秋田県男鹿(おが)半島の名物「なまはげ」。姿は知っていても、古くから集落の中で受け継がれてきた風習はいまだ謎に包まれています。そんな不思議ななまはげ文化を知り、疑似体験できる施設をご紹介します。
ユネスコ無形文化遺産「男鹿のなまはげ」とは?
「男鹿のなまはげ」は秋田県男鹿半島に伝わる民俗行事。また、そこに現れるお面を着けた神の使いのことを指します。大晦日の晩に現れ、集落の家々に上がり、厄を払ってまわる来訪神です。ユネスコ無形文化遺産に登録されています。
男鹿半島までのアクセス
東京からは秋田新幹線こまちで秋田駅まで約3時間50分。そこからJR男鹿線に乗り約1時間で男鹿駅に到着します。秋田空港からは、乗り合いタクシー「秋田エアポートライナー」が便利です。
男鹿駅から今回ご紹介する施設までは、「なまはげシャトル」という乗り合いタクシーとバスで行くことができます。事前に予約が必要です。また、半島周遊ドライブを楽しむなら、秋田駅からレンタカーで向かうのがおすすめです。
なまはげと男鹿の風土を学ぶ「なまはげ館」
男鹿駅からシャトルバスで約15分。半島北部の真山(しんざん)地区は、なまはげにまつわる施設が集まっているエリアです。「なまはげ館」は、なまはげを知るために最初に訪れておきたい場所です。
なまはげを育んだ男鹿半島の風土を紹介するコーナーと、なまはげにまつわる展示や映像資料などがおさめられています。
なまはげの起源は謎に包まれていて、漢の武帝が連れてきた鬼説、流れ着いた異邦人説、山で修行する修験者説、山の神説と、複数の伝説が伝わっています。
包丁を持ってお面を被り、なまはげになりきろう!
「なまはげ変身コーナー」では、無料でお面や衣装を身に着けることができ、写真撮影もOK。持ち物も用意されていて、赤いなまはげが御幣(ごへい)、青いなまはげが包丁と桶を持つそうです。
1番奥の展示エリアには、ずらりとなまはげが勢揃い。各集落で実際に使われていたなまはげ面が一堂に会する光景は圧巻です。恐いものからユニークなものまで、お面の顔が集落によって全く違うことが分かります。
売店には職人さんの作ったなまはげ面や、男鹿の名物商品が並びます。なまはげグッズはこちらで買うのがおすすめです。
変わり種、「なまはげサイダー 男鹿の塩味」と「なまはげサイダー ハタハタしょっつる味」各250円。
なまはげ館
なまはげ行事を体験「男鹿真山伝承館」
いよいよ、なまはげの風習を体験できる、「男鹿真山(しんざん)伝承館」に向かいます。なまはげ館のすぐ隣にある、茅葺き屋根の古民家です。
体験時間は約20分。季節によって多少変わりますが、30分ごとの入れ替え制です。週末は団体客で混雑することがあり、比較的午前中が空いているようです。
建物は築100年以上の曲家(まがりや)を移築したもので、当時の生活様式をそのまま見ることができます。囲炉裏で炭の爆ぜる音が響く室内は、まるで外とは別の時間が流れているようです。正月飾りとお膳が2つ用意されています。
まず、ガイドさんがなまはげについて解説。炉端で火にあたってばかりいる怠け者の手足にできる火斑(ひだこ)を「ナモミ」といい、「ナモミ剥ぎ」がなまはげの語源になったというお話。
真山地区のなまはげにはツノがないことから、お山の神様だと考えられている、といったお話を聞きます。
続いてこの家の親方(家長役の男性)が現れ、今は大晦日の晩だと告げます。参加者もすっかり物語の中にいるような気分です。
なまはげと共に集落を回る先立役が入ってきました。会話はすべて男鹿の方言です。親方が先立にお迎えする用意ができていると伝えます。
突然、ドンドンドン!と強く戸を叩く音、続いてウオー!という唸り声が響きます。ついになまはげがやってきました。なまはげは勢いよく戸を開けて家に上がると、四股(シコ)を7回を踏みます。
家中を歩き回ります。「悪い子はいねが!」「怠け者はいねが!」と壁や戸を大きな音で叩き回ります。大きな音を立てるのは、その家から厄災を払うためといわれています。
後ろや横の戸からも現れて参加者たちの顔を覗き込み、悪い子を探しているようです。ものすごい迫力です。
親方は、なまはげをたしなめて、お膳とお酒をすすめます。ここから「問答」の時間です。稲作の具合や家族の体調など、この1年の様子をたずねるなまはげに丁寧に返事をします。しかし、孫や嫁のことを聞かれると、のらりくらりととぼける親方。
どうもかばっているようです。しびれを切らしたなまはげは「なまはげ台帳」を取り出し、この1年の嫁や孫のだらしなさを読み上げます。なまはげは何でもお見通しです。
家族をどこにかくまったのだと、再び参加者の間を探し回ります。ちゃんと親の手伝いをしているか、怠けていないかと詰め寄られた参加者は必死にうなずきます。
男鹿の子どもたちが経験するなまはげの洗礼に、ちいさな子どもはこの表情。来訪神のなまはげは厄災を払うだけでなく、「戒める」存在でもあります。
「元気でいるんだぞ、来年また来るからな」と言い残して、なまはげは去っていきました。20分ほどですが、男鹿のなまはげ文化を本番さながらの臨場感で体験できます。
「ケデ」と呼ばれる、稲わらを編んだ衣装から落ちたわらは、無病息災のお守りになるそうで、記念に拾って帰ります。長いものは頭に巻くと賢い子になるそうです。
