刺身としては珍しい岩魚がお造りとして登場しますが、これをいただけるのは素材が新鮮なうちに調理しているからこそ。付け合わせの春菊醤油と醤油糀が、岩魚のコリコリとした食感とふくよかな味をさらに引き立て、紅芯大根や黄人参の彩りが料理を華やぎます。

 

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鰻の一口おこわをいただき、いよいよ「和田屋」の醍醐味ともいえる囲炉裏の出番。この日は白山麓の雪深い土地で育った木滑(きなめり)なめこ、上品な味が特徴の岩魚が囲炉裏で調理されます。通常のなめこより10倍以上の大きさのある木滑なめこは、焼かれることで旨みが凝縮。時間が経つと芳醇な香りが漂い、今か今かと料理人の一挙一動に思わず釘付け。

 

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食材が焼き上がる20分間は囲炉裏につきっきりとなり、お客さまと接する機会も増えたとのこと。「おかげさまで楽しい時間を過ごさせていただいています。お客さまによっては囲炉裏の前に座って、焼き加減を眺めながらお酒を楽しむ方も。囲炉裏は良いですよ。火を眺めているだけでお話も進みます」と、料理人の広崎さん。

 

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そして囲炉裏ならではの魅力も教えてくれました。「岩魚の頭を下にして焼くことで脂が頭の方に溜まり、揚げている状態になるので硬い部分が柔らかくなるんですよ。そのおかげで頭から尾までおいしく食べられます。皮はパリッパリですが、身は蒸し焼きなので、ふっくらと仕上がりますね」

 

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その言葉どおり、岩魚はほくほくとして、一口の味が濃厚。シンプルにお塩のみで味付けした分、素材の繊細な旨みも感じられます。冬は岩魚ですが、春から秋にかけては鮎が登場。同じ鮎でも季節ごとに異なる味を3度も楽しめて、好きな方は毎度訪れるとのこと。知らなかった川魚の話を聞けて、その魅力に引き込まれていった時間でした。

 

その後、能登牛やキジ肉を使った八寸、ニジマスと源助大根のソテーと続き、最後はゼンマイとすっぽんの雑炊で締めくくりです。能登牛や加賀野菜の源助大根など、幅広く石川県の名産を堪能。雅な文化と山の自然が調和された食卓からは石川県の風土が感じられました。

 

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食後の小菓子はほうじ茶のムース、くるみのパウンドケーキ、いちごとリンゴのコンポート。上品な甘さと量も多すぎず、少なすぎずと絶妙です。

 

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お部屋に戻ると囲炉裏の炭には火がともされ、冬限定の光景がお待ちかね。隣には囲炉裏で焼くためのお餅も用意されます。静かな夜にお餅のパチッという音に高鳴り、膨れるのを待ち焦がれる時間はきっと幸せ。出来立ての焼き餅は素朴ながらに奥深い味で、満ち足りた気持ちで眠りに就けます。

 

 

参拝から始まる翌朝

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お布団は金沢にある石田屋(いしたや)の天然素材で、一点一点丁寧に作られたもの。高品質な睡眠のおかげで、翌朝は身体だけでなく心も軽やか。せっかくなのだから朝食前に白山比咩神社へ。表参道に寄り添う老杉は、昨日の和楽から見た光景とは一転、下から見上げると歴史を積み重ねた風格がにじみ出ていて、圧倒されます。

 

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境内には「白山霊水」と白山の伏流水が湧き出る場所もあり、改めてこのお水が白山麓では欠かせない存在だと認識。実はその密接な関わり合いが世界的に評価され、この地域一帯は「白山手取川ジオパーク」として2023年にユネスコ世界ジオパークに登録されました。白山によって育まれた文化と信仰、そして水がもたらした地形が貴重な資源になっています。

 

ご飯が主役の朝食

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心が満たされたら、今度はお腹の番。朝食には鱒の山椒煮、だし巻き卵、ふきみそ、葉とうがらし、焼き鮭といったご飯と相性の良いおかずが勢ぞろい。ご飯は伊勢神宮で代々伝わる稲を譲り受けたという地元農家の「伊勢ひかり」。粒がしっかりとしていて、噛むごとにお米の甘さが広がります。料理に使用されるだしは硬水ゆえに1時間以上かかるため、だしを引くことが朝一番の仕事とのこと。じっくり丁寧に作られた朝食は味と醸し出す空気もやさしさに溢れていました。

 

おみやげ・中庭散策

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朝食でいただいた鱒の山椒煮や、梅肉醤油などの自家製たれは多くの要望により、おみやげとして販売されたほど。和田屋オリジナルの吟醸酒「山ほろし」や熊の油なども販売していて、一点一点を興味深く見てしまいます。

 

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そして目の前に広がる庭も時間をかけてじっくり見たい場所の一つです。ウグイスやヤマガラが美声を発し、夏には鈴虫やモリアオガエルも登場。さらにカモシカが突如出現したという目撃情報もあるほどです。

 

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立派な松の下には、女将さんが愛でている山草や先代当主が丹念に手入れした苔が広がり、ついつい足元ばかりを見てしまいます。

 

唯一無二の女将さん

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代々家族が継いできた「和田屋」。6代目女将の和田 智子(さとこ)さんは、2021年にフランス発祥のガイドブック『ゴ・エ・ミヨ』のホスピタリティ賞を受賞。女将であり、日々の様子をSNSで発信する広報も務めています。

 

「常に最前線にいますので、自分は現場監督だと言っています。お客さまが門をお通りになってから、お食事を召し上がって、最後にその門でお帰りになるまでをいかに楽しんでいただけるかを考えていますし、『おいしかった』と言われたらうれしいですね。味はもちろん、接客や雰囲気など、滞在すべてを含めて『おいしい』という言葉をいただけるのだと思っています」

 

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書くことが幼いころから好きだった和田さんは、館内の案内やお品書きを手書きで書いています。それを見た書道家のお客さまから勧められて、マッチ棒や竹筆で書いたこともあると言います。

 

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現在はアートにも興味があり、館内には地元作家の、白山杉で作られたタリスマンや金工の蝶などが飾られ、幽玄な雰囲気を醸し出しています。「その時その時の女将や当主の個性を織り交ぜつつ、色々な方たちのつながりとともに、この和田屋を創り上げていきたいですね」と微笑みます。

 

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継承の中にも変化あり。方丈記の冒頭分『ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず』が思い浮かび、このお宿が流れを絶やさない水そのものに感じました。7代目当主を務めるのは息子の壮央(たけおう)さん。どんな「和田屋」を創り上げていくのか、これからの今後が楽しみです。

 

川魚・山菜料理 和田屋

住所
石川県白山市三宮町イ55-2
アクセス
北陸鉄道【鶴来駅】からタクシーで約5分、金沢駅から車で約40分※「白山ひめ神社」敷地内
駐車場有り
60台 無料 予約不要
チェックイン
15:00 (最終チェックイン:18:00)
チェックアウト
10:00
総部屋数
6室

 

撮影/岡村智明 取材・文/浅井 みら野

 

 

 

 

 

 

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