青森県八戸市や岩手県北部で昔から食べられている、素朴な味わいが魅力の「南部せんべい」。そのまま食べてもおいしいですが、汁物に入れたりご飯に挟んだりと、アレンジがしやすい点も魅力です。そこで現地・八戸を訪ねてみると、進化を続ける魅力的な南部せんべいがたくさんありました!
南部せんべいの歴史とは?
南部せんべいは、八戸の食文化を象徴する伝統的な食べ物のひとつ。煎餅(せんべい)の原料といえばお米をイメージしますが、南部せんべいの原料は小麦。小麦粉に水、塩を混ぜ、練った生地を専用の丸い型に入れて焼き上げます。
保存食にもなる南部せんべいは、冷害を受けやすい八戸地域の人々にとって、命をつなぐありがたい食べ物として古くから重宝されてきました。南部せんべいの歴史は諸説ありますが、既に縄文時代にはどんぐりなど木の実を粉状にして焼いた「縄文クッキー」が食べられており、それがもとになったとも言われています。
そして、「天保の大飢饉」(1833~1836年頃)以降の江戸後期には、囲炉裏で気軽に焼ける「一丁型」という焼き型が誕生し、もっちりとしたやわらかい食感の「てんぽせんべい」がよく作られるように。
現在のような、硬く焼き上げた南部せんべいが食べられるようになったのは明治維新以降。商業の急速な発展により、南部せんべいの専門店が各地に誕生し、せんべいを焼く技術を磨いた職人たちも多数いました。
明治初期に実施された調査によると当時、八戸市内には130軒あまりの煎餅屋さんがあったのだとか。現在は10軒ほどまでに減りましたが、今もなお地元民にとっては欠かせない郷土菓子として愛されています。
日本最古の南部せんべい店「川越せんべい店」
八戸市の隣接するおいらせ町には、日本最古の南部煎餅店があります。それが、明治6年創業の「川越せんべい店」です。現在の店主は、五代目の川越将弘さん。川越せんべい店のせんべいは、手ごねでふんわりとさせた生地を、大きな石窯で丁寧に手焼きして作ります。
焦げる直前、薄い黄金色になるまで焼いたせんべいは、しょりしょりとした食感。小麦粉は国産小麦粉(青森、岩手、北海道など北日本産)、また瀬戸内海の塩を使うなど素材にもこだわっています。
川越さんは南部せんべいの歴史にもとても詳しいので、店舗へ行った際には歴史についても尋ねてみると貴重な話を伺うことができるかもしれません。
川越せんべい店
- 住所
- 青森県上北郡おいらせ町下明堂30-11
- 営業時間
- 9:00~17:00(土曜日は16:00まで)
- 定休日
- 日・月曜日
- アクセス
- 【電車】青い森鉄道「下田」駅より車で約7分
- 公式サイト
- 川越せんべい店
南部せんべいはアレンジのバリエーションも豊富
南部せんべいには、他県の人がびっくりするようなアレンジメニューもあります。八戸の郷土料理「せんべい汁」はその名の通り、割った南部せんべいを入れた汁物。煮込んでも溶けにくい専用のせんべいで作るので、コシのある独特の食感を楽しむことができます。
ほかにも八戸には、炊き立ての赤飯を南部せんべいに挟んで食べる「こびりっこ」や、小麦粉をまぶして揚げた「せんべいの天ぷら」など、数々のせんべい料理が存在します。
これらのアレンジ料理は、八戸漁港で3~12月の毎週日曜日の朝に開催される「館鼻岸壁朝市(たてはながんぺきあさいち)」や、八戸市内の道の駅などで販売されているので、見かけたらぜひ食べてみてください。
南部せんべいが大集合!
