能登を愛してやまない、一般社団法人・能登半島広域観光協会能登デスクの中山智恵子さんと一緒に奥能登へ。2024年元日に起きた能登半島地震の発生から11カ月が経ち、のと鉄道、のと里山海道など交通面が復旧。観光スポットも徐々に再開してきています。
そんな能登の現状を知るために晩秋の北陸では珍しい晴天の下、「能登復興応援バスツアー」に参加。観光客の到着を心待ちしている能登の観光スポットを訪れました。
※2024年11月24日時点の情報です。内容は変更となる場合があります。
能登復興応援バスツアーが開始!旅の始まりは金沢駅から
2024年11月24日の早朝、丸一観光主催のバスツアー「能登復興応援企画 能登を知り尽くす案内人と行く、いま!おすすめの奥能登をめぐる旅」に参加するため金沢駅へ向かいました。
もみじやイチョウが色づき始め、金沢駅は国内外からの旅行客で終日にぎわっています。今回、バスツアーで訪れるのは奥能登と呼ばれるエリア。能登半島東側の七尾市から海沿いを北上し、穴水町、能登町、珠洲市を巡ります。
能登の道路事情に精通するドライバーの横場さん、添乗員の田近(たぢか)さん、そして能登デスクの中山さんに加え、約20名の能登の今を知りたい人たちが全国各地から集合しました。
奥能登への道すがら、中山さんが自己紹介。金沢駅の観光案内所で能登の旅案内をする日々でしたが、地震で状況は一変。それでも自分は能登のために何ができるのかと考え、たどり着いたのがハッシュタグ「#私の愛してやまない能登」で素敵な能登の景色をSNSに投稿することでした。この活動が全国で反響を呼び、明るい能登の話題に多くの人たちが元気づけられたのです。
「能登の人がいなければ今の私はいない」と断言する中山さんの一語一句に能登への愛があふれています。最近の問い合わせで多いのが、能登に今行くことが不謹慎にならないか?ということ。現地の受け入れ状況を知ることは難しいですが、このツアーでは中山さんが事前に現地の人たちに確認し、観光客を待ち望んでいる場所を選んでいます。
「能登中島駅」で鉄道郵便車を見学
ツアーの最初に訪れたのは、のと鉄道の「能登中島駅」。ここからのと鉄道に乗車します。バスツアーなのに、電車に乗り換えるのにも実は理由が。「2024年4月6日にのと鉄道が全線で運転再開したことが、能登だけでなく石川県に暮らす私たちの光になりました」と中山さん。
鉄道を利用するのは主に学生です。その学生たちが新学期を無事に迎えられるように、という強い想いを鉄道関係者は胸に抱いて作業に取り組んだと言います。わずか3カ月での復旧は奇跡と賞され、のと鉄道は復興の兆しを示しました。今、のと鉄道に乗ることは、日常を再び取り戻した証を実感する意味でもあります。
そして能登中島駅を訪れた理由のもう一つが、鉄道郵便車「オユ10 2565」です。昭和後期に東京と北海道の間で郵便物を輸送し、移動中も郵政の乗務員が区分作業をしていたことから「走る郵便局」とも呼ばれていました。
現在、この車両は全国に2両しか残されておらず、そのうちの1両が駅構内に展示されています。
通常は観光列車「のと里山里海号」が能登中島駅に停車した時のみ内部を見学できますが、この日はサプライズが! 中山さんが来ると聞いて、地元の郵便局長の大杉さんが特別に駆けつけてくれたのです。
「車両の最後部には赤ポストも設置されていて、観光列車に乗車された方々がここでお手紙を投函すると特別消印で届けられます」。観光列車はまだ運行休止中ですが、再開したらその喜びを手紙につづるために再訪したい、そんな想いが込み上げてきました。
風光明媚な里海の景色へと誘う「のと鉄道」
一両編成の車両が駅に到着し、乗車。列車は七尾湾に沿って終点の穴水(あなみず)駅を目指します。
30分ほどの乗車時間は、のどかな田園風景や穏やかな海原が続きます。車窓からは牡蠣棚も見えました。能登中島駅がある中島町は、北陸有数の牡蠣の生産地。肉厚で濃厚な牡蠣の味わいを求め、毎年、冬から春にかけて多くの観光客が訪れると聞きます。
のと鉄道には、各駅にそれぞれ愛称が存在し、途中の能登鹿島駅は「能登さくら駅」と呼ばれています。
春になるとホーム沿いで100本もの桜並木が満開になることが由来。普段は静かな無人駅も、この時ばかりは出店が並ぶほどのにぎわいを見せるのだとか。
牡蠣の旬も実は春だそうで、「次回のツアーは牡蠣を食べながらお花見なんてどうでしょう?」と中山さんから提案されると、参加者の目がキラキラと輝きました。
終点の穴水駅に到着すると、驚いたことに横断幕を持った地元の方々がお出迎えをしてくれました! 心あたたまる歓迎に、訪れてもいいのか不安だった気持ちが払しょくされます。少しずつ、されど着実に、能登は観光客を受け入れる準備が整ってきているようです。
「道の駅 あなみず」で能登グルメをチェック
穴水駅には道の駅が隣接し、地域の特産品を販売しています。
