若旦那の休日ノート 伊豆長岡「はなぶさ」三代目の、食で人を巻き込む力。


四季折々の食材を使った懐石料理が自慢の宿、「伊豆長岡温泉 陶芸の宿 はなぶさ」。 ここで板前として日々腕を振るう三代目・花房光宏さんは、地元の食材を活かした新たなメニューを考えたり、同世代の仲間とイベントを開催したりと、好奇心も旺盛。 そんな花房さんの日常や、地元に対する思いを伺いました。

東京での修行を経て実家へ。旅館ならではの丁寧な手仕事に驚く

「子どものころから料理が好きだったので、高校のときは、春休みや夏休みなどの大型連休には旅館の厨房で手伝いをしていました。高校卒業後は東京の大学へ行き、卒業後は専門学校で栄養士の資格を取りました。そのまま東京で暮らし、和食店で5年ほど働きました」
そう振り返るのは、伊豆長岡の人気旅館「陶芸の宿 はなぶさ」の三代目、花房光宏さん。

東京では、品川駅からほど近くの、懐石料理やしゃぶしゃぶなどが自慢の高級和食店に勤務。尊敬する料理長の下、和食の技術と一流の味を学んだそうです。勤務していた5年の間には、若手の料理人が参加する日本料理のコンクールにて賞を獲得したこともあるそう。

「はなぶさ」三代目・花房光宏さん 「はなぶさ」三代目・花房光宏さん

東京から実家の旅館に戻ったのが、今から5年前、28歳のとき。これまでの経験を活かし板前として働き始めましたが、改めて実家の厨房に入ると、旅館ならではの丁寧な仕事に驚いたそうです。

「東京で勤務していた和食店も、素晴らしい料理を出す店でした。でも、1日100人近くのお客様が来店するので、食材すべてが手作りというのは到底難しく、当然既成品も取り入れていました。でも、『はなぶさ』の料理は一品一品、すべてが手作りだったんです。“こんなにも手をかけているのか!?”と、びっくりしましたね。手間は掛かりますが、やっぱり味も風味もぜんぜん違うんです」

SNSで発信する地元の魅力。休日はブログ更新に時間をかけて

その一方で花房さんは、こんな思いを抱いたそう。
「私自身が、全部手作りということに驚いたくらいですから、お客様はなおさら気づいてないのではと思ったんです。でも、よく考えてみれば、わかってほしいと思う前に、こちら側が伝えてないじゃないかってことに気づきました。伝えていないのに、気づいてほしいなんて、それは勝手ですよね(笑)」

そこで、花房さんはブログやインスタグラム、ツイッターなどで、すべての料理が手作りであることはもちろん、素材のよさ、料理のこだわりなどを発信し始めました。
「はなぶさ旅館3代目ブログ」(http://hana3.info/)

「ツイッターやインスタは小まめに更新していますし、自分の休みの日も、ブログの更新にかなり時間をかけてます(笑)。ブログを見てもらうとわかりますが、結構詳しく書いているんですよ。その甲斐あってか、“全部、手作りなんだね。驚いたよ”“ブログ見たよ。こだわりが伝わってくるよ”といった、嬉しい言葉をいただくようになりました。
SNSを始めてわかったのは、作り手の気持ちや食材のよさを伝えることは、必ず美味しさのプラスになるということ。だから、発信することは大切だし、SNSを始めて良かったなぁとつくづく思っています」

プロならではのコツも惜しみなくブログで公開 プロならではのコツも惜しみなくブログで公開

さて、花房さんがブログなどで綴っているのは、料理のことだけではありません。自身が行きつけのお店、伊豆長岡のおすすめのスポットや名産、イベントの情報など満載です。
「ブログに載っていたお蕎麦屋さんに、帰りに寄りたいんだけど」とか、「お土産の参考になったよ」と、声をかけられることも多いそうです。


「東京から友人もよく遊びに来てくれるので、行きつけのお店を案内しますが、“伊豆は、食べ物が美味しい!”“これは、東京では食べられない!”と、とても喜んでくれます」。

伊豆長岡は、花房さんにとっても自慢の場所。そして、そんな土地の魅力を随時発信している花房さんのブログやインスタは、『はなぶさ』はもちろん、伊豆長岡に足を運ぶことの後押しになっているようです。

『いずまぶし』に鮎の刺身。伊豆のポテンシャルを柔軟に取り入れる

花房さんは、この地の食材を生かすべく積極的に料理のアイデアを出して、コースの中に取り入れているそうです。そのひとつが、『いずまぶし』。

「『ひつまぶし』では? と思いましたよね? いえいえ、『いずまぶし』です(笑)。伊豆には名産のわさびを使った『わさび丼』という名物があるのですが、それをひつまぶし風にアレンジしたのが、『いずまぶし』です。ごはんにすったわさびとかつおぶしをのせ、濃口醤油を少しかけて。最初はそのまま食べて、最後はだしをかけてお茶漬けでいただきます。これがとても好評なので、ぜひ、うちの旅館だけでなく伊豆長岡の他の旅館でも出してほしいんです」。

