清流に誘われて、京都市内から車で1時間30分ほど。自然豊かな京都府南丹市美山町は、かやぶき屋根の古民家が建ち並ぶ美しい田舎町。そんな美山の鶴ヶ岡地区に2023年7月、「究極の田舎」をコンセプトに掲げた地域分散型ホテル「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷」が誕生しました。築130年以上の古民家での暮らしを楽しみ、地域の人々とふれあう。これまでにない、心安らぐ非日常の旅へ!
目次
- ・アクセス、チェックイン
- ・客室
- ・夕食
- ・朝食
- ・体験
アクセス、チェックイン
フロントがムラの駅!?
京都市内の中心部から、周山街道(国道162号)と呼ばれる峠道をひたすら北へドライブ。1時間30分ほど車を走らせると、ムラの駅「たなせん」に到着します。
「えっ、なんでムラの駅?」と思うかもしれませんが、実はここがチェックインの手続きを行う場所。いつもとは違う旅の始まりに、ワクワク感が高まります。出迎えてくれたのは「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷」の案内人、美山生まれ・美山育ちの古北真里さん。
古北さんに案内され、店内へ。「たなせん」は地元で古くから愛されるコミュニティショップ。小ぢんまりとした店内は、旬の朝どり野菜からお弁当、お土産、お酒、日用品まで生活に必要なものが一通りそろいます。
「どこからいらっしゃったんですか?」
店内にいたお客さんに笑顔で声をかけられ、着いたばかりでもう美山に親しみを感じます。
チェックイン時は、自家製のジンジャーシロップで迎えてくれます。夏場は炭酸で割って爽快に、寒い季節はホットでぽかぽかに。器にもこだわり、金継ぎの線跡が入ったアンティークのカップで提供。古くから伝わるアイテムは、愛でるだけで心を潤してくれます。
チェックイン時の手続きは珍しいガラスペンで。インクを付けて書く、そのひと手間が楽しい。
客室
193平米の古民家「蛍火」
「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷 」は、歴史的に価値のある、かやぶき屋根の古民家3棟をリノベーションした地域分散型ホテル。3棟それぞれに、「蛍火(ほたるび)」「松明(まつあかり)」「水音(みずおと)」という名前が付けられており、すべて美山町北西部に位置する鶴ヶ岡に点在しています。
チェックイン後、「たなせん」から車で約5分移動して「蛍火」へ。築約130年の古民家を改修した「蛍火」は、3棟の中で最も大きく、お城のような外観の迫力にビックリです。
ルームキーにもひと工夫。西陣織工場で実際に使われていた絹糸や道具のキーホルダーが付けられています。聞けば、かつて鶴ヶ岡には京都の有名な西陣織の帯を織る工場があり、今も伝統工芸士の名を持つ織工(おりこう)たちが、この地に暮らしているのだとか。
「蛍火」には、最大8名で泊まれる「101」と最大4名泊まれる「102」の2つの部屋があり、それぞれ分けて利用することもできます。
「101」の畳の間は広々とした和の癒やし空間。畳の上でごろんと寝転がったり、冬はコタツでまったりしたり。田舎のおばあちゃん家に遊びに来たような、懐かしさがあります。
棟をぐるっと囲む縁側は、里山の景色を眺めながら、ぼ~っとできる安らぎの場。日なたぼっこする猫のようにのんびり過ごせば、日頃のストレスや不安が消えていくようです。
旅の疲れを癒やす寝室は「101」だけで2つ。それぞれふすまを閉めれば、プライベート感も確保できます。
ダイニングには、樹齢300年のスギを使用した一枚板のテーブルが置かれています。これは、地元の大工さんがこの家に合うように作り上げた一点もの。テーブルの上にさりげなく飾られた草花にも、ほっこり和みます。
室内にはシステムキッチンも。電子レンジ、冷蔵庫、食器、調理器具などがそろっているので、材料を持ち込んで自炊をすることも可能です。
冷蔵庫には水に加えて、地元の美山牛乳も入っていました。
お部屋に用意されたコーヒー豆は、煎りたての自家焙煎珈琲をつくる地元の寺カフェ「美山福寿庵」のもの。コーヒーを抽出する道具が2種類(フレンチプレス、フィルタードリッパー)あり、その日の気分で選べるのがうれしいですね。
コーヒーミルのハンドルを手で回してコーヒー豆を挽き、ゆっくりとドリップ。そこに美山牛乳を合わせてカフェオレに。
お風呂は、お湯はりも追い焚きもボタン一つでOK。信楽焼の浴槽は保温性に優れ、快適なバスタイムを過ごせます。
バスアメニティは、京都発のオーガニックコスメ「NEMOHAMO(ネモハモ)」を採用。泡立ち抜群で、髪がしっとりまとまります。
基礎化粧品も同じく「NEMOHAMO」で統一。保湿力が高いのに、さらりとした使用感がたまりません。一度使うとやみつきになるかも。
部屋着はコットン100%素材を使用した、着心地軽やかな作務衣タイプ。通気性に優れ、睡眠の質をぐっと上げてくれます。