中山さんイチオシなのが、能登半島をモチーフにしたトートバック。能登半島の形をした恐竜が威勢よく吠えていますが、どことなく愛嬌のある表情に思わず笑みがこぼれます。
ほかにも1768年創業の奥能登で最古の酒蔵「宗玄酒造」がつくった日本酒、新規事業として2006年に始まった「能登ワイン」のスパークリングロゼといった能登を代表する新旧のお酒もそろっています。
近所のお寿司屋さんによる握りたてのお寿司が道の駅で買えるのも、能登のおいしいものが集まっている穴水ならでは。大トロ、いくら、真鯛など豪華なネタぞろいですが、1,000円とお買い得です。
最後はスタッフによるお見送りまで! こちらも全力で手を振り返します。
「能登ワイン」で試飲&ワイナリー見学
穴水駅からは再びバスに乗り込みます。景色が海岸線から一転、丘陵が続く山の方へ。美しい海と山に囲まれた能登半島は自然と人との距離が近く、古くから持続可能な地域づくりを先駆けてきました。このことが評価され、日本初の「世界農業遺産」に認定されています。その豊かな土壌で新たな名産品を生み出そうと始まったのが、2006年にオープンした「能登ワイン」です。
ぶどう栽培も、ワイン醸造も初の試みでしたが、醸造3年目にして早くもコンクールで賞を受賞。牡蠣の生産地という土地柄を生かして、その殻を畑にまくなどテロワール(風土)が感じられるワインにこだわりました。その後、念願の金賞に輝くことで全国的に知られるようになります。
特に良質のヤマソーヴィニヨンをオーク樽で半年間ほど貯蔵した「心の雫」は人気商品。他にも珍しいぶどう品種「サペラヴィ」を使った赤ワイン、限定販売の「美の里(みのり)」などがあり、ワイナリーでは飲み比べしながらお気に入りの1本を購入できます。
事前予約で参加できる無料のワイナリー見学もおすすめです。ワインを熟成させるタンクや樽、ヨーロッパから取り寄せた瓶詰機など、普段は目にすることのできない機材ばかり。
「震災でワイン1万リットルが入る貯蔵タンクが破損しましたが、一番の被害はショップの天井でした。電気屋さんや大工さんなど地元の職人さんが休日を返上して作業いただき、そのおかげで5月の連休明けには復活できました。全国の皆さんには能登は元気でやっているから、その姿をぜひ見に来ていただきたいですね」と、代表取締役社長の村山さん。今も貯蔵庫の樽に残されたワインの赤い染みが、地震の被害の大きさを静かに物語っています。
地震や猛暑の影響が懸念されたものの、ブドウは見事に熟し、秋には新酒の能登ワインヌーボーが無事に出荷。能登の恵みを受けて、ぶどうは次の収穫に向けて力を蓄えます。
能登ワイン
- 住所
- 石川県鳳珠郡穴水町字旭ケ丘り5-1
- 営業時間
- ギャラリー:通年(冬季以外)9:00~17:00、冬季(12/1~2/28)9:00~16:30
- 定休日
- 12/31~1/2
- 公式サイト
- 能登ワイン
イカキングが待ち構える「イカの駅つくモール」
次の目的地は、巨大なスルメイカのオブジェが目を引く「イカの駅つくモール」。九十九湾(つくもわん)に面した観光施設です。リアス式海岸特有の入り江が多いことが地名の由来で、その優美な景色は日本百景にも選ばれています。
近くの小木港(おぎこう)はスルメイカの漁獲高が全国屈指を誇り、イカの三大漁港の一つ。全長13メートル、重さ5トンのオブジェは、「イカキング」という呼び名で親しまれている人気のフォトスポットです。イカの中から顔をのぞかせたり、足に巻き付かれたりとユーモアたっぷりな写真が撮れます。
直売所には特産品が並び、イカにまつわるグッズも豊富。
見逃せないのが、取れ立てのスルメイカを急速凍結した「船凍イカ」です。知る人ぞ知る小木のブランドイカは、水揚げを待つことなく船の上で凍らせているのが特徴。そのおかげで鮮度がぎゅっと閉じ込められ、色鮮やか。身もプリプリとした弾力があります。
船凍イカと一緒に購入したいのが、地元の数馬酒造が開発した「竹葉(ちくは)いか純米」。能登の酒米や海洋深層水を用いるなど地域資源にこだわり、イカと一緒にいただくことで双方の旨みが調和するお酒に仕上がっています。
さらに直売所では、あつあつのイカ焼きも販売。じっくりと焼かれたイカはぷりっとした食感で、かむほどに凝縮された旨味が驚くほど口の中に広がっていきます。さらっとした醤油ダレとの相性も抜群で、シンプルな調理だからこそ素材の良さが際立つ逸品です。
イカの駅つくモール
- 住所
- 石川県鳳珠郡能登町字越坂18字18-1
- 営業時間
- 9:30~17:00(時短営業中は公式サイトを要確認)
- 定休日
- 水曜日
- 公式サイト
- イカの駅つくモール
「ラブロ恋路」でランチ、能登の象徴「見附島」へ
ランチで立ち寄ったのは、恋路海岸の近くにある「ラブロ恋路」。能登の名産をふんだんに取り入れた会席料理には、あんこう鍋、お刺身、白身魚の甘酢あんかけ、茶わん蒸し、イカの塩辛、天ぷらなど盛りだくさん!