当然ながら、「他の旅館に真似をされていいの?」ともよく聞かれるそうです。でも、
「わさび丼は伊豆名物ですし、ひつまぶしも名古屋の名物。それを組み合わせたのですから、私のオリジナルでもないですよ(笑)」 と一言。『いずまぶし』が、わさび丼のように伊豆長岡を代表する名物の一つになってくれれば、本望。広めるために、ほかの旅館の板前さんを集めて試食会もしているそうです。

新しい発想の食を次々考案中 新しい発想の食を次々考案中

『いずまぶし』以外にも、「はなぶさ」では、名産の韮山トマトを使ったスープやワイン煮など、旅館では珍しい洋風メニューも、花房さんの発案で加えられているそうです。
「旅館では、あまり洋風の料理は出すイメージはないかもしれませんが、“旅館だから”ということに縛られずに、地元の食材がより美味しくいただけるアイデアを柔軟に取り入れていきたいと思っているんです」と語ります。
 

そして、花房さんが「はなぶさ」の料理の中でも、ぜひ食べてほしいと太鼓判を押すのが鮎の刺身です。
「伊豆市の狩野川は、鮎が豊富な川として有名です。そのため、このあたりは鮎料理が盛んなのですが、うちでは6月の旬のシーズン限定で、鮎の刺身を出しています。皆さん、鮎が刺身で食べられることにまず目を丸くして、口にすれば、さらに驚いてくれます。その反応が、たまらなく嬉しいんですよね(笑)。川魚ですがまったく臭みもなくて、本当に美味しいんです」

「伊豆を訪れたらやっぱり、地元の素材を食べてほしい」それが、花房さんの思い。
「例えば魚は、ほかの土地でも食べられる品種は控えめに、その代わり鮎や富士山の湧水で育った富士山サーモンなど、この地だからいただける食材をふんだんに使います。そのほうがここに来てもらった甲斐があるし、伊豆長岡の魅力をもっと知ってもらえると思っています」

「地元を盛り上げたい!」後継者の仲間たちとイベントを立ち上げ

花房さんは、4年前にワインのソムリエの資格を取得。その資格も活かした「ワイン会」など、地元を盛り上げるイベントも開催しているそうです。

「このあたりは土地柄、旅館はもちろん土産屋や魚屋の2代目、3代目といった、後継者という立場の若手がたくさんいます。主に30代の後継者たちが主催者になって、ワイン会を開催しています。ワインはもちろん地酒、地元の食材を使った料理を楽しんでいただくこの会は好評で、先日8回目の開催を迎えました。旅館に泊まり、翌日はワイン会に参加する。そういったお客様も増えています」

青空の下開催したワイン会は大盛況! 青空の下開催したワイン会は大盛況!

主宰するメンバーたちには、“地元をもっと盛り上げよう”“伊豆長岡の魅力を持って知ってもらいたい”と、みんなその思いがあるそう。自分と同様、一度地元を離れたからこそ、その良さに改めて気づいたという人も多いそうです。
そして、花房さんたちは、ワイン会以外にも新しいイベントを日々企画中。自身が大好きな伊豆市の地ビール「ベアードビール」を醸造する「ベアード・ブルワリーガーデン修善寺」のビアガーデンで、地ビールと料理をとことん楽しむ。そんな内容も構想中なのだとか。

“食”と地元が好き。自分自身が楽しみながら、魅力を伝えていきたい

「新しいメニューを考えることも、イベントも、自分がまず楽しくなければ続かないです。これからも、楽しみながら新しいことに挑戦して、伊豆長岡を盛り上げていきたいですね」と花房さん。
そんな、好奇心旺盛な彼が今はまっているのが「蕎麦打ち」。

今は「蕎麦打ち」に熱中! 今は「蕎麦打ち」に熱中!

「地元で、蕎麦打ちを教えてくれる場所があるのですが、そこを一度のぞきに行き、打ちたての蕎麦をいただいたら、あまりにも美味しくて。すぐに道具を揃えて習い始めました。始めて3カ月ほど経ちますが、とても楽しい。上達したら旅館のメニューにも加えて、あの衝撃的な美味しさをお客様にも味わっていただきたいですね」

「好きなことは?と聞かれれば、やっぱり“食”ですね。食べることも料理することも好きです。だから、食材が豊富なこの地は自分にとって本当に楽しく、魅力ある土地なんです」と一言。

花房さんにとって伊豆長岡は、豊富な食はもちろん、富士山を間近に望める大自然、そして温かい人も自慢の地です。その良さをもっと伝えたいという思いが、たくさんのアイデアを生み出しているようです。そして、思いついたことをどんどん挑戦していく行動力、まわりの人を引っ張っていくようなリーダー性も印象的ですが、それでいて、「楽しいことを、楽しみながらやっているだけ」そんなふうに、気負っていないところも花房さんの魅力です。
今後は、
「いつか、古民家を改装したワインバーを開きたい」と花房さん。大好きな「食」を中心に伊豆長岡をさらに盛り上げていくためのアイデアや、やりたいことは尽きないようです。

「食」を通して、仲間と思いきり楽しむ! 「食」を通して、仲間と思いきり楽しむ!

取材・文/柿沼 曜子

若旦那・花房さんが腕を振るう宿はこちら!

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