本場・八戸に来たからには、さまざまな南部せんべいを食べ比べてみたいもの。そんな時におすすめなのが、JR八戸駅から車で10分ほどの場所にある巨大市場「八食(はっしょく)センター」。
その中にある「民芸菓子処 しんぼり」では、スタンダードなものから変わり種まで、各メーカーのさまざまな南部せんべいがそろいます。
店内のどこを見渡しても、南部せんべい、南部せんべい…! ごませんべいも、よく見ると特上ごまを使用しているものや、ごまペーストを塗ったものなど、さまざまな種類があるようです。
ラー油味のせんべいもありました。南部せんべいはお茶に合うイメージがありましたが、味付けによってはビールのおつまみにもなりそうです。
お湯を注ぐだけで気軽に食べられる、即席タイプのせんべい汁「進化系せんべい汁」(453円)も。スープの種類は、定番の醬油味からあめ色玉ねぎのスープまで、全4種類から選ぶことができます。
民芸菓子処 しんぼり
- 住所
- 青森県八戸市河原木神才22-2 八食センター内
- 営業時間
- 9:00~18:00(八食センター市場棟の営業時間に準ずる)
- 定休日
- 水曜日
- アクセス
- 【電車】JR「八戸」駅より八食100円バス「八食センター」下車、または車で約10分
- 詳細
- 民芸菓子処 しんぼり
話題沸騰中の「チョコQ助」
長い間、地元の人たちに愛されてきた南部せんべいですが、最近、2021年に発売開始された「チョコQ助」という商品が多くのメディアで取り上げられ、話題となっています。
塩気の効いたごま入りの薄焼きせんべいに、チョコレートが波線状にかかっています。しょっぱい×甘いの組み合わせとサクサクとした軽い食感は、食べ出したら止まりません! 一袋あっという間に食べ切ってしまいます。あまりの人気に一時は売り切れ続出、入手困難になったとか。
JR八戸駅から車で約7分、「チョコQ助」を製造する有限会社しんぼりの第二工場には、南部せんべい専用の自動販売機もあり、こちらも大人気です。
自販機には商品の補充時間が記載されているのですが、1日に5回も補充されていることに驚きました。南部せんべいの外側部分「ミミ」にチョコレートをコーティングした「ガリチョコ君」(270円)や、おつまみにぴったりな「いぶりがっこ風味せんべい」(150円)など、数量限定のレアな商品も販売されています。
民芸菓子処 しんぼり 第二工場
- 住所
- 青森県八戸市長苗代内舟渡60-3
- 自販機補充時間
- 9:00、11:00、13:00、15:00、17:00
- アクセス
- 【電車】JR「長苗代」駅より車で約4分、「八戸」駅より車で約7分
進化系南部せんべいは「BEILAB(ベイラボ)」にも
八食センター内にある創作南部せんべい専門店「BEILAB(ベイラボ)」には、進化系の南部せんべいがそろっているので、こちらも要チェックです。
南部せんべいといえば、香ばしいごませんべいやほんのり甘いピーナッツを使用した豆せんべいが主流ですが、こちらではあおさをまぶしたせんべいや、ブラックペッパーを効かせたせんべいなど、変わり種のフレーバーも販売中。リュックなどに入れてもせんべいが割れないよう、ボトル型の容器になっているのもうれしいですね。
テイクアウトメニューもかなり充実しています。あんこやホタテフライをせんべいでサンドしたものや、南部せんべいがトッピングされたフルーツパフェまでありました。
こちらは、賞味期限60秒の「とろとろチーズせんべい」(280円)。熱々のモッツァレラチーズとピザソースをその場でかけて挟んでくれる、ぜいたくな一品です。
「いかプリンソフト」(480円)も、イカの水揚げで有名な八戸ならではのスイーツです。ソフトクリームにかかっているのはホワイトチョコかと思いきや、さきイカパウダーでした!
サラダやパスタにかけて楽しむ「食べるせんべいオリーブオイル」(680円)など、オリジナル調味料も。ラッピングしてもらうこともできるので、お土産やプレゼントとしても喜ばれそうです。
創作南部せんべいBEILAB(ベイラボ)
- 住所
- 青森県八戸市河原木神才22-2 八食センター内
- 営業時間
- 9:00~18:00(八食センター市場棟の営業時間に準ずる)
- 定休日
- 水曜日
- アクセス
- 【電車】JR「八戸」駅より八食100円バス「八食センター」下車、または車で約10分
- 公式サイト
- BEILAB ベイラボ | 創作南部せんべい
紹介した店舗のほかにも、八戸市内には焼きたての「てんぽせんべい」が食べられるお店や、せんべいの手焼き体験ができる施設など、南部せんべいを堪能できるスポットがいくつもあります。
昔ながらの南部せんべい店をいくつかハシゴして食べ比べてみたり、アレンジメニューや進化系の南部せんべいを存分に堪能したりするのも楽しいはず。ぜひ八戸を訪れて、いろいろな南部せんべいにふれてみてください。
取材・撮影・文/苫米地 結子