山形のものづくりにふれ、美食を楽しむ。季節を感じる「天童荘」で心温まるおもてなしを体験

日本一の将棋駒の産地として有名な山形県天童市。開湯110年以上となる天童温泉の中でも、客室総数11室のみの限られたゲストを丁寧にもてなす温泉旅館が「天童荘」です。

「二十四節気(にじゅうしせっき)のおもてなし」をコンセプトに、山形の四季の移ろいを感じる月替りの懐石料理が魅力。さらに、創業から続く一子相伝の味を楽しめる「鰻の蒲焼き」も、泊まる楽しみの一つです。客室の温泉やリニューアルした大浴場で癒やされ、和の心にふれる。そんな「天童荘」での1泊2日をご紹介します。

 

 

アクセス

将棋のまち・天童を代表する温泉旅館へ

天童荘

「天童荘」は、山形ならではのしつらえや料理を堪能できる温泉旅館です。その歴史は古く、明治10(1877)年に前身となる鰻屋「東亭」を創業し、昭和49(1974)年に旅館業を開始。当時、大型旅館が主流だった中で、そのおもてなしや料理が評判を呼び、現在も天童温泉を代表する旅館として人気を博しています。

 

天童荘

アクセスは「将棋のまち」ならではのモニュメントが設置されたJR天童駅からタクシーで約5分。天童駅までは東京駅から山形新幹線に乗り、約3時間(乗り換えなし)で到着します。

 

天童荘ガーデン・カフェ

名物「スワンプリン」を味わうティータイム

天童荘

チェックイン開始時間より早めに到着したので、まずは「天童荘」の対面にある「天童荘ガーデン・カフェ」で一服。山形ならではの食材を使ったランチやスイーツを楽しめます。

 

天童荘

名物の「スワンプリン」(660円)は山形県産の卵を使用し、固めに仕上げたクラシックなプリン。その上にプチシューでスワンを表現したフォトジェニックなスイーツです。伝統工芸品の山形鋳物を製作する「菊地保寿堂(きくちほじゅどう)」の鉄瓶「まゆ」で味わう「鉄瓶コーヒー」(880円)とともに満喫しました。

 

館内

美しい山形の工芸品にふれる

天童荘

チェックイン開始の15:00になったので、「天童荘」へ。松の木が配された庭をはじめ、日本の伝統美が息づく美しいたたずまいに心も沸き立ちます。取材したのは、細雪がはらはらと舞い落ちる師走。樹木には枝が折れないよう、雪吊りが施されていました。

 

天童荘

館内では日本旅館らしく靴を脱ぎ、スリッパに履き替えます。スリッパは天童市の隣、スリッパ生産日本一・河北町にある阿部産業の一品。山形の伝統絹織物「米沢織り」の袴地で作られており、足もとから山形の文化を感じられます。

 

天童荘

スリッパだけではなく、天童荘では「山形のものづくり」にふれられることが大きな特徴。ロビーの椅子は、天童市の家具メーカー・天童木工がスウェーデンのデザイナー、ブルーノ・マットソンと共同で作った名品です。

 

天童荘

そしてロビーの床に敷かれていたのは、オリエンタルカーペット株式会社による山形県山辺町のじゅうたんブランド「山形緞通(やまがただんつう)」。首相公邸や歌舞伎座などにも納入されている最高品質のじゅうたんが、空間全体をさらに上質に演出しています。

 

天童荘
天童荘

チェックインは客室で行うため、スタッフの案内を聞きながら館内へ。玄関から続く建物「東亭」は、和と洋が融合したモダンなデザインとなっています。

 

天童荘

「天童荘」は客室以外にも、ゆったりとくつろげるパブリックスペースが充実。大浴場前の湯上がりスペースは、レンガ造りのレトロなデザインが心落ち着きます。

 

天童荘
天童荘

「談話サロン」は、クラシック音楽が流れる上品な空間。優雅にコーヒーを飲みながら、読書を楽しむこともできます。

 

天童荘

売店では山形県産のお米・つや姫を使ったお菓子など、山形ならではのお土産が購入可能。阿部産業のスリッパや菊地保寿堂の鉄瓶も販売しているので、滞在中に気に入った”Made in 山形”を購入するのもおすすめです。

 