続いてこちらは、「101」と引き戸でつながった「102」。使い勝手の良いワンルームタイプで、カップルや女子旅におすすめです。
ナチュラル&モダンなダイニングテーブルは、美山の北山杉を中心に使う家具メーカー「COMPASS」のもの。
何よりときめいたのが「102」のレトロなタイル風呂。浴槽に段差があるのは、もともと五右衛門風呂だったからだそう。
モザイクタイルに五右衛門風呂ときたら…そう! ジブリファンなら、ピンとくる人がいるかも。ここは、映画『となりのトトロ』でサツキとメイがお父さんと一緒に入っていたお風呂を彷彿とさせます。
メゾネットタイプの「蔵」
「蛍火」には、主屋の隣に別棟「蔵」があります。こちらはメゾネットタイプで、広々したウッドデッキ付き。
築約130年の蔵をまるごとリノベーション。重厚な扉の向こうはどうなっているんだろう?と、好奇心がかき立てられます。
蔵というと窓が小さくうす暗いイメージがありますが、ここは別世界。壁いっぱいの窓から明るい日差しが差し込み、部屋中ぽかぽかです。あまりに気持ち良くて、ついウトウトしてしまいそう。
ワンちゃんOK。ドッグラン付きの「松明」
こちらは、最大6名まで泊まれる「松明」。目の前にはオオサンショウウオも生息する清流・棚野川が流れ、川音を聞きながらのんびり過ごすのにぴったりです。
「松明」の由来は、高さ約20メートルの燈籠木(とろぎ)の先をめがけて松明(たいまつ)を投げる火祭り「上げ松」が近くで行われることから。「上げ松」は毎年、夏の夜に1日だけ行われる荘厳な祭りで、祭りのタイミングに合わせて宿を予約すれば、より思い出に残る旅ができますよ。
「松明」の屋根は、薄い杉の皮を重ねて作る杉皮葺(すぎかわぶき)。かやぶきとはまた違う風情が際立ちます。
外観は和ですが、内装はモダンな洋の雰囲気。この棟はワンちゃんの滞在も可能です。さまざまなワンちゃん用グッズも用意されていて、愛犬と一緒に泊まりたい人にうってつけ。
さらに、広いプライベートドッグランも付いています。思いっきり走り回れるので、子ども連れのファミリーにもぴったりです。
天窓を設けたお風呂も特徴的。湯船にざぶんと浸かりながら青空も星空も眺められる、ぜいたくなバスタイムになるはず。
せせらぎに包まれた山合の「水音」
これより奥に集落はないため、地元の人から「洞(ほら)の奥」と言われてきた地区にあるのが、最大8名まで泊まれる「水音」(※現在は定員6名ですが、11月末に8名になる予定)。この地区には大小50以上の滝があり、水がとても豊富。雨が少ないときでも枯れることがないそうです。
玄関に入ったら、ぜひ見上げてみてください。「北山型」と呼ばれる大きなかやぶき屋根が残っているのが分かります。
和と洋が見事に調和したリビングスペース。美山に線路は通っていないのに、なぜか蒸気機関車が走っているふすま絵もあり、歴史ロマンを感じます。
ふすま絵の前には、タイルを貼った囲炉裏と約300年前の桐ダンスを組み合わせたモダンなテーブルが。
ちなみに、古民家と聞くと冬の寒さが気になりますよね。もちろん中に入ったときはひんやりしますが、床暖房対応フローリングなので足元から温まります。
夕食
古民家レストランで絶品料理を満喫
お待ちかねの夕食タイム。夕食付きプランにすれば、提携している4つのレストランの中から要望に応じて手配してくれます。
今回うかがったのは、かやぶき屋根の古民家レストラン「ゆるり」。もともと美山の初代町長が建てた築約160年の古民家を活用しています。
梅棹(うめさお)レオさんと悠里さんご夫婦は、レオさんの生家であり、お母様が営んでいた思い入れのある古民家レストランを譲り受け、二人三脚で切り盛りしています。夜は1日1組限定。メニューはコース料理1本で、春は山菜、夏はアユ、秋はキノコなど、地元で採れる食材をふんだんに使った料理を楽しめます。
店の奥からは時折、クマへの注意を促す町内放送が漏れ聞こえてきます。この地域に住む人たちの日常が、旅人にとっては非日常であることを実感しますね。
店内に入って広い土間の奥は囲炉裏の間。ちなみに、店名の「ゆるり」とは地元の方言で「囲炉裏」のこと。その隣は、薪ストープがある座敷席になっています。
囲炉裏で食材がじっくり焼かれているのを見ていると、自然と和やかな雰囲気に。気持ちがほぐれ、会話もはずみます。
秋のごちそうと言えば、なんといってもマツタケ。「ゆるり」でも秋になると、最高級の丹波マツタケを使った料理が登場します。
看板メニューの一つは、レオさん自らさばいて調理するジビエ。この日は鹿肉のロースト。硬いと言われる外モモ肉を低温でじっくり調理することで、驚くほどしっとりやわらかな仕上がりに。臭みが一切なく、感じるのは極上の旨み。「牛肉よりおいしいのでは!?」と思える、感動の味わいです。
美山の清流で育ったアユも楽しみの一つ。最盛期を迎える8月頃には、ふっくら大きなアユを塩焼きでいただけます。
真夏以外、1年中提供しているという鍋料理も自慢の逸品。この日は地鶏をカツオだしで煮出し、塩だけで味付けたシンプルな鍋。鶏肉とカツオの旨みがにじみ出たスープは、じんわり染み入る”口福”な味わい!
