旅の楽しみ方

天井から吊り下がる鮭!新潟県・村上市で食と歴史をめぐる街歩き

「鮭のまち」とも呼ばれる新潟県村上市では、鮭を残すことなく一匹丸々使って料理にする習慣があります。古くから鮭を大切にしてきたこの街では、鮭のいのちに敬意を払い、骨や皮、頭、エラまで無駄なくいただくため、食事処には珍しい鮭料理がたくさん。

また、古い町屋が残る地域でもあり、風情漂う街並みは歩くだけでも楽しめます。すぐ近くに広がる瀬波温泉で温まり、宿の夕食でさらなる鮭料理の奥深さに触れることも。今回はそんな村上市で鮭を味わい、江戸時代から発展した伝統工芸品や名産品を知る1日モデルコースをご紹介します。

木造の町屋が残る街・新潟県村上市

新潟県村上市 三面川

新潟県北部に広がる村上市へは、東京からなら最短約3時間。JR東京駅から上越新幹線で約2時間で新潟駅へ向かい、そこからJR「特急いなほ」に乗り1時間ほどで村上駅に到着です。

日本海に面し、町中を流れる三面川(みおもてがわ)に鮭が多く集まる自然豊かな地域。江戸時代には村上城を中心とする城下町が広がった村上市では、藩へ納める米や茶の生産が盛んで、多くの商人も住んでいました。商人の家は町屋として残り、現在も古い街並みを楽しむことができます。

鮭を大切にする村上の文化

新潟県村上市 鮭料理は100種以上

村上は、古くから鮭と関わりがありました。文献として残るもっとも古い歴史は平安時代で、当時は京の都に鮭を租税として納めていたと記載されています。その後、江戸時代後期には、世界で初めて鮭を人工増殖させることに成功。村上に住む人たちは今でも、先人の努力によって鮭の恵みを受けることとなった感謝を忘れず、鮭の切腹を避けるため腹の一部を切り開かずに残すのが風習。さばいた鮭は、どの部位も余らせることなく大切にいただくので、現在でも100種以上の料理法が受け継がれていると言います。

天井から吊り下がる鮭の姿を見学できる「千年鮭 きっかわ」

まずは、村上駅から北東方向に歩いて20分ほどのところにある、「千年鮭 きっかわ」(以下、きっかわ)へと行ってみましょう。創業は、1626(寛永3)年。平安時代からおよそ1000年続く村上の鮭にまつわる食文化を受け継ぎ、鮭の加工品を製造販売している老舗です。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ

お店の前の大きな「鮭」の文字が目印。明治時代に建てられた趣ある建物が、昔の風情を感じさせます。さっそく店内に入ると、鮭を使ったお土産品が多数。色々と気になる商品がありますが、まずは奥の塩引鮭の見学へと向かいます。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ

店内を進むと、そこに現れるのは、天井から吊り下がった大量の鮭! ずらっと鮭が並ぶ圧巻の光景は、通年見学が可能です。吊るすのは、塩に漬けこんだあとの鮭を熟成させるため。村上に吹く北西のほどよい風は、鮭の乾燥や発酵を促すのだとか。そうして旨味をいっそう蓄えた鮭が、塩引き鮭になっていきます。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ

吊るした鮭の奥は工場になっていて、職人が鮭の加工を行っています。きっかわのものづくりは、創業以来、食品添加物や化学調味料、酵母エキスなどは一切使用していないそう。鮭本来の味と、天然の調味料のみで、きっかわ独自の味をつくっています。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ

そんな昔ながらの自然にこだわった製法でつくられたきっかわの鮭の加工品は、馴染みのあるものから珍しいものまで多種多様。たくさんの商品があるので、お店の方に人気商品を聞いてみたところ、トップ3を教えてくれました。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ お土産

まずは、ここに来たらぜひ購入して欲しい「鮭の塩引き」(1,361円)。村上の気温や湿度など、独特な風土の中で発酵させるため、「こんなにおいしい鮭は食べたことがない」と訪れる人から絶賛されると言います。一切れから購入できるので、お土産にも自分用にも重宝しそう。

「鮭の酒びたし」(1,426円)は、塩引き鮭を約1年間自然の風にあてゆっくりと熟成させ、薄くスライスした一品。旨味がぎゅっと凝縮した鮭を日本酒に浸してお酒の風味とともにいただく、村上の伝統的な鮭料理です。最後に新商品「鮭の生ハム」(1,037円)もおすすめ。これまでの製法を活かした新商品で、よりふくよかな味わいを楽しむことができます。

新潟県村上市 千年鮭きっかわ あまざけ

入り口では、囲炉裏を囲んでゆっくりと休憩することも。寒い日には、「手づくり麹 あまざけ」(441円)を飲んであったまるのも、ひとつですね。鮭の飯寿司に使う麹も昔ながらの製法で手づくりしてきたきっかわならではの商品です。

古くから続く鮭文化を守ろうと活動を続けて来たきっかわ。店員さんに話を聞くと、歴史や鮭文化について丁寧に答えてくれるので、気になる方はぜひ声をかけてみてくださいね。