チェックイン、客室

東亭和スイート「紅葉」

天童荘

「天童荘」は本館の「東亭」と離れの「離塵境(りじんきょう)」から成り、今回は、「東亭」にある東亭和スイートの「紅葉(もみじ)」に宿泊しました。

「東亭」は現代のライフスタイルに合わせた和洋室。客室の鍵は「将棋駒」の形をしており、ここでも天童の文化を感じます。

 

天童荘
天童荘

「紅葉」はイージーチェアを配した12畳の和室、ダイニング、ベッドルーム、バスルーム、テラスと、ゆとりあるレイアウト。心地よい時間を過ごせる約77平米のお部屋です。

 

天童荘

山形県を代表する民謡「花笠音頭」に登場することでも有名な、天童市の木でもある紅葉をコンセプトにしており、ふすまには寛永元(1624)年に京都で創業した唐紙屋「唐長」の枝紅葉の唐紙を使用しています。

座敷だけでなく、さっと座れるダイニングがあるのも「東亭」の大きな特徴。東亭和スイートは基本的に2名の場合は部屋食、3名以上の場合は専用ダイニングでの食事となります。

 

天童荘

ベッドが2台設置されたベッドルームは、快適な睡眠に誘う落ち着いた雰囲気。枕は備長炭パイプと楠チップ入りのオーガニックコットンを使用した「枕.一ツ星」です。定員は2〜4名で、3名以上で宿泊する場合は布団を敷くことも可能。

 

天童荘

チェックインは、抹茶と季節のお菓子をいただきながら。この日のお菓子は、温かい地元の温泉まんじゅうです。そのまま提供するのではなく、ふかすひと手間を加えており、そのおもてなしに心も温まりました。

 

天童荘

「天童荘」は、全室で温泉を楽しめるのも魅力です。「紅葉」では、半露天風呂で坪庭を眺めながら温泉を楽しむことができます。泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉。肌あたりがやさしく、ツルツルとした肌へ導く泉質のため、何度でも入りたくなります。

 

天童荘

温泉に入る前には、山形市「ツルヤ商店」の籐(とう)製品にも注目を。ツルヤ商店は明治40(1907)年に創業し、天然素材の籐を使った籐家具などを作っている老舗。客室のバスルームには、「空間に空気のように存在する籐具」をコンセプトとした「ami」シリーズの腰掛けやかごが置かれています。

 

天童荘

館内着は浴衣と作務衣の2種類。大浴場や食事処へ行く時は浴衣、寝る時は上下セパレートの作務衣など、自分好みの服装でリラックスできます。

 

東亭和スイート「青竹」

天童荘

東亭和スイートは「紅葉」と「青竹」の2種類で、東亭和スイートを予約するとどちらかの客室となります。

「青竹」は日本の伝統文化を感じる竹がコンセプトで、唐紙屋「唐長」の細竹の唐紙がアクセントに。窓際には天童木工の椅子も置かれ、障子から差し込む温かな光を感じながらくつろげます。

 

天童荘

ベッドルームの脇にはテラスがあり、明るく開放的。広さは約78平米、定員は2〜4名です。

 

天童荘

半露天風呂の温泉は、「青竹」をイメージしたデザインのタイルが印象的。和の趣を感じながら、天童の湯を思う存分楽しめそうです。

 

東亭プラチナスイート 

天童荘

「東亭プラチナスイート 」は、2023年2月にリニューアルした1室限定のお部屋。イタリアの高級家具「Cassina」の椅子をはじめ、最高級のしつらえで宿泊客をもてなします。定員は2〜3名で、11歳以上のみ宿泊可能。

 

天童荘

広さは約100平米で、ダイニング、リビング、ベッドルーム、バスルームのレイアウト。バスルームは大きなヒノキの浴槽が中心に置かれ、モダンな空間となっています。

 

離塵境「次の間 蔵王石温泉露天風呂付き」

天童荘
天童荘

離れ「離塵境」は、京都の数寄屋大工が伝統の技で仕上げた数寄屋造り。照明はあえて最小限におさえ、光と影を楽しむ「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の世界が広がります。

 

天童荘

「離塵境」の客室数は全6室。それぞれ趣が異なり、「次の間 蔵王石温泉露天風呂付き」は主室11畳+次の間5.5畳の広さ。食事は当日の状況によって専用ダイニング、または部屋食です。