季節によって変わるシメのご飯は、雑炊だったり、炊き込みご飯だったり。秋はマツタケごはんを食べられるのも「ゆるり」の醍醐味です。思わずお代わりしてしまうおいしさでした。
朝食
部屋でゆったり味わう朝ごはん
冷え込む晩秋の早朝は、朝霧が見られるチャンス。取材に訪れた11月上旬も運良く朝霧が見え、太陽が昇るとやがて霧がなくなり青空へ。幻想的な朝の情景はもちろん、夜の月光や星空の美しさも格別でした。
目で楽しんだら、次はお腹を満たす番。朝食はスタッフが部屋まで届けてくれるので、ギリギリまで寝ていても大丈夫です。
「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷」の朝食は、提携レストランが作る和食膳や和弁当など。この日は、御料理割烹「真たろ」の和弁当をいただきました。
フタを開けた瞬間、「わあ!」と感嘆の声が出るほど、ひと目で手が込んでいることが分かる料理がぎっしり。美山は福井県小浜市から近いため、朝から新鮮なお刺身が並びます。部屋でゆったりと充実の朝ごはんを堪能しました。
体験
プログラムに参加して、もっと美山を知る
「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷」では、さまざまな体験プログラム(別途有料)に参加することも可能です。
美山はそばの栽培が盛んで、9月頃になると「かやぶきの里」をはじめいくつかの場所で、白くてかわいらしいそばの花を見られます。そんな地域の文化にちなんだそば打ち体験では、基礎から丁寧に教えてもらえます。
自分で打ったそばは、ふぞろいでも格別のおいしさ。不格好なそばをみんなで見せあうのも楽しい時間です。
また、しめ縄作りに参加するのもとっておきの体験になるでしょう。
あまり知られていませんが、実は京都・伏見稲荷大社の大しめ縄は、ここ美山で作られています。大しめ縄作りが行われるのは毎年10月下旬から11月上旬頃で、タイミングが合えばその様子を見学しつつ、「美山しめ縄グループ」の人に指南してもらいながら初歩的な作業に参加することも可能です。
サイズの大きい「大しめ縄」は、複数人で縄をなうのが基本。見学するだけでも、職人技の数々にテンションが上がること間違いありません。
京都旅行のプランニングに、伏見稲荷大社の参拝と合わせて美山でのしめ縄づくり体験を組み込めば、心に残る思い出になるでしょう。そのほか、体験プログラムについては気軽に問い合わせてみてください。
現在、「NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷」では施設周辺の「おさんぽマップ」を作成中。さらに2025年春頃には、屋外サウナ付きの新客室棟も完成予定とのこと。完成後は、旅先での時間がより充実したものになりそうです。そんな京都・美山のかやぶき屋根の古民家宿で、究極の田舎暮らしを体験してみませんか?
NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷
- 住所
- 京都府南丹市美山町鶴ヶ岡新釈迦堂前1
- アクセス
- 【車】JR「日吉」駅より約30分 (送迎もあり※別途送迎費)、 京都縦貫自動車道「園部」ICより約45分
- チェックイン
- 14:00
- チェックアウト
- 10:00
- 客室数
- 5室
- 駐車場
- あり/無料、予約不要(5台程度※部屋によって異なる)
取材・写真・文/安藤美紀