村上 千年鮭 きっかわ

住所
新潟県村上市大町1-20
営業時間
9:00~18:00
定休日
なし(1月1日は休業)
アクセス
【電車・徒歩】JR「村上」駅から徒歩約25分
【車】「村上瀬波温泉」ICから約5分
電話
0254-53-2213
その他詳細
村上 千年鮭 きっかわ公式Webページ

10~11月は鮭の伝統漁法を見学可能

新潟県村上市 居繰網漁

村上では、鮭の加工だけでなく、伝統的な漁の様子を見学することもできます。市内を流れる三面川では、10〜11月の鮭が遡上するシーズンになると、伝統漁法の「居繰網漁(いぐりあみりょう)」が行われます。昔ながらの木船に乗った漁は今ではなかなか見られない光景。期間中に訪れる場合は、ぜひ見学してみてください。

三面川の鮭漁

出漁場所
三面川漁業協同組合 第3ふ化場前
出漁時間
平日および土曜(午前のみ):9:00~
日曜および祝日(午前・午後):9:00~、13:00~
実施期間
10月下旬~11月末頃
お問い合わせ
0254-53-2111(村上市観光課)
その他詳細
三面川の居繰網漁(村上市観光情報総合サイト)

職人の手作業でつくった料理で舌鼓、鮭料理専門店「千年鮭きっかわ 井筒屋」

鮭の話を聞いてお腹が空いたら、「千年鮭きっかわ 井筒屋」へ。きっかわから南方向に歩いて約2分で到着です。

新潟県村上市 井筒屋

井筒屋は、きっかわでつくられた村上伝統の鮭料理が味わえる、鮭料理専門店。村上では鮭に感謝し、身だけではなく鮭のすべてを捨てることなく味わい尽くす文化があります。それを体現しているのが、井筒屋の鮭料理です。

新潟県村上市 井筒屋

今回は、一番スタンダードだという「鮭料理七品」(1,950円・税抜)を注文。事前に予約しておくと、土鍋ご飯を付けてくれます。

鮭の頭を甘辛く煮込んだ「鮭のかぶと煮」、焼いたあとにかえし醤油に漬けた「鮭の焼漬」、イクラを醤油ではなく味噌で漬ける「はらこの味噌漬け」など珍しい料理の数々が並びます。それぞれ、村上の家庭では一般的に食べられている料理で、親しまれた味なのだとか。先ほどきっかわでおすすめしてもらった鮭の生ハムでつくった「手まり寿司」も、噛めば噛むほど味わいが深まる逸品です。

新潟県村上市 井筒屋

塩引き鮭は、自分で焼くスタイル。皮を下面にして焼き、薄く焼き目がついたら食べごろです。塩がしっかりと効いた鮭は、ごはんとの相性抜群! ついつい食べ過ぎてしまいそうですが、一切れは残しておいてくださいね。

新潟県村上市 井筒屋

「最後は出汁茶をかけてお召し上がりください」と店員さん。ご飯の上に、残しておいた塩引き鮭と、みつば、海苔を乗せて、ブレンドした村上茶とかつお出汁、生醤油を合わせた出汁茶をかけていただきます。さっぱりとした出汁茶が鮭の塩味を抑え、何杯でも食べられそうなほど!

鮭を無駄なくいただく村上の食文化を体験できる、大満足の時間でした。

お食事処 千年鮭きっかわ 井筒屋

住所
新潟県村上市小町1-12
営業時間
9:30~16:00(LO15:30)
定休日
年末年始
アクセス
【電車・徒歩】JR「村上」駅から徒歩約25分
【車】「村上瀬波温泉」ICから約5分
電話
0254-53-7700
その他詳細
お食事処 千年鮭 井筒屋公式Webページ

歴史深い町屋が続く村上市内を散策

鮭料理でお腹いっぱいになったところで、今度は村上市内を歩いてみましょう。

新潟県村上市 古い町屋の残る街並み

市内には町屋が多く残っており、昔ながらの建物が多くあります。歩くだけでも風情があって良いですよね。酒処・新潟の日本酒や、江戸時代から伝わる村上茶、伝統工芸品などに出会えるほか、町屋を見学できる場所も。歴史を感じる街並み散歩はおすすめです。

日本最北の茶所、始まりの場所「九重園」

新潟県村上市 九重園

やってきたのはお茶屋さんの「九重園(ここのえん)」。井筒屋から南方向に徒歩8分ほどのところにあります。

村上市は江戸時代から始まったお茶文化を守る、北限のお茶所。日本最北の栽培地だからこそ磨かれた技術でつくられているのが、村上茶なのです。そして、村上に最初に京都の製茶方法を持って来たのが、ここ九重園の2代目・瀧波重兵衛。1880年代、村上藩主に村上茶の製造販売を命じられたことをきっかけに、宇治から職人を招いて煎茶や玉露の製茶方法を学んだと言われています。

新潟県村上市 九重園

さっそくお店に入ると、村上茶の葉がずらりと並びます。「いらっしゃいませ。今お茶を入れますね」と小さな湯のみにお茶を出してくれました。一口いただくと、まろやかで程よい甘さを感じます。村上は他の産地と比べて日照時間が短いので、まろやかな味わいが生まれやすいのだとか。