 

天童荘

坪庭を眺める縁側は「離塵境」ならではの空間。丁寧に手入れされた美しい庭を、天候に左右されることなく室内から観賞できます。

 

天童荘

「次の間 蔵王石温泉露天風呂付き」は、巨大な蔵王石をくりぬいた見事な露天風呂が特徴。大自然の中に身を置くように楽しめる特別な温泉は、旅の思い出になることでしょう。

 

大浴場

リニューアルしたお風呂を堪能

天童荘

「天童荘」の大浴場は2024年10月にリニューアル。男湯は日本古来の竹を各所にあしらった「竹の湯」がテーマとなっています。

 

天童荘

男湯の脱衣所には天童木工のベンチも。波型の曲線が特徴的で、湯上がりに腰を落ち着けてくつろげます。

 

天童荘

女湯は山形市高瀬地区の苔(こけ)を用いた庭を楽しめる「苔の湯」。内湯と露天風呂の両方で湯浴みができ、凛と澄み切った空気に包まれる温泉は極上です。

 

天童荘

男湯・女湯ともにドライヤーとシャワーヘッドは「ReFa (リファ)」。シャワーヘッドはウルトラファインバブルとマイクロバブルのダブルの洗浄力で汚れを取り除き、健やかな肌や頭皮へと導いてくれます。

 

周辺散策

風情あふれる天童温泉街地区を歩く

天童荘
天童荘

夕食までの時間は、天童温泉街周辺を散策。宿の近くを流れる倉津川にかかる各橋には、「王将橋」「金将橋」「銀将橋」と将棋の駒の名前が付けられ、江戸時代から将棋の駒を製造する天童らしさであふれています。将棋の駒のオブジェも飾られており、宿から天童市役所近くの「王将橋」までは徒歩約13分です。

 

天童荘

散策から戻ると日が落ち、「天童荘」の目の前にある「天童温泉10号源泉櫓」も良い雰囲気に。源泉櫓は2021年に天童温泉開湯110年を記念して設置された天童温泉の新しいシンボルで、無味無臭でやわらかな泉質の源泉を手湯で楽しむことができます。

 

天童荘

天童荘を含む「天童温泉街地区」は、風情あふれる街並みも魅力。天童らしい固有の風景を作り出していることが評価され、2024年度「都市景観大賞」都市空間部門の大賞である「国土交通大臣賞」を受賞しました。

 

天童荘

街並みはもちろん、ライトアップされた夜の天童荘も幻想的。静けさが増し、幽玄の世界が広がる日本旅館の伝統美を感じられます。

 

天童荘

部屋に戻り、菊地保寿堂の鉄瓶で入れるお茶で冷えた身体を温めます。山形鋳物は平安後期発祥の伝統工芸品で、菊地保寿堂は慶長9(1604)年に創業しました。

 

夕食

山形の旬を味わう、極上の「天童荘懐石」

天童荘

夕食の時間になり、宵の宴のはじまりです。「二十四節気のおもてなし」をコンセプトにした「天童荘」では、月によって献立を変えており、山形ならではの旬の食材を中心とした「天童荘懐石」を味わえます。

取材日の師走の献立は、「冬至饅頭」「香箱蟹」「帰去来彩々」からスタート。山形では冬至に小豆とかぼちゃを煮た「冬至かぼちゃ」を食べる風習があり、それを「天童荘」流の洗練されたユリ根入り「冬至饅頭」で堪能しました。

 

天童荘
フグの白子の黄金和えや小松菜の松前漬けなど、海の物と山の物を合わせた美しい「帰去来彩々」
天童荘

料理と一緒に味わいたいのは、山形県産の地酒。特におすすめなのは、「天童荘」から車で10分ほどの場所にある「出羽桜酒造」の日本酒です。

さまざまな酒米を使った日本酒を製造しており、「出羽燦々誕生記念」は酒造好適米「出羽燦々」を100%使用した純米吟醸酒。青リンゴのような香りが特徴で飲みやすく、山形の食材を使った料理ともよく合います。

 

天童荘
金目鯛とエビイモにみぞれ餡を合わせ、寒椿に見立てた「寒椿椀替り」
天童荘

「冬海割鮮」として登場したのは、山形県庄内産寒ブリの焼きしゃぶと、ヒラメのゆずしぼり。脂ののった寒ブリは火を加えることでよりジューシーな味わいになり、素材の良さを引き出す職人技を実感しました。