男鹿真山伝承館
- 住所
- 秋田県男鹿市北浦真山字字水喰沢97
- 開館時間
- 8:30~17:00
- 休館日
- 12~3月の平日
- 入館料
- 4~11月大人880円 子ども(小中高生)550円
12~3月土・日・祝日のみ大人1,100円 子ども(小中高生)770円
※なまはげ館との共通入館料
なまはげゆかりのパワースポット真山神社
男鹿真山伝承館から徒歩約3分。石段を登ったところにある荘厳な雰囲気の境内にたたずむ「真山(しんざん)神社」なまはげゆかりの神社として、毎年2月第2金・土・日に、みちのく五大雪まつりとして「なまはげ柴灯(せど)まつり」が開催されています。観光客も見学できる神秘的かつ勇壮なお祭りです。
樹齢約1100年の榧(かや)の巨木、そばには、歓喜天(かんぎてん)堂が建っています。こちらは縁結びにご利益があるといわれ、良縁や夫婦円満を願うたくさんの絵馬が下げられています。
真山神社
- 住所
- 秋田県男鹿市北浦真山字水喰沢97
周辺観光で半島の海沿いへ
真山神社から車で約25分の「男鹿水族館GAO」。春から夏の男鹿の海を再現した「男鹿の海大水槽」では、約2千匹の魚が泳ぐ姿を見ることができます。
秋田県唯一の水族館であり、愛らしい姿のホッキョクグマのいる水族館として知られています。また、春から夏の男鹿の海を再現した「男鹿の海大水槽」では、約40種2000匹もの生き物が展示されており、大迫力の水槽を見学することもできます。
男鹿水族館GAO
- 住所
- 秋田県男鹿市戸賀塩浜
- 開館時間
- 9:00~17:00(最終入館16:30)※季節等により変更の場合あり
- 休館日
- 不定期
- 入館料
- 大人 1,100円、小中学生 400円、幼児 無料
真山神社から車で約20分。西北端にある入道崎は、美しい夕陽を鑑賞できる景勝地。周辺には食堂や土産物屋があります。日本の灯台50選に選ばれている入道埼灯台は、国内でも数少ない「登れる灯台」で、季節によっては中を見学することができます。
入道埼灯台
- 住所
- 秋田県男鹿市北浦入道崎昆布浦
- 開館時間
- 4月中旬から11月上旬までの9:00~16:00
- 入館料
- 200円 ※小学生以下無料
男鹿半島ご当地グルメ「男鹿しょっつる焼きそば」
秋田の魚醤「しょっつる」ベースの旨みがたまらないご当地焼きそば。麺は粉末わかめと昆布だし入り。男鹿半島各地の飲食店で食べられます。具材は各店が趣向を凝らしたオリジナル。こちらはファミリーレストラン園(その)の「男鹿のやきそば」(スープ付き・700円)
男鹿駅から徒歩圏内。地元のお客さんで賑わう、味に定評のあるお店です。ファミリーレストランの名前通り、ラーメンやカツ丼、ナポリタンにパフェとメニューが豊富なうえ、価格もお手頃。ランチや日帰り観光におすすめです。
ファミリーレストラン園(その)
- 住所
- 秋田県男鹿市船川港船川栄町92
- 開館時間
- 10:00~20:00
- 定休日
- 月曜日(祝日の場合は翌日)
- アクセス
- 男鹿駅前徒歩約3分
伝説と効き湯の郷「男鹿温泉」
四季それぞれの魅力がある男鹿半島をゆっくり楽しむなら「男鹿温泉」への宿泊がおすすめ。なまはげ館などがある真山地区から車で約15分、海沿いにある温泉郷です。温泉街の中にある交流会館「五風」では、「なまはげ太鼓」などのパフォーマンスが披露されています。
高台の宿で男鹿温泉と郷土料理を堪能
男鹿温泉郷の高台に位置する正統和風旅館「元湯 雄山閣」では、湯の華が豊富な極上の源泉を堪能できます。
雄山荘は男鹿温泉郷の中で一番の高台に建っているため、窓から海と山が見渡せる開放的な客室です。
古くから湯治場として親しまれてきた男鹿温泉は、塩分を含んだ美肌の湯。保湿効果が高く湯ざめしにくいのが特徴です。季節や気温で茶褐色、緑、白色と湯色を変える源泉にも注目してみてください。
11時〜15時まで日帰り入浴を受け入れているので、宿泊していない方も源泉掛け流しの湯を堪能できます。
男鹿名物の石焼料理を食べ尽くす
男鹿に宿泊するなら味わいたいのが、名物「石焼料理」。
漁師めしをもとにした豪快な一品で、新鮮な魚介と味噌仕立ての出汁に、炭火で真っ赤に熱した石を放り込んで調理します。沸き立つ出汁と一瞬で閉じ込められた魚介の旨味が楽しめる郷土料理です。
男鹿温泉郷 元湯雄山閣
- 住所
- 秋田県男鹿市北浦湯本草木原52
- 客室
- 15室
- アクセス
- 【バス】JR羽立駅より路線バスで約45分、JR男鹿駅から無料シャトルバス有り。
秋田空港から秋田エアポートライナー「男鹿温泉郷号」で男鹿温泉に直行。
男鹿半島でなまはげ行事を体験しよう
日本海に突き出した男鹿半島では、郷土の文化が今も大切に受け継がれています。
集落の皆が一緒になって1年の無事を喜ぶこと、新しい年の健康や子どもの成長を願うこと、恐ろしいなまはげの姿には、幸せを願うたくさんの人の想いが込められているようでした。ぜひ、不思議ななまはげ行事を体験しに出かけてみてはいかがでしょうか。
男鹿半島「なまはげ」観光マップ
取材・文・写真/Junko Saito