新潟県村上市 町屋Cafe九兵衛庵

奥に進むと、お抹茶やお煎茶などがいただける「町屋Cafe九兵衛庵(くへえあん)」が現れます。お抹茶と和菓子のセットは扱う茶葉に合わせて3種類、ほかにも煎茶やほうじ茶、日本茶を使ったスイーツも揃っています。

新潟県村上市 町屋Cafe九兵衛庵

九兵衛庵の一角は、築約250年の町屋。そこで点てた抹茶をいただくことができます。写真は、抹茶「きりのもり」(500円)。村上市内にある和菓子処の、季節のお菓子がセットになっています。昔ながらの空間でお茶をいただくと、せわしない心がほっと安らぎを覚えるようでした。

九重園 本店 /町屋Cafe九兵衛庵

住所
新潟県村上市小国町3-16
営業時間
8:30~17:30
定休日
なし(1月1日は休業)
アクセス
【電車・徒歩】JR「村上」駅から徒歩約15分
【車】「村上瀬波温泉」ICから約5分
その他詳細
村上 九重園公式Webページ

村上を代表する伝統工芸・堆朱を求めて「堆朱のふじい」

新潟県村上市 堆朱のふじい

九重園から歩いて2分ほどのところにある「堆朱のふじい」では、堆朱(ついしゅ)を間近に見ながら購入することができます。

新潟県村上市 堆朱のふじい

村上木彫堆朱とは、木地に彫刻をし、漆を重ね塗りする漆器。主に朱色を使うことが多く、つや消し仕上げが特徴です。使うごとに色合いが馴染んでいき、次第に透明感のある輝く色に変わっていきます。

江戸時代は、漆奉行がいるほど藩の生産品として力を入れていた村上木彫堆朱。戦後は菓子器などが結婚式の引き出物としてよく使われた縁起物です。現在では、より身近で実用的に使ってほしいと、アクセサリーや箸など生活の中で使える商品を多く取り揃えているそう。

新潟県村上市 堆朱のふじい

箸は気軽に購入できるとあって、最近特に人気があります。夫婦箸として使われることが多い、朱・黒のセット(左から5,500円、12,100円)。彫刻の模様や、色の塗り方などによって価格が変わるので、自分用やプレゼント用など、用途や好みに合わせて選んでみてください。

手入れが難しそうなイメージもある伝統工芸品。ですが村上堆朱の場合は、薄めの洗剤で洗い、直射日光や紫外線を避けて保管すれば問題ないとのこと。気軽に使えるのは、うれしいところです。

新潟県村上市 堆朱のふじい

昔から使われてきた菓子器や茶托から、最近人気の箸やアクセサリーまで多種多様な商品が並ぶ店内。お気に入りを見つけて、使い込むことであなただけの一品をつくっていってくださいね。

堆朱のふじい本店

住所
新潟県村上市鍛冶町3-6
営業時間
9:00~18:00 (土・日・祝日は17:00まで)
定休日
なし(12月31日、1月1日は休業)
電話
0254-53-1666
その他詳細
堆朱のふじい公式Webページ

宿泊は、新潟有数の湯処・瀬波温泉で

最後は、瀬波温泉でひとやすみ。村上駅から車で約10分、瀬波海岸沿いに広がる温泉街で、新潟県有数の湯量を誇ります。

瀬波温泉 くつろぎの宿 旅館 静雲荘

中でもおすすめの宿は、「瀬波温泉 くつろぎの宿 旅館 静雲荘」。別名「熱の湯」とも言われるほど源泉の湯温が高いお湯に浸かれば、全身がポカポカと温まっていきます。新潟県が指定する「日本海夕日ライン」の美しい夕日を眺めながら浸かる温泉は、贅沢そのもの。

瀬波温泉 くつろぎの宿 旅館 静雲荘
瀬波温泉 くつろぎの宿 旅館 静雲荘

ここでも、夕食に村上ならではの鮭料理がいただけます。こだわりの塩引き鮭は、地元・岩船産のコシヒカリとともに。ほかにも、鮭の白子をこしてつくる豆腐や、鮭の身をすりおろしまとめた団子など、まだまだ奥深い村上の鮭料理に舌鼓。村上や新潟県内の地酒も常時20種以上用意されているので、お料理に合わせ飲み分けて、存分に鮭料理を堪能してみてください。

瀬波温泉 くつろぎの宿 旅館 静雲荘

住所
新潟県村上市瀬波温泉1-2-85
アクセス
【電車】JR「村上」駅から車で約10分(送迎あり)
【車】「村上瀬波温泉」ICより約5分
客室数
13
駐車場
あり、30台(無料、予約不要)

古くから鮭の文化を大切にしてきた村上市。鮭や先人への感謝、昔から続く町屋の風景を大切にする気持ちが、料理や街並みに表れていることを実感できる旅でした。村上でしか体験できない文化に出会いに、出かけてみませんか。きっとこれまで以上に、鮭の旨味や歴史を噛みしめるきっかけになると思いますよ。

取材・撮影・文/長谷川円香

トップヘ