「天童荘」で長年、料理長を務めるのは林繁之さん。山形の厳選した食材を使うのはもちろんのこと、その素材を最高の調理法で仕上げる林さんの料理を目的に、多くのゲストがリピートするそうです。

 

天童荘

肉料理は希少な天童牛「和の奏(なごみのかなで)」のヒレステーキ。「和の奏」は天童市「なごみ農産」のブランド黒毛和牛で、地元の米農家から仕入れた飼料米を中心とした国産飼料100%で肥育されているのが特徴です。

ヒレはまったく臭みがなく、赤身の旨みを深く感じられる上質な甘さ。小さな一口でも旨みが広がる、特別なおいしさでした。

 

天童荘
御口直しの「鴨南蛮」。献立には書かれていなかったうれしいサプライズ
天童荘

次々と運ばれる洗練された料理に感動していると、ついに「鰻の蒲焼き」が登場。鰻屋として創業した「天童荘」の名物で、鰻に合う山形県産米のはえぬき、味噌汁、香の物とともにいただきます。

初代の伊藤勘治郎さんから六代目の主人となる伊藤豪さんまで一子相伝で受け継がれたタレは、門外不出の味。ふたを開けた瞬間からタレの芳醇な香りが広がり、炭で焼かれた香ばしい鰻は文字通り絶品でした。

 

天童荘
山形県産のりんごを使用し、なめらかなカスタードクリームをあしらった「焼きりんご」
天童荘

大満足の夕食を終え、1日の最後はもう一度、大浴場へ。

天童荘の周辺は車の通りも少なく、温泉に浸かっていると、まるで山の中にいるような静寂を感じられます。山形の天然石「蔵王石」が配された苔の庭は夜になるとライトアップされ、昼間とはまた違った美しさを楽しめました。

 

朝食、チェックアウト

地元の食材をふんだんに楽しむ料理

天童荘

翌日は、障子から差し込むわずかな太陽の光で気持ちよく目覚め、朝食を堪能。白米だけでもおいしい山形県産のつや姫を、焼き鮭、おでん、だし巻き卵、地元産の野菜を使った自家製の漬物など、たっぷりのおかずと一緒に楽しみました。

おひたしで味わった「山形赤根ほうれんそう」は山形の伝統野菜の一つ。おでんは炭火で温められ、最後まで冷めることなくおいしく味わうことができました。

 

天童荘

食後は「談話サロン」でコーヒーを。降り始めた雪を眺めながら、ゆったりと温かいコーヒーを味わいました。

 

天童荘

チェックアウトして外に出ると、遠くに見えたのはうっすらと雪化粧した山々。天童の冬らしい絶景を見ることができました。

 

うなぎ勘治郎

天童荘の鰻をテイクアウトでも

天童荘

夕食で食べた鰻の味が忘れられず、帰る前に天童荘の目の前にある「うなぎ勘治郎」で、テイクアウト用の鰻重を購入することに。「うなぎ勘治郎」の建物は、源泉櫓などの街並みを含め「山形エクセレントデザイン2023 準大賞」を受賞しています。

 

天童荘

「鰻重」(一人前 5,500円)は鰻が丸々一匹入った逸品。観光先で食べたり、帰りの新幹線の中で味わったり、「天童荘」の自慢の味を好きな場所で楽しめます。「うなぎ勘治郎」は2022年にオープンした「天童荘」が手がけるうなぎ専門店で、宿泊者以外も利用可能です。

 

天童荘

伝統的な山形のものづくりにふれ、その時期にしか味わえない美食を心ゆくまで楽しんだ「天童荘」。日々忙しく働く人たちが一度立ち止まり、細やかな季節の変化を感じたくなるような温泉旅館です。日本の美意識を感じる、山形・天童温泉へ旅に出てみませんか?

 

天童荘

住所
山形県天童市鎌田2-2-18
アクセス
JR「天童」駅より車で約5分
チェックイン
15:00
チェックアウト
10:00
客室数
11室
駐車場
あり/30台(無料※予約不要)

 

撮影/岡村智明 取材・文/小浜みゆ

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