お刺身にはスズキ、カジキ、ヒラマサが登場し、どれも肉厚。身がやわらかなあんこうは上品な味わいで、お味噌の出汁が染みると味により奥深さが感じられます。宿泊施設とレストランを兼ねているラブロ恋路ですが、現在はいずれも営業を再開しています。
体験交流施設 ラブロ恋路
- 住所
- 石川県鳳珠郡能登町恋路3-18
バスは地震の被害が大きかった珠洲市へ。ブルーシートを覆った家屋や傾いている電信柱を目の当たりにし、ツアー参加者たちは言葉を失います。
辿り着いた場所は、能登のシンボル「見附島(みつけじま)」です。高さ約28メートルの無人島は、石川県の天然記念物と名勝にも指定。震災前までは、潮が引けば近づくことができ、海水浴でも地元の人たちに長年親しまれてきました。
しかし、かつて“軍艦島”と呼ばれた島は地震で崩落し、無残な姿に。「それでも残っていてくれて良かった」と、中山さん。「自分の好きな能登を見たいと皆さんが思った時、やっぱりここを訪れるんですよね。見附島の姿は変わっても、それでも自分が能登を好きなことを再認識できる場所なんです」。
見附島
- 住所
- 石川県珠洲市宝立町鵜飼
- 駐車場
- あり(200台・無料)
ツアーの最終目的地「道の駅 すずなり」に到着
このツアーの最後に訪れたのが、観光案内所も兼ねている「道の駅 すずなり」です。
珠洲の特産品でもある天然塩をはじめ、その塩を使ったお菓子、珠洲焼や地酒などのおみやげを購入できます。
人気なのが、濃厚な舌触りと甘さが特徴のソフトクリーム。海水をくみ上げて製塩する揚浜式(あげはましき)は日本で唯一、能登にしか残されていない伝統的な塩づくりです。その塩を使用した揚げ浜塩ソフトは、甘塩っぱくてクセになるおいしさ。珠洲のえびすかぼちゃを使ったすずかぼちゃソフトも好評です。
被災後、ここは足湯や炊き出しを行うなど支援活動の拠点に。ゴールデンウィーク前には営業を再開させ、隣接する仮設店舗では地元の食材を堪能できる「すずなり食堂」が9月にオープンしました。徐々に行ける場所が増えていることを実感しながら、たくさんの笑顔と、たくさんの名産品に囲まれてバスは金沢駅へと帰途につきます。
道の駅 すずなり
- 住所
- 石川県珠洲市野々江町シの部15
- 営業時間
- 10:00~16:00 ※時短営業中
- 定休日
- 水曜日
- 駐車場
- あり(53台・無料)
- 公式サイト
- 道の駅 すずなり
行けるところに行くことが復興支援に
2024年12月25日より、のと里山空港は通常ダイヤに戻り、羽田空港から1日2便が往復。わずか60分のフライトで日帰りもでき、再び能登に行きやすくなります。また石川県の観光公式サイトでは「今行ける能登」というページを設けて情報を発信し、中山さんも金沢駅構内の観光案内所で能登の旅案内に奔走しています。
旅の終わりに中山さんは、「能登に観光で今、行けるところに行くというのも、本当に大きな支援の一つだということを知っていただきたいです。変わってしまった能登と、それでも変わらない能登を見て、持ち帰って、明るい話題を周りの方にお話ししていただけたらうれしい」と語りました。震災の最中にあっても能登は昔と変わらずに、自然も、人も、穏やかなままでした。今こそ能登へ。皆さんの訪問が、能登をさらに輝かせます。
能登旅行お役立ちリンク
・今行ける能登(ほっと石川旅ねっと)
・奥能登2市2町の通れるマップ(石川県道路整備課)
取材・写真・文/浅井みら野